問題児たちが異世界から来るそうですよ? ~無形物を統べるもの~
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神明裁判 ⑦
「――――“Summon Maxwell myths. 3S,nano machine unit”――――!!!」
一輝たちの目の前で、マクスウェルが召喚式を唱えた。
そのマクスウェルの表情はかなりの怒りに染まっており、そして・・・
「なあ・・・マクスウェルのヤツ、何であんなに腹を立ててるんだ?」
一輝は、何故こんな状況になっているのか、全く分からなかった。
『兄さんは知らなくていいの。ね、スレイブちゃん?』
「ええ。一輝様は知らなくて良いことです。」
というのも、リンとウィラのキスシーンが始まった際、スレイブが勝手に動いて一輝の目を塞ぎ、湖札が中から干渉することで聴覚まで封じられていたのだ。
知れという方が、無茶である。
そして・・・そんな一輝のことなど気にもかけずに、召喚式は効果をあらわしていく。
生気を失ったマクスウェルの周りを熱波と寒波が吹き荒れ、大気中にプラズマが走る。
境界の狭間はたやすく砕け、空間もまた、ガラス細工であるかのようにたさすく弾け飛ぶ。
そうして炎熱と極寒をまとって現れたのは、背中に巨大な翼を持つ鎧の怪物。
その正体は、全くもって分からない。生物かどうかも怪しいその存在に――――
一輝は、なんの躊躇いもなく突っ込んでいった。
『ちょ、兄さん!?』
「どうせ、正体がわかろうが分かるまいが敵であることに変わりはないんだ。だったら、一気に行く。」
一輝はそう言いながらスレイブを振り下ろし、天使のかぶとを打ち砕く。
そこには一切の感覚も無く、霞を敵にしているかのようだったのだが・・・一輝はそんなことは気にもせずに、胴を払って足を蹴り、そのまま後ろに跳ぶ。
「ふぅん・・・妙なヤツだな。」
「それはオレが言いたいことだな。お前、本当に人間か?」
「一応、人間として生まれてはいるよ。・・・あれ、神霊?」
一輝は内心では確信を持ちながら、横に来ていた殿下に尋ねる。
「正解だ。どうして分かった?」
「どこか、分かるものがあった。これでも、今の俺は神霊だからな。・・・あの天使もどきは任せた。」
「じゃあ、そっちはマクスウェルを?」
「そうさせてくれ。たぶん、俺が相手をする分にはあっちの方がいいと思う。」
一輝はそう言いながら、おのれの霊格をほんの少し、開放する。
これまでに使っていた蚩尤の霊格や霊獣、妖怪に魔物の霊格とは別の、一輝個人の霊格を。
「・・・へぇ、そうか。オマエはそう言う存在なんだな?」
「まあ、な。色々とあったんだよ。・・・全部ぶっ潰したけど。」
一輝は苦い思い出でも語るかのように表情をゆがませながら、それでもしっかりと視線を敵に向ける。
「・・・湖札、知識の方は任せた。」
『は~い』
「スレイブは、俺の死角からの攻撃を。最悪、俺の体を全て操ってくれても構わない。」
「了解しました。」
一輝は次の瞬間に、一気にマクスウェルの元まで跳び、そのまま切りかかる。
当然のようにマクスウェルはそれを避け、境界門を使って飛ぶが・・・その先に向けて、一輝はスレイブを突き出す。
「!?」
「ん?自慢の奇襲が効かなくて驚いてるのか?残念だが、」
そして、再び飛んだマクスウェルが出現した瞬間に、一輝の腕はその顔に向けて延ばされていた。
「サトリの力の前には、奇襲は一切成功しないよ。」
そのまま手を伸ばしていき・・・マクスウェルの片目を、抉り取る。
「そして、これはミカリ婆の力。行き会った人の片目を奪う力だ。・・・こんな目、いらないけど。」
そう言いながら一輝はマクスウェルの目を踏み潰す。
マクスウェルの失われた目が、治っていくことは無い。
少なくとも、一輝が奥義を解除することでミカリ婆の力を檻に戻すまでは。
「・・・さあ、かかって来いよ。お前も、魔王を名乗ってるんだろ。」
片目を押さえて動く様子の無いマクスウェルに、一輝は感情のない声でそう語りかける。
マクスウェルは本当に生気を失っているのか、一言も発さず・・・それでも、一輝に強い怒りの視線を向ける。
「魔王を名乗る以上、そこには何かしらの覚悟があるはずだ。どんな小さなものでも、貫き通したいものがあるはずだ。それなら、それを俺に見せてみろ。」
そう言いながら、一輝は様々な手でマクスウェルに攻撃し、マクスウェルはそれを二割ほど避け、残りは全て喰らう。
相手は四桁の魔王。だが、そんなことは関係ないとばかりに圧倒していく。
マクスウェルを構成している霊格は、第三永久機関のもの。他にも様々な矛盾に歴史の転換期などもあるが、結局、それは第三永久機関のものだ。
それに対して、最下層のコミュニティに所属する今の一輝を構成している霊格は、本当に様々なものがある。
一輝個人として保有する霊格もあれば、檻の中にいるものたちから借りている霊格もある。
その中にある蚩尤の霊格がかなり大部分を占めていたのだが、湖札と同化することによって天逆海の霊格も付け加えられ、神話の神だけで二柱の神の霊格が存在しているのだ。
本来であれば、その霊格は下層にいていいものではない。神話の神なのだから、上層にあるその神話体系に収まるべきなのだろう。
そんな存在が・・・本来であれば、今回のような魔王の対処のために送り込まれてくるようなヤツが、四桁の魔王に苦戦することがあるだろうか・・・
答えは当然、否である。
まだ明かされていない霊格もある以上、なおさらだ。
「かかってこれないのなら、それがお前の底だ。所詮は、こんなガキに止められてしまうような、その程度のものだってことだ。」
そんな存在である一輝が、檻の中にいるものたちに借りている霊格を開放すると、ただそれだけの余波でマクスウェルは吹き飛ばされる。
「さあ、どうなんだマクスウェル。お前がその程度だというのなら、それはそれで構わない。殺すだけだ。だが、」
一輝は再び攻撃を放ち、片手間でぶっ飛ばす。
「もう一度言うぞ。貫き通したい意思があるのなら、それを俺に見せてみろ。俺に立ち向かい、圧倒するでもいい。この場を去り、その意志のために力を蓄えるのでもいい。正しく状況を判断し、逃げることが出来るのも、一つの強さだ。・・・さあ、選べよ。」
一輝の冷酷な言葉が響いたのかは分からないが、マクスウェルは境界門を発動して、姿を消す。
一輝はしばらくの間、警戒するように周りの気配を探り・・・完全に消えたことを確信して、スレイブを納刀した。
「ふぅ・・・逃げた、か。後は任せても?」
「ああ、任せろ」
一輝の声に殿下がこたえ、そのまま一輝の横を駆けていった。
「さて、と・・・どうしようか。」
そう言いながら一輝が見る先では、雷が落ち、そのふもとにはごうごうと煉獄の炎が燃え上がっている。
「・・・とりあえず、黒ウサギと飛鳥をどうにかして見つけて、連れて帰るとするか。ヤシロにも、音央と鳴央を回収するように言っといて・・・と」
一輝はそう言いながらDフォンを操作し、ヤシロに連絡を取りながら雷の元へと向かった。
大切な仲間がどうなっているのかも、何一つ知らずに。
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