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セニョール

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第一章


第一章

                        セニョール
 メキシコからの助っ人だった。ここまではあると言える話だった。
 しかしそれでやって来たのは。かなりの者だった。
 やたらと明るくひょうきんな性格をしている。常にしゃべり遊びのことばかり言う。その彼がチームに入ってきたのである。
「何だ、あいつは」
「また凄いのが来たな」
「全くだ」
 彼が来たチームの面々は唖然となっていた。
「メキシカンは明るいっていうけれどな」
「それでもあれはかなりな」
「ないよな」
「ああ、ない」
「有り得ない位明るいな」
「明るいどころじゃないぞ」
 それすらも否定された。明るいどころではないのだった。
「騒がしいな」
「フランシスコ=サンターナか」
「名前は普通なんだがな」
 ラテン系によくある名前ではある。外見もだ。
 浅黒い肌に大きな黒い人なつっこい目、それに黒く縮れた短く刈った髪。背は日本人達とあまり変わらず痩せている。そして口髭を生やしている。
 その彼がだ。チームに来て常に騒いでいるのである。チームメイト達はそのことに驚きを隠せない。そうなっていたのである。
「大丈夫かな、本当に」
「チームの輪が乱れないか?」
「それが心配だな」
「そうだな」
 彼等はこのことを心から心配していた。彼はキャンプの間ずっと騒いでいた。だがその実力はというとだ。
 練習は常に行っていた。騒がしいがそれでもだ。練習はしていた。
「ちゃんと練習するな」
「相手チームの研究もしているしな」
「勉強もしているな」
 プロ野球選手としてだ。基本は踏まえていた。
「日本語わかるしな」
「それはいいんだな」
「それに」
 そしてだ。さらに話されることは。
「肩、いいな」
「ああ、外野の奥からホームまで一直線に飛ぶしな」
 強肩であった。
「打球反応いいしな」
「足もそこそこいける」
 つまりだ。守備はいいというのである。
「グラブ捌きも安定してるし」
「レギュラーは間違いないな」
 守備は合格であった。
「バッティングもパワーがある」
「実力はあるんだな」
 それは間違いなかった。
「海外編成も頑張ってくれてるからな」
「ちゃんと見て連れて来てくれたんだな」
「能力はな」
 少なくともそれは見ていることは間違いなかった。
「けれど。それでもなあ」
「あれでうちのチームでやっていけるのか?」
「まず勝たないといけないのにな」
「それにシンキングベースボール」
「そしてチームプレイだからな」
 そうした考えで野球をしていくのがこのチームであった。野球ファンからの評判では確かに安定した強さを持っているがそれでもだ。
 野球に面白みがないと言われていた。機械の如き野球だと言われていた。だが数年に一度は必ずリーグ優勝、日本一になっている。Bクラスに落ちたことはない。強いことは間違いないことだった。
 だがそれでもだった。彼等はだ。
 そうした明るさがない、勝利至上主義の中にあった。そこにサンターナが来たのである。誰もがそのことに不安を感じていた。
 だが、だった。監督やフロントはだ。こう言うのであった。
「いい感じだよな」
「そうだな、確かにな」
 その海外編成担当の畑と監督である蟻田が話をしていた。畑はプロレスラーの如き大男であり蟻田は膨れた顔をした太った男だ。二人共このチームのかつての名選手であり畑はサード、蟻田はキャッチャーだった。
 この二人がだ。サンターナを見ながらこう話すのだった。
 
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