ファイアーエムブレム ~神々の系譜~
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第二章 終わらせし者と月の女神
第四話
前書き
今回は完全にシリアス回
昔からある土地というのは、どこかで何かしらの出来事がある。例えば、あるきこりの話。木こりは山へ木を獲りに行った、そこで持っていったのは一本の鉄の斧。既に所々錆びているそれは、かなり使い込んでいるのがわかる。そして、木を切っていると手を滑らせ斧を近くの湖に落としてしまった。斧は男にとって命のように大事なものであり、頭を抱えていると、湖から一人の女性が浮き上がってきた。まるで女神のような美しさな女性は金の斧、銀の斧を両手で抱えるように持ち木こりに質問をする。
「あなたが落としたのは、金の斧、銀の斧どちらですか」
男は正直者で、女性に驚きつつどちらでもなく鉄の斧だと答えた。
「あなたは正直者です。この金の斧、銀の斧を差し上げましょう」
そう言って二つの斧を男に渡すとまた湖の底へと戻って行った。
今回、俺が体験したのもそれに近い話だった。
「それでは、兄とともにマーファ城へと行って参ります」
「うむ、くれぐれも体には気をつけてな」
ロキとエルトシャンは、名目上は隣国のヴェルダン王国への友好を目的としマーファ城へと出発した。しかし、その真相とはヴェルダン王国の内情視察とあるもうひとつの目的があった。
元々エルトシャンが王に任されようとされていたものをロキが無理を言い共に連れて行ってもらうようにしたのだ。
バトゥ国王。蛮族と罵られるヴェルダンの発展のために、長きにわたりグランベルとの友好関係を保ってきた男だ。ヴェルダン王国は大陸の南西に位置する森と湖に囲まれる、地方の豪族が築いた王国だ。聖戦士の血を汲まないため、独立国家でありながら、グランベルやアグストリアの各候を含めた諸外国から見下されている。騎士団はなく、軍は山賊や蛮族を中心に構成されている。国王のバトゥは賢王と名高い。
問題はその息子達だ。長男は早くに夭折し、次男ガンドルフと三男キンボイスは、暴力的でグランベルや諸外国を敵視しており悪名が高い。だが、ジャムカという青年は少し気色が違うらしい。というのも彼は、外面上バトゥ王の息子となっているが、実際は夭折した長男の実子であるらしく、彼はバトゥ王の賢さと父親の優しさを兼ね備えているという評判だ。
ロキとしては、そのジャムカとの友好を図るのも一つの手だと考えている。というのも、来るべき戦いに備えて、一人でも実力と権力を持つ仲間を増やしておきたいからであった。
10歳になるまでにロキは、国内での評判を上げることに尽力した。元々兄エルトシャン、姉のラケシスとともに評判はよかったのだが、それでは足りないと更に己だけでなく兄や姉の評価をあげる。そのようにして他国でのノディオン王国の評価を上げたのだ。
もちろんそれも未来への布石だ。
「ようこそ来なされた。隣国のノディオン王子様方。長旅でお疲れになったことだろう。今日はゆっくりと体を癒されるといい。明日から存分にもてなしたいと考えておるでの」
「誠に有難きことです。今日はお言葉に甘えましてそうさせていただきたいと思います」
「うむ。では、誰か! 彼らを部屋にお連れしなさい!」
そそくさとメイドが現れ、ロキとエルトシャンは彼女についていった。その後バトゥ王が座る玉座の元を訪れる影が三つ。
ガンドルフ、キンボイス、ジャムカの三人だ。
「父上、なぜ高々隣国の王子如きにあのような態度なのですか!?」
「そうです。なぜ我らがこんな惨めな思いをしなければならないのですか?」
「そう言うな、ガンドルフ、キンボイスよ。彼らはあの黒騎士ヘズルの血筋ぞ。仲良くしておいても損はないであろう。それに、向こうも第一王子と第二王子をここに送り込んでいるのだ。それも、言わば信頼の証であり、警戒している証でもある。わざわざ邪険に扱うこともあるまいて」
「父上の言うことはもっともです。我々はまだ弱い、いずれ強国として名を上げるためにも今は争う時ではないと思います」
「ジャムカの言うとおりだ。まだお主達よりも一回りも若い者がこのような先見の明に長けておるのだ。お主らも、我慢しろ。いずれ時が来るであろう。儂の代ではなくてもの」
ジャムカの兄達は、憎々しげな表情でその場を立ち去った。バトゥはジャムカを近くに寄らせると、彼に任務を言い渡した。
「ジャムカ、お主はあの第二王子の方と仲良くなってまいれ。兄は儂のほうで見張っておくでの」
「はい……。分かりました」
そうして、ロキにとって長い1週間の初日は無事に終わった。
「くっ、父上め。なぜあのように他国に媚を売る。我らは国を思えばこそ、強行な態度をしているのに、なぜそれを分かってはくれないのだ」
「そうですよ、兄者。それにしてもジャムカの奴も以前よりいっそう生意気になった」
「言うな、キンボイス。あいつはあいつで国を思っているんだ。それに仮にも我らの兄者の息子でもあるのだ。俺はあいつのことを死んだ兄者の分まで守ろうと決めている。あいつは我らの良心であってくれればいいのだ」
ガンドルフという男は、悪名が高い。しかし、なぜか国民には愛されている男でもあった。それは彼が国民には善良な王子であり、城下町でなにか起こると衛兵とともに仕事を投げ出してまでも駆けつけてくる姿勢が他国にとっては愚かな男でも、王子としては優秀な証拠でもあった。数年後、彼のそんな思いが悪用されるとは誰もが想像もしなかったであろう。
「兄上、少し心配ごとがあるのですが……」
「めずらしいな、ロキがそんなことを言うとは。まぁ言ってみろ」
「はい。実はシャガール王子が兄上に嫉妬心を抱き、あわよくば殺してしまおうと考えているという噂を耳にしました」
「何を言い出すかと思えばロキ! もう一度、言ってみろ。その言葉、不敬罪ととも捉えられんぞ!」
「すいません。しかし……」
「言うな! それ以上、言うのであれば実の弟とて容赦せんぞ!」
「はい……」
なにやら他国に来てまで、兄弟喧嘩をしたらしい。そんな話がマーファ城を中心に城下町に広がった。それは、ある思惑もあってロキがエルトシャンと示し合わせて行われたものであった。
「これで、よかったのかロキ?」
「ええ、これでいいのです。この程度でバトゥ王が息子たちに言われ行動を起こすような男であったら同盟関係は、その場で破棄しこの土地は我が領土となりましょう。すでに準備は万端です」
「くっ、ホントはこんなこと私の主義に合わないのだがな。父上からもそれを認めるという言葉がなければ」
「今頃遅いでしょう。それにもしメイドや兵士達が私たちに不敬を働けばその場で同盟関係を終わらせる算段は付いています。個人的には、この程度で揺さぶられて欲しくはないですね」
「お前は、恐ろしい事を考えつくようになったな。まるで、悪魔のようだ」
「ひどい言われようですが、これも全てはアグストリアのためノディオンのためです。ご理解ください兄上。もちろんこの策がならなくても兄上の名声は広がりましょう」
「わかっているさ……、しかし、それを心が許してはくれないんだ」
エルトシャンは言い終えると、黙り込んだ。ロキは、肩をすかしながらバトゥ王からの使いを待った。それからいくらかの時間が進み二人がある程度の支度を終えた頃に昨日部屋に案内したメイドが彼らの部屋を訪れた。
「朝食のお時間です」
「わかった。ありがとう」
ロキは少しばかり緊張していた。朝食とは、名ばかりでこれから国と国をかけた会食が行われようとしていたからだ。
「おはようございます、バトゥ王」 「おはようございます」
「ああ、エルトシャン殿にロキ殿。昨日はゆっくりくつろぐことができたかの?」
「おかげさまで」
エルトシャンの言葉にロキも頷く。
「そうか、それはよかった。さてさて、今日は何をなされたいか?」
「といわれますと?」
「いや、なに、友好のためとはいえ一週間ここに滞在なされるのだ。しかし、ここは見ての通り山と湖しかない。こちらも存分にもてなそうと考えておるが、そなた達の意見も聞いておきたいと思ったまで」
「そうですね……。私は、城下町の探索に行きたいと思っています」
「そうか、そうか。では後ほどその手配をしよう。して、ロキ殿は?」
「私は、湖を見に行きたいと思います。マーファの湖は美しく、生涯に一度は見ておいたほうがよいと祖国では言われていますので」
「うむ。あの湖は確かに美しい。それにあそこには女神がいるとヴェルダンでは御伽噺にもなっている。そうだな……ジャムカ、ジャムカはいるか?」
「ええ、ここに」
そういって、会食の途中で一人の青年がはいってきた。
「ジャムカ、そなたはロキ殿につき湖に行って参れ。しっかりとお守りするのだ」
「分かりました」
それから、無駄話が始まった。どうやらここでは、腹の探り合いをバトゥ王はするつもりはないのであろう。朝食を無事に食べ終わり、もう一度部屋にロキ達は戻った。
「父上、すでに噂はお耳に触れましたか?」
「もちろんだ。他国に来て兄弟喧嘩とは……、なにかあるの」
「私もそう考えています。しかし、読めません」
「うむ、あのエルトシャンという若者は謀略のようなことは苦手そうな男だ。となると弟がと考えるが……もしや、我らを試しておるのかもしれんの」
「といいますと?」
「いやな、他国に泊まるということ即ち、自分達の行動や言葉は全て見られているというのは常識だ。それを彼らが知らぬわけがない。なのにも関わらず、わざわざ喧嘩をしたということは、我々を挑発しているのではなかろうか」
「挑発……なるほど。つまり喧嘩のことを侮辱でもされたら、それを理由にヴェルダンとの同盟をすぐにでも断ち切るといったそんなところでしょうか?」
「きっとそれが正解に近いであろうの……、だが、今アグストリアと同盟関係を終わらせるのはまずい。すぐさまこの喧嘩の件を漏らさぬようにせねばならん。特にガンドルフとキンボイスの二人には絶対そのことに触れぬよう言っておかねばな」
ロキの策は見事に破られた。これは、会食後すぐのことだ。
「しかし、面白いの」
「何がでしょうか?」
「兄弟喧嘩の内容もお主の耳に入っておるかの?」
「ええ、なんでもロキ殿が将来の主であるシャガール王子の悪口をいい、エルトシャン殿がそれを諌めたと」
「うむ、それじゃ。もし、この噂により彼らの思うように事がなった場合。原因の噂の内容がきっとアグストリア全体に行き渡る。その時叩かれるのは弟のロキ。しかし、エルトシャンの評判は上がるであろう。それに弟の罪は、ヴェルダンを滅ぼしたことにより、なかったかのようになる」
「シャガール殿への言い訳は、ヴェルダンを滅ぼすための罠といえばなんとでもなるといったとこですか?」
「そうじゃ、きっとここまで露骨に策を講じてきたのであるから、きっとノディオン国王も知っていおろう、それにイムカ王も知っておろうの。なんとも憎い話だが、なんと有能であることか。だからこそそうさせんためにも我が臣下には確実にこのことに触れさせてはならん」
「これは、私はよりいっそうロキ殿に目を向けねばならんようですね」
「ふーむ、それはそうだが、高々10歳の少年がこのような策を講じることができるであろうか? もしこれがロキの仕業であったとするのなら、アグストリアはなんというものを内に抱えておるものじゃ、羨ましくもあり恐ろしくもある」
ジャムカは頷くと、ロキに同行するための支度を整えに向かった。
後書き
次話にてロキの心情を入れたいと思います。
お気に入り登録と評価をしていただいた方々ありがとうございます。こんな小説ですが最後までお付き合いいただけると嬉しく思います。
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