外から来た邪
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第一章
外から来た邪
マニラの何でも屋フェリペ=ロペルドのところに変わった依頼が来た、フェリペはその話を持って来た役人に目を瞬かせて問い返した。
「何ですかそれ」
「何ですかって言った通りだよ」
役人はあっさりとフェリペに返した、質素な事務所というかフェリペが自分の家に設けている客室の中においての言葉だ。
「だからね」
「連続殺人事件の捜査ですか」
「そうだよ、頼めるかな」
「警察か探偵の仕事ですよね」
フェリペはその口髭の顔を傾げさせて役人に問い返した。細い毛の黒髪を後ろにオールバック気味にあげており褐色の肌の顔は痩せ気味で目鼻立ちは明るくはっきりとしている、眉は黒く濃いものである。背は一七五程ですらりとしている。足が長い。
その彼がだ、こうスーツ姿の役人に言うのだ。
「それって」
「普通ならな」
こう返した役人だった。
「そっちの仕事になるんだけれど」
「それがですか」
「普通じゃないんだよ、これが」
「身体中の血を抜き取られてとかですか?」
フェリペはジョークで言った、この言葉を。
「吸血鬼とか」
「近いね」
そしてだ、役人はこう彼に返した。
「それは」
「近いっていいますと」
「どの死体にも影がないんだよ」
「影がですか」
「しかも外傷もない、心臓が止まって死んでるんだよ」
「如何にも怪しい感じですね」
「そうだろう、警察や探偵は表の仕事だ」
「こっちもそうですよ」
何でも屋もそうだと返すフェリペだった、所謂雑用が仕事で何処かの家や店の掃除だの運転手だのとにかく何でもする、フェリペと助手のエンリコ=コインブラが出来る仕事ならだ。
だが、だ。そう言うフェリペにまた言い返した役人だった。
「ちゃんと知ってるよ、君は裏の仕事もしているね」
「裏っていいましても」
「犯罪はしないね」
「そんなことはしていませんよ」
それは決してだというのだ。
「人殺しだの窃盗の依頼は」
「暴行もだね」
「そんな人の道に外れたことはしていませんよ」
こう言うのだった。
「うちの助手は神父さんの甥っ子ですし」
「教会の前で風船を売ったりもしているそうだね」
「ええ、暇な時は」
実際にその仕事もしている、フィリピンでは日曜のミサの日に教会の前で風船を売る者が立っていることが多い、フェリペもそれをしているのだ。
「そうしています」
「そうだね、君は真面目だね」
「所帯も持っていますし」
愛妻と娘二人だ。
「真面目ですよ、これでも」
「しかしだ。表沙汰に出来ない仕事でもだ」
「依頼を受けているっていうんですね」
「そうしたこともしているね」
「まあ世の中綺麗ごとばかりじゃないですから」
何でも屋として答えた彼だった。
「ヤクを運んだりとかもしていないですけれど」
「そうだね、裏もしているから」
「だからだっていうんですね」
「依頼したいんだよ、その影をなくした死体のことをね」
「謎の連続殺人の調査ですね」
「報酬は弾むよ」
役人はこう言ってそしてだった、早速。
札束を一つ出してきた、そのうえでこうフェリペに告げた。
「これは前報酬だよ、受けてくれるのなら無条件で」
「そして後はですね」
「うん、仕事を果たしてくれたらね」
札束をもう一つ出してそれを見せての言葉だった。
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