ミッドナイトシャッフル
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第四章
第四章
「さもないと死ぬぞ」
「ええ、わかりました」
「それじゃあ」
こうしてだった。俺達は防弾チョッキも着込んでだ。そのうえでだ。
その酔っ払い達が暴れている現場に向かった。そこはだ。
カラオケボックスのビルの前だった。そこは。
「よりによってここかよ」
俺はそのビルを見て苦い顔になった。妹が働いているそのカラオケボックスだった。
そのビルの前でだ。如何にもって感じの奴等が騒いでいた。周りは距離を開けて係わり合いにならない様にしている。逃げる奴もいた。そして実際にその手にだ。
ナイフがあってチャカがあった。それを見てだ。
先輩はだ。覚悟した顔で俺達に言った。
「例えおもちゃでもな」
「ええ、本物と考えてですね」
「そのうえで」
「あいつ等全員取り押さえるぞ」
それで銃刀法違反の現行犯でしょっぴく。そういうことだった。
このことを言ってからだ。俺達はだ。
暴れる酔っ払い共を取り囲んでだ。すぐにだ。
一人一人に掴みかかりだ。柔道の技や警棒を使ってだ。
動きを止めてそしてだ。ナイフを取り上げる。
次々に手錠もかける。酔っ払い共は思ったより力がなかった。
それでだ。全然だった。
楽勝で捕まえていけると思った。けれどそれは甘かった。
酔っ払いの一人がだ。不意にだ。
囲みを突破してカラオケボックスに向かおうとする。妹がいるその店に。
しかもそいつだった。チャカを持っているのは。
そいつが向かうのを見てだ。俺はだ。
咄嗟に身体が動いた。そいつの前に出た。それで警棒で止めようとした。
けれどその俺にだ。そいつはチャカを出して来た。それを。
発砲して来た。この時俺は死んだと思った。頭か心臓を撃たれると思った。
ところがそれは杞憂で。確かにチャカは撃たれた。けれどそれは俺の足下を掠めただけだった。俺は無事だった。
撃った奴はこの失態に唖然となっていた。俺はその隙を逃さなかった。
一気にだ。前に出て警棒で腹に突きを入れた。それで撃った奴を倒してだ。
手錠を出して撃った奴の両手にかけた。これで何とか取り押さえた。
その頃にはもうだ。他の酔っ払い達も全員取り押さえられていた。
それを見てだ。俺は言った。
「一件落着かな」
「ああ、大丈夫か?」
「はい、弾には当たってません」
俺はにこりと笑って先輩の心配する声に応えた。
「無事です」
「そうか。それにしても危なかったな」
「まさか店の中に入ろうとするとは思いませんでしたね」
「囲みを突破してな。けれどな」
それでもだと。先輩は俺に言って来た。
「酔っ払いってのは何するかわからないからな」
「そうですね。それは」
「まあとにかくな。今のはお手柄だな」
「有り難うございます」
「じゃあこの連中は全員署に連行だ」
只の酔っ払いじゃない。銃刀法違反の現行犯だ。
それならだった。罪はかなり重い。確かに俺はお手柄になる。
けれどそれでもだ。今の俺にはそんなことはどうでもよかった。
妹がいるその店を守れてだ。ほっとしていた。
俺はそのほっとした中でだ。酔っ払い達をパトカーに放り込む。
その時にだ。店の方に見た。
妹が店の外に出て来ていた。その店の制服らしい赤いエプロンを黒のジーンズとブラウンのセーターの上から着ている。
見れば妹の他にも同じエプロンの娘がいる。その娘とあれこれ話をしていた。
「お店の中に入ろうとしていたみたいね」
「そうね。拳銃持ってる酔っ払いが」
「本当に危なかったわね」
「そうね」
こんな話をしていた。どうやら俺には気付いていないみたいだ。
俺は今警察の制服姿で帽子も被っている。だから顔はよく見えない。
その俺に気付かない様で。お店の娘と話していた。
「けれどお客さんに何もなくてよかったわ」
妹が言った。
「本当にね。私ね」
「うん、どうしたの?」
「やっぱりあれなのよね」
こうだ。笑顔で言っていた。
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