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作り笑い

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第五章


第五章

「道化に特別に報酬を与えてくれ」
「道化に?」
「道化にですか」
「そうだ。そうしてくれ」
 こう周りに言ったのである。
「わかったな」
「あの、しかし道化はです」
「ああしていつも通りですが」
「細君が亡くなってもです」
「それでも」
「いや、泣いている」
 それを察しての言葉だった。
「だからだ。与えてくれ」
「泣いていますか?道化は今」
「笑っている感じですが」
「それが違うのでしょうか」
「いつも通りに見えますが」
「見せていないだけだ」
 王の目が遠くを見るものになっていた。道化を見ながらもだ。
「しかし素顔では泣いているのだ」
「化粧の下の顔も笑っていますが」
「それでもですか」
「泣いているものを見せない者もいる」
 これが王の言葉だった。
「それが道化なのだ」
「そうなのですか」
「道化は」
 これは周りにはわからないことだった。しかし王は確かに彼にそれを渡した。彼のことを察したからこそ。あえてそうしたのである。
 ジュゼッペは夜になり仕事を終えて家に帰った。家はもう一人だった。
 自分で料理、あのマカロニと鰯の料理を作った。彼も料理ができたのだ。
 それを作って一人でテーブルに座って食べる。そうしてから気付いた。
「作り過ぎたな」
 妻の分まで作ってしまったことにだ。作ってから気付いたのである。
 それも食べてからだった。一人でだ。彼は泣いた。
 家の中に誰もいないことを確めてから一人泣いた。そうしたのである。
 だが次の日には。もうだった。
 笑顔で宮廷に行きそうしてだ。また道化になっていた。その明るい顔でメイド達に話す。
「今日はとびきりの芸をお見せしますよ」
「とびきりの?」
「どんな芸ですか?」
「皆さんが驚かれる様なものです」
 そうした芸だというのである。
「後でのお楽しみです」
「ううん、何かよくわからないですけれど」
「それでも凄いんだね」
「びっくりするようなものですね」
「はい、それをお見せします」
 いつものにこりとした顔での言葉であった。
「ですから。御期待下さい」
「はい、じゃあ御願いしますね」
「どういったのか見せてもらいます」
「楽しみにさせてもらいます」
「それでは後程」
 道化のおどけた仕草で恭しく一礼する彼だった。そうして後で実際にだ。彼は身軽な芸をこれでもかと見せてメイド達も王もその周りの者達も驚かせたのである。笑顔のままで。彼はそれから最後まで笑顔だった。悲しい顔を見た者はいない、誰もがそう言った。


作り笑い   完


                      2011・9・28
 
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