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雷様

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第二章


第二章

「ちょっと見て来るな」
「済まないね、御前さん」
「いいってことさ。子供抱えてるしな」
 女房に顔を向けて笑って述べる。その後で玄関に行く。暫くするとその玄関から驚きの声があがってきた。それがあまりにも大きいので思わず子供が目を覚ました程だ。
「どうしたんだい、一体」
「どうしたもこうしたもねえよ」
 周吉の声が玄関の方から聞こえてくる。おたみはそれを聞いて首を傾げさせた。
「鬼でもいたのかい?」
「来てみればわかる。というか来い」
「さっきと言ってることが逆じゃないのかい?」
 そう言うがそれでも周吉は言うのだった。その声がまたかなり真剣なものだった。
「それでもいいから来いっ」
 周吉の声はさらに焦ったものになった。
「いいから」
「全く。どうしたんだよ」
 子供を座布団の上に置いてから立ち上がって玄関の方に向かう。するとまた雷みたいな声が家の中に響いたのであった。
「な、何だよこれ!」
「だから言っただろうが」
 周吉は思いきり開いた瞳孔で女房に返す。
「物凄いことになってるってな」
「物凄いってもんじゃないよ」
 おたみも亭主に言い返す。顎が外れそうにまでなっている。
「何でこんなところにいるのよ」
「さてな」
「まあとにかくじゃ」
 その驚かれている客人が二人に対して言ってきた。今まであまりにも驚く二人の前に何も言えなかったが頃合いを見て声をかけてきたのである。
「よければ仲に入れてくれんか」
「あっ」
「そうだった」
 二人も彼に声をかけられやっと相手がお客さんだということを思い出した。
「用があって来られたのですよね」
「うむ」
 周吉に対して答える。
「その通りじゃ。それでな」
「まずは中でですね」
「よかったらな。頼めるか?」
「ええ、どうぞ」
 周吉は彼に家の中に入るように薦めてきた。
「ここじゃ何ですから」
「お茶でも飲みながら」
 おたみも言ってきた。こうして二人は彼を家の中に入れて炉端を囲んで話をはじめたのである。それでも驚いたままで彼を見ているのだった。
 その客人の姿はあまりにも異様なものであった。赤い身体に恐ろしい顔、黄色く逆立った髪に虎の褌、そして背中には無数の小さな太鼓を持っている。言うまでもなく雷神であった。だからこそ二人は彼を見て驚きを隠せないのである。
「どうぞ」
 おたみから茶が出される。雷神はそれを受け取った。
「かたじけない」
 座布団の上で正座している。そのうえで茶を受け取り飲みはじめた。
「美味いのう」
 茶を飲んでまずはこう述べてきた。
「いい茶じゃ。流石は駿河じゃな」
「まあそうですが。しかし」
「聞きたいことはわかっておる」
 周吉に言葉を返す。
「あれじゃろう?どうしてわしがここにいるか」
「はい」
 周吉は雷神の問いにこくりと頷いた。外では雨がまだ降り注いでいるが雷は止んでいる。それを鳴らす本人がここにいるからであろうか。
「落ちたんじゃよ」
 雷神はバツの悪い顔でこう述べてきた。
「上からな」
「上からですか」
 その顔で空を指差したその先を見上げて二人は言う。何かは無しを聞いただけではとても信じられないような話だった。嘘のような話としか思えない。
「そうなのじゃ、うっかり雲の上からな」
「それはまた厄介ですね」
「ううむ。こんなことははじめてじゃ」
 周吉にそう答える。
「足を踏み外してまっ逆さまにな。痛いの何のじゃ」
「それでお怪我は」
「ああ、それはない」
 おたみに述べる。
「わしは神様じゃからな。全く平気じゃ」
「平気ですか」
「死ぬことはない。絶対にな」
 今度は大きく口を開いて笑う。その顔はかなり豪快で頼もしいものであった。その顔を見るとあまり怖そうには見えない。むしろ親しみすら感じるものであった。
 
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