作り笑い
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第三章
第三章
「だから止めたんだよ」
「そうだったのか」
「ああ。それでマカロニしたんだよ」
「こうしてトマトに大蒜でか」
細かく刻んだその二つをソースにしてだ、マカロニがある。勿論そこにもオリーブが使われその油と香りを自己主張している。
「いいな、これも」
「やっぱりパスタだよね」
「そうだよ。パスタだよ」
まさにパスタ好きの言葉だった。
「パスタがないとね。スープもいいけれどな」
「そうだよね。あとパンもチーズもあるしね」
その二つもちゃんとあった。
「どんどん食べようね」
「ああ。それにしてもな」
「今度は何だい?」
カーチャは笑顔で夫の話を聞く。今度はパンを食べながら。
「御前の飯ってやっぱり美味いな」
「おやおや。褒めたって何も出ないよ」
「世辞じゃないさ」
笑ってだ。それは否定するジュゼッペだった。
「本当に美味いからな」
「だからたらふく食べられるんだね」
「二人で食わなくてどうするんだよ」
こうも言う彼だった。
「折角夫婦になったんだからな」
「そう言ってもう三十年だね」
「まだ三十年だな」
「言うね。じゃあこれからもね」
カーチャも笑顔になってだ。それでジュゼッペに話す。
「二人でこうして食べていこうね」
「子供達も出て行ったしこれからは二人でな」
「こうしていこうね」
家に帰るといつも女房と笑顔でいつも一緒にいる彼だった。彼は自分の女房を愛していた。まさに恋女房だった。しかしだった。
その幸せは突然終わった。何とだ。
今日も宮廷で皆を笑わせ楽しませていたジュゼッペのところにだ。メイドの一人が慌てて来てだ。そのうえでこう告げたのである。
「あの、奥さんが」
「んっ、何かあったのかい?」
「馬車に跳ねられて」
どうなったかとだ。メイドは肩で息をしながら彼に話す。
「それでもう」
「馬鹿な、そんな筈がないよ」
どういうことかだ。彼はすぐに察してだ。そのことを否定しようとした。
「カーチャはそんな」
「あの、すぐにお家にです」
「家に」
「はい、帰られて下さい」
「馬鹿な、そんな筈がないから」
とにかくだ。ジュゼッペはそのメイドの話を心の中だけでなく言葉でも否定してだ。そのうえで慌てて自分の家に戻った。そしてそこにいたのは。
眠っている女房だった。ベッドの中に置かれている。それを見てだ。
彼はがっくりと肩を落とした。それで充分だった。近所の面々はその彼に対して何とか慰めの言葉をかけた。
「とりあえず落ち着いて」
「気を取り直してね」
「全部わし等に任せて」
「ジュゼッペさんは静かにしててね」
「いえ、大丈夫ですよ」
しかしだった。彼はすぐに落としていた肩を元に戻して。
そしてそのうえでだ。こう言ったのである。
「いえ、お気遣いなく」
「お気遣いなくって」
「大丈夫なのかい?」
「奥さんがその」
「こうしたことになっても」
「はい、大丈夫です」
笑顔を向けてだ。こうも言ったのである。
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