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不可能男との約束

作者:悪役
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初デートの予定外

 
前書き
初めてと言うのは常に予想外であり

予想外というのは全てサプライズである。

配点(Oh My God) 

 

ここが正念場だと熱田は切に思う。

集中力を切らすな。
武蔵アリアダスト教導院副長としての威厳を見せろ。
否、これはそんな程度のプライドで進むべきものじゃない。

男の矜持を賭けろ……!

そして俺は口の中に溜まった唾を呑み込み───人差し指を押した。






「よっしゃ智! 射的でお前へのプレゼントゲットしたぜ!?」

「……それはまぁ、純粋に喜びたいんですが……これ、何ですか?」

「遠回しに言うが英国は結構過激だかんなぁ」

英国名物拷問忍者ゴウエモン。
結構、子供には人気らしい。さっきから周りの子供が意外と持って遊んでいるし。

「……キャッチコピーがかなり直接的で『吐くがいい!!』って書かれているんですか……」

「愉快なことに吐いた後助けるとは書いていないな」

他も似たようなものが多かったのでこんなものだろう。
まぁ、最低限の矜持を保てたので結果オーライでる。

「というか私の方がこういうのは得意なんですから私がやった方がよくありませんか?」

「……幾らぶっ壊すのが能の俺とはいえ祭の余興に屋台と人を潰させるのはよぉ……」

「───前々からの誤解を解きたいと思っていたのですが巫女は壊すとか人を射つとかしてはいけないんですよ?」

「……何か食うか」

隣からの視線が激しくなったが気にしないことにした。
デートもまだまだ序盤。
ここで油断するなかれ。
デートで女を楽しませない男なんて塵屑だぁ! 
喜美に言われなくても解る理屈である。
次の飯でちゃんとフラグを立たせなくてはと思い、しかし表情では何でもいいやっという感じで保持していたのだが

「もう……別にそこまで必死に探さなくてもいいですよ」

何故か一瞬で俺のポーカーフェイスは破られる悲惨。

「たくよぉ……昔からお前は俺の考えていることをずばっと言い当てるけど何かコツとか癖とかあんのか?」

偶には俺にも格好つける暇くらい欲しいのだがこの巫女型決戦兵器は何時も認めてくれないのである。
無駄に格好つけたいわけではないが必要よりちょっと上くらいは女に格好つけたいものである。
だから前々から思っていた疑問を口にしたのだが当の本人は口に指を当てて思案顔。

「はて……? まぁ、長い付き合いで何となく解るっていうものじゃないですかね? ───シュウ君だって解りますよね?」

「ああ成程。じゃあしょうがねえな」

肯定すると智が少し顔を赤らめるので眼福である。
脳内記憶には最早留めておけない記憶量である。

……歩法を覚えて正解だった……!

実は密かに左手だけ周りからの知覚から外れてカメラを握らせている。
お蔭で胸が揺れる様も含めて智コレクションは増える一方である。
そこまで考え俺はふと思った。

俺がやっていることは犯罪じゃねぇだろうか?

少し、今度こそ智にばれない様に考えてみる。
確かにこのカメラは智に許可を得ていない。
だからある意味犯罪なのかもしれないと言われればそうなのかもしれないが

これは思い出作りだ……

悪いことに使うつもりではないのである。
むしろ、後で智の父ちゃん相手にこんな思いであったぜって一緒に酒でも飲んで楽しめることでもある。
つまり良いことだ。
ならば問題ないと思い、カメラを動かすことは止めなくていいと結論付けた。

「……シュウ君……さっきから貴方の手元でカシャカシャとまるでカメラのシャッター音らしき音が聞こえるんですがさっきからまるで透明人間みたいに消えているその左手を見せてくれないでしょうか?」

「───話せば解る」

問答無用に没収された。
ああ……俺のメモリー……音を消せなかったことが弱点であったか……

「……項垂れているのは無視して突然シリアスを話したいんですがいいですか?」

「Jud.何だ? アイスが欲しいのか? 何段がいい? そうか……十三か……」

「ど、どうして私の話を聞かずに結論出して項垂れるんですか! しかも十三は不吉です……!」

無視してここら辺の屋台で歩き食いに向いているのは何かな~と探しながら智に話の続きを促せる。

「いや、まぁ私でも野暮だとは思っているんですけど……トーリ君とホライゾンの方はどうなっているでしょか?」

「そりゃあトーリがホライゾンに這いつくばされてヒィヒィ喜びながらデートしてるだろうよ」

「……それってむしろ犬の散歩……」




「トーリ様。何ですかその射的のミスは。男が女に格好つけるシーンをミスるとは。これはホライゾン法典的にミスポイントですね。暇潰しの役にも立たないとは……」

「お、オメェ! そんなに俺を責めて楽しいか!? 楽しんだな!? あ、待って待って置いていかないで! ほ、ほら……俺這いつくばってヒィヒィ言いながら追いかける楽しみを……! や、やべぇ……文字面だけなら負け犬だ俺!?」

「Jud.実によく飼いならされた負け犬です。では伏せるのです───無論土下座で」







情景を一瞬で浮かべてしまって鬱になりそうな自分を自粛した。
これはいけねぇ、デート中だというのに精神が坂を転げ落ちる光景だ。
よく考えたら奴ら番屋に追われてねえだろうかとも思うが、それならば他人の振りをするしかねぇな。

「いや、ちょっと待って下さいっ。シリアス。シリアスの話を遮らないでください」

「───たいじゅ」

何時の間にか彼女の右手に構えられている弓を見て断念した。

「その……トーリ君達が結論をどうするかとか気にならないんですか?」

「……んーー」

生真面目な智だなぁ、とは思うがそこが智の性格なのだからと思い、とりあえず周りを見回しながら歩き続ける。

「ぶっちゃけて返したらどうなんのか俺が解るわけがねぇ、と感じだな。あいつらの意志はあいつらのもんだし。智こそ。どうなると思ってんだよ?」

「あえ? ……あ、私ですか……全然考えてもいなかったですねぇ……」

そりゃお前はどっちになっても二人を助けることが丸解りだからだよ、と口に出そうと思ったが何か癪だったので閉じておくことにした。

「お……型抜きの屋台がありやがる。何々……襲名者&総長連合&生徒会型抜き……? 女王の盾符はおろか武蔵のもあんぞ?」

「そうなると一番面倒なのはウルキアガ君ですか? 色々、パーツとかがあって細かい作業になりますし……いえ一番難しいのはミトですね間違いなく……」

「難易度たけぇなぁ……お、俺のもあんぜ。この調子だとトーリとかも……なぁ、あそこにモザイクっぽい型があるんだが……」

「……子供達に配慮しているんだと思います……」

他国から自分達がどう思われているかを再確認して落ち込み、とりあえず復活してまた何かを探そうとして

「───もしシュウ君はトーリ君が世界征服を諦めたらどうします?」

今まで一度も考えたことがない疑問を耳に入れられた。







浅間は一瞬で彼が不理解の世界に叩き込まれたのを理解した。

「……んーーー?」

仕草から表情まで何もかもを悩みというものに置き換わっていくのをある意味で楽しんで見てしまった。

……もう、馬鹿なんですから。

彼も馬鹿とはいえ一応副長だ。
国の武力として国の将来を考える人間である。
馬鹿ばっかりしていて無能に見えるが、既に無能はトップに立っている。
そして彼は何もできない王様の剣なのだから行く先を切り開くものだ。
そんな彼が行く先の事をまるっきり考えずにいるだなんて事はない。
むしろ逆だ。
彼は既に行く先はもう決まっているだろうと完全に思い込んでいたのだ。
判断するまでもなくそうするだろうと信じ込んでいる。
私は知っている。
彼は敵対者に対しては遠慮無用、容赦無用の荒くれ者だが内にいる相手には甘いことを。
暴風の中心点は無風地帯。
つまりとことん気に入った者は懐に入れまくるのだ。
特にトーリ君に対しての入れ込む具合はナルゼの同人でもはっちゃけている。ナルゼ曰くまだまだ再現できていないわね、との事らしいがあの魔女は新概念でも作るつもりなのだろうか。
どうしたものですかねぇ───買いますけど。

「……? どうしたよ智。何かまだ聞きてぇ事でもあんのか」

「───えあ?」

絶妙なタイミングで思考の隙間に言葉を挟まれてしまったので馬鹿みたいな言葉を発すると同時に頬を赤くして少し混乱してしまう。
思考内容が内容なのでばれたら遠慮なく死ぬしかないのだが、死ぬならば部屋にあるトーリ君用の毒見フォルダを消さなきゃ死んでも死にきれないので却下だ。
シュウ君もこちらの混乱に気付いたのか、明らかにこっちに対して不審を露わにしている。
不味い。
このままでは浅間神社の巫女の不祥事が……!
そう思い、焦りに焦りに焦った結果、出た言葉は

「そ、そういえば───シンさんや幸さん、ミヤちゃんは元気ですか?」

凡そ考えられる中で最悪の選択肢であった。






「……私の鼻がおかしくなっていないのならば何故かここで我が王は犬の様に這いつくばっているのですけど……」

「恐らくそれはきっと事実ねミトツダイラ───あんたは優秀だものね」

「……この誇れない結果を見つけても……」

「まぁまぁミトッツァン。想定内想定内」

二人のデートをナルゼとナイトと一緒に追っていたらまさかの事態。これが想定内になってしまう自分の王に俯きそうになるが我慢我慢。
私、騎士。騎士、こんなもので負けてはいけない。
武蔵の騎士であり我が王の騎士なのだ。一番必要な忍耐を鍛えていなければ仕えられないのだ。うん、そう。忍耐は誰にとっても必要なものだからこれはおかしい事ではないのだ、うん。
忍耐だけカンストなどしていない。

「まぁ、総長とホライゾンのデートだからこんなものでしょう」

「うんうん。言葉選べば犬の散歩だね」

マルゴットは時々、直球過ぎと思いますの。

「じゃあ副長と浅間はどうなってると思う?」

「───公開処刑?」

英国の祭りでエロ神が一人昇天する事態になるんですの、それ?
しかも、処刑者は浅間神社の巫女。
神殺しの伝説をまさか身内の巫女が生み出すことになるとはどんな物語ですの。しかも動機は恐らくセクハラ。
何とも物騒な内容だが今思えば我が王も告白場は処刑場であった。最近では死ぬかもしれない場所で告白すると成功するというジンクスでもあるのだろうか。

「ま、まぁ、そこら辺は置いといて……どうなってるのでしょうね? 智が心配ですわ……」

「その"が"がどういう意味かは無視してあげるけど、どちらかと言うと私が気になるのは留美とかいうあの巫女ね」

ナルゼの疑問も解らないでもない。
留美は恐らく、というより間違いなく……その……副長に懸想……しているようなのだが今日も二人がデートに行くのを笑って見送っていたのだが、よく解らない。

……それでいいんですの?

智応援派の自分がこんな事を思うのはおかしいのかもしれないがそれでも思ってしまう。
恋愛となると勿論、自分はそんな経験がないので語れることもないし、人によって想う事もする事も違うことくらいは理解している。
そしてもう一つ理解していることもある。
副長はかなり阿呆なくらい一途だから───複数の人と付き合うなんて器用な事は絶対に不可能だ。
一度、智が彼に聞いているのを知っている。好みのタイプとかあるんですかって。
そしたら

「あ? んなもんエロ巨乳巫女で料理上手の女に決まってんだろうが!?」

笑顔でその後智に吹っ飛ばされていたが我が友人は中々鈍感だ。
明らかにその好みのタイプ……本当なら"エロ巨乳巫女で黒髪長髪の片目義眼で料理上手の女"って間に入っているでしょうに。
逆なのだ。
好みのタイプだから好きなんじゃなくて、好きだから己の好みに定着したのだ。
つまり、彼がエロゲで買い込んでいる巫女モノや巨乳モノは実は密かなアプローチなのだ。いや、まぁそんなアプローチをしてどうすると思うが。
というかもう少しまともな方法でアプローチをするべきだと思う。

本人も度胸無しというわけではないのに何故か本番に突撃しませんですものねー……

自分が判断するのもなんだが何というか───彼はタイミング、もしくは切っ掛けを待っているっていう感じがする。
だが逆に言えば切っ掛けを得れば彼はそのまま智に対して一気に攻めてかかると思う。そしてそれを私達よりも長い付き合いである彼女が解らないとは思えない。
確かにある意味で彼女はアクティブではあったが……逆に言えばそれだけであった。
たった数日の付き合いで強く言えるわけではないが、彼女は彼女で自覚もしているならば見た目とは逆に直ぐに行動タイプに見える。
そして彼も人の好意を鈍感に捉えて女性を軽く扱うような人ではない。
むしろそういった曖昧さを嫌う人だ。
ならばどうして、と思うがあんまり聞くにはどうかと思う話題だ。
そして

「……あの、ナルゼ、ナイト。貴方達は副長の身元……というより熱田神社について聞いたことがあります?」

「ないわね。よくよく考えれば剣神である事は聞いてたけどそれ以外は全くないわ」

「まぁ、武蔵にはよくある事だから気にしていなかったけど、考えれば熱田神社の代理神なんて大物が武蔵にいるのは普通びっくり事態だよね……でも大物かどうかはともかく似たような存在、武蔵多いからなぁ……」

確かに武蔵はそんな場所だから謎っぽい人間や結構な元or現権力者など結構多いのだ。
しかも人によっては隠しているので驚いている暇もない。

「……うちだとペルソナ君とか怪しいよね」

「いやー。意外とノリリンも怪しいかもしれないよガっちゃん。まぁ、流石に他のメンバーがそういう系ではないと思うけど……」

「……ネンジやイトケン、ハッサンがここで更に意外性を発揮したらもうキャラが……」

カオスになってしまう。
そういうのは既に私とホライゾンで賄っているはずなのにインフレしてどうするというのだ。
まぁ、こんな世の中なのだから王族と知り合いになったり友人になったりする可能性があるというのはある意味で歴史再現のお蔭である。
そしてその枠組みを内から暴れ回るかどうかを決めるためのデートを我が王はしているのだ。
どうするだろう、という思いは当然内に生まれてはいるが我が王がそれこそ自分と境界線上の強力なパートナーであるホライゾンと決めた答えならばそれに騎士として応える気概は持っている。
だから自分はこのままでいいが───出来れば友人達にはこれからの未来に対する報酬みたいなものを得てほしいと思うのは傲慢だろうか。
だから留美の事を考えるのは彼女に失礼を働いていると自覚はするのだが、してしまうのは性分なのだろう。
だから

「……智も失敗していなければいいんですけど……」







血が凍る、汗が流れる、寒気がする。
浅間・智という人生において最悪な事というのは確かに幾つかあった。
ホライゾンが死んだこと。
トーリ君に対して何も出来なかったことなどが最も分りやすい例であり、勿論それ以外でも小さいところで失敗や失礼を働いたことは多々あったし、あったのだろう。
それらの失敗に対して自分は出来る限り前向きに取り組んだと思う。無論、後悔の念を覚えたこともあったがマイナスばかり考えないようにと出来る限り心掛ける様にもしていた。
しかしこれはない(・・・・・)
身内でも踏み込んでいい場所と悪い場所の区別をつけれないというのは巫女としても人としてもやってはいけない事である事など子供でも分かる。
どうしよう、というその思考だけが頭を埋め尽くし

「そぉい」

間抜けな声とともに放たれたデコピンが空回りしていた思考を少しだけ落ち着かせた。
あいた、と思わず額を両手で押さえ、痛みを止めるかのようにするが当然無意味である。
条件反射で犯人の顔を見てしまうとそこにある表情は呆れた溜息を吐いているというポーズに似合う表情であった。

「勝手に決めつけて勝手に状態異常混乱になって勝手に鬱になんなよ。それにお前の疑問も普通なら誰でも思うことなんだからおかしくねぇだろ」

「で、でも……」

「そこでJud.って答えろよバーロ」

苦笑する彼を見て自分はどんな表情を浮かべればいいのか一瞬悩む。
結局、浮かべてしまった表情は彼に溜息をもう一度吐かせるものであったことは確かであった。

「……お前の事だからどーせ俺が何を言っても気にしたり悩んだりするんだろうけどとりあえず嘘偽りない真実言っとくぞ───皆、元気にしている(・・)よ」

「……え」

ということは何だ。
全部私の早合点による混乱だったということなのか。

「ほ、本当に……?」

「へっ……俺が今までお前に嘘を吐いたことがあったか?」

「ええ……嘘というよりも想像以上の事をしでかした事は多々……」

それはもうたくさん。
最早、記憶と言うより経験と言う物で頭に刻み付けられているから殺意も怒りも湧かないレベルだ。
これってある種の洗脳を受けているんじゃないか、と思うが気にしないでおこう。
いざという時は怒る。超怒る。

「で、でも……余り話も聞かなかったし連絡を取り合っている姿も……」

「誰か好き好んであの人外家族に連絡を入れるか」

どうしよう。一瞬、凄い納得しましたけどそれでいいのだろうか。
シンさんやユキさんも確かに大概だけど妹のミヤちゃんも小さな頃ですら怪物っぷりの片鱗を見せていましたからねぇ。
いやまぁ、ここにいる剣神やどこぞの建御雷の代理神さんも酷いものなのだが。




「おや? どうしたんだいハルさん? ああ僕が爪楊枝で蠅を貫いた? ああ。それくらい簡単簡単! タイミングと技量が合致すればあの猿の息子でも出来るから! でも最近は娘も成長したのか………歩法+隠行をしてもばれるん………いやごめん待ってくれハルさん。ドリルを出すのは百歩譲って問題なしだけど問題は掘る場所……ああ! やっぱり躊躇せずにそこなんだね! 素敵だよハルさーーーーーーん!」






だがそれを認めると神道人外説が生まれてしまうから止めておこう。いや結構神道は無茶苦茶をする事が多いから人外説も間違ってはいないが自分が巻き込まれるのは勘弁願いたい。

「じゃ、じゃあ……本当に私の早とちり……?」

「最初からそう言っているだろうが」

何故か冷たい風が私達を通り抜けた気がしてならない。
頭の中でやってもうた! とかしまったしまった! などという愉快な反応が起きるが今はこの現状をどうするかが先決だ。

お、重っ! 空気重! やっちゃった感満載じゃないですか私!? 

何たることか。私の母は術式などは当然として料理やその他色々大切なことを教えてもらったのだが空気を読む方法だけは教えてもらっていなかった。
巫女がOh……myGod! と叫んでもいいのだろうかと変な思考を続けていたら

「おらよ」

「むぐっ」

口の中に何か甘いものが無理矢理入れられた。
すると何時の間にか彼の手には甘い砂糖菓子……綿飴を握っておりその欠片を千切って私の口に入れたのだろう。口の中に甘い味が広がっているところから解る。
そうすると最初に思いつくのがカロリー計算である自分に脱帽だが、そこら辺はあのキチガイの姉と弟と付き合っていると自然に絞れるし気を付けているので問題ないし、この祭りの中で考えるには少し場違いだとは流石に思う。
だから最初に思いつく言葉は

「甘い………」

「そりゃそういうもんだかんな───まさか意外性を欲してたのか!?」

丁重にお断りしておいた。
だが、彼の行為の意味も理解った。
極東の祭りでの代表的なお菓子を口の中に入れながら彼が射的で私にぬいぐるみをプレゼントをした後に屋台を探しながら受けた私の発言に彼はこう言ったのだ。

お前は俺の考えていることが解んのかよって。

そしたら私は何となく解ると答え、事実理屈云々で何となく解るのだ。
だから、彼がこのデートの切っ掛けとなったあの焼肉の時に言った言葉。
それは

"俺がお前を楽しませるデートコースを考える"

その時はかなり冗談のように、いや間違いなく冗談風に言っていたがそれがかなり"本気"であった事には当然気づいていた。
彼の考えは読める、と言ったがそれは彼がそのまま。つまり自然体の時であり隠そうとするものは察するのは難しいのだがそれでも彼が恐らく今日の日の為に色々と調べてくれていたという事は知っている。
だってさっきからよし、この屋台にしようぜとか言ってその屋台までの道筋が迷っている風情ではなかった。
無論、時折アドリブを混ぜて適当に見回る事もあったが恐らくそれも彼が考えていたのだ。
決まっただけのルートを行くだけじゃあ私が楽しめないんじゃないか、と。
そして彼は確かに私に楽しみをくれた。
その流れを壊したのは自分だ。だが、彼のことだからそれも含めて自分のミスと捉えかねない。だから、浅間はどうすればいいだろうと思い何か手段を考えようとすると

「あっ」

人波によるものか、急に後ろから何か押すような衝撃があったかと思えば抗えずにそのまま私は前にたたらを踏み、シュウ君の腕に飛び込むように収まった。








オパーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

と点蔵は飛び込んできた感触に対して素直なリアクションを取ってしまった自分を恥じた。
飛び込んできたのはオパーーイ……じゃなくて傷有り殿。
と言っても飛び込んできたというよりは転げ込んで来たと言うべきか。麦畑の中で作業をしていると一緒に作業をしていた傷有り殿が転んでそれを助けて胸板にボンボンしたものが乗っかって状況としては幸いだ。

ではなくて!

「だ、大丈夫で御座るか? "傷有り"殿?」

「あ……Jud.大丈夫です。ありがとうございます……」

そうして無理なく立ち上がる姿には確かに問題がある様子はない───外的要因の意味では。

……"傷有り"殿?

何か彼女が見ているのが違うと思う。
彼女が見ているのは今ではあるが"ここ"ではない。視界に移っているのは間違いなくこの場所ではあるが内心がここを見ていない。
そして彼女は精霊使いだ。
ならば精霊関連で何かを発見した、もしくは何かが起きたかを察知したのか。
そうしていると点蔵も気付く。

……祭りの様子が……。

先程までは喜びや騒ぎといった祭りとしては当たり前の感情(イロ)が強く見えたのだが今では戸惑いや驚き───そして何か期待の感情が色濃くなっている。
祭りならば何かサプライズがあるから発生はしない感情とは言わないが……これは何かが違うと忍者の経験が語っている。
そうしてそちらの方に意識を向けていたせいか。傷有り殿が最初に何かを言ったのを聞きのがした。

「───いな時間を送りました……」

恐らく彼女も聞かすつもりで言った小さな声。
途中あたりに彼女の顔を見てつい癖で読唇を使ってしまったせいで聞き取ってしまった言葉。
最初の言葉は確かに聞き取れなかったがこれだけ聞き取れば逆算して何を言ったか解る。

……幸いな時間を送りました……で御座るか……。

色んな意味で取れる言葉ではある。
だからこそ自分はどんな意味で取るべきかをつい悩み

「───」

横に振う事でするべきではない、と断じた。
今の言葉はこちらに聞かすつもりはなかった言葉だ。それに対して勝手に自分が意味づけするのは間違いであるし、自分のような数日限りの付き合いでする事ではなかろう、と。
だがいきなりという感覚で

「点蔵様。上層に行ってみませんか?」

といきなり誘われた。
想像もしていなかった言葉に思わず返事することも忘れて視線を傷有り殿に集中してしまう。
まさか自分の都合のいい幻聴を聞いているのでは御座らんか、と思い耳も集中させ

「私、上層まで行けますので」

幸せな妄想であることは振り払われた。
だがそれだと逆に何故、と思ってしまうのは性格か習慣か。

「え、いや……その……何かご了見でも?」

「───点蔵様と一緒に行ってみたいのです」

「───」

瞬間沈黙を発動する自分を思わず客観的に見ながら自分の反応は外道メンバーによるものと思考が浮かぶが一瞬で消去する。
このモテない忍者に春が来たので御座るか? とかいやただの馬鹿な忍者の戯けた勘違いと率直な現実意見が脳内でかち合うが、それ以上に傷有り殿のその透明な笑みに対して反応した感情がどう答えるかを悩ませた。
これが何かを隠す為だけの透明ならばただ受け答えをしよう。
そうすれば少なくともこの距離感による誘いをそのまま受け入れる事が出来る。
しかしこの透明さは彼女の素の感情によって生まれた物であった。
それに対してただの一介の忍者であり、余所者である自分がどう答えればいいのか。
人生経験の少なさか、もしくは自分が阿呆だから起きる躊躇いか。
ただ一点。彼女が自分のような者に無意味な傷をつけないようなとそれだけを考え

「ご案内します───私が知っている"公主隠し"の現場へ」

彼女の口から告げられた第一特務としての使命と彼女からの義務と義理が混ざったような情報提供によって己の使命を持って躊躇いは捨てた。








「───浅間っ!」

後ろから聞き覚えのある声を無視するほどに浅間は咄嗟に反応した手が既に必要なものを取ってそれを地面に突き刺すプロセスを取っていた。

……結界用の玉串!

唐突な自分の反応を、しかし間違いではないと判断する根拠がある。
それは結界用の玉串から瞬間的に広がった円紋に青白い文字列がまるで絡むように巻き付いているからだ。
これは、という自問自答に自分の記憶が答えを持っていると告げる。

……シェイクスピアの脚本ですね!?

瞬間過ぎてそれの効果や何故、このタイミングで仕掛けるなどという判断を持てないままだがそれでも右足のかかとを強く踏み、音を鳴らし柏手を一つ強く打ち

「奏上ーーーー!」

巫女の奏上に結界は答えた。
絡み付く文字列を存在証明を確定するために粉砕し、完成を結果として残したのだ。
これで防げた、と自信を持って証明でき役職者としての上位にいるシュウ君に判断を聞こうと思い

「……いない!?」

さっきまで体温すら感じる場所にいたはずの彼の姿がどこにもなかった。
最初は歩法かと思ったが違う、と判断できる。
歩法はどちらかというと守る技ではなく仕掛ける技の系統だ。仕掛けられた場合は効果が半減する。
立花・誾に歩法外しの方法を全国に放送されたのが痛い。
あれのせいで後手からの歩法の有用性はほぼ消失した。
勿論、相手の視界から一瞬外れることも出来るし、攻め手においても隙を生み出す強力な技であることには変わりないが今の受け手において使っても役職者クラスなら確実に躱せる技のレベルに落ちただろう。
そして彼もそれが解らないわけがない。
となると、本当に消えたと思っていい。
いや、むしろ消えたのは自分達の方ととれるかもしれない。

「ねぇ、浅間? これ、どうなってんの?」

「……その前に喜美がどうしてここにいるのかを聞いてもいいですか……」

愚問と解っていても脳が聞くことを望んでしまう。
そう思っていたらこの狂人はクネクネと尻を回して笑い出した。
理性が一瞬、蕩ける様な理解不能の境地に叩き込まれたような錯覚を得てしまったが、このままそれを見続けると錯覚が現実に変わる可能性があるから見なかったことにした。
だけどここに喜美がいるお蔭で多少の条件付けみたいなルールが理解できた気がする。
狙われたのは私達でもなく私達だけでもなくましてやシュウ君だけではない。
狙いはきっと

「トーリ君とホライゾンです」

何故ならこの結界は───







役職者を狙った結界……!

ネシンバラは目の前と周りの様子と騒ぎを見て冷静に決断を下した。
自分は今、第二階層の自費出版物の即売会に出てより、その中で恐らく必然的な再開でシェイクスピアと出会い明らかな嫌味か、とは思ったが出来るだけ無視しようと思っていた矢先にシェイクスピアは術式を発動した。
術式"空騒ぎ"。
効果としては結界術式であり、結界に巻き込まれた人間は観客として参加し、目的となった人物は舞台の役者として舞台に上げられる。
恐らく巻き込まれた観客としての、例えばノリキ君や御広敷君などはそれらをおかしくは思ってもその舞台を楽しむ観客としての役割にその違和感を封じられるのだろう。
そしてこのような役職者を狙った相対の理由はただ一つ。

葵君にアリアダスト君が標的か!

馬鹿ではあるが権限としては最上位の総長兼生徒会長の葵君。
アリアダスト君は役職こそないが武蔵の副王故にやはり権限は高い。
故にこの相対での勝利を持って自分は上位の役職に対して挑める存在であるという証明を得て葵君の方に直接相対する。
聖連に対しての言い訳も含めていやらしい策だと思う。
しかし、これを葵君に伝えようとも目の前の少女がそれを許さないし戦うには自分は一度負けた上に呪いがある。

「……」

だから僕は立ち上がっていた体を椅子にわざとらしく強く座り鼻を鳴らす。

「生徒会書記として僕はまず言おう───後悔するぞ、と」

「Tes.じゃあ君自身は何て言ってくれるんだい?」

「Jud.───運がよかったねって」

「理由は? っていう僕の三文台詞に乗る気はあるかい?」

シェイクスピアのわざとらしい言葉に僕は再び鼻を鳴らすことによって肯定を示し、僕の嫌味たっぷりの負け惜しみを語り聞かせる。

「これが葵君が決断をした後ならどっかのホモ臭い馬鹿が暴れていたからね───幾らどんな豪壮で頑丈な舞台を整えても暴風の前では潰れるのが掟だからね」

「成程。実際の全力を見たことがないから仮定でしか言わないけど確かにうちの女王クラスの出力を出されたりしたら僕の舞台も形無しだろうね。それなら僕もTes.と頷いておこうか」

……まぁそれも神としての顕現をしないといけないんだろうけど。

剣神(ヒト)ではなく暴風(カミ)として振る舞うのならば彼は今の所出会った役職者よりも更にえげつない存在になるのだろうから。
本人は剣神として行動している方が好きだから滅多に顕現する事はないとは思うが脅しの一つになるんならなる、ならないの問題は排除できる。
他国もこれで武蔵への警戒心を更にアップしてくれたら幸いだ。

……ってまだマクベスの呪いでリタイアしている癖に手癖……口癖? 悪いな僕。

武蔵の馬鹿どものド根性……というよりいやがらせ精神がここに来て感染してきたか。
超絶怖いな、と少し汗を鳴らしながら椅子に少し体重をかけ鳴らしながらただ心の中で頼む。
頼んだよ、と。








智と別れ、さっきまで祭りの喧騒で賑やかであった一角で劇場の役者として観客に注目を受けている役職者の一人として熱田はただ少し空を見上げていた。
術式によって舞台となった英国の祭りで見える空は当然、先程と空の模様が変わっているとかいうわけではなくそのままの青い空。
祭り日和の風景であった。
周りの期待の視線を全く気にせずに熱田は心をまるで凪のようにして空を見つつ、やれやれと首を動かし───両膝を地面につけた。
そして心底絶望したという表情を浮かべながら決定打の言葉を吐いた。

「俺の……初デート……!」

周りの期待の視線が直ぐに憐みの視線に代わってしまうのは止めようがなかった。
いっそ血涙を流せれば、と思いながら絶望に沈み込んでいくのであった。







 
 

 
後書き
ようやく久しぶりの投稿、お待たせしました~。
どうしてだろう。頑張ったのにシュウが救われない。
何らかの呪いでも作用しているのだろうか……心当たりが有り過ぎて判断できんな。
それにしてもこのクロはどうして正式登場していないのにこんなに目立つのだろうかけしからん。
尻ドリルがそんなに嬉しいか!
まぁ、そこは置いておこう。
次回は相対ロワイアル。
と言っても内容的に相対する相手を変えるのも難しい気がするからなぁ……どうするかねぇ……。
とりあえず次回もお楽しみをっ。
感想お願いします! やる気になるので!! 
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