雷様
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四章
第四章
「はい、雑炊ですが」
「よいのか?そこまでされるのは」
「いえ、いいですよ。なあおたみ」
「ああ、いいよ」
炊事場からおたみの返事が返ってきた。気分のいい返事であった。
「そう思ってたっぷり作ってるからね」
「そういうことなんで」
「済まぬのう」
雷神はそれを聞いて感謝する声を返してきた。
「そこまでしてもらって」
「いえいえ、困った時はね」
しかし周吉は雷神に笑って言葉を返す。屈託のない愛想のいい声であった。周吉は村でも善良な男で知られる。これは雷神にとって幸運なことであった。
「お互い様ですから」
「わしでもか」
「そうですよ」
雷神に対して述べた。
「それが何か」
「いや、わしはこのような外見じゃからのう」
声に苦笑いが入ってきた。実際に雷神は鬼そのものの姿である。かなり怖いのは事実だ。
「じゃからなあ。子供に怖がられたりしてな」
「はあ」
「これでも気にしておるのじゃ。わかるかのう」
「何となくですけれど」
「しかしじゃ」
だが雷神はここで言う。笑いながら述べてきていた。
「御主等の子供は特に怖がらなかったな」
「というよりはぐっすり眠ってしまいましたので」
「ふむ」
周吉のその言葉を聞いて少し納得したようであった。どちらにしろ悪い気分ではないのは確かなようであった。それは今の言葉でわかる。
「左様か」
「はい、それだけです」
「じゃが凄いことじゃぞ、わしを見ても眠れるのじゃからな」
それだけで凄いことであった。雷神を前にしてぐっすりと眠られるというのならば。彼もそのことに感心しているのである。
「よし」
そのうえで決意してきたようであった。
「風呂から上がった時を楽しみにしておれ」
「わかりました」
暫く風呂に入る。それが終わってからのことだった。褌をはいて上機嫌で二人の前に戻る。そうして雑炊を食べた後で空に戻ることになった。
「それでは褒美じゃな」
「褒美ですか」
「約束じゃからな。まずは」
窓の外を見る。相変わらず雨が降り続けている。しかし雷はない。それを見ていたがやがて立ち上がって窓の方に向かったのだった。
「むん!」
窓の外に向けて雷を放つ。それは空に向かって放たれより一層大雨となったのだった。雷神はそれを見て満足そうに頷いた。
「これでよし」
「あの、どうなったんですか?」
「これでこの村はずっと豊作じゃ」
強くなった雨を見て満足そうに頷く。
「これが褒美の一つじゃ」
「何と」
「いいのですか?そんなことを」
「よい。助けてもらった礼じゃ」
笑ってそう答える。周吉とおたみの方を見て満足した顔で笑っていたのである。
「この程度はな」
「有り難うございます、どうも」
「そこまでして頂いて」
「いやいや、これで終わりではないぞ」
礼を述べる周吉とおたみに対してまた言ってきた。
「御主達の子供じゃが」
「うちの子が何か」
「男の子じゃったな」
「ええ、まあ」
周吉は雷神に答える。答えながら言うのだった。
「ならば話が早い。それでは」
子供の方を見てバチを取り出す。そうしてまた雷を放って周吉達の子供に対して当てたのだった。
「雷をですか」
「うむ、子供に千人力を与えた」
胸を張ってそう告げる。また満足そうな顔をしていた。
「将来は必ずや力士になり名を馳せるであろう」
「力士ですか」
「とにかく力は千人力、きっと役に立つ」
力強い声で述べる。述べながらじっと子供を見ている。
「これが褒美じゃ。というよりは御礼じゃな」
「何か凄いものを二つも貰いまして」
「何と言えばいいか」
「よいよい」
雷神は笑ってそう返す。
「全ては礼じゃ。気にすることではない」
「左様ですか」
「うむ。この子供のこれからを空から見守っておるぞ。さて」
ここでその空を見上げた。何時の間にか雨が止んで晴れようとしていた。
「わしは帰るとしよう。それではな」
「ええ」
「ではお元気で」
「最初はどうなるかと思ったが。よくしてもらった」
雷神は二人を見てにこりと笑った。こうして見れば実にいい顔である。愛嬌があって悪いものはそこにはない。
「それではな」
雷神はすうっと上にあがってそのまま空に消えていく。空に消えると暫くして雷鳴が聞こえて黄色い光が空に見えた。それが別れの挨拶になった。
周吉とおたみの村は豊作で沸くようになった。二人の子供は力士として大成し江戸で知らぬ者がない程にまでなった。それが雷神のおかげであることは広く知られ村では長い間雷神が信仰された。
雷神 完
2007・4・10
ページ上へ戻る