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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
  第二十四話

「うわぁぁぁっ!?」

 破壊的な光がセモンを襲う。光の《六王神》、その《ギア》たる大天使が繰り出した《殲滅の光》は、周囲一帯を真っ黒こげに変えるほどの威力をもっていた。当然セモン達にも大ダメージが与えられる。服は所々が焼け焦げ、武器も傷ついている。体中にやけどができ、少しずつ体力を奪っていく。

「あれー?手加減したのに吹っ飛んだよ?……ちょっとつまんないかも」

 《大天使アンダルギア=メタトロン》のコクピット内で、光の《六王神》たる幼女、《殲滅天使》リ・エリューラが笑う。最後は不機嫌そうなため息と共に。

「まぁいっか。次お願いねー、オウ……」
「《アークイフリート》!!殺せ!!闇の六門神を殺せ!!」

 エリューラの声を待たずに、オウエンが自らの《ギア》に指示を出す。火の《六王神》である《黄金の斜陽》オウエンの《ギア》の名は、《アークイフリート・ネオ》。聖巨兵のカテゴリを持つ存在の中では最強クラスの力をもった存在だ。

 その剛腕が、黄金の炎を纏って迫る。狙ったのは――――自らの《ギア》、《黄金の大炎(イフリート)》の動きを封じられたラーヴェイ。

「しまった!ラーヴェイの六門属性は火/闇の《破壊》……!」
「かく言う師匠も土/闇で《切断》じゃん!」
「ぬお!?そうだった!!」

 ……相変わらずどうしてこうもシリアスな場面でギャグ展開になるのか……。セモンが呆れている隙にも、ラーヴェイには黄金の拳が迫る。

「くそっ!《イフリート》、退却だ!」

 ラーヴェイが《ギア》の召喚を解除する。するとたちまち、その三メートル近い金色のゴーレムが消滅した。即座に攻撃を回避するラーヴェイ。《AEN》の攻撃は、ラーヴェイを撃つことなく大地を抉った。

 瞬間、大爆発が起こる。粉じんが消えた後には、大きくえぐり取られ消滅した大地が残るのみ。そこにあった建造物の破片などは片っ端から消え去っていた。

「な……」

 背後でリーリュウが絶句する。セモンは戦いが始まる前、ラーヴェイの言っていた忠告を、遅まきながらに思い出す。

 ――――《アークイフリート・ネオ》の拳がかすりでもすれば、たちまち四肢を吹き飛ばされる。

 比喩なのではなく、正真正銘の事実だったのだ。あんなものがかすりでもすれば、本当に消滅してしまいかねない。

 この世界はSAOとは違って、ゲーム内でHPがゼロになる……すなわちは『死』がやってきても、リアルの肉体が死ぬわけではない。それでも、セモンは本能的な恐怖を感じずにはいられなかった。

『ヴァリロルォォ―――――……ン』

 金属を打ち付けただけの様な奇怪な咆哮を響かせて、《AEN》はその上体を起こす。再びその腕が火炎を纏った。

「……これは……状況的に相当まずいですね……」

 ハクガが珍しく、『打つ手がない』とでも言う表情を取る。

「物理攻撃は《アークイフリート・ネオ》が。特殊攻撃は《アンダルギア=メタトロン》が……そしてこちらがいくら耐性を付与しても、《エオス》がすべて無効化してしまいます」

 そう、その存在を忘れてはいけない。

 《AEN》の黄金の巨体、《大天使アンダルギア=メタトロン》の神々しい翼の向こう側に、楽器を模した天使が浮かぶ。

 《彼女》の名は《暁を呼ぶ女神(エオス)》。風の《六王神》、《暁を守護する者》フェーレイの《ギア》である。リーリュウの《ギア》である笛、《エオス》と同じ名をもつその聖巨兵の能力は、『すべてのバフの打消し』。どれだけの強化をかけても、女神の美声にてすべて掻き消えてしまう。それだけではない。打消しは武器や《ギア》の能力にまでおよび、それどころか相手側はその効果を一切受けない。

 こちらは何もできないまま、最強の聖巨兵が叩き潰しに来る。まさしく神威。まさしく、絶望。

 だけれど――――

「……やってみるまで分からない。もしかしたら、上手くいくかもしれない」

 何もやらないわけにはいかないのだ。セモンは、そう強く思う。

 そうだ。今までだってそうやって乗り切ってきたじゃないか。

 小学生の時、体格もずっといい、年上の少年たちから琥珀を救った時も。

  
 SAOで仲間たちと初めて参加したボス戦のときも。

 モンスターハウスに引っ掛かった時も。

 ボス部屋で、ハザードとたった二人でボスを倒した時も。

 七十四層でコハクと再会した時も。

 七十五層でハザードと戦った時も。

 ALOで、スレイヴ・プレイヤーたちとしのぎを削った時も。

 ずっと、セモンの心には、一つの熱い決意があった。

「そうだ。……きっとうまくいく、そう信じるんだ」
「……セモンさん?」

 ハクガがいぶかしげにセモンを見る。だが、セモンはもうそれに構っていない。

 セモンの握る《冥刀》、《雪牙律双(せつがりっそう)》の半透明の刀身が、まばゆいオレンジの光を放つ。繰り出されたのは、かつて剣の世界で《アラブル・ランブ》と呼ばれていたソードスキル。セモンが最も多く使用し、修練した、《神話剣》の象徴。

 神話の世界を戦い抜いた、古の猛者達を彷彿とさせる荒々しさで、その剣がうなる。

「うおぁぁぁぁ――――ッ!!」

 セモンは叫ぶ。そして、全力で、魂を込めて走る。

 《アークイフリート・ネオ》でもいい。オウエンでもいい。《大天使アンダルギア=メタトロン》でもいい。リ・エリューラでもいい。《暁を呼ぶ女神(エオス)》でもいい。フェーレイでもいい。

 誰かに、この剣を届かせる。そして、みんなのための、チャンスを作る。

 誰かを救うために、この剣はあるのだと。誰かを守るために、この剣はあるのだと。

 それは、英雄たちが、今わの際に気付いたという、《戦い》の真理だったのかもしれない。


「……あーあ。ちょっとつまんないかな」

 冷やかに、あくまでも冷やかに、その声がこだまする。

 幼さ、愉快さ、無邪気さの中に、ちらちらと見え隠れする《虚無》。それが、リ・エリューラの『底無しの光』の本質。全てを飲み込み、消滅させてしまう、白い《虚無》。

「残念。もっといろいろ楽しめると思ってたのに――――――《メタトロン》、《祝福の光(キリエエレイソン・サンクトゥス)》」

 三度なるたびに、聖なるかな―――――

 輝きが三度、瞬く。

「セモン!!」

 誰かが叫んで、地を蹴る音がきこえた。

 
 そして世界は色を失う。



 ***


「う……?」

 セモンは全身の痺れをこらえながら、眼をあける。そして周囲を見回し、瞠目する。


 世界の全てが、終わってしまったのではないかと思った。それほどまでに、《六王神》の《ギア》がもたらした破壊は強力すぎた。


 八枚の輝く翼をもった天使が、神罰の光を再び纏う。
 黄金の焔を吹き出す聖巨兵が、神罰の炎を再び纏う。
 黄昏と暁を従えた神造宝具が、神罰の風を再び纏う。

 
 彼らの神威がもう一度放たれれば、今度こそ自分たちはまっさらに掻き消えてしまうだろう。

 これが――――世界を掌握する神々の力。それも彼らにとっては、一切の本気ですらない、児戯でしかないのだ。悪夢、としか形容の使用がない。誰だ、神の祝福は光輝だ、などといったのは。

 これでは、唯の《神罰》ではないか―――――

 
 そして何より、セモンの目の前でたたずむ、一つの黒い影。雄々しく輝いていたはずのその鎧はすでに艶のない黒へと炭化し、体中のあちこちが焼け焦げ、左腕に至っては失われている。すでにその血は蒸発し、傷口から鮮血は流れ出てこない。

 《六王神》を除く《六門神》では最強の、伝説の《イフリート》を受け継いだアカウントを有する男は、ただ、そこに立っていた。セモンを守るために。

「……(アキ)(にぃ)!!」

 千場明人……ラーヴェイの四肢が、淡い光となって爆散する。それは、SAOで見たプレイヤーの消滅現象や、ALOでみたエンドフレイムとよく似ていた。

「プレイヤーの死亡現象(ログアウト)……これでしばらくの間、ログインしてこれない……」

 コクトもまた、特徴であったフードやコートの一部、着物の裾は焼けている。ただ、兎耳と本体は完全に無傷である。

「だからなんで師匠は無傷なのさ!?」
「む?修行のたまものだ」
「違う!!絶対違う!!」

 こんな状況でも突込みを欠かさないカズも、既にぼろぼろになっている。リーリュウも二本の《冥刀》を杖代わりにして。やっと立っているような状態だ。ハクガに至っては倒れ伏したまま動けない。

「そんな……」

 ――――これは……俺のせいなのか?

 ――――俺が……俺が特攻したせいで?

「あ……ああ……」

 セモンの腕から、力が抜ける。《冥刀》が転がり落ち、輝きを消す。どさり、と膝をついたセモンには、立ち上がる気力が残ってはいなかった。

 後の世界――――主に《加速世界》と呼ばれることになる場所で、《ゼロフィル》と呼ばれることになる行動不能状態。その亜種とでもいうべきものが、今、セモンを襲っていた。

 信じていたものが、救うべき誰かを傷つけてしまった。それは、その誰かを守るために、救うためにあるはずだったのに……。

「終わり、か……」

 キ、ク、ク、ク、ク……と、オウエンがひび割れた嘲笑を漏らす。

「殺せ、《アークイフリート》」
『ヴァルロォォォ―――――……ン』

 どこか悲しげな声を響かせたまま、《AEN》はその拳を振り下ろす。それは、無防備なセモンに突き刺さ―――――


 
 ―――――る寸前に、水の壁によって阻まれた。

「な、に……?」

 オウエンがひび割れた声で、いぶかしげに唸る。

 《六王神》の最強の《ギア》、その攻撃を止めたのは――――ハクガだった。

 地に倒れ伏していたはずの彼はいつの間にか…満身創痍の状態ではあれど…立ち上がっていた。その右腕には、黒と青のオーラが渦巻く。

「そこまでに、してもらいましょうか……」
「それは……!?」

 ハクガの体から、激しくオーラが立ち上る。その色はやはり青と黒。それは――――水と、闇の六門属性を示す色ではなかったか。

「ア、ア、あ……?」
「……オウエン?どうしたの?」
 
 エリューラがいぶかしげに眉をひそめる。オウエンが、奇妙なひび割れ声を上げたのだ。

 それは、悲鳴にも聞こえた。

「貴、様……貴様貴様貴様ァァァァ―――――――――!?」

 オウエンが苦しげに頭を抱える。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ―――――――っ!!」

 その声から、ひび割れが『抜け』る。オウエンの声は、涼しげな少年の物に変わる。恐らくそれが、本当のオウエンの声。面に覆われていない片目からは涙があふれ、滴り落ちる。

『ルォ――――……ン……』

 《AEN》が苦しげに身をよじり、豪速の一撃を打ち出す。黄金の炎を纏った拳が、今度こそセモン達に突き立とうとしたその瞬間。


 セモン達の足元がどぷり、と融解する。

 そして世界が、たった一色で塗りつぶされる。

 左右すらわからぬ、漆黒で。 
 

 
後書き
 お待たせしました。『神話剣』最新話の更新です。今回はチート敵による主人公ズ蹂躙&ハクガ君の正体に迫る回でした~。さてさて、なぜハクガ君が闇属性のオーラを出していたのかの理由は、『六門神話編』後編で明かされます。

刹「作者が……真面目に伏線を張っている……!?」

 伏線なのかどうかは知らんがねw

 いよいよ次回は『六門神話編』前編最終章となります、『《白亜宮》突入』、その全三編の第一編となります。更新はまた遅れますが、気長にお待ちいただけると嬉しいです。

刹「それでは次回もお楽しみに」

 またまたとられた!? 
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