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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第34話 マールデルタ星域追撃戦


「後方より敵艦隊。数11000」

「く……しつこい!!」

ロナウディア星域より離脱したルフェール軍は、銀河帝国軍の執拗な追撃を受けていた。
その度重なる襲撃に、ルフェール軍の全員が気力・体力を擦り減らしていた。

「これで5度目か……我が方の残存艦艇は?」

ルフェール宇宙艦隊司令長官マイト・アルベイン元帥は疲れた声で、隣にいる総参謀長のエルマン・ガーディ大将に尋ねる。

「既に40000隻を切っております。戦闘に耐えられない艦を除くと健在な艦艇は33000隻ほどです。反撃なさいますか?」

「いや、ここは逃げの一手だ。もう少し……もう少しで味方の勢力圏に逃げ込める、それまでの辛抱だ」

「ですが、根こそぎ動員した為、勢力圏内も既に兵力は枯渇寸前です。僅かに残る星間守備隊など如何ほどの戦力にも成りはしないでしょう」

「確かにその通りだ。だが、それを敵は知るまい。仮に予想できたとしても、そんな不確定な推論で危険を冒しはしないだろう」

「なるほど、では……」

「ここマールデルタ星域さえ通過してしまえば、敵は引くだろう」

アルベインの言葉に、周囲にいる全員の表情が明るくなる。
僅かであるが希望が見えたことに、皆の士気が上がった。

だが、アルベインの胸中は別のことを考えていた。

「(しかし、敵にとってこれは最後の接敵機会の筈。ならば、あの艦隊だけで済むはずが無いな……先程は逃げの一手と言ったが、あの敵にジワジワと時間を稼がれては堪らん。一撃を入れて即座に離脱するのが得策か)応戦用意。敵に一撃を加えた後、最大戦速で離脱する!」

戦闘隊形をとるルフェール艦隊。

戦闘可能艦艇の数において、ルフェール軍は追撃してきた帝国軍艦隊の凡そ3倍である。
だが、帝国軍の追撃部隊は戦力差を物ともせず執拗に攻撃を仕掛けてくる。

「食い下がってくるな……やはり、後続はすぐ近くにいるか」

アルベインは少しの間思案する。そして、

「敵の前面に斉射3連。敵が怯んだ隙を突いて撤退する」

ルフェール艦隊の各艦から3度主砲が放たれる。
斉射3連が効いたのか、帝国軍艦隊の動きが鈍った。

「よし、今――「さ、左舷方向より敵軍。数16000」――遅かったか………」

今まさに離脱しようとしたその時、不幸にもアルベインの予測は的中した。
帝国軍の新手2個艦隊が戦場に到着したのだ。

「数の上ではまだ我々が有利ですが……」

「今はな。そんなもの、直ぐに覆る」

アルベインはガーディの意見を冷徹に切り捨てた。

・・・・・

結局、ルフェール軍は帝国軍を振り切ることに失敗した。
戦場に、また新たに帝国軍の更なる増援14000隻が到着したのである。

「これで、数においても完全に逆転した……それも今回来たのはミッターマイヤー艦隊。『疾風』の異名を持つ彼を振り切るのは至難だろう………」

ミッターマイヤー艦隊の到着によって彼我の数の差は逆転し、ルフェール軍の損害は加速度的に増していった。

「巡航艦ゾルダム被弾!」

「戦艦テューシング損傷。戦列から落伍していきます!」

「駆逐艦ウェルンシェル、応答有りません!」

「空母ティグウェル、轟沈!」

「ヒルツ准将の艦隊が100隻以下に撃ち減らされています!」

総旗艦トイホーレの艦橋には各艦隊の被害が引っ切り無しに入ってくる。

「閣下、このままでは……」

「分かっている……。第6、第7陣展開、ヒルツ隊の穴を埋めよ」

第6陣と第7陣が展開して開いた傷口を塞ぐ。

だが、この処置とて所詮一時凌ぎにしかならない。
帝国軍の猛攻はルフェール艦隊に着実にダメージを与えつつある。

そんな中、不意に帝国軍の一隊が中央戦線へと雪崩れ込んできた。

「混戦に持ち込み時間を消費させるつもりか……だが、その手は食わん。戦闘艇発進用意!」

アルベインは戦闘艇を出撃させ突出してきた敵部隊を着実に葬っていく。
これだけの至近距離となると同士討ちの可能性のある砲撃よりも戦闘艇による攻撃の方が確実だ。幸い、敵の数も少なく駆逐するのに時間はかからないだろう。

しかし、ルフェール軍にとって致命的な報告がもたらされた。

「戦艦マエリオネス撃沈! ミクロン中将戦死!」

「なっ……」

この報に、司令部は愕然と沈黙する。

戦死したカルスール・ミクロン中将は第六艦隊の司令官である。
彼が担当していたのは左翼部隊であるが、ハルバーシュタット、ホフマイスターの2個艦隊の猛攻に遂に耐えきれなかったのだ。
ミクロンが戦死したとなると、左翼部隊の混乱は計り知れないだろう。

「閣下、このままでは左翼が総崩れになるのは時間の問題ですぞ。直ぐに対処を……」

「………いや、事はもう左翼だけに止まらぬ。それは全軍に言えることだ」

アルベインの言葉を聞いた周囲の者全員が、ゴクリと唾を飲み込む。

「既に前線全体が磨り減らされているな……艦隊を広範囲に展開させて猛攻を加えてきている。どうやら敵はこちらを表面から削り取っていき、不意の猛攻で一気に突き崩す意図のようだ。マエリオネスの撃沈は、その一例に過ぎんよ」

「で、では………」

「だが、手は有る。敵が広範囲に展開しているなら、当然各所はそれ程厚くはない。部分部分に砲撃を集中して敵陣に幾つか小さな穴を穿てば、敵はそこを修復に動く。そして、その時に必ず乱れが生じる」

「反撃を行うのは……その時と?」

「そうだ。だが、反撃も直ぐに息切れするだろう。長くは続かない。そうなる前に、機を逃さずに正面から突破して逃げるとしよう」

「しょ、正面からですか!?」

「ああ、敵は疾風ウォルフだ。背を向けて逃げるのを見逃してくれるとは思えん。直ぐにその神速で食らい付いてくるだろう。正面から突破するよりあるまい」

「なるほど……では、その時に猛攻を仕掛けるのはミッターマイヤー艦隊がよろしいかと。
多少は楽になるでしょう」

「ふむ、一理あるな。よし、ミッターマイヤー艦隊への砲撃を強化せよ。少しでも敵を消耗させ脱出の可能性を上げるのだ」

ルフェール軍の猛火力がミッターマイヤー艦隊を襲う。

これにはミッターマイヤーも驚かされた。

「まだこれだけの力を残していたか……おそらく最後の足掻きだろうが、窮鼠と化した敵の一撃をもらっては敵わん。ここは距離を保ち敵の行動限界を待つべきだろう」

このミッターマイヤーの判断により帝国軍が一時後退したとき、作戦は始動した。

「敵の薄い部分各所に砲撃を集中せよ。一つでも多くの穴を空けるのだ!」

ルフェール軍から放たれた砲撃が、ミッターマイヤー艦隊の各所に穴を穿つ。

「不味いな、このままでは陣形が分断される。直ちに修復に掛からせろ」

ミッターマイヤーの判断と行動は適切かつ迅速であったが、ルフェール軍の攻撃は苛烈を極め、穴は修復する以上に拡大する方が早かった。

「これは……いかん! 戦艦を前面に並べて敵の攻撃を防ぎつつ、巡航艦及び駆逐艦は急ぎ穴を塞げ!」

ミッターマイヤーは直ちに指示を出すが、時すでに遅い。

「よし、このまま攻撃を強化しつつ損傷艦を内側に密集体型をとれ。その際、ウィッカム中将のスカイキープ部隊を先頭に配備。スカイキープ級戦艦の砲撃力で以って活路を切り開き、強引にでも突破する!」

そして、その時は来た。

「今だ!!」

スカイキープ級の一斉射撃が空けた穴は、これまでより巨大なものであった。
その穴にルフェール軍の全軍が雪崩れ込んでいく。

既に各所が寸断されているミッターマイヤー艦隊にこれを止める余力はない。

「くっ、これが狙いか……だが逃がさん! 高速艦を中心として1000隻程度の追撃部隊を編制。準備が出来た部隊から順次追撃に移れ!」

「閣下、それは戦力の逐次投入になりませんか?」

「敵は逃げることに全力を傾けている。追撃隊を各個撃破する余力はないさ。もし万一そうするようなら、他の艦隊が追い付いくだけのことだ」

ミッターマイヤーは不敵に笑った。


* * *


「追撃、振り切れません!!」

結局、ミッターマイヤーの判断は功を奏した。

ルフェール軍は突破に成功したものの、未だいくつかの小部隊の追撃を振り切れずにいる。
本体が追い付いてくるのも時間の問題であった。

また、特に執拗な追撃を行ったのがロメロ・フォン・バルタン大将の部隊であった。

「デュフフ……ここで活躍すれば俺の野望にまた一歩前進する。この好機(チャンス)を逃す手はないな」

彼の言う野望とは、もちろん帝国宇宙艦隊の全艦を痛艦にすることである。
周囲の幕僚たちとしては、そんな野望に手を貸したくない……というより達成されては困るが、さりとて手を抜く訳にはいかないので嫌々ながらも己の職務を全うしていた。

「よし、今こそ皇帝陛下より賜ったこの兵器の出番だ。宇宙用パンジャンドラム、射出用意!」

「か、閣下。本当にアレを使われるのですか?」

「もちろんだとも。今使わずにいつ使うというのだ? それに、これは勅命だぞ」

バルタンの言う通り、宇宙用パンジャンドラムの使用は皇帝アドルフの勅命を得ていた。
流石に皇帝の勅命とあれば、使用する他ない。

「ゆけーパンジャンドラム!! 男のロマンを現実にするのだ!!!」

バルタン艦隊より、複数の宇宙用パンジャンドラムが射出された。
しかし……

「パ、パンジャンドラム……全て敵の対空砲火にて撃墜しました………」

「あ、あれ?」

想定外の結果に、バルタンは間抜けな声を上げる。
幕僚たちの視線もどこか冷たい。彼らからすれば、この結果は当然の帰結であった。
単にバルタンが(あと皇帝も)バカなだけである。

「コ、コホン。あ~……付かず離れずの距離を保ちつつ長距離砲にて砲撃せよ。敵艦を撃墜する必要はない。損傷艦を量産して行き足を鈍らせるのだ」

慌てて、取り繕うバルタン。
指示の内容そのものは間違っていないが、冷めた空気は元に戻らない。

それでも、バルタンはその天性の才能を生かしてルフェール軍の行き足を削いでいった。
『天は二物を与えず』その言葉がピッタリと当てはまる男、それがロメロ・フォン・バルタンである。

・・・・・

帝国軍の一部隊にてアホみたいな事が行われていたが、ルフェール軍としてはそれどころではない。
執拗な追撃と傷ついた味方艦の存在で行軍速度は遅れに遅れ、このままでは帝国軍の大部隊に再補足されるのも時間の問題であった。

「仕方ない、総司令部が盾となって見方を逃がす」

アルベインは決断を下す。

「我が第二特務艦隊も援護します」

そこへ、第二特務艦隊のエリザ・ウィッカム中将より通信が届いた。

「だが、ウィッカム中将!」

「私はこれまで負け続けました。ウェスタディアに負け、銀河帝国に負け……遂には祖国が滅亡しようとしている。私は、これ以上耐えることができないのです!!」

「………了解した。貴官にも加わってもらう」

ウィッカムの気持ちを汲みとったアルベインは彼女の参加を認めた。


結局、足止めに残ったのは約5500隻。
残りの20000隻はマリク・バーバラ大将の下、首都星ニューロントンへ撤退する。

猟犬の如く襲い掛かってくる帝国軍の追撃部隊相手に彼らは善戦した。
が、一隻、また一隻と脱落していき数時間後、ルフェールの足止め部隊5500隻は全艦が撃沈。文字通り全滅した。
これに対して帝国軍追撃部隊の損失・損傷艦艇は6000隻を超え、劣勢の中、彼らが如何に奮戦したかを示していた。
 
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