銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百七十三話 遠足はイゼルローン
前書き
お待たせしました
いよいよイゼルローン要塞への行幸です。
“行幸”は皇帝の外出の際の言葉なのです。皇太子や皇后の外出は“行啓”なんですが、テレーゼの場合は単なる皇族なので“御成り”が正しいのですが、今回のテレーゼの場合、皇帝の代理としてのイゼルローン要塞行きなので、敢えて行幸にしています。
帝国暦485年10月20日
■銀河帝国帝都オーディン ノイエ・サンスーシ
「陛下、陛下は何処におられますか?」
ベーネミュンデ侯爵夫人の声がノイエ・サンスーシに響く。
何故、夫人が陛下を捜しているかと言うと、あれだけ秘密にしていたテレーゼのイゼルローン要塞への行幸が何処からともなく夫人の耳に入り、大騒ぎになったからである。その為、皇帝にそのあらましを問い詰めようとしたのであるが、皇帝は何かにつけて逃げまくっていたのである。
「此は侯爵夫人、如何為されましたでしょうか?」
運悪く出仕してきていた、商務尚書マリーンドルフ伯爵が事態の推移も知らずに挨拶する。
「伯爵、陛下は何処にお出ででしょうか?」
普段の物静かな姿を想像出来ないほどの強力な目線で見るベーネミュンデ侯爵夫人の姿にマリーンドルフ伯は思わず後ずさる。
「へ、陛下におかれましては、本日は装甲擲弾兵閲兵と聞いておりますが」
伯爵の話を聞いた侯爵夫人はムッとした表情を見せながら、独り言のように話しはじめる。
「テレーゼが、テレーゼがイゼルローンなどへ行くことを決めるとは。陛下は、テレーゼが可愛くないのですか!」
そう言われても、陛下の御心が判らないマリーンドルフ伯にしてみれば、何とも言える状態では無く、只単に話し終わるまでジッと聴いているしかなかった。
其処へ運悪く通りかかった宮内尚書ノイケルン子爵が何も知らずに挨拶する。
「此は此は、侯爵夫人にはご機嫌麗しく」
マリーンドルフ伯にしてみれば、何とも場の悪い所に来た者だと内心思うが顔には出さない。
「宮内尚書、陛下のスケジュールは如何しておる?」
いきなりの話に、戸惑うノイケルン。
「はっぁ、侯爵夫人、如何致しましたか?」
「宮内尚書、卿ならば知っておろうな」
主語のない状態で言われたノイケルンは驚くだけである。
「何事でございましょうか?」
「テレーゼの事じゃ、テレーゼが何故イゼルローンへ行かねば成らぬのじゃ」
そう言われても、テレーゼのイゼルローン要塞への行幸は表向きは陛下とリヒテンラーデ侯で決めた事であると説明されていたために、ノイケルンもマリーンドルフも何とも言えない。
「侯爵夫人、真に申し訳ございませんが、臣等は皇女殿下行幸には何一つ係わっておりません故、その事について説明することが出来ません」
そうノイケルンが謝る。
「それでは、国務尚書は何処にいるのですか?」
「それは……」
「何なのですか?」
ノイケルンが歯切れの悪そうに答える。
「リヒテンラーデ侯は持病のギックリ腰で暫く自宅で養生するとの事にございます」
無論仮病であるが、テレーゼの事が本決まりになるまで暫く隠れている様に陛下との話し合いで決めていた。
「何と言う事なのでしょうか、この様な時期に国務尚書が不在とは、たるんでいる証拠ですわ」
結局ノイケルン子爵とマリーンドルフ伯爵は、侯爵夫人が、今日は仕方ないと、館に帰るまでなんやかんやで2時間近く侯爵夫人に捕まり散々愚痴を言われすっかり疲れ果ててしまった。
「子爵、何故陛下とリヒテンラーデ侯は殿下の行幸を決めたのでしょうな?」
「さあ、全く判らない事ですな」
「捕虜帰還など、エッシェンバッハ元帥に任せておけばよいでしょうに」
「全くですな、ツヴァイ完工記念と言っても、今まで皇族が式典へ参加することなど無かったのですが」
「異例ですな」
「しかし、陛下の為されることですからな」
「我々には仕方無しと言えますな」
「全くですな」
帝国暦485年10月20日
■銀河帝国帝都オーディン フロイデン山岳地帯の山荘
ベーネミュンデ侯爵夫人が騒いでいる最中、何故かテレーゼが山荘で寛いでいた。
「お母様も、見事なまでに騒ぎ立てているわね」
グリンメルスハウゼンとTV電話で会話している。
『はい、侯爵夫人が殿下のイゼルローン要塞への行幸を会う会う尚書に聞きますので、既に貴族の間には殿下のイゼルローン行きの話が流れておりますな』
「此で、益々フェザーンと同盟に真実として流れる訳ね」
『そうですな。此だけ流れれば、信用するでしょうから』
「極秘のはずの皇女の行動が貴族の噂話からフェザーンに流れる訳だからね」
『そうなりますの。此でフェザーンの紐付きの内偵がし易くなります』
「フフフ、使える情報を最大限に使わなきゃだからね」
『そうでございますな』
「それじゃ宜しく頼むわ、此からお母様のお話を聞かなきゃ成らない訳だから」
うんざりした様子を見せるテレーゼを見て、笑うグリンメルスハウゼン。
『殿下、どれ程見事に味方を欺くかが謀略という物ですから、精々侯爵夫人を御騙しなされませ』
笑うグリンメルスハウゼンを見ながらテレーゼは頬を脹らませて答える。
「判ってるわよ。何とか丸め込んでみるわよ」
『期待しておりますぞ』
「ええ」
そんな事を言っていたテレーゼで有ったが、お母様の襲来にタジタジになるのであった。
「テレーゼ、いったいどうしたことなのですか?」
「お母様、何がでしょうか?」
「貴方がイゼルローンへ行くと言う話ですわ」
「エッお母様その様なお話は初耳ですわ」
「私の可愛いテレーゼ、貴方は私が護りますからね」
テレーゼの演技にすっかり騙される侯爵夫人であったが、そのままの勢いでテレーゼを引き連れて、ノイエ・サンスーシへ帰り、テレーゼを館に軟禁するという挙に出て皇帝に直談判を行うのであった。
帝国暦485年10月21日
■銀河帝国帝都オーディン ノイエ・サンスーシ
侯爵夫人からの直談判を受けた皇帝は仕方なしにリヒテンラーデ侯を巻き込んでベーネミュンデ侯爵邸へ向かった。
館へ着き応接室へ通されると、其処には仁王立ちの侯爵夫人が待っていた。その場には昨晩から散々猫っ可愛がりされたためにグッタリと疲れた表情のテレーゼもいた。
「陛下におかれましては、ご機嫌麗わしゅうございますわ」
「シュザンナ、話とは何じゃ?」
皇帝も、知っていながらも話をはぐらかそうとする。
「まあ、陛下には、妾のこの怒りの意味がお分かりに成りませんのかしら?」
「まあ、まあ、侯爵夫人、陛下の御前でございますぞ」
リヒテンラーデ侯が余りの癇癪の夫人を諫めるが逆効果になる。
「国務尚書とも有ろう者が、殿下を危険に晒すとは如何な考えなのじゃ!」
侯爵夫人は鉾先をリヒテンラーデ侯に変える。
「侯爵夫人、此は極めて政治的な問題でございます」
そう言われても、政治に関しては全く門外漢の侯爵夫人には訳が判らないだけである。
「シュザンナ、テレーゼを向かわせるのは、テレーゼを皇位継承者として見ていないと内外に示す為なのじゃ」
皇帝の話に侯爵夫人もキーキー言うのを止めた。
「陛下、それはどの様な事でしょうか?」
「うむ、今まで前線へ皇帝も含めて皇族が向かったことはあるが、皇女が前戦へ向かうことなど前代未聞じゃ、皇位継承者ならば、態々前線へなど送らぬ。その為にテレーゼの我が儘で前線へ行くことで、内外にテレーゼの馬鹿さ加減を見せ、下手な皇位継承争いに巻き込まれないようにする為なのじゃ」
「そうですぞ、侯爵夫人とて、殿下が皇位継承争いに巻き込まれるのは望んでおりますまい」
そう言われると、侯爵夫人も考え込んでしまう。
「では、陛下、妾母子を御護り頂けますか?」
「無論じゃ、シュザンナもテレーゼも予の一番大事な存在じゃ」
元々、お花畑頭の侯爵夫人にしてみれば、テレーゼの安全を脅かす者が無くなるのであればとその時は納得したが、どうしても護衛にと、クルムバッハを連れて行くことを絶対条件とした。
その結果、テレーゼの元には、オフレッサーから派遣されたランズベルク伯爵、ズザンナ・フォン・オフレッサー、クルムバッハなど多彩な人材が溢れて、テレーゼの航海に花を添えることになった。
帝国暦485年10月25日
■銀河帝国帝都オーディン 宇宙艦隊総司令部 第十三会議室 ナイトハルト・ミュラー
この日、宇宙艦隊総司令部に私を含めて7人の提督がケスラー大将から呼び出された。皆が皆、テレーゼ殿下と何かしら繋がりのある人物で有り、ケスラー大将と面識のある者でもあった。
集まった7人で旧交を温めている中、ケスラー大将が副官を連れて入室してきた。
皆が皆起立して敬礼し終わるとケスラー大将が我々に座るようにと勧める。
「まあ座ってくれ。今日集まって貰ったのは他でもない。今回の捕虜交換に関しての事だ」
ケスラー大将の話に、皆が注目する。
「ケスラー閣下、捕虜交換に関して、噂が流れておりますが、それは本当なのでしょうか?」
我々の中ではテレーゼ殿下の尤も近くに仕えていたルッツ少将が質問をする。
「噂というと、殿下のイゼルローン要塞への行幸の事かな?」
「はい」
皆がケスラー大将の答えを待っている。
「結論から言えば、噂は真実だ」
ざわめく会議室。
「危険なのではありませんか?」
ルッツ少将が疑問を投げかける。
ルッツ少将の考えは当然と言えよう、今まで最前戦に皇帝陛下も含めて皇族が向かったことはあるが、皇女殿下が最前戦へ向かうことなど前代未聞だからだ。ケスラー大将は手を組み我々を見ながら答え始めた。
「卿等の疑念、心配は判るが、今回の件は帝国の今後に係わる非常に重要な事なのだ。その為にも陛下も殿下も、侯爵夫人にも納得して頂いた上で、殿下のイゼルローン要塞への行幸となった」
ケスラー大将から正式に聞いた事で会議室はざわめきに包まれた。
「ケスラー閣下、殿下のイゼルローン行幸に関して我々が呼ばれた訳はなんですかな?」
ロイエンタール少将がケスラー大将を値踏みするように見ているが、相変わらず斜に構えた御仁だ。
「ロイエンタール少将の考えも判る。今回は卿等を呼んだのは、卿等の艦隊を持って殿下のイゼルローン要塞への護衛をする事が決まったからだ」
殿下の護衛、この言葉に私を含めて士気が上がる気がした。
「成るほど、殿下の護衛に小官達をと言う訳ですか」
「そう言う事だ」
「しかし、我々の艦隊は正規の少将クラスの艦隊の半分しか有りませんが、それで大丈夫なのでしょうか?無論殿下の護衛を引き受けた以上は、殿下が恙なくお過ごしできるように致しますが」
ワーレン少将の言う事も確かだ、私を含め7人とも少将でありながらも、未だ1500隻しか艦隊を任されていない状態だ。更にケスラー閣下は正規の艦隊は指揮しておらず、旗艦の護衛として100隻程しか指揮していない。此では皆の艦隊を合わせても10600隻にしか成らない、殿下の行幸にしては些か数が足らないのではと私も思うのだが。
「その点に関しては、エッシェンバッハ元帥の直衛艦隊も共にイゼルローンまで行くために心配な無い。更に練度向上の為に訓練を行っている、メックリンガー、ビッテンフェルト、ミッターマイヤー各艦隊が此の程ヴィレンシュタイン星系で最終訓練を行う際に護衛として同行する事が決まっている」
成るほど、元帥閣下の艦隊と一緒なら25600隻だ、それにヴィレンシュタインまで3艦隊が同伴して呉れれば、此方の気を付ける所はヴァーレンシュタインからイゼルローン要塞までだな。
「成るほど、それならば、トチ狂う馬鹿な連中も居ませんな」
ロイエンタール少将が不穏なセリフを言ったが聞かない振りをしておくのが大人の付き合いと言う物だろう。
「ロイエンタール少将の言う通りだ。60000隻強の護衛付きであれば、不逞な貴族も手を出さずに、殿下も安心してイゼルローン要塞への旅を楽しまれるだろう」
ケスラー大将、門閥貴族の馬鹿と肯定しては駄目でしょうに……
帝国暦485年11月10日
■銀河帝国帝都オーディン 軍事宇宙港
皇帝臨御の中、エッシェンバッハ元帥率いる直衛艦隊15000隻、ケスラー大将率いるテレーゼ護衛艦隊10600隻とオマケで参加のシェーンバルト少将率いる3000隻が出立した。
そして装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将率いる装甲擲弾兵50個師団も密かにイゼルローン要塞へと先発していた。
一度は納得したベーネミュンデ侯爵夫人ではあるが、最後まで涙を流し行くのを中止出来ないかと訴えていた。結局の所テレーゼの語った諺で仕方なしにと了承したのである。その諺は“かわいい子には旅をさせよ”であった。
テレーゼの御召艦ラプンツェルの勇姿に続いて、帝国軍の戦艦としては今までにないオウムガイのような流線型で純白の戦場では超目立ちまくりの大型艦も共に上昇していく。
彼女は現在新開発の理論を実証するためにマッド共が建造中の試作戦艦ブリュンヒルトの強度実験フレームとして使用後放棄されていた0番フレームから再生された武装を殆ど装備しないブリュンヒルト級0番艦であり、テレーゼによりゲフィオンと命名されGIO48専用劇場艦として竣工し、この日、ラプンツェルと共にイゼルローン要塞へ処女航海へ向かうのである。
後書き
お母様の金切り声が何日も続いてテレーゼも神経衰弱すんぜんです。
危険がないと何とか宥めたが、実際の所、危険が一杯だから気絶する可能姓が。
クルムバッハが原作と違う形でイゼルローン要塞へ。
オフレッサーと愉快な仲間達50万人もイゼルローン要塞で同盟軍をお出迎えw
ミュラーの階級を勘違いしてました、少将へ変更。
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