IS-最強の不良少女-
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
開戦
一夏の尾行を開始してから十数分。階段の踊り場で話しかけてきた女性以外たいした接触はない一夏であったが、正門辺りで彼の友人とみられる少年と合流し、なにやら話し込んでいるようだ。
響はそれを校舎の壁に背を預け、彼等から目を離さずに楯無に連絡を取る。
『はいはいー。調子はどう響ちゃん』
「とりあえずは上々だ。一夏は友達と話してるけどな」
『ふむふむ。それで、何か収獲があったんじゃないの?』
楯無の問いに響は口元をニヤリと歪ませると、頷きながら彼女に報告した。
「一人、妙な女を見た。きっちりスーツ着込んでさも一般人ですよって風を装ってはいたが、明らかに何か隠してるタマだ」
『へぇ……。まぁ響ちゃんがそういうならそうなんだろうね。その人を尾行対象に変える?』
「いや一夏のままでいいだろ。こっちが狙うよりは、一夏を囮に使った方が楽だ。どうせあいつ等の狙いは一夏だろうからな」
『あら、ひどいのね響ちゃん。クラスメイトを囮に使うなんて』
「アイツも男ならそれぐらいは経験しとけばいいんじゃね?」
その言葉に楯無はくつくつと笑っていたが、響は二人が動き出したのを横目で確認した。同時に響は楯無との連絡を断つ。
「さぁて、なるべく早く出てきて欲しいもんだな」
染めたばかりの黒髪を揺らしながら響は雑踏に紛れ一夏の尾行を再開した。
響の尾行に気付かず、友人である五反田弾と話していると一夏だが、ふと弾が一夏に問うた。
「なぁ一夏、IS学園って本当に女の子多いけどよ。少しは色恋沙汰とかねーのかよ」
「ないよ。箒や鈴はただの幼馴染だしな」
「はぁ……その箒って子もそうだが、鈴も大変なこって……」
一夏の花もない話に肩を竦める弾であるが、そこで一夏が「あ」と声を漏らした。
「なんだ? 改めて考えたら気になる子でもいたか!?」
「いや、お前が想像してるような子じゃなくてさ。一人倒したい奴がいるんだ」
「倒したいって……相手は女の子だろ?」
「そうだけどさ、一回その子に思いっきりぶん殴られたんだ」
ぶん殴るという言葉に弾は思わず吹き出してしまった。確かに、女子しかいないIS学園なら殴られることはなく、あるとしてもひっぱたかれるという言葉が妥当だろう。
弾は咽てしまったのか、数回咳をすると一夏に聞いた。
「ぶん殴られたぁ!? おま、一体何したんだよ……」
「いや、なんていうかちょっと色々あってさ」
「色々って……。まぁ深くは聞かねぇけどさ。そんで? その子なんて名前なんだ?」
「鳴雨響だ」
その瞬間、弾の顔が信じられないものを聞いたと言う風に固まった。同時に足も止めてしまい、一夏は怪訝な表情を浮かべた。
「どうした? 弾」
「お、お前今、鳴雨響って言ったか……?」
「ああ、そうだけど……弾は響のこと知ってんのか?」
すると、弾は一夏の肩を掴み、端によると一夏と顔を見ながら血相を変えながら告げた。
「バッカ、お前! 鳴雨響って言ったら超が付くほどの不良じゃねぇか!! 全国の不良の頂点に立つほどって言われてて、その手にかけてきた不良は千を超えるって言われてんだぞ!?」
「え、マジで?」
「まぁ……お前はそういうのに興味なさそうだもんなぁ……。男子の間では結構話題になってたんだぜ? 他にもやって来た犯罪は殺人以外全部だとかもうスゲーのなんのって」
弾は震え上がっているのか頭を押さえていたが、一夏は自分の記憶の中にある響のイメージと照らし合わせるが、弾が言っているようには思えない。
「弾。お前はそう言ってるけど響は結構いいヤツだぞ? 時折厳しいけど」
一夏がそう弁解してみるが、弾は「なに言ってんだよー」などと呆れた様子で肩を竦めていた。そのあとも二人はなにやら話しながら学園内を回り、最終的には鈴音がいる二組へ足を運び、昔話などの花を咲かせていた。
しかし、途中一夏の携帯に連絡が入り彼はそのまま席を立つと一組へと戻っていった。
一夏が教室へ戻ったのを確認した響もそれに続いて教室へと戻るが、入った瞬間シャルロットに腕を引かれた。
「うぉっ!? なにすんだシャル!!」
「いいから来て! 一夏の方もそうだけど響目当てのお客さんも多いんだから!!」
「はぁっ!? 私目当ての客ってなんだよ……」
シャルロットに腕を引かれ教室のとある席まで連れて行かれると、強引に着席させられた。そこは周囲とは隔絶された席であり、すでに多くの女生徒が響の到着を待ちわびていたようで、響が現れた瞬間歓声が上がった。
「ファンクラブ掲示板にアップされてた黒髪鳴雨さんキタコレ!!」
「金髪もいいけど黒も似合う!!」
「やっぱり画像じゃなくて生で見たいもんね!!」
所々から聞こえる意味不明な会話に頬をヒクつかせる響は隣に立っているシャルロットに問うた。
「……なぁシャルよぉ。前々から気になってたんだがファンクラブってなんだ?」
「へ? 響知らなかったの!? えっとね……ファンクラブの名前はそのまんまで、鳴雨響ファンクラブって言うんだけど、五月の半ば足りにはもう発足しててもう結構な生徒が加入してるんだよ。上級生も入ってるんだよ」
「……私の知らないところで私のファンクラブが出来ていたことに内心驚いているが……まぁいい。そんで? それを発足した馬鹿は何処のどいつだ?」
響が投げかけるようにしてシャルロットに聞くと、彼女は「うっ……」と声を詰まらせた。その反応に響はジト目になると軽い威圧をかける。
シャルロットはそれに一歩後ずさると、目を泳がせながら白状した。
「……せ、生徒会長……」
シャルロットが言った瞬間、響はなんとも言えない表情を浮かべながら楯無へ連絡を取った。
『はいはいー? どうかしたの響ちゃん?』
「どうかしたじゃねぇ!! なに勝手に私のファンクラブなんぞ発足してやがる!! せめて私に了承を得やがれ!!」
『あらばれちゃった? でも響ちゃんも悪い気はしないでしょ、自分のことを好いてくれている人がいっぱいいて』
楯無はケタケタと笑いながら言っているが、響はそれどころではない。
「それどころじゃねぇ、画像掲示板って何のことだ!? まさか私の写真を……」
『モチのロン!! いろんな人たちが撮った響ちゃんのあられもない姿が投稿されてるのよーん』
「……もういい、何も言わない。閉鎖しろと言ってもどうせ閉鎖しなさそうだからもう諦める」
がっくりと肩を落としながら楯無との通話を断った響は自分にキラキラとした視線を送っている女子達に向き直り、大きく溜息をしながら問う。
「……まぁお前達がやりたいことは大体わかるから、何かご要望があれば言ってくれ……」
響の言葉に女子生徒は歓喜の咆哮を上げるが、響は魂が抜け落ちてしまったかのような表情をしていた。
その後、ファンクラブ所属の女子生徒達全員の要望に答え写真を撮ったり、お姫様抱っこをしたりなど色々がんばった響であった。
「あー……つ・か・れ・たッ!!!!」
全ての女子の要望を捌き終わり、椅子にげんなりとしながらもたれかかった。すると、それを心配してかセシリアがコップにお茶を注いで持ってきた。
「お疲れ様でしたわ響さん」
「ういー……。まったく馬鹿みてぇに騒ぎやがって……私なんかと写真とって何が楽しいんだかわかったもんじゃねぇな」
お茶を一気に飲み干した響は大きな溜息をついた。セシリアはそれに口元を押さえながらクスリと笑うと響の肩に手を置きながら告げた。
「皆さん響さんが格好良くて優しいから集まってきてくれるんですのよ」
「私は自分で自分の事が優しいとは思ってねぇけど。そういうもんなのかねぇ……」
「そうですわ。でなければあんなに皆さんが集まってくることもなかったからでしょうし」
セシリアの言葉に響は肩を竦めると、思い出したように立ち上がり教室を見回した。
……やっべ、一夏のヤロー見失った!
「響さん? どうかしたんですの?」
セシリアが問うて来るが、響は首を振ると教室を飛び出し楯無を呼び出した。
「楯無! わるい、一夏を見失った」
『あぁ、それなら大丈夫よー。私が連れ出したから』
なんとも軽い感じの返答に響は思わずけっ躓きそうになってしまったが、何とか堪えると軽く咳払いをして楯無に聞き直した。
「早く言えよ……。そんで? アイツは今何処にいるんだ?」
『ちょうど今灰被り姫の演劇に出てるわ。観客参加型のね』
「観客参加型ってなんだし。まぁんなことはどうでもいい。それよりもそんなもんに出して平気なのか?」
『勿論平気じゃないわ。恐らく隙を狙って亡国機業も動き出すでしょうね』
先程までの軽い口調から一転し、一気に真剣な口調に戻った楯無であるが、響は肩を竦める。
「やっぱり囮として利用したわけか」
『まぁね。響ちゃんが言い出したのもそうだけど、本当は最初っから一夏くんは囮に使うつもりだったのよ。彼には悪いけれどね』
「そりゃあ仕方ねぇわな。囮に使うにはもってこいの人材だ。弱いし」
『そうね、激弱だからね』
二人は互いに笑うと響は楯無に次の指示を仰いだ。
「そんで? 次に私はどうするべきだ?」
『とりあえず演劇が開かれてる第四アリーナまで来てくれるかしら。そこで合流しましょう。あぁ後一つ、セシリアさん達にもISの準備をしておくように言っておいてくれるかしら』
「了解だ。けどなんでセシリア達まで?」
『念のためよ。それじゃあ第四アリーナでね』
楯無はそういうと、向こうから回線を切った。
そして、響は教室に戻るとメイド服で接客をしている三人を呼び出し亡国機業の名前は伏せた状態で、それぞれにISの準備をしておくようにつげ、教室を後にした。
第四アリーナに到着した響は思わず表情を引きつらせた。
アリーナに設置された舞台はかなり豪華なものであり、学園祭の出し物とはいえないほどだった。しかし、なぜか舞台の上では日本刀を持った黒髪ポニーテールのシンデレラと、中国式手裏剣、飛刀をもった茶髪のツインテールシンデレラがにらみ合い、その二人に囲まれ顔を蒼白にしている王子の姿があった。
……観客参加型ってのはこういうことか。
「フフフ。理解できたみたいね」
「あぁ。私の知ってるシンデレラとはえらく違うがな」
響は呆れた様子で舞台で戦っている箒と鈴音、そして震え上がっている一夏の姿を見ながら、楯無を横目で見た。
彼女はメイド服から制服に着替えており、扇子を口元にあてクスクスと笑っていた。
「それにしたってスゲー人だなおい」
「まぁ、一夏くんだしね。でも……これだけ人がいれば手を出すことは簡単でしょ」
「お前もなかなかえぐいことするねぇ」
ククッっと小さく笑った響だが、楯無はそれに笑い返すと「響ちゃんほどではないわ」などといっていた。
すると、舞台のほうで動きがあり、一夏がここにいては死んでしまうと思ったのかセットの影へ逃げ出した。
その時、楯無と響は一夏が何者かに引っ張られ舞台から転げ落ちたように見えた。
「今のは……」
「うん。おそらく響きちゃんの予想通りだと思うわ」
「てぇことはヤッて来ていいわけだな?」
犬歯をギラリと光らせた響であるが、楯無はそれに静かに頷いた。それを確認した響は凶悪な笑みを浮かべたまま一夏を探しに駆けて行った。
「……さてと、私も準備しておこうかしら」
楯無も踵を返しアリーナの外へと出て行った。
一夏は舞台から引き摺り下ろされた後、自分を引き摺り下ろした人物が会談の踊り場で話した巻紙礼子だったということに気が付き、彼女に言われるまま舞台から逃げた。
そして、二人がたどり着いたのは更衣室だった。一夏は礼子に礼を言うが、彼女はニコニコとした表情を崩すことなく一夏に信じられないことを告げた。
「織斑さん、この機会ですから貴方の白式をいただけませんでしょうか?」
「は?」
一夏がそう反応した瞬間彼の腹に蹴りが叩き込まれた。
「いいからよこせつってんだろクソガキ」
相変わらずのスマイルで礼子は言うが、一夏は未だに状況が飲み込めていないようだ。しかし、そんな彼を尻目に礼子は彼の腹部に更に蹴りを叩き込む。
「おい、冗談とかドッキリとかでやってんじゃねぇんだよ。それぐらいわかんだろガキ」
彼女は笑顔をやめようとしているのか指で顔をマッサージしながら、さも当たり前であるように一夏に三撃目を叩き込もうとした。
しかし、一夏はその瞬間脳裏で「こいつは敵だ」とやっと理解し焦った様子で白式を展開した。
「やっと出しやがったかガキィ!! 待ちくたびれたぜ!!」
礼子は凶悪な表情を浮かべる。その顔に初めてあったときの優しさは微塵もなくまるで蛇に睨まれたような感覚が一夏を襲った。
「やっとコイツの出番だ……」
ニヤリと先程までとはまた違った笑みを浮かべる礼子の背中からスーツを突き破り、蜘蛛を思わせる脚が姿を現した。
「アンタ一体ッ!?」
「あぁ? 何だよしらねーのかよ。じゃあ特別に教えてやる。悪の組織の一人だバーカァ!!」
「ざけん――」
「ふざけてなんかいねぇよゴミが。『亡国機業』のオータム様だ!! 覚えろクソガキ!!」
礼子――オータムは完全にISを展開し終わり蜘蛛のような脚を一夏に向け、取り付けられた八門の砲門から一斉に実体弾を撃ちだした。
一夏はそれを横に飛んで回避し、オータムへと切りかかるがあっさりとそれは受け止められ、更にがっちりと絡めとられ再び実体弾での集中砲火が一夏を襲った。
数発がシールドバリアーを貫通し一夏の身体にダメージを与えるが、一夏は苦悶に顔を歪ませながら何とかそれから脱する。
武器は絡め取られたままであるが、一夏はウィング・スラスターの逆噴射オータムのISの脚を蹴り上げ、雪片を何とか回収した。
「ハッ!! すこしはやるじゃねぇかガキィ! ……あぁそうだ、今からおもしれー情報を教えてやるよ」
「面白い情報……?」
一夏は下卑た笑みを浮かべているオータムに聞き返すと、彼女は自らの歯をギラリと見せ、面白げに告げた。
「テメェをモンド・グロッソで拉致ったのは私の組織だ!! 感動の再会ってやつだなぁおい!! ギャハハハハ!!!!」
それを聞いた瞬間、一夏は自分の中で何かが切れる音がしたことを感じた。しかし、彼はそんなことは気にせず、ただ自身の本能が命じるままに行動した。
「……だったら、此処であのときの借りを返してやらぁ!!!!」
「バーカァ、熱くなってんじゃねぇよガキがぁ!!」
真正面から切りかかってきた一夏に対し、オータムはなにやら糸の様な物を彼に投げつける。すると、その糸は一夏の正面でパッと弾け蜘蛛の糸のように広がった。
「くッ!?」
何とか振りほどこうともがくものの、一夏はあっという間にがんじがらめにされ身動きが取れなくなった。
「ハハハハ!! よえー!! 弱すぎだぜお前!」
彼女は言いながら一夏へとにじり寄る。その手には今まで目にしたことがない四本足の機械が握られていた。
「さぁて、じゃあ愛しの白式ちゃんとのお別れの時間だぁ。たぁっぷりと別れを惜しみな!!!!」
オータムは凶悪な笑みを浮かべながら一夏の胸部にその機械を取り付けた。その瞬間、一夏の身体に電流にも似たエネルギーが放出された。
「ぐああああああああッ!?」
「ギャアハハハハハハハハハ! 泣け!喚け!子犬ちゃんよぉ!!!!」
叫び声を上げる一夏が心底可笑しかったのか、オータムは天井を仰ぎながら哄笑していた。やがて電流が消え、意図の拘束からも脱することが出来た一夏は完全に油断しているオータムに殴りかかる。
「無駄なんだよクソがぁ!!!!」
一夏の拳は受け止められることもせず、彼は蜘蛛のような脚に蹴り飛ばされロッカーに激突した。
「カハッ!?」
たたきつけられたその痛みが一夏に自分が今どのような状態なのかわからせることとなった。
……白式がない!?
そう思ったのも束の間、一夏はまたも蹴り飛ばされオータムの脚で踏みつけられる。
「お前の大事な白式ちゃんなら此処だよ。冥土の土産に教えてやろうかぁ? 今のは剥離剤つってなぁ、ISを強制的に引っぺがすことの出来る秘密兵器だ!! あの世で自慢しな」
その瞬間、オータムの脚から力が抜けたことを感じた一夏は何とか起き上がるが、オータムはそれを待っていたというように再び一夏を蹴り飛ばす。
そして一夏は壁に背中から叩き付けられ肺の中の空気を一気に失った。一瞬呼吸が止まるが、すぐさま首をオータムに絞められた。
「さぁて仕上げと行くかぁ! この私直々に殺してやるから光栄に思えよ」
ニヤッと笑ったオータムは一夏を殺そうとする。
しかし、その瞬間更衣室の扉が勢いよく開け放たれた。否、開け放たれたのではない凄まじい力で蹴り破られたのだ。
その証拠に扉があったところには誰かの足が見えている。
「随分と面白そうなことやってるじゃねぇか私も混ぜろよ。えぇ? 亡国機業さんよぉ」
本来扉があった前にはメイド服に身を包んだ黒髪の少女が悠然と佇んでいた。場違いな格好にもほどがあるが、彼女の瞳にはまるで久しぶりに獲物を見つけた肉食獣のような凶暴な光が灯っていた。
「んだぁ? テメェ」
オータムが一夏から手を離し少女に声をかけると、少女の方はオータムと似たような凶悪な笑みを浮かべながら言い放った。
「自己紹介がまだだったな。……鳴雨響だよろしくなァ、亡国機業」
後書き
あい、オータムさん登場でございますね。本当は前話で出てますが……
次回はオータムVS響を結構熱い展開でかければいいと思っております。
若干似たもの同士の二人が果たしてどのような戦いを繰り広げるのか……それは作者次第……!!
感想などありましたらお願いします。
ページ上へ戻る