リメイク版FF3・短編集
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バカは時にカゼを引く
「 ────あ、みんな見て! あんな所に村があるわ。買い出しと情報収集も兼ねて、今日はあそこに泊まりましょ?」
飛空艇モードのエンタープライズからレフィアが見つけた小さな島に降り立ち、のどかで自然豊かな村、ダスターにやって来た一行。
「わあ……、何だか吟遊詩人や風水師の人達が多いみたいだね」
「 ……とにかく、一度宿屋に落ち着いてから行動するか」
アルクゥは人々に目をやり、イングズは建物を見やる。
「 ん~! ここは空気もおいしいし、いい所ね~♪ っていうかルーネス、あんた何さっきから黙り込んでるのよ?」
「 ……… 別に、何でもねーし」
「何よ、ぶあいそね~! せっかくいいとこに来たのに…… 」
「 ────お前、顔色が良くないぞ。大丈夫なのか?」
「何でもないって云ってる、だろ……!」
イングズが覗き込むように見つめると、それをルーネスは片手を振って払い除けようとするが、その時ふと身体が前のめって倒れそうになる。
「 ……何でもなくないだろう、どこが具合悪いんだ? 白魔法で治せるなら──── 」
「平気だっての……! 放せよっ」
イングズに片腕で支えられ、そこから逃れようとするルーネスだが力が入らないらしい。
「どこが平気なのよ! ちょっとおデコ貸しなさい」
「わっ、勝手にデコ触んな……?!」
片手を当ててくるレフィアにバツが悪いルーネス。
「 ────やっぱり、熱あるじゃない! 白魔法って、風邪とかには何故か効果ないのよねぇ」
「前にどこかの村で風邪を引いていた人に白魔法を掛けても、治らなかったもんね。アイテムのエリクサーは今持ってないし………」
一応アイテムの中身を確認するアルクゥ。
「カゼなんて、おれが引くわけないだろ……! だとしてもこんなの、気合いで治してやる! うおおぉ~………っおぉ、ガクっ」
「ばッ、馬鹿者、具合の悪い時に変に気合いを入れたら逆効果だろう。おい、ルーネス? ルーネス ……!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「バカは、風邪引かないんじゃなかったかしら?」
「やっぱり、水の洞窟での事が相当こたえてたんじゃないかな。アムルで目覚めてからは、普段通りに努めてたみたいだけど………」
気を失ったルーネスを宿部屋のベッドに寝かせ、見解を述べるレフィアとアルクゥ。────イングズは、さほど心配した様子ではない。
「ふむ……、とりあえず休ませておくか。何日かこの村に滞在する事になるかもしれない」
「そうねぇ………じゃあ、あたしとアルクゥは情報収集も兼ねて買い出しに行って来るわ。何か精が付く物でも見つけてきてあげましょっ」
「うん、そうだね。────それじゃイングズ、ルーネスの事よろしくね」
「あぁ、任せてくれ」
「 ………それにしても土のクリスタルがゴールドルに壊されたっていうのに、特に世界に変化ないわね。時間掛かるだけなのかしら」
「もしかして、あれは偽物……? だといいんだけど」
あれこれと話しながら出掛けて行くレフィアとアルクゥ。
──── ベッドに寝かされているルーネスは、いつも結んでいる後ろ髪はほどかれ肩ほどまでの長さになっており、頬は紅く表情は少し辛そうで、イングズは額に絞ったタオルを置いたり上掛けをちゃんと掛け直してやったりして世話を焼く。
「なに、余計な事してんだよ………」
ふと、ルーネスが意識を戻す。
「何か、持って来て欲しい物はないか?」
「ない、よ。おれカゼなんて引いてねーし……、平気だって云ってんだろ……!」
「馬鹿、起きるな。────無理をすれば、長引くぞ」
身体を起こしかけたのを、優しく押し戻すイングズ。
「うぅ~~、だからカゼなんか……っ」
「甘くみるな、"風邪は万病の元"というだろう。……馬鹿が風邪を引くとは、世も末だが」
「あ、そうか、カゼ引いたんならおれもうバカじゃないってことだよな……!」
「 ────阿呆である事に変わりない」
「どっちにしろバカだって云いてぇのかよ……?! っけほ、けほっ」
「ほら、大きな声を出すな。大人しく寝ていろ」
「へん、や~だね……! どーせバカなら大人しくしてられるかっ」
「なら勝手にしろ。………私が傍にいる必要もない」
つとベット脇の椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとするイングズ。
「へ……? ま、待ってくれよ……! 傍に……、いてよ」
「 ───── 、嫌だ 」
「な、なんだよそれぇ~~っ……」
置いてけぼりにされた子供のように、ルーネスは半べそになる。
「 ……悪かった、冗談だ。傍に居るから ──── だから、泣くな」
不意にベッドに上がって来たと思うと、そのまま間近に横になるイングズ。
「 これなら安心か?」
「う、うん。けど、ちかい」
横向き顔間近に微笑まれ、思わず目を合わせられなくなる。
「何だ、また熱でも上がったか。……紅いぞ、顔」
「そんなんじゃ、ない。ん~~……、───寝る」
気恥ずかしさから目を開けていられなくなり、ルーネスは目をつむる。
「あぁ……、そうするいい」
「ひゃっ、何して………?!」
戻って来たレフィアとアルクゥは、二人の状況に驚く。
────イングズはベッドの中、ではないがルーネスの片手を握ったまま添い寝している。
とはいえ、イングズの方は寝ていなかったらしく、他の二人が戻って来て大声を上げそうになったのを頭だけ起こしてもう一方の片手で人差し指を立て、「静かに」の合図をする。
「イ、イングズ……あなたまるで、ルーネスの保護者みたいねっ」
「ルーネスの方は、安心しきって寝てる感じだね……?」
レフィアとアルクゥは声を潜めて話し、ルーネスは全くそれに気づいていない。
「さっきまで落ち着きがなかったからな……、やっと眠ってくれてこちらも一安心だ」
「ふ~ん………こうして見てると、添い寝されてるルーネスもかわいいもんね」
「 ────代わるか、レフィア? 」
「い、いいわよ別に……! イングズがそのままでいてあげて頂戴っ」
「あはは……、とにかくこのまま良くなってくれるといいけど」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 ────起きろ~みんなっ、朝だぞおぉ~~~っっ!!」
「ひゃあっ、何よいきなり……って、ルーネス?? あんた、起きて大丈夫なの……!?」
「き、昨日の今日だよ、ほんとに平気?」
「おぉレフィア、アルクゥ、おれもう大丈夫だしマジで平気だぜっ! 見てくれ、この動き!!」
云うなり腕をブンブン回したり、蹴り技をするように俊敏な動きを見せる。
「いや~、昨日のかったるさがウソみたいだ! 自由に動けるっていいな!!」
「あ~もう、元気になったらなったでうるっさいわねぇっ」
「何だよレフィア、照れちゃって! おれが元気になってうれしいくせに~?」
「っはぁ~、うざいわねぇ……」
「あれ、ところでイングズは?」
「な~んかおれが起きた時にゃ頭イタそうにしてたぜ、そこでまだ寝てるし! おーい、そろそろおまえも起きろよっ?」
「むぅ………頭に響くだろう、大きな声を出さないでくれ」
片手を頭に当てつつ、イングズはおもむろに起き上がる。
「だ、大丈夫? 昨日のルーネスほどじゃないけど、顔色よくないよ」
そうと気付いてアルクゥが気遣う。
「 ────あら~? そういえばあれだけ傍にいたんだもの、イングズあなた………ルーネスから風邪移されたわねっ」
「何だよだらしないなー? じゃあこの村にもう一泊していくか!」
茶化すレフィアと、提案するルーネス。
「いや……、少しばかり頭痛がするだけで問題ない。それに、これ以上旅を滞らせる訳には……ッ!?」
「だぁめだって! ムリしたら長引くぜっ? カゼはマンビョーの元、なんだろ!」
ルーネスが近寄り、勢いよくイングズをベッドに押しやり額へ手を当てる。
「………あー、やっぱりちょっと熱あるなっ? 休んでなきゃダメだぜ!」
「お、大袈裟な……。お前とは鍛え方が違うんだ、風邪など移る筈がないだろう。例えそうだとしても、そんなものは気合いで何とでも……ッ!───うぅ」
再び片手で頭を押さえるイングズ。
「ほらな? 変に気合い入れたって逆効果だぜっ。今度はおれが傍にいるからさ……、大丈夫だからなっ!」
「 ────完全に立場逆転の保護者気取りね」
「いいんじゃない? 何かうれしそうだし。風邪引いて看病されるのもするのも、何かいいよね………」
そんなアルクゥの呟きを、レフィアは聞き逃さなかった。
「あらアルクゥ、あたしに看病されたいのっ?」
「え? あ………そ、そうかも??」
END
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