迷子の果てに何を見る
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第三十九話
前書き
覚悟はしていたけどこれほどとは。
byアリス
side レイト
「スプリングフィールド先生、準備はよろしいですね」
「はい、天流先生」
「数日の間は高畑先生が補佐に着いていますので何か有れば助けを求める様に、それからウェールズ訛りには注意して下さい。単語の方もそうですが日本の英語は米式英語ですので生徒達が戸惑わない様にお願いします」
「分かりました」
「では私は自分の授業に行きますので、高畑先生もよろしくお願いしますよ」
「はい」
その場から離れながらも念話でタカミチと会話する。無論、身内以外には盗聴されない様にリリカルな世界の念話を使用している
(タカミチ、今日の授業は潰れても構わん様に授業を調整しておいただろうな)
(もちろんですよ。これでも僕も教師の端くれなんですから)
(そうだよな。じゃないと修行・教師編もう教師しかやりたくないや~、の刑だからな)
(肝に銘じておきます)
(じゃあ、本当に任せたぞ。一応リーネ達もある程度はフォローしてくれる。だがあまりにも酷いようなら見捨てる様にも言ってある。もちろんアリスもだ)
(記憶を見るまでは僕も信じられませんでしたよ。まさかネギ君があそこまで周りを見ない子だったなんて)
(ずっと甘えてばかりだった餓鬼が急にその心のよりどころを失われ、その穴を塞ぐ為に復讐に囚われたんだろうがオレはそれを認めない。復讐に囚われていいのは全てを失ったときだけだ)
(経験からですか)
(経験からだ。まあ、あまり話す様なことじゃないがな)
(そうですね。すみません、ネギ君のフォローに入るので)
(もうかよ。分かった、そっちはそっちで頑張ってくれ)
念話を切り授業の方に集中する。
マルチタスクはアリアドネーでは必須科目だから教授であるオレは出来て当たり前だ。まあオレが必須科目にしたんだが。
タカミチはもっと精進すべきだな。チウちゃんですら3つは同時処理できるのに。リーネは6で木乃香とアリスが5、刹那と零樹と茶々丸は4、シスターズとブラザーズは各々違うが最低3つの同時処理が可能だ。これが出来るとね呪文の同時詠唱なんて事も出来るし色々と便利であるから必須科目にしたんだけどなぜか(・・・)MMも帝国でも存在があまり知られていない。なぜだ?
ちなみにアリアドネーの必須科目はマルチタスクは全学科共通で戦闘関連の学科になると瞬動、虚空瞬動、無詠唱呪文、サバイバル技術が追加される。最後の一つだがどのような環境においても最高の状態で戦える様にする為の授業だ。くじで決められた魔法世界のどこかで支給された装備のみで1ヶ月間生き残るという授業だ。これを3回受講すると単位を発行される。これの大変な所は1回生き残るまでで、1回成功すると慣れてしまうらしく生徒全員が逞しく成長して帰ってきてくれる姿を見ていると自分の若い頃を思い出す。オレの冒険者としての師匠の得意な事が強行軍だったからな。それについていくだけでも精一杯なのに、そこから更に戦闘や採取を行ない、また強行軍で拠点まで戻るという地獄のメニューだったが慣れとは怖いもので半年もすれば余裕でこなせる様になってしまった。
(お父様)
(どうしたリーネ)
(あれ、殺していいかしら)
(なぜだ)
(あの子、もう4回も失敗を起こしているの……魔法使いとしての)
(……)
(そのおかげでチーちゃんとアリスがグッタリしてるの。というより私も刹那も駄目かも)
(おい、こらタカミチ)
(何ですかレイトさん)
(しっかり面倒見とけよ。リーネがキレる一歩手前だぞ)
(すみません、僕にはこれが精一杯です)
(本当かリーネ?)
(ええ、常時展開している障壁を無音拳で壊したり色々やってるわ。でも防ぎ切れなかったのが4回)
(……タカミチ悪い事は言わない。授業が終わり次第学園長室に連れて行って魔力を封印させろ。教師としては問題を起こしていないんだろう)
(今の所は大丈夫です。クラスのみんなも今は落ち着いて授業を受けてくれていますから……長谷川さんとアリスちゃんがグッタリしていますけど)
(当たり前だ。彼女は魔法を知っているだけの一般人だぞ。自衛が出来る位には鍛えているが感性は普通なんだから)
(アレで自衛ですか)
(当たり前だ。どれだけ強大な力を持っていようともオレたちは基本的に自衛しかするつもりは無いからな。それよりも茄子に伝えておけ、お前はオレたちにケンカをうっているのか?と)
(分かりました。ちゃんと伝えておきます。ですからその)
(手はださん……今はな)
(お願いしますよ)
(分かってるよ、だからお前はネギの事をしっかり見ていろ)
(了解です)
頭が痛くなってきた。
「先生、どうしたんですか」
「噂は聞いているだろうが外国から研修で来た子供の指導をしていて寝不足になっているだけだ」
「あの噂って本当だったんですか」
「本当だ、何を考えてるのか学園長が受け入れやがったんだ。それも大学を飛び級で出ているから何の問題も無いと言っているが問題しか無いぞ」
「どういう事なんですか」
時計の方に顔を向け時間と授業の進行具合を確認する。
これ位の誤差なら十分に範囲内だな。
「飛び級で大学を出た天才児のことを聞いた事のある人も居るだろう。だけどその後の事を知っている人は居るか?」
手は上がらない。少し待ってみるがやはり上がりはしなかった。
「まずは企業に就職する事は出来ない。いくら頭が良かろうと経験不足で世間知らずだからだ。これほど使いにくい人材を欲しがる企業がどこに居る。それに大国なら労働基準法もあるから働く事自体が無理だ。ならどうするか。
いくつか考えられるが、大まかにはこんな所だろう。大学に残って好き勝手に研究する、誰かを代理に立てて自ら起業する、後は政府の犬になるのと汚い大人達の政争に巻き込まれると言った所か。まあ前半2つはともかく後半2つになったら最悪の人生だろうな。そして子供先生だが正直な所とっとと故郷に帰って欲しいのが個人的な意見だ。先生とは先に生きると書くがその名が示す通り先に生きている者が後に生きる者に知恵を与える者の事だ。
それに矛盾する存在である子供先生はもう少し生きてから教師を目指して欲しい。1週間彼を指導してみたが本当に教師を目指しているのか不安になる事が時々あった。そこら辺は子供なんだなと思うがそんな中途半端な思いで教師にはなって欲しくない。
もうすぐ2年も終わり、3年にもなれば進路について悩む子もいるはずだ。そんな君たちは彼に頼る事が出来るか?まず出来ないだろう。頼る事の出来ない教師、果たしてそんな存在は必要なのだろうか」
「先生、なんかいつもより過激じゃないですか」
生徒に指摘されて今言っていた言葉を思い出す。確かに過激だ、アレの影響だろうが誤差の範囲内かな。それでもこういった現象は初めてだ。至急原因を解明する必要があるな。まあ、今は生徒達の不安を取り除く方が先だな。
「ふぅ〜、そうだな。寝不足のせいか少し思考が単純になってしまっているみたいだ。だがオレは教師という仕事に誇りを持っている。それを穢して欲しくないという気持ちがあるという事を知っておいて欲しい。さて、時間だ。今日の授業はこれまでだ、日直」
「起立、礼」
『ありがとうございました。先生、頑張って下さい』
「ああ、ありがとう」
side out
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