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クズノハ提督録

作者:KUJO
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クズノハ提督誕生






ある日、彼は夢を見た。


「ヴァーニングゥ!ルァァアアヴ!」


どこまでも続く青い空と


「イイぞぉ!!」


幾多もの軍艦達と


「とぉおおう!?」


幾多もの砲撃の音と


「ひえぇー!」


幾多もの奇声


それらはまさしく『決戦』と呼ぶに相応しい苛烈さを孕んでいた。






ーーーー


「今朝何だか、変な夢を見たんだよ」
「変な夢?」
雪が解け、すっかり暖かくなった季節。桜の花弁が入り込み始めた教室に、机を挟んで向かい合っている男が二人いた。
「ああ。どんな夢だったかはよく思い出せないんだが…今までよりもハッキリした印象の夢だった」
「夢は、一説にはその人の記憶に残ってる風景や人物をごちゃ混ぜにして再構築したものって言われてるらしいよ。だから変ってのも当たり前だと思う」
「いや、確かにいつも見る夢はもっと混沌としてるが…」
男達はとある大学の友人同士であり、休憩時間によく取り止めの無い話をする仲である。今日は夢の話をしている様子。
「何か…海の上にいた…気がする。」
「海の家?焼きそばかな?」
「海水浴か!確かに美味いけど」
「それは兎も角、これ見てみなよ葛葉」
葛葉(クズノハ)』と呼ばれた男は差し出された紙を見た。
「何だ?…暁の水平線に勝利を刻みましょう…?何だか格好良いな」
「僕も最近知ったんだけど、これによると手順を踏めば誰でも提督になれるみたい」
「え、提督て海軍の?それってエリート中のエリートじゃないのか?」
「何でも、必要なカリキュラムをこなせば良いそう」
「そうなのか…?まぁいいや。これがどうしたんだ?芝田」
芝田(シバタ)』と呼ばれた男はそれを聞いて少し顔を綻ばせ

「一緒にやって見ないかい?」

と尋ねた。
「…授業料とかって高くない?」
「それが、どこにも書いてないんだよね。これをくれた人からは無料とか言われたんだけど…」
「あ、あやしい…」
葛葉は明らかに怪訝そうな表情を浮かべた。

そんな時、二人の横から一つの小さな影が射した。
「何の話?」
「おお安藤。これ見てくれよ」
葛葉は件の紙を見せた。
「え、何これ」
「え、また説明するの?」
「やっぱりいいわ」
安藤(アンドウ)』は紙に書いてある内容を興味深そうに眺めた。
「安藤もやって見ない?」
「うーん、昔からミリタリーには興味もあったし、お前も乗り気みたいだしやってみてもいいかな」
「おい、良いのかよ?提督って一応仕事だろ?それにカリキュラムとか…」
「カリキュラムは車校みたいにこなせばいいでしょ。仕事だったらバイトだと思って…」
「…あれ、そんな感覚でいいの?」
「分かんないけど良くはないと思う」
この発言には誘った側の芝田も流石に呆れた。
「ま、まぁ何事も経験だと思って…」
「なんだか強引だけどいいや。葛葉は?」
「いや、俺は様子を見るよ」
必死で取り繕う安藤の姿を見ながら葛葉は内心、どうせすぐに断念するだろうと予想した。





〜それから一ヶ月後〜



「おはよう芝田」
「おっすー」
提督のことについて忘れかけてきた頃、葛葉は何気無く芝田に尋ねてみることにした。
「なぁ、先月言ってた提督になるって話だけど」
「ああ、なれたよー」
「え」
葛葉は驚き半分疑い半分といった顔をした。
「本当に?」
「うん、締め切りも近いみたいだし早く君も応募してみたら?」
「授業料とかは…?」
葛葉はおずおず尋ねた。
「本当に無かったよ。詳しい事は言えないけど、君の心配してた時間ってのも何とかなりそう」
「そうか…」
葛葉はまだ迷っていた。
仮に自分が提督になっても、艦隊の指揮を執るなんてことが出来るだろうか。指揮を執る以外にも部下を動かしたりすることが出来るのだろうか。不安が頭の中を駆け巡った。

「あんまり難しく考えない方がいいよ」
そんな時、安藤の声が彼の思考を止めた。
「こんなしがないインドア系女子でもできそうなんだから」
「そういえばお前女だっけ」
「僕も忘れてた」

安藤は言葉使いは荒いが、生物学的には一応女に属する。普段の女らしくない態度のせいで基本的に忘れられるが。

「…なんか凄い失礼な気もするが、まぁいいや。葛葉お前もやってみろよ」
「お前まで勧めるか。うーん、二人からそんなに勧められるとは思わなかったな…」
葛葉は先程とはまた別の理由で少し困惑した。そして少し考えた後、
「じゃあ、そこまで言うなら受けてみるよ」
と割り切った。
「お、いいぞ!」
「やりました」
「?」
こうして葛葉は二人に押し切られる形で提督になるのであった。





それから一ヶ月間、彼は提督に必要な知識、運動能力、戦術、判断力等のありとあらゆる能力を叩き込まれた。時には寝る間も惜しむ程、勉学に励まねばならない日もあった。
しかし、それはまた短期間でエリート中のエリートを作り出すのに相応しい教育でもあった。





「よ、葛葉提督!」
「どうした芝田提督」
ある朝、二人の提督が楽しそうにじゃれあっていた。
「鎮守府就任おめでとう!今日が初仕事だっけ?」
「ああ。しかし本当にタダなんだな。なんか怖いくらいだ…」

授業料だけでなく、交通費及び鎮守府に関わるあらゆる資金は全て海軍の経費で落とされると分かった時、彼はとても大きな世界に足を踏み入れてしまったと恐れ慄いた。

「でも後悔はしてないな」
「そりゃまだ船も持ってないからね」
「そりゃ航海だろ!お前、たまに変な事言うよな…」
「実は君のツッコミの能力を鍛えているんだよ」
「え、それって本…」
「そんなわけないだろ…」
葛葉が冗談を真に受ける前に安藤が呆れながら答えた。
「葛葉聞いたぞ。就任おめでとさん」
「ありがと。今日から初仕事だぜ」
「初めては覚えることが多いからな。頑張れ」
「おう!」





そしてその日の午後。
葛葉は大きな扉の前で立っていた。


「…ここが、俺の…」


ここから、彼の新たな日々が始まる。


「…よしっ!」


これは一人の青年と


「…意外と扉重いな」


その仲間達と


「あ、引くだった」


沢山の軍艦達の物語






「あ…い、(いなづま)です。どうか、よろしくお願いいたします。」

 
 

 
後書き

はいどうも。KUJOです。
記念すべき一作品目です。(一作品目が二次創作て大丈夫かのう…)

…既にお分かりの方もいらっしゃるかもですが、当方軍事的な知識は全くもってありません。一応調べたりはしているのですが、殆どと言っていい程想像で誤魔化しています。(その筋の人には大変気分悪くなる作品になるかも…)

初回の為文字数は少々少なめにしてありますが、次回からは3000文字前後くらいになる予定です。
こんな作品でも読んでくださる方がいらっしゃると信じて今後とも(更新は決して早いとは言えませんが…)書き続けて行きますのでよろしくお願いいたします。


最後に、アドバイスは幾らでも受け付けております。「ここをこうした方がいいのではないか?」とか「ここテンポ悪い、読みづらい」とかありましたら有難くご意見頂戴いたします。


それでは。 
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