ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
第二十六話
「来るぞ!!」
コクトの警告に反応し、セモン達は各々の武器を構えた。ノイゾと名乗った少女の力なのか、《六王神》との戦いで傷ついた武器たちは輝きを取り戻している。体力も回復していることは確認済みだ。状態は万全だといえよう。
そんなセモン達に向かって、ウォルギルは傍らを浮遊する二本の長剣を握ると、地面を蹴って恐ろしいスピードで突進攻撃を放った。瞬きすら出来ないほどの異様な短時間で、ウォルギルはセモン達のすぐ眼の前に出現していた。ウォルギルの剣が振り下ろされる瞬間、コクトが前に出て長剣をはじく。
「ククク……テメェじゃ分が悪いって、分かってるんだろう?兎の」
「それでも、引くわけにはいかないんだ!」
コクトの持つ《冥刀・凍》が、使い手の戦意に反応して、刀身に冷気を纏い始める。ジャリン!!という快音を響かせて、剣同士がはじきあう。コクトとウォルギルの剣が、ものすごい勢いでぶつかる。その度に火花が散っていく。
「すげぇ……」
カズが驚嘆の声を漏らす。セモンも呆気にとられていた。かつてのSAOでも、これだけのハイセンスな戦いを見ることはあまりなかった。ALO世界でもだ。そもそも、ベンチャー企業《ユーミル》に引き取られた後のALOでは、無為な戦闘があまり行われないため、PvP大会以外でPvPを見ることは少ないのだ。それにしたって、あくまでも試合。実践には程遠い。
だが、これは違う。お互いの命を賭して、剣と剣をぶつけ合う、本物の決闘。舞い散る火花は命の結晶。流れる汗は精神の雫。
「おらおらおらっ!!どうしたどうした!!」
ウォルギルの二刀から繰り出される力任せの斬撃は、彼と対極的な高スピードの斬撃を得意とするコクトには分が悪かった。ウォルギルの長剣攻撃に、コクトが押されていく。
だが、コクトも唯押されているばかりではない。時折彼の斬撃もウォルギルをかすめ、体力を微々たる量ではあるが減らしていく。ウォルギルの顔が、時折忌々しそうに歪むのがその何よりもの証拠だ。
コクトの《凍》には、斬られた相手に冷気ダメージを送り込むエクストラ効果がある。コクトと打ち合えば打ち合うほど相手の手はかじかみ、足からは感覚が抜けていくのだ。
「さて、そっちでウォルギルが戦り合っている間に、僕はこっちをやっつけようかな」
戦慄しながら戦いを見守るセモン達に、冷や水の様にその声が届いた。
ウォルギルとコクトの戦闘で存在を忘れていたが、そのセリフで、ウォルギルの仲間がいたことを思い出す。
セリフを発したウォルギルのパートナーは、茶髪で青いローブの少年。ウォルギルは彼をシスカープ、と呼んでいた。不思議な響きの名前だ、と思った。そもそも《ジ・アリス・レプリカ》のプレイヤーやNPCである六門神の名前には、不思議な響きの名前が多いのだが。
「”天恵祭”ウォルギルの代理パートナーを務めている、君達から見れば《NPC》に当たる六門神、”万里”シスカープだ。よろしく」
代理、という言葉に、改めてウォルギルが、元は自分たちの仲間になるはずだったという事を考えさせられる。もし彼がセモン達と行動を共にしていたら、今までの冒険はどのようなものになっただろうか。
だが、今はそんな事考えていても無駄だと思う。ウォルギルはセモン達の仲間にはならないルートを選んだ。かつてコクト達と六門世界を旅した英雄の一人、ウォルギルは、今、《白亜宮》の先兵としてかつての仲間と剣を打ち合わせているのだから。
そしてコクトが戦っているのなら、きっと大丈夫だろう。今、セモン達は、目の前の少年との戦いに集中しなくてはならない。彼の実力は未知数。第五階位で、最低でもレベル70を超えるというウォルギルと組んでいるのだ。彼の言葉が正しければNPC扱いの六門神とはいえ、並みの六門神とは違うだろう。事実、《六王神》は全員がNPCなのにもかかわらずあの強さだったのだ。この世界では、むしろNPCの方が強かったりもする。
「ああ、安心して。僕の階梯は四。レベルは52だよ。君たちは30代半ばの第二階位だろうから、レベル的にはそんなに変わらない」
柔らかな物腰ではあったが、セモンはシスカープの周囲に漂う、《殺気》とでもいうべきモノの濃さを感じ取った。確信する。こいつは、強い。余裕のある態度で、殺気を周辺に放てるほど戦い慣れているという事だ。戦闘慣れの度合いで行けば、SAO時代の陰斗――――シャノンと通づるところがあるのではないだろうか。
シスカープは続ける。
「君達がこの先に進むことを望んでいるのは知っている。だけど、簡単に通してしまうわけにも行かないんだ。だから、僕を倒していくと良い。……さぁ、来い」
武器も持たずに、ただ自然体に構えるだけのシスカープ。《殺気》だけは強くうごめいているのに、彼が行動する様子はない。
「……一応攻めてみましょう。カズとセモンさんは攻撃を。僕とリーリュウは後方支援をします」
「了解っ!」
ハクガのその言葉を待っていた、と言わんばかりに、カズが《ギア》である《ノートゥング》を構える。刀身に宿る赤いエフェクトライト。かつて《浮遊城アインクラッド》で、《アバランシュ》と呼ばれた両手剣用重剣技。大上段からの斬りおろしと突進の複合による重攻撃で相手を吹き飛ばし、こちらの体制を立て直す時間を稼げるその剣技は、SAO時代の大剣、すなわちは両手剣の剣技の中では最高峰の使い勝手の良さを誇った。丁度、片手剣に《ヴォーパル・ストライク》という高位剣技があったように。
その《アバランシュ》を発動させる《ノートゥング》の、カッターナイフの形状にも似た刀身に、色とりどりのエフェクトが絡む。リーリュウの援護魔術だ。同時に、ハクガの援護魔術も混ざっている。
セモンの《冥刀・雪牙律双》にも、援護魔術がかかっているようだ。セモンもまた、かつて浮遊城で《アラブル・スラッシュ》と呼ばれた、《神話剣》の基本剣技を発動させる。
体がシステムの見えざる手によって加速する。正確には、セモンの体に染みついたソードスキルのイメージが、セモンを半ば勝手に動かす。この世界特有の、イメージが力になる現象と、根本的なロジックはたぶん同じだ。
《アラブル・スラッシュ》は、《アラブル・ブレイク》や《バーニン・ストライク》と並ぶ、《神話剣》の基本単発攻撃だ。さほど小細工の効く技ではない代わりに、プレイヤースキルによって威力がいくらにでも変わる。特に、ソードスキルのシステムアシストすら、意志の力ですることが可能なこの世界では、さらにその威力は無限大である、と言っていいだろう。
刀を握り、振り払う右腕に全体重をのせて、斬りつけるイメージ。それだけで、《雪牙律双》の刀身は二倍近くまで加速する。
「りゃぁっ!!」
カズが裂ぱくの気合いと共に、大上段からの斬りおろしを放つ。真紅のエフェクトを纏った《ノートゥング》の刀身が、無防備なシスカープに食い込む――――直前、《ナニカ》が、その斬撃を阻んだ。
それは、淡い緑色に発光する、半透明の障壁だった。高さ0.8メートルほどの六角形が無数につながった、蜂の巣状の盾。それが、《ノートゥング》の刀身と、遅れて激突した《雪牙律双》の攻撃を受け止めていた。
「残念。実は効かないんだ」
不敵に微笑むシスカープ。いくら刀身を押し込んでも、障壁はびくとも動かない。いつしか、効果時間の切れたソードスキルのエフェクトライトが消え去っていた。
「マジかよ……」
同感だった。カズの《ギア》である《ノートゥング》には、《水斬り》という特殊な能力がある。これは《次元断》と呼ばれるカテゴリの能力の一種で、本来ならば、切っても切っても次が流れてくるために斬ることのできない《水》を切って、その流れを止められる、というものだ。言い換えれば、ほぼどんなものでも斬ることができる、という事になる。それは、盾や障壁も例外ではない。
それに、セモンの《雪牙律双》は、この世界最強の武器アイテムシリーズ、《冥刀》の一振りだ。並みの武器や、高位の《ギア》にも引けを取らない能力を持っていることに代わりはない。
だが、その両方が、こうも簡単に防御されている。その現状は、セモンに多少の衝撃を与えた。
「……僕のアビリティだよ。《マルチウォール》。僕の階梯以下の六門神から受ける攻撃は、それが物理攻撃だろうと特殊攻撃だろうと、全て防御できる。参照するのは攻撃した六門神の階梯だから、武器がどれだけ強力だろうとなんだろうと、無視して防御が可能だ。たとえ無敵の《ギア》でも、最強の《冥刀》でも、ね。そして―――――こうやって、弾き返すこともできる」
瞬間、セモンの体に衝撃。見れば、先ほどセモンの《雪牙律双》が辿ったのと全く同じ奇跡を通って、衝撃波の刃がセモンを吹き飛ばしていた。隣ではカズも、《アバランシュ》と同じ軌道の衝撃波で弾き飛ばされている。
「ぐぁっ!?」
地面に何度もバウンドして、やっとセモンの動きが止まる。遅まきながらに、セモンはシスカープの語ったことを理解する。
《完全防御》の特殊能力。それも、使い手のランクに依存する防御。いくら武器が強力でも、セモン達の階位が低い限り、決して彼には勝てない。
「ああ、気付いたかい?ごめんね。最初に嘘を言ったみたいだ。――――君たちは全員が第二階位以下だ。唯一の第五階位である”黒吹雪の剣士”はウォルギルと交戦中で救援に駆けつけることはできない。君たちの攻撃は僕に通らない。君たちは勝てない。だから、君たちはここから先に進めない」
あくまでも穏やかに響いたシスカープの声は、まるでセモン達に対する、死神の死刑宣告の様であった。
後書き
お久しぶりです、Askaです。半月近くお待たせしておりました『神話剣』、またまたチートな敵キャラのオンパレード……さぁ、そろそろ雲行きが怪しくなってきましたよ。果たしてかき上げることができるのか……。
刹「書き上げてくださいよ……」
まぁ、頑張るけどね。それでは
刹「次回もお楽しみに」
連載九十回目になるとセリフとられるのにもそろっと慣れてきたぞ(泣)!!
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