| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

曹操聖女伝

作者:モッチー7
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

曹操聖女伝第2章

 
前書き
趣旨は封神演技を題材とした作品やPSPのJEANNE D'ARC等の様々な作品の様々な設定をパクリまくる事で、曹操が三国志演義内で行った悪行の数々を徹底的に美化していくのが目的です。
モッチーがどの作品のどの設定をパクったのかを探すのも良いかもしれません。

この作品はpixivにも投稿しています→http://www.pixiv.net/series.php?id=376409 

 
対黄天軍戦は一応の平定を見たのである。
そして、曹操はその功績によって済南の相に任命された。しかし……
「えー!この方々を皆罷免なさるのですか!?」
驚く文官に対して、曹操はシレッと言った。
「どいつもこいつも贈賄汚職にどっぷり浸かった悪徳役人ばかりだ!罷免にして当然だ!」
しかし、焦る文官の説得は続く。
「し、しかし、彼らは皆都の高官達の誼を通しておりますれば、下手すると、貴方様まで―――」
曹操の意思は固かった。
「構わん!黄天軍は腐敗政治に対する警鐘だった筈だ!それなのに朝廷も地方も全く反省の色が見えん!まずは地方政治から改善せねばならぬ!」
こうして、汚職官吏を次々と罷免し、更に、
「な、何をなさいます!これは漢帝の御先祖・城陽景王劉章様を祭る祠ですぞ!」
此処でも曹操の意思は固い。
「五月蠅い!貴様ら悪徳商人が、民衆から莫大な祭祀料を巻き上げている事は、既に明白!悪の温床は全て取り除かねばならん!たとえ相手が祠であってもな!」
淫祠邪教を禁止することによって平穏な統治を実現した。

それから暫くして、済南を追い出された汚職官吏が宦官集団・十常侍に泣きついた。
「またあいつか!」
「いくら曹騰の孫娘だからって、これは遣り過ぎであろう!」
「折角の党錮の禁を台無しにしただけでは飽き足らんのか!」
意見が対立し、会議が長時間に及んで、疲れが目立ち始めた時、
「ひとまず都に呼び寄せて、様子を見る事にしましょう」
と、十常侍の首領格である張譲が言った。
「その通りだ!我らの目が届く場所に置いておくべきだ!」
「そうだ!」

しかし、曹操は病気を理由に東郡太守赴任を拒否した。
哪吒が皮肉を言う。
「解りやすいなぁー。悪党の考える事は」
二郎真君もそれに続く。
「貴重な賄賂要員をどんどん潰していく曹操殿がよほど煙たい様ですね」
その後、沛国譙県の郊外に草庵を建てて様子を見る事にした。
「まさか33歳で楽隠居とはな」
「見た目は未だに15歳の美少女ですがね」
一同が大笑いするが、曹操が直ぐに真顔になり、
「だが、私は世捨て人には成らんよ。私には使命がある。この世界を救うと言う使命が―――」
その時、また天の声が、
「この近くの竹林に行けと?」
「また……例の奴ですか?」
「突然聞こえる助言って奴か?」
「ああ、その様だ」
とりあえず、天の声の指示に従い、この近くの竹林に向かう一同。
だが、道中で異様な化け物と遭遇する。首が無い大男で、その代わりに乳首の部分に目、へその部分に口がある。
「貴様!この地に何をしに来た!?」
化け物の言葉に、哪吒も食って掛かる。
「何だとー!?俺達が此処に来ちゃいけないのかよ!」
二郎真君が割って入る。
「待ちなさい御二方。我々は敵ではありません。私は闡教に属する仙人・顕聖二郎真君と申します」
二郎真君の言葉に敏感に反応する化け物。
「仙人だと!?それは真か!?」
曹操が代わりに答える。
「どうしたら信じて頂ける?」
その時、七星剣が突然光り出した。
「む!この光は!……疑って悪かった。我が名は刑天!仙邪戦争で戦死した護衛兵である」

刑天を名乗る男は、殷王朝の始祖といわれる伝説上の人物・契帝の娘の護衛をしていた兵士だったが、仙邪戦争で戦死した魔王の1匹である蚩尤に敗れ、首を失ったのだと言う。
「して、此処へは何を?」
曹操は真顔で言い放つ。
「信じないかもしれんが、私は天の声が聞こえるのだ」
それを聞いた刑天が驚き、そして喜んだ。
「遂に……遂に姫様の呪いが解けるのですね!?」
「呪い?」
刑天が曹操達をある場所に案内しながら話し始める。
「殷王朝の始祖である契帝様が仙人や妖怪同様、邪凶の暴虐不尽・悪逆非道を許せず立ち上がったのですが、あの憎き蚩尤めが、私が護衛していた卞宣様にとんでもない呪いをかけたのです!」
強い口調だ。目は怒りに燃え、口調は悲しみを湛えていた。
「その……卞宣殿を襲った呪いとは?」
刑天が悔しそうに言う。
「魔王化じゃ」
「人間が魔王になるだと!?」
「なんという事だ!」
哪吒と二郎真君が驚く中、曹操はある確信を持っていた。
「刑天殿、そんなに蚩尤が憎いか?」
「あー憎い!あ奴さえいなければ―――」
「やはりだ……貴方はやはり自分を嫌っている」
刑天が首を傾げる。
「何故我が我を恨むのだ?」
「貴方はさっき蚩尤に首を斬られたと言いましたな?」
「そうじゃが……」
「それでも生きていると言う事は……貴方は今でも卞宣にある種の罪悪感を抱いておるのではないのか?」
流石は曹操、鋭い。邪凶は、確かに下衆である。そのせいで卞宣は仙邪戦争終結から2000年以上も経っているのに未だに苦しんでいる。故に刑天は蚩尤を許せないと言った。だが刑天が最も許せなかったのは、それを阻止出来なかった自分自身であった様に思う。
刑天が観念した。
「確かにそうかもしれん。我は確かに卞宣様を護りきれなかった。既に斬首された後にも係わらず、2000年以上も生きているのは、卞宣様の呪いが消える日を今か今かと待ち望んでいるのかもしれん」
哪吒が怒りだす。
「くそー!通天教主は何やってんだよー!」
刑天が悲しげに言った。
「無駄だよ……通天教主様も元始天尊様も……太上老君様ですら解けなかった強大な呪いじゃ……魔王化の速度をほぼ零にする結界に卞宣様を封印するのが関の山であった」
「あの太上老君を打ち負かす程の呪いだと!?」
「む、惨い……」

漸く卞宣が封印されている場所に到着した。卞宣は光の柱の中で仰向けで浮かんでいた。
「さて……此処まで辿り着いたは良いが、太上老君でも不可能だった事を、我々だけで出来るのか?」
「二郎兄者!このまま見殺しにしろって言うのかよ!」
「そんな訳無いだろ!しかし……」
「やはり駄目か……我の望みは未だ叶わぬか……」
しかし、曹操は迷い無く光の柱の前に立ち、光の柱を斬った。慌てる刑天。
「ちょ!あんたは何を―――」
曹操は気にせず光の柱があった場所に声をかけた。
「そろそろ出てきたらどうだ……蚩尤!」
すると、卞宣の体から黒い煙が出て来た。
「貴様らー……この蚩尤の復活を阻止するだけでは飽き足らず、再び蚩尤を殺す気か!」
黒い煙が6本の腕を持つミノタウロスの様な姿となった。

卞宣に憑り憑いた魔王蚩尤の亡霊と対立する曹操達。
「てめぇーが蚩尤か!?」
哪吒の言葉に蚩尤は鼻で笑いながら答えた。
「いかにも蚩尤である。だが、今の蚩尤には肉体が無い。故に貴様がこの蚩尤と戦う事は出来ない」
「嘗めんな!」
哪吒が飛びかかるが、蚩尤の体を素通りしてしまった。
「な、何で!」
「言ったであろう、今の蚩尤には肉体が無いと」
二郎真君が皮肉を言い放つ。
「それだと、貴方も我々に触れないのでは?」
蚩尤は鼻で笑いながら答えた。
「それはどうかな?」
蚩尤は6本の腕から暗黒瘴気弾を一斉に発射した。
「何だよこいつ!卑怯過ぎるだろ!」
蚩尤が邪な微笑みを浮かべた。
「この蚩尤を攻撃できる方法は1つだけある―――」
二郎真君が蚩尤の言葉を遮った。
「それは如何ですかな?」
二郎真君の攻撃が蚩尤の脇腹に突き刺さった。
「ぬお!?今の蚩尤には肉体が無い筈!」
「そう。今の貴方は只の霊体だ。だから、私も霊体になったのです」
哪吒は驚きを隠せない。
「出来るの!?そんな事!?」
「私は七十二変化の術を会得している身。霊体化も可能です」
呆れる哪吒。
「どいつもこいつも……狡過ぎるぜ!」
しかし、
「くくくく」
「何が可笑しいのです?」
「仙人にしては考えたな。しかし!」
そう言うと、蚩尤は6種類の武器を召喚し、それを使った連続攻撃を繰り出した。流石の二郎真君もこれは捌き切れない。
「くっ!」
「所詮は無駄な足掻きだったのだ。さあ……卞宣の体を返してもらおうか」
曹操が蚩尤に声をかけた。
「待て!」
「まだいたのか?諦めの悪い事だ」
「一つ訊きたい。何故、卞宣なのだ?他の者ではいかんのか?」
蚩尤が少し考え込んで、
「……成程な……卞宣とやらの罪を知らぬなら教えてやろう」
話は紀元前18世紀頃まで遡る。契帝が治める殷王朝に攻め入ろうとした蚩尤。殷王朝は必死で抵抗したが、邪凶が相手では焼け石に水であった。このまま殷王朝が蚩尤に破壊されるかと思われた時、卞宣が勇気をもって仙人達に自己談判し、仙人達から軍隊を借りる事に成功した。
これこそが仙邪戦争の発端の一つと信じられている。その後、蚩尤は仙人達によって退治されたが、敗因となった卞宣を憎み、卞宣に蚩尤化の呪いをかけたのだった。
曹操が静かに深く怒る。
「蚩尤……今の話を聞いて良く解った……居るべき場所に帰れ!地上界は邪凶の駆ける場所に非ず!」
蚩尤は鼻で笑いながら質問した。
「ならばなんとす?」
「七星剣よ!我に力を!」
曹操は神兵化能力を発現させた。蚩尤が邪な微笑みを浮かべた。
「忘れたか?今のし―――」
蚩尤の口上が終わるのを待たずに曹操が蚩尤を斬った。すると、蚩尤の右腕が2本も切り落とされた。
「ば、馬鹿な!?今の蚩尤には肉体が無い筈!?なのに何故、この娘は蚩尤を斬れるのだ!?」
「侮るな!この七星剣は邪悪を打ち砕く為にある!悪の温床如きがこの七星剣に勝てると思うな!」
「ふ、ふ、ふ、ざけんなぁー!」
蚩尤が残った手から暗黒瘴気弾を連射したが、曹操のバリアが頑強過ぎてあまり効果が無い。その間に、曹操が止めとばかりに七星剣を蚩尤の頭頂部に振り下ろす。
「止めだ!」
断末魔の声を挙げる蚩尤。
「ガゴオォーーーーー!この蚩尤が、この蚩尤が、消滅するのかぁーーーーー!」

2000年近くも蚩尤の呪いと戦い続けた卞宣が漸く目を覚ました。
「此処は?」
曹操は優しく答えた。
「卞宣殿、ようこそ未来へ」
「未来……?」
「貴女は2000年近くも蚩尤の呪いと戦っていたのです」
「蚩尤……」
卞宣が仙邪戦争の事を思い出したのか慌て始めた。
「は!蚩尤は!?あの怪物達は!?」
「安心しろ……蚩尤は消えて無くなってしまった」
「勝ったのですか!?あの者達に」
曹操は優しく、そして力強く首を縦に振った。
刑天が卞宣に声をかけた。
「御無事か!?姫様!」
「その声は……刑天……刑天なのですか?」
「あの者は、貴女を蚩尤の呪いから守るための結界を2000年近くも護り続けたのです。首を失い、醜い姿に変えられてもめげずに」
その時、刑天の体から光の粒子が流出し始め、刑天の体が薄くなり始めた。
「刑天!」
「姫様……これで良いのです。我はもう……人間に戻れそうもありません。曹操殿、姫様を頼む!」
曹操は優しく、そして力強く首を縦に振った。
「あぁ、これで心置きなく消滅出来る。有難う……有難う……」
そして……刑天は本当に消滅した。泣きじゃくる卞宣。
「何故じゃ!?罪深いのは私の方の筈!なのに何故……私ではなく刑天が消滅せねばならんのじゃーーーーー!」
泣き喚く卞宣を黙って見守る事しか出来ない曹操達であった。

蚩尤と刑天の完全消滅から半年後。一人の男が曹操の許を訪ねた。
「探したぞ曹操。この忙しい時に楽隠居やらかしおって」
この男の名は袁紹(字は本初)。後漢時代に4代にわたって三公を輩出した名門汝南袁氏の出身で、曹操の幼馴染であった。
「この儂が何進大将軍の下で蜂の様に働いておるのに、お前はこんな所で燻る気か?」
「この私をからかっておるのか?」
しかし、袁紹は直ぐに真顔になり、
「お前を典軍校尉に推挙しに来たんだよ」
「典軍校尉?」
「西園八校尉の一つだ。反乱軍から都を護る為に新設された司令職だよ。儂もその中の中軍校尉に任命される事になっている」
曹操は難色を示した。
「しかしな、私は宦官の監視の目が嫌いで―――」
「其のくらい解っとる。朝廷では、我が何進派と薄汚れた宦官派が対立しておる。お前にはぜひ、我が派閥に加わって欲しいのだ!」
其処へ、卞宣が曹操に声をかけた。
「どうなさいました?」
今でこそ本来の明るさを取り戻しているが、刑天が完全消滅して間もない頃は自分を責め続けたが、曹操の
「貴女が人間に戻れるのが刑天の真の願いだ」
の言葉によって自分の間違いに気付いた卞宣は、過去ではなく未来を選んだのだ。
初めて見た女性に目を丸くする袁紹。
「どちら様?」
曹操はとっさに嘘を吐く。
「売れない歌妓だよ。行く当てが無さそうだったので、私の側室にした」
「側室?女同士でか?」
「悪いか?」
袁紹は困り果てながら言い放つ。
「……やはり何進の下に来い。あの十常侍を散々苦しめたお前の図々しさが完全に失われる前に」
「うーーーむ……私の出番にはまだ早そうだが、朝廷の混乱をこの目で見たい」
「よし決まった!では早速出発だ」
こうして、曹操は典軍校尉に、袁紹は中軍校尉に就任した。

翌年、霊帝の崩御に伴い、皇太子・劉弁が即位した。即位当時の年齢17歳というのは、実は後漢歴代皇帝の即位時年齢の中で4番目の高年齢にあたる(劉弁より上位の3人は初代 - 3代であり、4代目以降では最年長)。こうした事実は、後漢朝の歴代皇帝がいかに幼く、権力のない皇帝ばかりだったかを証明するものである。
その証拠に、政治の実権は母親の何太后とその一族である外戚が握った。折角握った実権を頑強にすべく宦官の粛正に手を染めようとしたが、何太后や何進の弟の車騎将軍何苗が宦官を擁護したため、何氏同士で対立が生じる構図になった。
痺れを切らせた袁紹が何進に自己談判するが、
「この機会に宦官勢力を朝廷から一掃すべきです!」
「解っとる。だが、皇太后が反対しておってな―――」
「何太后は閣下の妹君ではありませんか!兄としての威厳を魅せて頂きたい!」
「でもなあ、わしはあいつの御蔭で出世した訳だし……皇帝の母親だし……」
何進への自己談判が時間の無駄だと思い知った袁紹は、地方の諸将を都に呼び寄せて太后らに圧力をかけた。だが、
「伝令!」
「何の騒ぎだ?」
伝令兵が片膝をついて礼をするのももどかしげに、
「何進大将軍変死!」
何進は無警戒に宮中に参内したところを宦官の段珪・畢嵐が率いた兵によって取り囲まれ張譲に罵倒されながら嘉徳殿の前で殺害されてしまった。
「な、なんだと!?十中八九十常侍の仕業に違いない!おのれ宦官共め!最早かんべんならん!待っとれよー!皆殺しにしてやるからなーーー!」
袁紹はとうとう宦官の粛正に手を染めた。
「殺せ殺せ!薄汚い宦官達を全て排除してしまえ!」
袁紹が行った宦官虐殺は陰惨を極め、
「わー!待て!私は宦官じゃない!ほれ、金玉はちゃんと―――ギャアー!」
巻き添えを含めて2000人以上が命を落とした。

その噂を聞きつけた曹操が現場に訪れるが、広がる陰惨な光景に圧倒された哪吒と二郎真君。
「これは酷い……まるで地獄だ」
「袁紹のおっさんは何考えてんだ!?」
曹操が怯えている女官を発見し、優しく声をかけた。
「大丈夫だ。私は敵では無い。それより、思い出したくも無いかもしれんが、この目の前の地獄を作り出した者達は今何処に?」
凛々しく美々しい少女の姿をした曹操を見て警戒心が解けた女官は、とんでもない事実を口にした。
「この部屋にいた宦官を殺害した兵士達の行方は解りませんが、張譲様が今上帝と陳留王を連れてお逃げに」
曹操は頭を抱えた。
「馬鹿だよ……権力者てさ……」

袁紹に呼び出された地方領主の1人である董卓(字は仲穎)は不貞腐れていた。
「なんで儂が宦官と戦わなければならんのだ!?正直宦官には近付きたくも無い!」
が、この命令が董卓に幸運をもたらす事になる。今上帝と陳留王を擁して逃亡する張譲と段珪に出くわしてしまったからだ。
「何じゃ貴様らは!?」
張譲が袁紹の宦官虐殺を針小棒大に伝えようとしたが、董卓は今上帝と陳留王の身なりから袁紹を逆賊扱いする為の逃走だと見抜き、躊躇無く張譲と段珪を殺害した。
董卓は二人と会話をしながら帰路についたが、この時今上帝は満足な会話さえ十分にできなかったのに対して、陳留王は乱の経緯など一連の事情を滞りなく話して見せたことから、とんでもない野望を思いついてしまった。
だが、その野望を実行に移すには力が足りない。洛陽に入った時は3000ほどの兵力しかなかったので、殺害された何進や何苗の軍勢を吸収したが、同じく袁紹に呼び出された地方領主の1人である丁原(字は建陽)が猛反発した。
その結果、軍を率いて城外で対戦する事になった。そこで丁原は、必勝の策として丁原軍最強の戦士・呂布(字は奉先)に董卓暗殺を命じた。これが丁原の首を絞める結果になるとも知らずに。

この騒ぎを聞いた曹操は、浅ましく醜い権力争いに嫌気がさして故郷に帰ろうとしたが、天の声の忠告を聞いた途端、慌てて董卓軍本陣に向かった。その途中で董卓軍筆頭軍師であり、董卓の懐刀とも言うべき李儒に出会う。
「そなた、こんな所で何を」
李儒の顔を見た曹操は、天の声の言い分が正しいと確信し、とっさに嘘を吐いた。
「私の宝剣を献上しようと思ったのです」
「宝剣?」
「はい。ですので董卓殿にお会いしたい」
暫くして、曹操は董卓との謁見を許可された。
「そなた……儂に渡したい物が有るとの事だが」
曹操は膝を屈しながら七星剣を差し出した。
「ほう、どれどれ」
董卓が七星剣に触れようとしたが、なぜか指に激痛が襲った。
「ぐおっ!何じゃこの宝剣は!?」
その途端、曹操が急にふてぶてしくなった。
「やはりそうであったか董卓……いや、忌々しい魔王め!私の正義の剣の餌食となれ!」
そう、董卓は人間に転生した魔王その③だったのだ!曹操はとっさに神兵化した。だが、曹操の周りに装飾雑多な鞠の様な鉄球が複数出現し、曹操を包囲した。更に、お尻から孔雀の様な鮮やかな飾り羽を生やして発光させ、巨大な幻影となって炎を巻き起こした。
「熱がれ!祭玉!」
複数の鉄球から無数のロケット花火や火の点いた爆竹がマシンガンの様に放たれ、無数の小さな爆発が曹操を包んだ。
「ガハハハ!どうだ!儂の最もお気に入りの技である祭玉の熱さは!?どうだ!熱いだろう!」
だが、曹操は平然としていた。
「熱い?ふん!私の大義の炎に比べたら微温湯よ!」
自慢の祭玉をもろに食らった筈の曹操が平然としていたの空恐ろしくなった董卓は、まるで蚤の様な人間離れした跳躍力とまるで燕の様な飛行能力を駆使して曹操から離れようとしたが、曹操もまた、背中から白鳥の翼を思わせるオーラを発生させて飛翔した。
「逃がさんぞ!魔王!」
「く、来るでないーーー!」
董卓は両目から着弾点を爆破・炎上させるレーザーを発射するが、曹操はいとも簡単に回避した。董卓は無数の小凶の群れを次々と召喚したが、神兵化した曹操がほぼ無敵なのは張角戦や蚩尤戦で既に証明済みだ。
「そろそろ終わりにしようか……魔王・董卓」
董卓は刀身が異様に巨大な漆黒の大刀を力任せに振り回し続けたが、それも神兵化した曹操の前では無力だ。
「諦めろ!」
曹操は七星剣から光の刃を発射し、董卓の腹に命中した。
「ウギャァーーーーー!」
董卓が落下したので、止めを刺すべく曹操も董卓めがけて落下した。
「止めだ!」
だが……

曹操同様、董卓殺害の為に董卓軍本陣に忍び込んだ呂布は地上に降り注ぐレーザーに気付いて空を見た。すると、董卓と曹操が空を飛び回りながら人智を超え過ぎた激戦を繰り広げていた。
「何だ……あれは……?」
董卓軍は上へ下への大騒ぎ。とても呂布に構っていられる状況ではない。
暫くして、人間離れした空中戦は曹操の勝利に終わったらしく、董卓が呂布の足下に落ちた。これを見た呂布の中で何かがはじけた。
董卓を殺そうと董卓めがけて落下する曹操。
「滅びよ魔王!」
呂布は手にしている愛用の武器・変々戟で曹操を護っているバリアを何度も叩いた。そのせいで曹操は手元が狂い、千載一遇のチャンスを失った。
その間に董卓が叫ぶ。
「敵じゃー!曹操を殺せー!」
直ぐに董卓軍兵士に取り囲まれた。神兵化した曹操にとっては造作も無い事だが、これ以上の神兵化の無駄遣いはエネルギー補充の時間を悪戯に増やすだけであり、その隙を狙って人間に転生した魔王その②に襲われたら元の木阿弥だ。
「き、今日はこのぐらいにしてやる!憶えておれー!」
捨て台詞を残して飛び去る曹操であった。

結局、曹操の董卓暗殺の邪魔をしただけだった呂布が丁原軍本陣に戻った。
「戻ったか呂布!董卓軍本陣でもの凄い音と火柱が起こったが、おぬしは何か知らんか!?」
呂布はつまらなそうに報告した。
「曹操が董卓を襲った」
「襲った!?して、曹操軍はその後どうなった?」
「いや、曹操は一人で来た」
「暗殺か?私と同じ事を考える者がおったか」
丁原のこの言葉に嫌気が差しつつ自分の部屋に戻る呂布。
「あ!待て、それで曹操の……行ってもうた」

呂布は考えた。彼は元々強い敵を感じると真っ先に向かっていく戦闘狂的な性格であり、血を滾らせるより強い相手との戦いを求めひたすら強さのみを追求する侠なのだ。
だが、そうとは知らぬ丁原の策は、強敵との戦いは極力避け、最小限の被害だけで望んだ結果を得ようとするモノであった。実に軍師らしい考え方だが、戦闘狂的な呂布にとっては理解しがたい方針である。
李儒のあの言葉も呂布の心を揺さぶっていた。

李儒が曹操と董卓の空中戦で受けた被害を確認しながら独白。
「まさか曹操が神兵化能力を持っておったとは」
「神兵化?」
李儒は漸く呂布の存在に気付いた。
「な、何じゃお前!?」
「そんな事はどうでもよい!」
「どうでもよい訳が―――」
「それより、神兵化とはなんだ?」
李儒は訳が分からぬまま神兵化について簡単な説明をする。
「神兵化とは全能力を飛躍的(すぎる)に上昇させる術の事だ。神兵と化した曹操は恐らく無敵だ!多分……きっと……」

呂布は決心した。
「呂奉先様、丁建陽様が御呼び―――」
「俺は回すぞ」
兵士達は呂布の言っている意味が全く解らない。
「は?一体何を?」
「俺は曹操を敵に回す。あの者こそ我が生涯最良の好敵手じゃ」
兵士達はお互いの顔を見合いながら返答に困った。
「それより、曹操は董卓暗殺に成功したのかが知りたいと丁建陽様が申しております」
「あんな腰抜けの事なぞ知らん。俺は曹操を敵の回す」
そう言いながら愛用の武器・変々戟を握りしめる呂布。その目には殺気が充満していた。
「だが……董卓は俺より先に成し遂げた……曹操を敵の回すと言う偉業をな!」
そう言いながら味方である筈の兵士を一刀両断する呂布。それを見ていた他の兵士が慌てて逃げた。
「呂奉先様御乱心!呂奉先様御乱心で御座るぞー!」

その頃、董卓軍本陣は曹操と董卓の空中戦の後始末を急ピッチで進めていたが、流れ弾による被害が甚大過ぎて最早軍隊とは言えなかった。
李儒が悔しそうに言う。
「曹操め!これでは丁原との戦に惨敗してしまう。いや、もう既に敵方は夜襲の準備に取り掛かっておるやもしれん」
その時、丁原軍兵士が慌てて董卓軍本陣に駆け込んで来た。
「呂奉先様御乱心で御座ーる!」
李儒が訳の解らない事尽くしな展開に軽く混乱した。
「何じゃぁー!?敵兵が我が軍の本陣に助けを求めに来おった!?」
其処へ、呂布が丁原の首級を持ってやって来た。
「曹操に伝えい!俺は貴様の敵の味方だとなぁー!」
李儒が驚きっ放しだ。
「まさか……丁原軍3万を相手に1人でか!?」
そう、本当に1人で倒したのだ。
呂布は丁原軍最強の戦士なだけあって武芸百般の猛将。しかも愛用の武器・変々戟は戦況に応じて5形態(薙刀、鎖鎌、大鋏、大刀、弓)に組替えることができる優れものである。
この鬼に金棒の様な組み合わせと、呂布の本性を見抜けなかった丁原の失態の前に丁原軍は瓦解したのだった。

丁原軍と言う邪魔者が消えた上に武芸百般で一騎当千な猛将・呂布まで手に入った董卓は、張譲と段珪の逃走に巻き込まれた時に突発的に思いついた野望を実行に移す事にした。
「さて諸君、今上帝には君主の威厳が備わっておらず、これでは天下は収まらん。よって退陣して頂き、替わって、英明なる陳留王・劉協(字は伯和)様に御即位願おうと思うが……どうだ?」
勿論、何太后がそれを許す筈が無いが、曹操を失った劉弁と何太后なんぞ恐るに足らず。その証拠に都の軍事は董卓に完全に掌握されていた。
因みに、丁原軍壊滅の最大の功労者である呂布は、その功績を称えられ騎都尉に任命された。
「うおらぁー!董卓氏に刃向う者はこの俺が食っちまうぞー!」
呂布に太刀打ち出来ずに董卓の為すがままと成ってしまった。こうして、董卓に反対した外戚と文官は全て都から追い出された。
「ようし!これで決まった!新しい時代の始まりだ!めでたいめでたい!ガハハハハハ!」
この勢いを借りて劉弁を廃位し、陳留王・劉協を帝位に就けた。この時、劉協は僅か9歳。政治の実権は董卓の手中に堕ちた。調子に乗ってしまった董卓は相国(廷臣の最高職で半永久欠番状態となっていた)を名乗った。

この頃、曹操達は引っ越しの支度をしていた。
「私のせいだ。私がちゃんと董卓に止めを刺しておればこんな事には」
哪吒と二郎真君が曹操を宥める。
「いいえ、貴女は全力を尽くしました。あの結果は只の不運です」
「そうだよ!悪いのは呂奉先とか言うおっさんだよ!本当に何考えてんだ彼奴は!?阿呆かい!」
「哪吒殿……顕聖殿……」
哪吒と二郎真君の励ましに涙ぐむ曹操。しかし、
「どちらに行かれるのですかな曹操殿?」
李儒が曹操の許を訪れた。まるでこの後の激戦を予想するかの様に雷鳴が鳴り響いた。
「どちら様ですか?」
「私は李儒。董卓軍筆頭軍師をやらせて貰っておる者だ」
それを聞いた曹操達はとっさに身構えた。
「邪魔者を消しに来たって訳かい」
すると、李儒の周りに複数の小凶・中凶が集まって来た。
「その通り、貴方方は一度董相国に刃を向けた。貴方方は……危険過ぎる!」
曹操が意を決して叫んだ。
「突っ切るぞ!我に続け!」
土砂降りの大雨の中、曹操達は邪凶の群れに突っ込んだ。
手始めに哪吒が、
「金磚」
と言うと、邪凶の群れの脳天に無数の金ダライが降って来た。
「な、何だー!?」
その隙に二郎真君が銀色の鎧を身に纏う大きな牛に変身して邪凶を次々と突き飛ばす。
哪吒と曹操も負けじと邪凶を次々と斬り殺す。
曹操達は既に小凶・中凶クラスの邪凶を凌駕していたのだ。これには李儒も驚愕するしかなかった。
「アイエエエ! 」
李儒が助けを求めるかの如く呂布に向かって叫ぶ。
「行けー!」
「ハイ!ヨロコンデー! 」
立ち塞がる呂布を見て曹操達の足が止まる。
「この時を待っていたぞ曹操!貴様こそ我が生涯最良の好敵手だ!」
哪吒が悪態を吐く。
「またかよ!本当に阿呆だな!」
意に還さない呂布。
「ふん。貴様の様な小娘に用は無い」
「何だとぉー!」
曹操が困った顔をしながらこう答えた。
「スマンが……私は忙しい。それに……」
「それに?」
曹操が真顔で怒りを込めて言い放つ。
「私は認めない……民に明日を踏み躙る暴力が、正義であって堪るものか!」
其処へ、別の人物が声をかけた。
「御意!曹操殿は忙しき!」
李儒が声の主に声をかける。
「だ、誰だ!?」
すると、2匹の金の龍が李儒と呂布を襲った。
「拙者は趙公明。截教の総帥・通天教主親方様の命ににて、曹操軍に仕官しに参った截教に属する仙人でござる」
声がする方を見ると、黒虎に跨り金色の鋏を持つ目が細くて太めの柔道型男性がいた。
「哪吒で候、乾坤圏を使ゑ!」
「あいよー!て、何で知ってんの!?……は後回しだなこれは」
哪吒の右腕の金の輪っかから強烈な光を放ち李儒と呂布の目を眩ませる。
呂布が慌てて叫ぶ。
「待てー!逃げるなー!」
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧