麗しの王
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第一章
第一章
麗しの王
この国の王はとにかく美しいものが好きだった。
それでだ。常に家臣達に言うのだった。
「金はかかってもいいからだ」
「美しいものをですか」
「集めよというのですね」
「そうだ、とにかく集めるのだ」
こう言うのであった。それも常にだ。
「よいな、それは」
「はい、それでは」
「いつも」
こう話してだった。家臣達はその金を集めようとする。しかしここでだった。
王は同時にこうも言うのであった。
「国も美しくしろ」
「国もですか」
「この国もまた」
「美しくですか」
「そうだ、街も村もだ」
王はそこにも目を向けているのだった。
「奇麗にしろ」
「町や村を奇麗にといいますと」
「つまりは」
「外だけではなくですか」
「外だけ奇麗にしてどうする」
王は徹底していた。その言葉は厳しい。
「家の中も民の服もだ」
「全てですか」
「奇麗に」
「そうだ、奇麗にとはだ」
王は言い加える。実に厳しくだ。
「栄えさせるということでもある」
「そういう意味でも奇麗にですか」
「この国をそうせよと仰るのですか」
「つまりは」
「その通りだ。とにかく奇麗にするのだ」
王の言葉はとにかくそれにこだわったものだった。それは考えもである。何かにつけて美というものにこだわり続ける王であった。
王のその言葉を受けて様々な美術品や芸術品が集められる。
そして内政が整えられ街も村も奇麗になる。そして栄えさせられた。
「市場を充実させて」
「田畑を耕し」
「堤を作り」
「そして道を整理して」
ありとあらゆるものをよくしていった。その結果だった。
国は美しくなっただけではなかった。豊かにもなった。臣民達は奇麗な服を着て豊かな暮らしを楽しめるようになった。しかしだ。
「こら、ゴミを落とすな」
「落書きをするな」
「犬のうんこはちゃんと処理しろ」
「決められたところに捨てろ」
常に色々注意されることになった。
それで誰もが息詰まる状況になった。しかもだ。
若し破ればだ。それでだ。
罰金だった。酷い場合には鞭打ちだ。王は刑罰も厳しくしたのだ。
このことに臣民達は嘆いた。しかし王はこう言うのだった。
「これは当然のことだ」
「注意と厳罰がですか」
「当然なのですか」
「そうだ、当然だ」
こう家臣達にも言うのである。
「何か問題があるのか」
「臣民達はあれこれ言われることに辟易しています」
家臣の一人が言った。
「そして厳罰には困っています」
「そうです」
「それについてなのですが」
他の家臣達もここで言うのだった。
「せめて刑罰だけでもです」
「緩やかにすべきなのでは」
こう王に進言する。しかしだった。
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