SAO-銀ノ月-
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第一話
前書き
茅場晶彦による説明大会。
「リンク・スタート」
現実世界のあらゆるノイズが遠ざかり視界は暗闇に包まれる。
その中心に広がる虹色のリングをくぐれば、そこは<剣が自分を象徴する世界>
<ソード・アート・オンライン>
「おお…」
第一層<はじまりの街>の中央広場に出て、その街の完成度の高さに感嘆の声があがる。
デジタル世界だと分かっていても、現実世界と錯覚してしまった。
「こいつは…ナイスな展開しゃないか。」
予想以上の出来につい、口癖が出る。
日本刀を持ったサムライ<ショウキ>は辺りをチラチラと見ながら歩き出した。
「しかし、本当に良く出来てるな。」
ネット初心者からしてみても、とても感動的な光景だった。
(とりあえず、アイテムでも買いに行くかね。)
自分とて、RPGの基本ぐらいは押さえているつもりだ。
まずはアイテムだろう。
ソード・アート・オンラインのサービスが開始されてかなり時間がたっている。
<はじまりの街>の中央広場にいるプレイヤーは俺のみであり、とりあえず回復アイテムを買いに店に向かった。
「ありがとうございました〜」
NPCの店員から、回復アイテム(ポーション)を買った。
NPCの出来も素晴らしく、一部一部に気を配っているようだった。
(さて、フィールドに出てみるか。)
回復アイテムを腰の小物入れに入れて、フィールドに出ようとしたその時。
時刻が五時半を回った。
直後。
世界はその有りようを、永久に変えた。
リンゴーン、リンゴーンという音が響く。
「これは−鐘の音?」
鐘の音が響くと同時に、<ショウキ>の身体を鮮やかなブルーな光の柱が包んだ。
(確かこの現象は、<転移>!?)
考えている間にも、<転移>は実行され、強制的に中央広場に飛ばされた。
「なんなんだ…?」
俺の疑問に答えてくれる者は当然いない。
だが、人はいた。
一万人近い人々が、俺と同じように転移してきたようだった。
「どうなってるの?」
「これでログアウトできるのか?」
「早くしてくれよ」
などの言葉が聞こえる…ん?ログアウト?
俺は嫌な予感がして、右手の指を二本揃えて真下に向けて振った。
こうすることで、メインメニューが開くのだ。
やはりというべきか。
メインメニューには、<ログアウト>のボタンが無かった。
つまりは−この世界から出られないということ−
周囲の人間よりいささか遅く異常事態に気づいた俺は、
「あっ…上を見ろ!!」
という声で反射的に顔を上に向けた。
そして、そこに異様な者がいた。
【Warning】
【SystemAnnouncement】
という単語と共に、上空に浮かぶローブ。
顔が無く、中身は空洞だった。
『プレイヤーの諸君、私の世界にようこそ』
ローブが声を出した。
この異常事態について、何か説明があるにしては変だ。
『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ。』
茅場、晶彦。
ネットに詳しくない俺でも知っている、表舞台に出て来ない時の人である。
『プレイヤー諸君は、すでにメインメニュー画面からログアウトボタンが消滅していることに気付いていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、<ソード・アート・オンライン>本来の仕様である。』
仕様…最初から、ログアウトボタンは無かったというのか…?
『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはできない』
城とは、何だ?
この<はじまりの街>にそんなものは存在しない。
『…また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除も有り得ない。もしそれが試みられた場合−』
わずかな間。
『ナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』
−俺は茅場の言うことが分からなかった。
いや、分かりたくなかった。
『−残念ながら、すでに二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』
途中聞き逃してしまったが、一番重要なところは聞いた。
でも、何がなんだか分からなかった。
『諸君が、向こう側に置いてきた肉体の心配をする必要はない。現在、あらゆるテレビ、ラジオ、ネットメディアはこの状況を、多数の死者が出ていることも含め、繰り返し報道している。諸君のナーヴギアが強引に除装される危険はすでに低くなっていると言って良かろう。今後、諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま二時間の回線猶予時間のうちに病気その他の施設に搬送され、厳重な介護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君には、安心して…ゲーム攻略に励んで欲しい』
「な……!?」
この状況でゲームを攻略しろだと?
「何を言っているんだ!ゲームを攻略しろだと!?ログアウト不能の状況で、呑気に遊べってのか!?」
誰かが声を張り上げた。
しかし、茅場の言葉は尚も続く。
『しかし、充分に留意してもらいたい。諸君にとって、<ソード・アート・オンライン>はすでにただのゲームではない。もう一つの現実と言うべき存在だ。…今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントが0になった諸君のアバターは永遠に消滅し、同時に』
このゲームがもう一つの現実だと言うのなら。
『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』
…予想していたとはいえ…自分のヒットポイントが尽きると同時に本当に死ぬ。
まさに、デスゲーム。
『諸君がこのゲームから解放される条件は、たった一つ。先に述べた通り、アインクラッド最上部、第百層までたどり着き、そこに待つ最終ボスを倒してゲームをクリアすればよい。その瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされることを約束しよう。』
なるほど。
<この城の頂を極めるまで>か。
巨大浮遊<城>アインクラッド。
その頂まで。
俺たちはログアウトできず、自分たちの生活に戻ることはできない。
いつか、誰かがゲームをクリアしてくれるまで。
それまでに一度でもHPが0になれば−俺は死ぬ。
『それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実であるという証拠を見せよう。証拠のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』
反射的にメインメニュー画面のアイテムストレージを見る。
そこにあったのは、手鏡だった。
恐る恐る手鏡を持ってみても何も起こらない。
(なんだこりゃ?)
−と。
突然、視界が閃光でホワイトアウトする。
ほんの2、3秒で光は消えて、元の風景が戻ってきた。
…一部を除いて。
「…俺…?」
手鏡に移っていたサムライのような顔は消え去り、代わりにあったのは、現実世界の俺の顔だった。
周りを見渡してみると、ファンタジー風の美男美女はコスプレをしている集団に変わっていた。
『諸君は今、なぜ、と思っているだろう。なぜ私は−SAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身の代金目的の誘拐事件なのか?と』
そんなことは知るか。
『私の目的は、そのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら…この状況こそが、私にとって最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、観賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』
短い間。
『…以上で<ソード・アート・オンライン>正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の−検討を祈る』
その言葉を最後に、茅場晶彦のローブは消えていった…
「嘘だろ…なんだよこれ、嘘だろ!」
「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」
「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」
「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」
様々な反応を見せるプレイヤーの中、俺は…怒りに震えていた。
ふざけるな…観賞だと?そんなものの為に多数の人を殺し、残りの人を閉じ込めたというのか?
「ふざけるな…!」
俺はついさっき、あいつに「また」と言ったんだ。
「また明日!」と、約束したんだ…!
「…約束は守る。」
回復アイテムであるポーションは買ってある。
騒ぐプレイヤーたちの列から出て、フィールドを目指す。
HPが無くなったら本当に死ぬデスゲーム。
「…ナイスな展開じゃないか…!」
後書き
見切り発車にも程があるなぁ…
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