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妻の正体

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第十章

「それが」
「ええと、メッカの方向は」
 妻は周囲を見回してから言った、そのうえで。 
 そのコーランの方に身体を向けて座ってだった、アッラーへの言葉を言いながら礼拝をした。そしてだった。
 社長は彼女に塩や松脂の残りを握らせてみた、しかしそれでもだった。
 彼女は何ともなかった、きょとんとしているだけだった。
 最後に二人でコーランを持たせて読ませてみた、やはり何ともなかった。
 誰がどう見ても人間だった、しかもである。
 敬虔なムスリムだ、そこまで確かめてだった。
 社長はマヤルームにだ、こう言った。
「奥さんは人間に戻ったみたいだな」
「死んだんじゃなかったんですか」
「間違いない、だが」
「だが?」
「少し調べてみるか」
 そのだ、ペナンガランについてだ。
「その時は二人で来てくれ」
「わかりました」
「そもそもどうして社長さんがおられるんですか?」
 何もわかっていないシャラーナはその整った顔をきょとんとさせているだけだった。
「それにあなたも様子がおかしいけれど。その壺は?」
「壺のことも知らなかったのか」
 とりあえず妻は人間に戻ったらしい、生き返りもして。思わぬ展開だったがいい展開ではあった。しかし新たな謎が出てだった。
 社長はペナンガランについてあらためて調べた、そのうえで再びマヤルームの家に行き彼とその妻に話したのだった。
「調べてわかったことだが」
「はい、女房のことですね」
「私のことで」
「そう、どうやらペナンガランは生まれついてなっている場合と」
 それに加えてだというのだ。
「血を吸われてなる場合がある様だ」
「それって他の吸血鬼と同じですね」
 マヤリームは社長の言葉を聞いてすぐにハリウッド映画の吸血鬼を思い出した、アメリカ映画はマレーシアにも入ってきているのだ。
「それでなんですか」
「そうだ、ただ生まれついてのペナンガランはだ」
「あれで死ぬんですね」
 塩と松脂、二人が酒の中に仕込んだそれでだ。
「ああして」
「そう、しかし」
「伝染った場合はですか」
「ああして吸血鬼になる毒か呪いかはわからないが」
 どちらにしてもだというのだ。
「吸血鬼でなくなるんだ」
「それでなんですか」
「そう、ただ奥さんは自覚がなかったね」
「はい」
 シャラーナもここで社長に答えた、自分のことであるが故に。 
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