SAO-銀ノ月-
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第四話
前書き
《黒の剣士》編、始まります!
−そういや、こんなこともあったなぁ…
今は懐かしき<はじまりの街>での話だ。
なんとはなしに、思いだしていた。
なんでかね?
俺−プレイヤーネーム《ショウキ》−が今いるところは、第50階層の街、<アルゲート>だ。
人も街もとにかくゴチャゴチャしていてあまり俺は好きではない。
「このゴチャゴチャ感が良いんじゃないか。」
とのたまうフレンドもいるにはいるが、それにはとても同意出来そうにない。
人混みは苦手だ。
「い、よっと…」
ベッドから起きると、いつもの服に身だしなみを整える。
黒い和服の上に、黒いコート。
動きやすい和服に(本来は動きにくいようだ。俺は動きやすいのだが。)俺が付けることが出来ないスキル《隠蔽》のスキルが発動し、なおかつ暖かい黒コート。
なかなかに合理的な服なのだが、フレンド内では不評だ。
いつもの格好になると、俺は二階のドアを開けた。
ここで、突然だが愚痴を聞いて欲しい。
このデスゲームにおいても、当然ながら衣食住は必要となる。
だが、俺は衣食住の内、《衣》と《食》にはまあまあ満足しているものの、《住》はどうにもならない状態だ。
何故かというと、普通のプレイヤーはとりあえず気に入った街に部屋を借り、そこを<ホーム>として活動−クエストや攻略−をしている。
しかし、俺にはそれが無い。
<ホーム>が。
金が無いわけじゃない。
ポーションや結晶を買うぐらいにはあるのだが、家を買うほどのお金がないのだ。
「だったら家を借りれば良いのでは?」
という声が聞こえてきそうだ。
てか実際に言われた。
そこに問題が発生する。
俺は仕事をやっている。
《傭兵》の仕事だ。
リソースの奪い合いが原則であるMMORPGにおいて、対価を要求するとはいえ他のプレイヤーを強化している俺の仕事ははっきり言って、異常だ。
というか、異常らしい。
そこは俺がMMORPG…ないし、ネットゲーム初心者であるからだろう。
頼まれたら基本的になんでもやる…犯罪を除く…という仕事なのだが、その仕事上、収入が不定期。
ポーションや結晶を買う為にも使うし、たまに騙されて殺されかけられることもある(MPKと言うらしい)
後、もう一つ理由はあるが…まあ、良いだろう。
いつかおいおいにな。
階段を降りて、一階の店となっている部分に到着する。
「おはよう、エギル。今日もあこぎな商売してるか?」
「おお、起きたか。安く仕入れて安く提供するのがウチのモットーなんでね。」
商人であると同時に斧戦士でもあるプレイヤー《エギル》と挨拶を交わす。
エギルの店はまだ開店前であり、人は俺たち以外にいなかった。
「泊めてくれてありがとさん。また金に困ったら来させてもらうぜ。」
「おっと、少し待て。」
エギルは俺を呼び止めると、自分のメニュー画面を操作し始めた。
数秒後、俺のメニューが開き、トレードウィンドウが自動で表示される。
『1000コル』と表示されている。
「なんだこりゃ?」
「昨日、お前に依頼して狩ってきてもらった素材がなかなか売れてな。ささやかなお礼って奴だ。」
「…へぇ。ま、もらえるもんは貰っとくさ。」
エギルは俺の傭兵業務のお得意様だ。
こいつの依頼を優先させる代わりに、こいつの店に泊めてもらう。
まさしくギブ&テイク。
「んじゃ、今日も死なないぐらいに…」
頑張っていきますか。と言おうとしていた所に、一人の男が店のドアを開けて乱入してきた。
「おい、アンタ!まだウチは準備中だ!」
エギルが声を張り上げて抗議すると、その男は顔を上げた。
「すいません!ですが、ここに《銀ノ月》はいませんか!?」
《銀ノ月》と言うのは俺の日本刀の名前だ。
何故だか、俺の通り名になっている。
ま、あんまり有名ではないがね。
それより、乱入して来た、銀の鎧を付けた男に、俺は見覚えがあった。
「ここにいるぞ、《ホランド》」
中層のギルド《シルバーフラグス》のリーダーだ。
何度か依頼を受けてはいるが、基本的に中層のギルドは十分以上に安全マージンを取ったプレイ。
最前線の攻略組ならともかく、あまり危険はない。
「…ショウキ…ショウキ…」
俺の顔を見た途端、ホランドは泣き崩れていた。
…他のギルドメンバーが見当たらず、リーダーはこの状態。
これは…
「…何があったんだ?」
「…《シルバーフラグス》が…壊滅した…」
やはりか…
外れて欲しい予想が当たってしまった。
ホランドの話では、
突然、『ギルドに入りたい。体験入団させてもらえないか』
と、話してきた女性のグリーンプレイヤーが現れた。
気のいい彼ら−ギルドメンバーは仮入団を承諾。
しばらく一緒にクエストなどをこなしていた。
それから数日。
ダンジョンの攻略を終え、疲弊している時に狙いすましたかのように、オレンジプレイヤーたち−犯罪者たち−が襲来。
転移結晶で逃げようとしたところ、その女性プレイヤーがこちらに攻撃を仕掛けてきた。
彼女はオレンジプレイヤーたちの仲間で、最初からギルドを壊滅させる為に仮入団したのだと言う。
驚いている間にも、オレンジプレイヤーは自分たちに迫り、ホランドはなんとか脱出に成功したものの、…他のギルドメンバーは、脱出するホランドの前で殺されたらしい…
「…ちくしょう…!あの女が…ちくしょう…」
ホランドは話している間も、泣き続けていた。
「それで、ホランド。俺に…いや。《銀ノ月》に何の用だ。」
「…そのオレンジギルドを、監獄送りにして欲しい…!」
監獄送り、か。
殺人だったら断るところだったな。
「金なら、この装備を売って必ず準備する!監獄送りにする為の回廊結晶も、全額はたいて買った!…だから!」
言葉を切り、ホランドは深々と頭を下げた。
「…頼む!」
正直に言うと、収入と支出の計算が合わない。
オレンジギルドを壊滅させる程の労力を使って、得るのは薄汚れた防具を売っ払って得た二束三文だ。
無理無理。
「装備は売るなよ。この世界で生き残るのには必要だからな。」
「…え?」
俺以外には、こんな依頼受ける奴いないって。
「金なんぞ要らん。その依頼、この《銀ノ月》ショウキが引き受けた。」
ナイスな展開じゃないか…!
後書き
シリカはまだ出ません…ファンの方、期待していた方、すいません…
見切り発車したこの作品を、お気に入り登録してくれた方々、ありがとうございます!
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