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万華鏡

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第六十七話 秋の味覚その十三

「お腹一杯だし」
「晩はね」
「だよな、どうなるかね」
「皆もう大体終わってるわね」
「見ればね」
 他の女子軽音楽部員も大体椀を置いていた、八十いった娘ばかりだ。だがまだ一人だけ食べ続けている娘がいた。
 部長だ、小柄な身体でまだ食べていた。そうして。
 今だ、遂にだった。
「よし、いったわね」
「ええ、百杯よ」
「百杯いったわよ」
 部長の左右にそれぞれいる副部長と書記がその部長に言ってきた。
「大台にね」
「到達したわね」
「それでね」
 その大台に到達したところでだ、部長もだった。
 椀を置いた、それで満足しきった顔で言うのだった。
「燃えたわ、今日はね」
「けれど燃え尽きてないわね」
「そうよね」
「ええ、また明日よ」
 ボクサーとは違いだ、燃え尽きてはいないというのだ。見れば部長の頭の髪の毛も真っ白にはなっていない。
「エネルギー補給が終わったわ」
「明日のね」
「それがよね」
「晩御飯も食べて」
 家に帰ってのだ、部長はこのことも頭に入れていた。
「明日も頑張るわよ。ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「これだけ食べてもね」
 そうしてもだというのだ、ここで。
「太らないからね」
「そこで背とかは言わないわね、あんた」
「胸も」
「小柄貧乳は最強でしょ」
 平然として副部長に返す部長だった。
「女の子にとって」
「まあ小柄萌え貧乳萌えもあるからね」
「趣味の幅は広いから」
「私そういうのは全然気にしていないから」
 むしろ自分の売りだとさえ思っている、部長にとって小柄であることはいいことなのだ。だから今言うことはというのだ。
「むしろ太らないことが有り難いのよ」
「ああ、それはね」
「それは?」
「まずお蕎麦はカロリーが少ないから」
 最初に言うのはこのことだった。
「それでね」
「それでなのね」
「そう、しかも今私達は若くて新陳代謝がよくていつも身体を動かしてるから」
「太らないのね、幾ら食べても」
「けれどね」
 それでもだというのだ。
「それは若いうちだから」
「今だけなのね」
「お母さんにいつも言われてるの」
 副部長はこう言った。
「若いうちはいいけれど」
「幾ら食べても」
「けれど三十代になったらね」
「そうはいかないのね」
「お母さんそんなに太っていないけれど」
「気をつけてるのね」
「歳とったら運動しなくなってしかも食べる量は変わらなくて」
 しかも新陳代謝も落ちる、そうなればというのだ。
「もうね、これで太らない方がおかしいって」
「そういうことなのね」
「そう、だからね」
 歳をとったその時はというのだ。
「気をつけないとね」
「ううん、教訓ね」
「教訓っていえば教訓ね」
 副部長もこのことを否定しなかった、その通りだとだ。 
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