ファイアーエムブレム ~神々の系譜~
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第二章 終わらせし者と月の女神
第六話
「あいつを消さねばならん。そうせねば、私が永久的に消えてしまう」
「ロプトウス様、あいつとは!?」
「名はロキだ。あいつだけは消さねばいかん。どのような手を使ってでも殺さねば、でなければこの戦い決して勝てはせん。あいつさえ消えればもうワシを倒しても、殺せる者はおらん」
「ロキという名なのですね。分かりました、直ちに消してきましょう」
「いや、無理であろう。奴は神々に守られておる。こちらから何を仕掛けても、絶対に何もできんであろう。時を待つ、さすればこの手で殺してみせよう」
「ロプトウス様……」
「マンフロイ、お前は言われた通りにして見せよ。それからでも遅くはない」
「はい。ロプトウス様……」
ここでマンフロイには、一つ疑問があった。ロプトウス様を怯えさせるとは、一体何者なのであろうということ。マンフロイの頭にはロキという名前が刻み込まれた。
ロキが勇者の剣を手に入れ、ヴェルダンから帰ってきてからまもなく1年が経とうとしていた。それとともにノディオン王国を揺るがすような悲しい出来事が起きようとしていた。
「父上、ロキです。お分かりになりますか?」
「……ああ、分かるぞ……愛しい息子よ」
急な知らせだった。先日まで元気にしていた父上が倒れたと兄上や姉上、俺が寝室まで呼ばれたのだ。医者によると、死期が近いらしい。以前から頭痛を起こしていたという話を聞いたのはその時がはじめてだった。そして、その痛みや苦しみを癒しの魔法でごまかしてきていたが、それも限界であると僧侶に告げられた。
当然俺も姉上も医者と僧侶を攻めたが、兄上だけは違っていた。既にエルトシャンには伝えられていたのだ、それも父上から直接。
それならばとこのことをなぜ言わなかったと兄上を問い詰めたら、父上が黙っているように言ったのだという。そして次代の国王はエルトシャンだということも。
俺は、何も言えなかった。そして俺ができるのはこの今世での愛すべき父親であった国王を看取るだけ、なんとも悲しく虚しく、でもそれが自分にできる限界だった。
「ロ……キ。よく聞きな……さい。お前は……他の誰にもない才がある。それはエルトシャンにはないものだ……。私の最後の願いだ、エルトシャンを支えて……欲しい。なにかあった……ら、兄弟よく話して決めなさい。愛して……いるぞ」
「父上……私も愛しています」
俺は今にも目から溢れそうになっている涙を服の裾で拭い、ベッドでくつろいでいる父上に抱きつく。それは、長くは続かなかったが、それだけで愛されているのを感じた。
姉上と兄上もそれぞれに言葉をかける。姉上は涙を我慢しきれず、話終わった後は兄上に抱きつきながら涙を流す、兄上も涙を流すまいと必死にもがいているように見える。
「うっ、うぅ!」
父上が苦しそうにうめき声をあげる。ずっと手を握る母上も鳴き声こそあげないこそ、その目は涙で滲んでいる。
そのうめき声も次第に間隔が空いてきた、それと同時に父上の顔から生気が失われてきたような気がする。
「もうそろそろです」
医者が父の様子をみて、そう俺たちに告げた。そして、父上は動かなくなった。
それからの一週間は早いようで長いようないつもとはひと味もふた味も違う時間だった。アグスティからはイムカ国王も駆けつけてくれ、丁重に葬儀が行われた。
他にも、兄上の友人であったシグルドさんやキュアンさんも駆けつけてくれた。そして、皮肉なことにパーティの時に約束していた、ノディオンに招待するというのがこうして叶えられたのである。
兄上はこうした最中、国王の名乗りをあげた。誰もその意に反すものはいなかった。すべてが終わり、ようやく日々に落ち着きが戻った時、俺は兄にある許可を貰いに行った。
「兄上、私はブラギの塔へ行ってきます」
「なぜ、そんなことを言う。今は大事な時なんだぞ!」
「今が大事な時だからです。だからこそ、私は行かなければいけない」
「言っていることがわからん。ロキ、旅に出るのは後1,2年我慢してほしい」
「……私は決して旅に出たいという訳ではないのです。ただ、プラギの塔に行きたい考えているのです」
「わかった。では、なぜか理由を聞かせてくれ」
「私が天啓を受けたといえば、兄上は納得してくれるでしょうか」
「天啓だと?」
「ええ、そうです。実は1年ほど前、私はマーファ城の湖にて女神にあったのです。その時にもらったのがあの剣です」
「剣というと、あれか湖から帰ってきたらお前が拾ったと言って見せてきた剣か?」
「そうです。そして、その時の証言をしてくる友人がいます」
「それは誰だ?」
「ヴェルダンのジャムカ殿です」
「そうか……それで、その天啓とは?」
「『ブラギの塔へ行け』というものでした」
「誠には信じられない話だが……、証拠がそれだけあっては信じない訳にはいかないな……」
「ということは、兄上!」
「ああ、許可をだそう。しかし、3月以内に帰ってくるんだ」
「はい、ありがとうございます」
俺は兄から許可をもらった次の日には、プラギの塔に旅立った。マッキリー・アグスティ・マディノ・オーガヒルを通って最後にブラギの塔と言ったルートを通ることに決めた。
「かつてない試練が人間を襲う。そして、神々に導かれし者どもがそれを討ち滅ぼす。それは、古からの理であり、終わることのない決まりでもあるのだ」
プラギの塔において、それは突如予言されたものだった。しかし、それが各国に伝わることはない。というのもその予言を握りつぶしている者共がいるのだ。
彼らにとって予言は邪魔者だ。しかし、これは永遠に消せはしないというのも事実。であるからこそ彼らは予言を得た者を殺し、そして予言など最初からなかったかのように隠す。
ロプト教団。彼らこそロプトウスを信仰し、その復活を成し遂げんとする者達なのである。
「セレーネ。お前は生きなさい……もう私はダメなようだ。愛しき娘よ。ブラギへ……ブラギの塔へ向かいなさい。さぁ早く、彼らに見つかる前に……」
その場を血塗られた服を着た女の子が泣きながらその場を離れた。彼女の父親の遺言通りにブラギの塔へ向かって。
その男は、元神官であった。かつて幼い頃、なんらかの理由で彼は神官として育てられた。それは今は重要ではない。彼は、神からの予言を聞いた者の1人であったことが今回の悲劇を生んだ原因だった。当時のブラギの塔の神官長により、逃がされたこの男は上手くロプト教団が逃げ切ることができていた。
それは、今日を境に悲しい終りを迎えることになってしまったが。名も無き彼の死とノディオン国王が死んだ日。それは奇しくも同日同刻のことであった。そして、彼らの死こそこの物語の中において第二の始まりといっても過言ではないのだ。
「ふん、小娘が逃げたか……。お前たち、あの小娘を逃がすな殺せ」
「「「はっ」」」
暗い路地裏、月明かりさえも通さない場所に光る無数の目。男の娘というイレギュラーを取り逃がすという失態はあったものの彼らに与えられた任務は、もうすぐ終わると思っていた。そうあと殺すべきはその小娘のみだったのだから。
「セレーネ。何があったの!?」
逃げた少女は、家に帰ることはしなかった。それは賢明な判断であった。もし、帰っていたら彼女の命はなかった。彼女が逃げた先は、シルベール城の外れにある大きな一軒家。そこには彼女の親友が住んでいた。
「お父さんが殺されたの……」
そう言って、セレーネは眠るかのように気絶した。服は血だらけ、顔も涙に濡れている。彼女の親友である少女は急いで服を脱がし体に傷がないかを確かめ全身を濡れたタオルで拭き、自分の服で彼女に合う物を彼女に着させた。
「お嬢様、なにも全てあなたがなされなくても……」
「何を言ってるの! 親友のセレーネがこんなになってるのに私がなにもしないなんて貴族の名折れだわ」
「お嬢様……立派になられましたな」
貴族のお嬢様とその執事。彼らも、いずれロキの運命に巻き込まれることになる。
「立派になったとかそんなんじゃないわ。モウヒル、セレーネに何があったか調べてきなさい!」
「お嬢様、既に聞き及んでおります」
「それなら、早く言いなさいよ」
「すいません。なんでも、セレーネ様とその父上が城下の市場へと向かっている最中のこと、謎の黒い集団に襲われたとのことで、お嬢様も知っておられますようにセレーネ様の父上は、名うての光の魔法使い。応戦し、果敢に挑んだものの、敵が恐ろしく強い者達であったらしく、なんとかセレーネ様を逃がしたものの、亡くなってしまったという話でございます」
「なるほどね……可哀想に。それにしてもモウヒル、あなたの情報。また「家なき人」からの物なの?」
「さようにございます。正しくは「家なき人」を象った情報屋と言えばよろしいでしょうか」
「ふーん。他になにかなかったの?」
「黒い集団は、最近裏世界で暗躍し始めているようですね。それに表世界にもちらほら出てくるようになったとか」
「その黒い集団って何?」
「そこまでは、わかりません」
「ということは、まずいわね」
「ええ、さようですね。後、他にも情報が!」
「それは、今回のことに関係あるの?」
「関係はないと思われますが、ノディオン国王が亡くなられたという話です」
「そう、それはいつ?」
「本日でございます」
「あなたの情報はいつも早いわね、モウヒル。流石よ」
「ありがたき幸せ」
客人用のベッドにセレーネを寝かせ、その横で貴族の少女と執事が彼女の様子を見守る。それは、世を徹して行われた。
後書き
更新が遅れてすいません。
PCが故障したうえ、外付けのHDDに入れたはずのプロットがなぜか消えてしまい、再構築しておりました。
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