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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第六十一話

 三連休初日、俺と林姉は予定通りこの地震の原因を探すために出かけることになり、朝食が終わってから家の前に出ていた。

「うんしょ・・・っと。うん、ちゃんと動く!」
「動かない可能性があったのかよ・・・」
「そうじゃないよ~。ちゃんと毎日、この子で大学に行ってるから~」

 まあ、知ってるからこそこれで行くのを許可したんだけど。
 さすがに、乗りなれてもいないバイクに二人乗りする勇気はない。
 俺はそんな事を考えながら差し出されたヘルメットを被り、ハーネスを止めるのに少し苦労してから林姉の後ろに乗る。

「じゃあ、しっかり掴まっててね~」

 言いながらバイクを加速させたので、俺は慌てて林姉にしがみつく。

「ひゃんっ・・・ちょっとムー君!くすぐったい!!」
「だったらどの辺りに掴まればいいのかを・・・って前!」

 交差点が見えてきたので慌ててそう言うと、林姉は一度止まって車が来るのを確認しながら俺に言ってきた。

「えっと・・・出来れば、そんな優しくじゃなくてしっかりと掴まってくれた方がいい、かな?」
「あー・・・ん、了解」

 少し恥ずかしかったが、事故になるのは勘弁なのでしっかりと掴まる。
 全力で掴まったら大変なことになるから調整が少し大変ではあったが・・・林姉の反応からしてここだろう、という加減を見つける。

「で、とりあえずどこに行くの?」
「それだよな・・・とりあえず、大地に関わる神様の地、この辺りにあるのを片っ端から回ってみよう」

 今回は、今までで一番といっていいくらい相手の神様について分かっていない。
 場所の特定も、地震が起こっているのは日本の本土全域で起こってるから、全く持って出来ないのだ。
 そうである以上、こんな方針しか立てられない。

「うん、分かった。じゃあ飛ばしていくよ~!」

 そして、林姉はバイクを一気に加速させて、最初の目的地に向かった。



◇◆◇◆◇



「全然見つからないね~」
「だな・・・はぁ、どこにいるんだよ」

 午前中、思いつく限りの場所を片っ端から回ってみたのだが、見つからなかった。
 バイクで回れるところに限りがあるとはいえ、さすがにこれはやる気をなくすな・・・

 顕現しかけ、という可能性もあったから色々と刺激をしてみたんだけど、出てくる様子はなし。

 いったん休憩、ということでテキトーに見つけたファミレスに入って昼食を取っているところだ。

「で、どうするの?バイクで回れそうなところはもう全部回った感じだけど・・・」
「だよな・・・仕方ない。何か手がかりが得られないか、もう少し考えてみよう」

 このまま闇雲に回って見つかるとは思えない。
 どうせ見つけられる可能性は低いんだから、一回ヤマを張ってみるのも手だろう。
 話の内容を聞かれたら面倒だから、遮音の結界を張る。

「・・・私達だけで?」
「仕方ないだろ」

 神代家の中でも神についての知識に欠けるほうにいる二人だ。
 原因としては、俺は地に富む偉大なる者(ルアド・ロエサ)を使って楽をする癖がついたから。
 林姉は、色々と知ってはいるんだけどそれらの点がつながっていかない。

 かなり淡い期待だろう。

「う~ん・・・確か、蛇の神様なんだよね?」
「二人の霊視から考えて、間違いないだろうな。蛇か龍か、その類。だからこそ、大地母神の線を疑ってかかったんだし」
「じゃあ・・・それ以外に、蛇の神様が持ってるのって、何かない?」

 その他に、か・・・
 出来る限り多くの蛇が持ってるものだから・・・・

「・・・生命力、後母ってのもあるかな。様々な魔物を生み出すのは、いつだって蛇の役目だし」

 アジ・ダカーハとかの性別は覚えてないけど・・・まあ、魔物を生み出すのには変わりない。

「じゃあ、一回海に行って見ない?」
「海?」
「うん。母なる海って言うし、海蛇だっているじゃない?」

 安直過ぎるな・・・でも、ほかにアイデアがあるわけじゃない。
 とりあえずそれで方針が決まったので、俺は結界をといて持ってきてもらったものに箸を伸ばす。

「じゃあ、とりあえずそれで行こう。一回海に行って、それでもダメだったら馨にでも頼んで車を出してもらおう。他の移動手段でもいいけど」
「は~い。ん~!!おいしい!」

 そして、林姉は呑気に食べ始めた。
 はぁ、全く・・・結構大変な問題だらけなのに、林姉は変わらないな

「あれ?やっぱり依林だ」

 そして、そんな事を考えながら食事を進めていたら後ろから林姉に対して声がかけられた。

「ん?ふぉんなとほろで何しへるの?」
「口に物入れて喋らない・・・って、口いっぱいに詰め込んでるし・・・」

 林姉に話しかけてきたのは、ぱっと見で大学生くらいだろうと分かる四人組み。
 林姉の知り合いかな?

「んぐんぐ・・・ん~!!!」

 あ、慌てて飲み込もうとするからのどに詰まらせたな。
 で、それを見ても驚かないところを見ると・・・うん、親しい仲で間違いないな。
 そして、自分の飲み物に手を伸ばして・・・その中身を既に全部飲んでいたので、さらに慌てる。
 そんな林姉の姿を五人でひとしきり楽しんでから、俺は自分の飲み物を差し出す。

「ごくごく・・・ぷはぁ!ちょっとムー君!絶対に楽しんでたでしょ!!」
「あ、ゴメン。面白かったからつい」
「面白かったから、じゃないでしょ!!もう少し早く飲み物を差し出してくれていいと思う!」
「あ、ゴメン。面白かったからつい」
「何よそれー!!!!」

 そして、そんな林姉を見て笑っている四人を見て、林姉はそちらにも突っ込みを入れる。
 軽く涙目になってるけど・・・まあ、林姉だし気にしなくていいか。

「ゴメンゴメン。依林が依林だったから笑えた」
「どういう意味!?」
「まあまあ、依林落ち着いて。彼氏君も困・・・ってないね」

 ?彼氏?

「あ~、やっぱりそうだよね?」
「いや~・・・まさかこの依林に男がいたとは・・・」

 ・・・ああ、俺のことか。
 俺のほうを見てるし。

「ちょ、ちょっと何言ってるの!?」
「ん?いや、ガッコで何回も告白されてるくせにそっちに疎い依林に、まさか彼氏がいたとは、って言ってる」

 分かりやすい説明だな。林姉が合いも変わらずだ、ということがよく分かる。
 そして、林姉は話の内容を理解したのか顔を真っ赤にして伏せながら、それでも反論をする。

「う、疎くないもん!」

 もん!って・・・

「いやいや、依林のことだしキスはまだでしょ?」
「そんなことは、」
「それ、言って恥ずかしくないの?」

 俺は、つい口を挟んだ。
 ってか、そのキスの相手って間違いなく俺だし。

 そして、林姉は今度こそ何も喋らなくなった。
 えー・・・俺が説明するの?

「はぁ・・・勘違いしてるみたいですけど、俺は彼氏じゃないですよ」
「え、そうなの?じゃあどういう関係?」
「姉弟です」

 その瞬間に、四人は信じられない、という表情になった。
 まあ、林姉は純粋な中国人で俺は純粋な日本人。
 見た目からは、明らかに姉弟じゃないからな。

 でも、ウチのことを知らないってことは、この人たちは間違いなく城楠学院の出身じゃないし・・・

「林姉・・・依林姉さんからウチの家族構成について聞いてませんか?」
「え?・・・うん、聞いてないけど」
「なら、姉に代わって簡単に説明させていただきますが・・・色々と訳ありで、誰一人として血がつながっていないんです。なので、俺と依林姉さんとの関係も性格には義姉弟、ということになりますね」
「あ、そうなんだ・・・」
「気にしなくていいですよ。今の家族の方が居心地がいいですから」

 予想できてはいたけど、反応が申し訳なさそうなんだよな・・・
 大体誰に話しても、こんな反応が返ってくる。もう見慣れたものだ。
 とはいえ、このままにしておくわけにもいかないし・・・

「家族構成は、こんな感じです。これに、父と母が加わりますね」

 携帯を操作して家族写真(狐鳥は写っているが、夏休み以来一度もあの両親は帰ってきていないので、二人は写っていないのだ)を表示して差し出す。

「あ、大家族・・・それも、かわいい子ばっかり!」
「ほんとだ~。あ、この小さい子もかわいくない?」
「って、男一人だけ!?居心地ホントにいいの!?」
「馴れです。もう気にもなりませんよ」

 そう言いながら、俺は両親の写真を表示し、また四人は面白い反応をしてくれる。
 よし、この感じならまだ大丈夫だ。林姉も落ち着いてきたことだし、そろそろ再開するとしよう。

「あ、そうだ。弟君は何て名前なの?」
「あれ、まだ名乗ってもいませんでしたか?」

 これはミスったな。
 自己紹介くらいはしておくべきだった。

「では改めて、俺は神代武双。武道の武に双子の双で武双です。姉がいつもお世話になってます」
「へぇ、面白い字だね。また会うことがあったら、声くらいはかけてくれ」
「はい。では、また」

 そして、俺は席を立って会計を済まし、店を出た。
 
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