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桜の木

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第三章

「ルーズベルトは三期目を狙ってるね」
「ああ、合衆国ではじめてのな」
 大統領の三選である、ワルトもコーヒーを飲みつつ応える。
「狙ってるね」
「そうだね、けれどね」
「けれど?」
「ルーズベルトは不思議だよ」
 エセックスは眉を顰めさせてワルトにこう言った。
「本当にね」
「三選を目指すことがない?」
 これはワシントン以来の慣例だ、大統領は二期までというのがアメリカの暗黙の了解だ。ワルトはそれを破ろうと言うルーズベルトのそうしたことを言ったのかと思った。
 だが違った、エセックスはこのことを言ったのである。
「ルーズベルトはイタリア系への差別は反対しているね」
「うん、イタリア系を差別する人間を嗜めているね」
 このことはルーズベルトが所属している民主党の支持者にイタリア系が多いことも関係しているがそれだけではない。
「彼はイタリア系への偏見はないんだよ」
「そうだね」
 ワルトもここでこう言った。
「イタリア系は皆オペラ歌手みたいなものだって言ってね」
「害はないとね」
「その言い方や上から目線は問題だけれど」
 それでもだった。
「イタリア系への差別には反対しているね」
「ユダヤ系への差別もね」
 彼等への差別にも反対しているのだ、ルーズベルトは。
「まあ彼の有力な支持者だからね、ユダヤ系は」
「何だかんだでユダヤ系は強いよ」
「ハリウッドでもマスコミでもね」
「知識人や銀行家にも多いしね」
「やっぱり合衆国ではユダヤ系は強い」
 例え差別されていてもだ。
「それもあってね」
「彼はユダヤ系への差別にも反対している」
「そうしているね」
「そしてブレがあるにしても」
 エセックスはさらに言った。
「黒人問題にもね」
「あれはエレノアの存在が大きいね」
 ルーズベルトの夫人であるエレノア=ルーズベルトのことだ。彼女は黒人の権利拡大に積極的に動いているのだ。
「だからね」
「それでだね」
「そう、権利拡大への妨害的な行動もあるが」
 それでもだというのだ。
「おおむね好意的だね」
「そして黒人の民主党支持者もかなり増やしている」
「ヒスパニックにもね」
 つまり人種的には寛容な大統領というのだ、おおむね。
 だが、だった。おおむねと言う言葉は完全という意味ではない。それでエセックスはワルトにこう言ったのだった。
「しかし日本にはどうか」
「そして日系人だね」
「そう、日本には異様な敵愾心があるね」
「あれがわからないんだ」
 ワルトもルーズベルトの日本への敵意は知っている、だが彼はここでこのことを話に出してエセックスに問うた。
「ルーズベルトは中国贔屓だね」
「むしろイギリスよりもずっとね」
 同じ英語圏のこの国よりもだというのだ、
「好きみたいだね」
「中国はアジア系の国だ」
 言うまでもなく、である。
「そして日本も同じアジア系じゃないか」
「そうだね、そこがわからないね」
「彼はドイツ系も好きじゃないみたいだけれど」
 イタリア系を擁護すると共にドイツ系は違う、と言っているのだ。
 だが、だ。とりわけ日系人と日本人に対してなのだ。 
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