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兄弟星

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第一章

                  兄弟星
 アイヌに古くから伝わる話だ、ある村に兄弟がいた。
 兄の名前はトカチという、弟の名前はコンセンという。
 トカチはとてもおっとりした性格で何かと適当だ、だが頭の閃きはいい。
 弟のコンセンは生真面目な働き者だ、しかし融通が利かない。二人の性格も行動もまさに正反対である。
 しかしだ、二人共心根はよく仲良く暮らしている。しかも母親思いで年老いた母親をとても大事にしていた。
 兄のトカチはよくだ、コンセンに言っていた。
「なあ、わし等がいるからな」
「おっかあが楽しく暮らせるか」
「そう思うがどうだ?」
「わしもそう思う。ただな」
「ただ。何だ?」
「おっかあを今以上に幸せにしたくないか?」
 コンセンはこうトカチに言うのだった。
「わし等でな」
「今以上にか」
「ああ、わし等は貧しい」
 二人で漁をして暮らしている、しかし二人の生活は貧しく母親にしてもその中で生きているのだ。食べるものには何とか困っていないが。
「だからおっかあもな」
「まだか」
「ああ、何かと不自由しているだろう」
「だからか」
「何とか。今以上にな」
 どうなるかというのだ、母親が楽しく過ごす為に。
「魚が一杯採れてな」
「それも色々な種類の魚をだな」
「そうしてやっていきたいんだがな」
「漁をなあ」
「そうだ、そうしたいんだがな」
 こうトカチに話す。
「どうだろうか」
「いや、それでもな」
「それでも?」
「御前はいつも熱心に働くがな」
 しかし自分はどうかと言うトカチだった。
「わしはな」
「働きたくはないか」
「いつも熱心に釣り糸を垂らしているな」
 そうして漁をしているというのだ。
「だがわしはな」
「釣りは待つ時間が長いだろう」
「いやいや、もっと楽をしてな」
「楽?」
「魚を沢山手に入れたいんだがな」
「楽をして魚が手に入るものか」
 コンセンは兄の言葉に眉を顰めさせて反論した。
「そんなことはな」
「いや、少しでもな」
「楽をしてか」
「魚を沢山手に入れたいが」
「ではどうするんだ」
 眉を顰めさせたままだった、コンセンはトカチに問うた。
「一体」
「そうだな、魚をまとめて手に入れることか」
「まとめて?」
「釣りは一匹しか捕まえられないだろ」
 トカチはこうコンセンに言うのだった。
「だからな」
「まさか一度にか」
「ああ、捕まえられたら楽だろ」
 こう弟に言うのである。
「そうしないか」
「確かに一度に何匹も捕まえられたらいいな」
 このことはコンセンも同意見だった。
「正直言ってな」
「ああ、そうだよな」
「けれどどうして一度に何匹も捕まえるんだ」
 コンセンはこのことがわからず首を傾げさせて言うのだった。 
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