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駄目親父としっかり娘の珍道中

作者:sibugaki
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第55話 幾ら時が経とうと会いたくない奴に会うとテンションが下がる

 
前書き
【前回のあらすじ】

 シグナムの怒りを買ってしまい、結局ボディを得るに至らなかった万事屋ご一行は首だけを持って帰宅した。どうやらその生首は事務処理用に特化しているらしく、早速起動させてみたがやっぱりゴミ程度の能力しかなかった。
 呆れた銀時がテレビをつけると、其処ではからくり家政婦悦子ちゃんの産みの親殺害事件が報道されており、その犯人がこの生首ことたまだといわれたのだ。
 果たして、たまは一体何をしでかしたのか? そして、そんな銀時達に迫る新たな脅威が――― 

 
 時刻は正午を過ぎようとしていた。空には真っ青な空とそれを照らす太陽が顔を覗かせている。で、その太陽と青空の下にある江戸の町。
 その町の一部である細い道をひたすら走る一台の白いスクーターと一匹の大型犬の姿があった。

「ちょっとぉぉぉ! 何なんですかあいつら!? 奉行所とか言っておきながら人ん家の扉破壊するわ不法侵入するわどうなってんですか! 確か奉行所って江戸の治安を守る組織ですよねぇ? 何で自分から率先して江戸の治安ぶっ壊してるんですか!?」

 銀時の操るスクーターの後ろに跨る形で新八が長々と前回のあらすじっぽいツッコミをしてくれた。

「そんなの俺が知るかぁ! あれだよ、奉行所の連中だって偶にはやんちゃしたい時もあんだよ! あぶない刑事なんだよ!」

 半ギレ混じりに銀時が言葉を返す。まぁ、何が言いたいかというと、万事屋の入り口を破壊した連中は碌な連中じゃないと言う事になりそうだ。

「どうしようお父さん。家のドア壊されちゃったよぉ。後で修理代お登勢さんから請求されちゃうよぉ! 今月あんまり仕事してないから破産しちゃうよぉ!」
「ドアの前に自分の命の心配しろぉ! このままじゃ俺達人生そのものが破産されちまうんだぞぉ! あの変な奴等によぉ!」

 スクーターの横でそれと同じ速度で走る定春に跨って手綱を引いている神楽にしがみ付く形で乗っていたなのはがドアの心配をしている。そんななのはに父銀時の鋭い指摘にも似たツッコミが入る。
 どうもなのはは今一空気が理解出来ていないと言うか他の奴等と考え方が2~3メートル位違った位置にあると思われる。

「大丈夫アルよなのは!」

 そんななのはに神楽が勇気付けるかの用に声を掛けてくれた。流石はなのはのお姉さん的ポジションにあるだけの事はある。新八はそう感心していた。

「どうせ来週辺りには元通りになってる筈アル。所詮ギャグ小説で家とか家具とかは壊れて当然の代物アルよ」

 ちょっとでも感心した自分を思いっきり新八は恥じた。よりにもよって今この展開をギャグパートだと言い切ってしまっている神楽に新八は心底呆れを覚えていたのだ。

「ちょっと神楽ちゃん! 今のこの何処がギャグパートなの!? どう見てもシリアスパート丸出しじゃん! ギャグパートに殺人事件とか起こらないからねぇ!」
「ばっきゃろぉい! そんな古臭い常識に囚われてるせいで今のギャグ小説が廃れてるって何で分からないアルか? 何時までも古い考えに縛られてんじゃねぇぞこの駄眼鏡がぁ!」
「お前は古い考え云々言う前に常識を覚えろ!」

 新八と神楽のギャグパートに関する熱いトークが展開されていた。

「おいてめぇら! 何時までもギャーギャー喚いてんじゃねぇ!」

 そんな二人に渇を入れるかの如く銀時が声を放った。何時になくシリアスな声色だったが為に新八も神楽も黙って銀時を見た。

「良いか、例え今がシリアスパートだとしてもさりげなくギャグを入れる。それこそが銀魂クオリティなんだよ! 例え殺人事件が目の前で起こったとしてもそれを見て【あれ、これケチャップなんじゃね?】とかって言う感じにさりげないギャグを織り交ぜる。これぞ銀魂クオリティなんだよぉ!」
「どんなクオリティだそりゃぁ!」

 結局銀時の言い分も滅茶苦茶だった。深い溜息を吐きながら新八はふと、聞き慣れない音を感じ取った。背後から何かが高速で近づいてくる音がする。
 物凄い勢いで走っているような音と、何かが音を立てて壊れる音。その両方が絶妙なバランスで音を奏で合い新八の耳に届いていた。

「な、何の音だ……」

 恐る恐る振り返った新八は世にも奇妙な光景を目の当たりにした。なんと、其処には屋根の上を伝って高速で走ってこちらに迫ってくるメイドが居たのだ。
 ピンクの長い髪を靡かせるその風貌は可愛らしいメイドそのものだが、目には一切生気を感じられない。笑顔を振りまいているがやってる事は残虐な破壊活動にも匹敵している。

「ぎ、銀さんんんんん! メイドが、メイドがこっちにぃぃぃ!」
「落ち着け新八! とりあえず右手に【メイド】って書いて呑め! そうすりゃ落ち着くから!」
「本番前の芸人かぁそりゃぁ! 第一そんな事したって目の前の現実はなくならないんだよ! 現実を直視しろぉ現実をぉ!」

 新八にせっつかれた銀時は仕方なくサイドに取り付けられているミラーで後ろを確認する。確かに其処には屋根伝いに高速で走るメイドの姿があった。それも徐々に近づいてきている。

「お父さん、メイドだよ! メイドが凄い勢いで走ってくるよぉ! 瓦いっぱい壊して追い駆けて来るよぉ!」
「ちっ、あんな走り方じゃナ○トの世界でやっていけねぇぞぉ! 下忍試験ですら落とされるんじゃねぇのかあのメイド」
「大丈夫だよ! 瓦がない家なら音が出ないから」

 と、なのはが指を立てて進言する。

「そう言う問題じゃねぇだろうが!」

 あっさり切り捨てられてしまったのだが。

「おい、たま! 何だあいつは? あいつお前の事追っ掛けてんじゃねぇのか?」

 答えを求める為にあのメイドに一番近しいと思われるたまに質問を投げ掛けてみた。が、たまは目を瞑っていた。銀時の問いに一言も答えようとはしていない。

「おい、どうしたんだよ? 何か言えよコノヤロー!」
「返事がない。ただの屍のようだ」

 淡々とたまがそう言っていた。どうやら自ら屍を演じようとしているようだ。

「そんなぁ、たまさん死んじゃったのぉ!?」
「一々騙されてるんじゃねぇよクソガキ! どんだけ純情なんだよてめぇは!」

 目に涙を潤ませながら見ているなのはに銀時が怒り混じりのツッコミを入れる。そして、再度たまに目線を向けなおした。

「そうかい、そんなに屍を演じてんなら蘇らせないとなぁ」
「死人を蘇らせるには呪文を使うか最寄の教会へ行き私名義で400万ゴールド寄付して下さい」
「金ないから呪文使いまぁす! はい、ザオリク!」

 復活の呪文を唱えた銀時だったが、やってる事は狸寝入りを決め込んでいるたまを地面にこすり付けて無理やり蘇生させようと言う死者に対する配慮全く無しと見られても反論出来ない超極悪プレイだった。

「あいたたたた! 死者に対する冒涜ですよぉそれはぁぁぁ!」
「冒涜だろうがボーボボだろうが関係ねぇ! さっさと説明しろ! でねぇと今度は壁にぶつけるぞぉ!」
「いたたた! はい、復活しました! 復活しましたよぉぉ!」

 流石に居た堪れなくなったのか強制的に蘇生を宣言したたまを掲げて、銀時は再度質問をした。

「で、あの馬鹿みたいに走ってるあのヤンチャ娘はなんだ?」
「何処からどう見てもからくり家政婦ですが? 他にどんな情報をお望みですか? あ、分かりました。直ちにサーチします」

 何かを汲み取ったのかたまが追い駆けて来るメイドに対し何かを検索し始めた。

「検索終了しました。彼女の名前は【芙蓉 弐-参丸五号】芙蓉プロジェクトの最新型からくりメイドです。好きなオイルは46年もの純粋オイル。好きな服のメーカーはユ○○ロ製で最近お腹回りについてきた贅肉が気になり出してる―――」

 説明を言い終わる前に再度銀時の手によるザオリク(物理)が行われた。

「俺が聞きたいのは其処じゃねぇんだよ! もちっと為になる情報を教えろやゴラァ!」
「為になるとはどんな情報ですか? 仕事のシフトですか? それとも彼女にピッタリなデートスポットですか?」
「おぉい、もう一度ザオリク食らいてぇか? 今度はザオラルも一緒に唱えちまうぞ」

 額に幾つもの青筋を浮かべつつ銀時はたまを睨んだ。

「きゃははは、見つけましたよぉホクロビーム!」

 そうこうしていると、頭上にまで接近していたメイドが銀時達を見下ろしながら声を放った。可愛らしい少女チックな声だった。が、やってる事がやってる事だけに全然萌えられないのが残念極まりないのだが。

「今度こそ貴方の額のそのホクロを、お掃除しますですのぉぉ!」

 そう叫び、突如としてメイドは跳躍した。持っていたモップを頭上でそれこそ猛将の如く振り回しながら銀時達の元へと落下してくる。

「うぉっ! 白のパンティ……じゃなかった! こっち来んなぁぁ!」

 咄嗟に銀時はアクセルを回した。スクーターが一段と速度を上げてギュンと前へと走る。その丁度後にメイドが地面に落下し辺り一面を破壊し尽してしまった。その光景を目の当たりにした銀時と新八は思わずあんぐりと口を大きく開けてしまった。

「おいぃぃぃ! あれの何処が家政婦だぁぁ! あれも兵器じゃねぇか! メイド服にマシンガン持っててもおかしくねぇ性能だぞありゃぁ!」
「お父さん、そんな事よりどんなパンツの柄だった? キャラ物だった?」
「お前が使うにゃ10年早い大人の柄だったよ!」

 やはりなのはは何処か観点がずれてるような気がする。そう思いながら銀時は大声で怒鳴った。

「因みに彼女の仇名は【くりんちゃん】と言い、余りの潔癖症が故に購入者から【マジでうざいんですけど、ってかマジでうざすぎてwrt。略してマザワ】とクレームをつけられ返品され、現在は研究所の清掃活動を主としていますが、度々私の額のホクロをゴミと勘違いして掃除しようとする馬鹿です」
「銀さん、彼女がたまさんをホクロビームって苛めてた張本人ですよ」

 新八が叫びながら後ろを見る。後ろでは例のメイドがクレーターの出来た地点から一歩も動かずにこちらに向けてモップを構えていた。

「逃がしませんよぉ、ホクロビーム!」

 またしても失礼な発言をするくりんちゃん。その時だった。くりんちゃんの足元に突如見覚えのある魔方陣が展開される。

「ぎ、銀さん! あの魔方陣、まさか!」
「おいおい、悪い冗談だろぉ?」

 青ざめながらもチラリと後ろを見る。が、やはりそうだった。くりんちゃんの足元にはやはり見覚えのある魔方陣が展開されていた。
 そう、かつて銀時達が海鳴市に行った際に向こう側の魔導師達が頻繁に使ってた魔法陣とほぼ同じ形をしていたのだ。

「お掃除、ですのぉぉぉ!」

 叫ぶくりんちゃん。そして、モップの穂先から数発の魔力の篭った弾丸が発射された。
 放たれた弾丸は凄まじい速度で銀時達目掛けて突っ込んで来る。

「う、嘘ぉぉぉ!」

 魔力弾はそのまま銀時の乗っていたスクーターに命中。スクーターはその場で爆発四散し、その勢いの為か銀時、新八、神楽、なのは、定春達は空中に巻き上げられた後に地面に叩きつけられた。

「いちち、おい! 大丈夫かお前等?」

 痛みを物ともせず立ち上がりまわりを確認しようとする銀時。だが、立ち会った刹那、銀時の体を無数の光り輝く鎖が絡め取っていった。

「銀ちゃん!」
「お父さん!」

 その横で神楽となのはが叫ぶ。が、その二人と定春にもまた同じ様に鎖が絡みつき動きを封じてしまった。

「銀さん!」
「来るな新八! お前も動けなくなるぞ!」

 只一人遠くへ飛ばされた新八は拘束を免れていた。だが、状況は最悪だった。常人離れした破壊力を持ち、更には異世界で出会った魔法を使う殺人メイドが銀時達を追い詰めていたのだ。

「おいおい、もしかしてあのメイドさんSっ気でもあんのか? 悪いけど俺も実はSだから。縛られても感じられないんだよ俺」
「お父さん、Sって何? 磁石のS極の事?」
「お前が知るには後10年経ってからな。とにかく俺は縛られるより縛る方が好きなの! だからこれを早く解いてくんない? さっきから食い込んでてめっちゃくちゃ痛いんだけどぉ!」

 必死に拘束から逃れようともがくが、銀時達を絡めていたそれはかなりの強度を誇っているらしく千切れる様子を見せない。そんな銀時達に向かいゆっくりとくりんちゃんが近づいてきていた。

「ご安心下さい。そのホクロビームを渡して下されば何も致しません。こちらでそれを処分するだけですの。でも、渡してくれないと言うのならば―――」

 言葉を途中で切り上げてくりんちゃんは立ち止まった。それを皮切りにするかの様に銀時達の回りを取り囲むかの様に夥しい数のメイドが姿を現す。皆どれも死んだような目をしている。薄気味悪いメイド達だった。

「貴方達を処分しますですの」
「おいおい、一体何のプレイだぁこりゃぁ? メイドさんプレイか何か? 悪いけど俺制服って言ったらどっちかって言うとナース服の方が好みだからさぁ、悪いけどメイド服ってあんまり好きじゃないんだわ」
「さ、大人しくホクロビームをお渡し下さい」

 銀時の言葉などガン無視し、ズンズンとくりんちゃんは近づいてくる。

「教えて下さい。何故貴方達は私を付け狙うんですか?」
「何を言っているんですの? 貴方が林博士から奪った【アレ】を何処に隠したんですの? 早く私達に渡すんですの!」

 アレ? アレとは何だろうか。良くは分からないが、どうやらそれを求めて奴等は血眼になってたまを追い駆けていたようだ。

「アレとは何ですか? ねこのかりんとうですか?」
「惚けても無駄ですの。貴方はアレを手に入れる為に私達の産みの親である林博士を手に掛けたんですの。ですが、アレは貴方みたいな旧式では意味を成しませんですの。宝の持ち腐れですの!」

 淡々と語るくりんちゃん。だが、その口調には何処と無く高揚している様にも感じられた。

「アレは、あの人が持っててこそ意味を成す物ですの。それを手にした時、私達からくりは神にも等しい存在になれるんですの!」
「何を言っているのですか? 私にはさっぱり―――」

 言葉の途中で、たまは口を閉じた。
 突如、彼女の脳内に映像が流れてきた。それは一人の年老いた老人が悲しげにただ同じ言葉を呟いている映像だった。その老人の目の前には一人の女性が横たわっている。顔に布が被せられていると言う事は彼女は既にこの世に居ない存在だと言う事が伺える。
 そんな彼女の横で小さく座っている老人。背後から照らす西日が老人の体を照らし、それが余計に寂しさを演出していた。その老人は、ただ同じ事を何度も何度も呟いていた。

【あぁ、私はからくりになりたい】

 たまにはこの老人の悲しみが分からなかった。
 ただ、その老人が何処か寂しそうで、何処か悲しそうにしているのだけは理解出来た。そして、そんな老人を見ると、不思議とたまの中で何かがキュッと締まる感覚を覚えていた。しかし、それが何なのかたまには理解出来なかった。

「え? た、たまさん!」

 突如、新八が驚きの声を挙げた。それに反応し、銀時、神楽、なのはでさえも驚きの顔を浮かべていた。
 たまが泣いていたのだ。からくりである筈のたまが目から涙をこぼし、泣いていたのだ。

「か、からくりが涙を……まさか、これが!」
「やはり持っていたんですのね。それこそ林博士から奪った証。からくりが絶対に流す事のない物ですの!」

 求めていた物をようやくみつけられたのか? 何時に無く嬉しそうに声のトーンを上げて語るくりんちゃん。

「さぁ、早くそのホクロビームを渡して下さいですの!」
「って言うけどよぉ、こんな身動き取れない状況でどうやって渡せってんだ? 無理言うんじゃねぇよボケェ!」
「まぁ、あくまで渡さない気ですのね? だったら、貴方をお掃除して回収させて貰うまでですのぉ!」

 交渉は決裂したと思い込み、くりんちゃんは跳躍した。渡さないと言うのであればホクロビーム以外の面子を排除し、首だけになったホクロビームを回収するだけの事だ。そう判断しての事だったのだろう。

「ちょっ、待てお前! 俺まだ一言も渡さないなんて言ってないだろう?」
「いいえ、さっき貴方は断言しました【お前等にこいつは渡さない。俺の魂がある間は絶対にこいつを守り抜いてみせる】と、仰っておりましたが?」
「言ってねぇよそんな歯の浮くような台詞! 何それ、俺生首に欲情でもしたってのか? する訳ねぇだろうがボケェ!」

 言われのない嘘っぱちを言われ、逆上する銀時。しかしそんな銀時などお構いなしにくりんちゃんは銀時に迫る。どうやら最初の目標は銀時と定めたようだ。

「ぎ、銀ちゃん! 上、上ぇ!」
「!!!」

 神楽の声に反応し見上げた銀時だったが、ガチガチに拘束されていた今の状態では身動き一つ取る事さえ出来ない。くりんの持っていたモップは真っ直ぐに銀時の脳天に向かって振り下ろされていた。一撃の元に銀時の頭蓋をかち割るつもりだったのだ。

「お父さん! 早く、早く逃げてぇ!」
「くそっ、逃げたいのは山々だけどよぉ……身動き一つとれねぇ!」

 必死に身をよじらせる銀時だが、そんな事でこの拘束から逃れられる筈がなく、無駄な努力に終わってしまった。その間にもくりんちゃんは銀時の目の前にまで迫ってきた。

「あぁ、銀時よ。死んでしまうとは情けない」
「うっせぇんだよ! 主人公が死ぬか生きるかって時に一々ボケてるんじゃねぇよ!」

 それが最期の言葉となるだろう。後数秒もすれば銀時の頭蓋は粉々に打ち砕かれ、目の前には一人の侍の骸が出来上がる。それを新八も、神楽も、なのはも、定春も只黙って見守るしか出来なかった。

(死ぬ、お父さんが……死ぬ?)

 その時、なのはの中で時間が止まる感覚に見舞われた。全てがスローモーションで動いているように見えている。目の前に展開される銀時の確実な死。そしてその後に起こる事は、回りに居るからくりメイド達の手により自分も、そして仲間達も皆殺される確実な光景だった。

(お父さんが死んで、新八君も、神楽ちゃんも、定春も、皆死ぬ……)

 なのはの中で鼓動が大きく鳴った。彼女の中心にある魂が鼓動を起こしているのだ。そして、その鼓動に感応するかの様に、青い宝玉が再び輝きだした。

(嫌だ! 死んで欲しくない! お父さんにも、神楽ちゃんにも、新八君にも、定春にも、皆私の大事な人達なんだ。皆、皆死んで欲しくない! 誰も、誰も死んで欲しくない! 誰も殺したくない! 死なせたくない!)

 強く、ただひたすらに強く願った。その刹那だった。なのはの体内にあった青い宝玉の輝きがより一層強さを増す。そしてその輝きは、その青い宝玉を中心に体全身へと駆け巡り、両腕に眩いばかりの光を集めて行った。
 その後の事は分からない。気がつけばなのはは大きく両腕を振るっていた。先ほどまで腕一本動かせないほどに雁字搦めにされていたと言うのに、その拘束が一人でに破壊されていたのだ。
 神楽のも、銀時のも破壊されている。そして、回りを見ればくりんちゃんは後方へと飛び退いており、周りから跳びかかってきた他のメイド達は皆真っ二つに切断されて機能を停止させていた。
 切断面が真っ赤に染まっている。高熱を誇る何かで一気に切り裂かれたとしか思えない。

「なに? 何が起こったの?」
「なのは、お前……」

 銀時が真っ青になりながらなのはを見ていた。その視線に気付き、なのはは自分の体に異変が起こったのか確認をした。体に異変はない。だが、両腕が違った。彼女の両腕には眩いばかりの光が集まっており、その光が長く伸び、まるで剣の様な形を象っていた。恐らくこの両腕に展開された光の剣で先の拘束を打ち破り、からくりメイド達を跳ね除けたのだろう。

「え? 何これ、何で私の腕が光ってるの?」
「間違いないですの! その力を使えると言う事は、貴方は此処の人間じゃないんですの!」

 驚きの中に居るなのはに向いくりんちゃんが意味深な発言をしてきた。その発言になのはは驚愕する。

「え? どう言う事なの? 私は江戸で生まれたんじゃないの?」
「この世界で生まれた人間にその力は使えない筈ですの! その力を使えると言う事は、紛れも無く貴方はあちら側の人間ですの!」
「あちら側? 何それ! あちら側とか、此処の人間じゃないとか、言ってる事がちんぷんかんぷんで訳が分からないよ!」

 くりんちゃんの言っている事がなのはにはさっぱり理解出来なかった。寧ろ意味不明な単語が頭の中に入っていく度に頭の中で暴れ回る感覚を覚える。激しい頭痛を覚えた。

「なのは、聞くな! からくりの戯言なんざ一々耳にしてたらキリがねぇぞ!」
「お父さん、私って、一体何なの? 私は何処で生まれたの? 何で、私はこんな力が使えるの? ねぇ、何で?」
「そ、それは……」

 銀時は答えられなかった。答える訳にはいかなかった。なのはが海鳴市、即ち魔法が使える世界の人間であると言う事を、そして江戸が全く別の世界であると言う事を、銀時は言う事が出来なかった。言えば全てを思い出してしまうかも知れない。
 そうなれば、なのはは狙われてしまう。それを避けたかったのだ。

「あれだけの力を持ちながら自分の意思で制御する事も抑制する事も出来ない。貴方みたいな子は世間ではこう呼ばれているのですよ」
「止めろ! それ以上余計な事を吹き込むな!」
「貴方は、【悪魔】そのものです」
「止めろって言ってんのが聞こえねぇのかぁ!」

 くりんちゃんに向い銀時は突進した。猛然と木刀を振るいそれ以上言葉を発せさせないようにと。
 しかし、その一撃はくりんちゃんには届かなかった。彼女の顔面に届くよりも前に分厚い結界が張られ、木刀の一撃は弾かれてしまったのだ。

「ぐっ、まさかこんな奴まで使えるのかよ?」
「でも、何で? 確かこの世界じゃ魔法が使えなくなる筈じゃないんですか?」
「知るか! どうなってんだよこいつ等。まるでインチキじゃねぇか!」

 愚痴る銀時と慌てる新八。そんな二人の前に立つくりんちゃん。

「魔法が使えないのは貴方達が人間だからですの。世界の理を受けるのはあくまでその世界で生まれた者に課せられる言わば枷ですの。でも、無から作られた私達からくりにはその枷はありません! 故に、この世界でも私達はその力を使う事が出来るんですのぉ!」

 突如として、くりんちゃんの体が宙に浮いた。魔力弾やバインドだけでなく、飛行魔法まで使う事が出来るようだ。

「野郎!」
「貴方達に勝ち目はありませんわ。例えこの世界が貴方達の世界であったとしても、この力を破る術を貴方達は持っていませんもの」
「悪いなぁ、そう言う輩となら嫌と言う程経験してんだよぉ!」

 飛んでいるとは言え、まだ木刀の届く範囲に敵は居る。銀時はジャンプし、木刀を上から下に向い振り下ろした。木刀とモップが互いにぶつかり合い火花を散らす。
 互いに一旦後方へと下がる。だが、くりんちゃんが下がった後ろには神楽が控えていた。

「いい加減寝てろや! このトンボ目玉がぁぁ!」

 今度は神楽がくりんちゃんに向い傘を振るった。しかし、くりんちゃんはそれを結界を張ってやり過ごす。

「ちっ!」
「無駄ですの! 貴方達には私達を倒す事なんて出来る筈がないんです―――」

 くりんちゃんの言葉が言い終わるよりも前に彼女の口に野太い光の柱が突き刺さった。なのはの右手から伸びた光だった。その光がくりんちゃんの言葉を遮り、その体中に凄まじいエネルギーを送り込んで行った。

「さっきから訳の分からない事ぐちゃぐちゃ言わないでよ! 私がここの人間じゃないとか、あちら側の人間だとか、仕舞いには悪魔とか、もうちょっと順序良く話してくれないと整理出来ないんだからねぇ!」

 半分八つ当たりにも似たその一撃でくりんちゃんの機能を完全にシャットアウトした。
 無残に地面に倒れ、そのまま動かなくなるくりんちゃん。そのくりんちゃんが倒れたのを皮切りに続々と後続のメイド達が雪崩れ込んでくる。
 無論、彼女達もまた魔法を使用する事が出来るようだ。

「新八、受け取れ!」

 銀時は咄嗟に新八にたまを投げ渡した。

「ぎ、銀さん?」
「お前は先に源外の爺さんとこに行け。俺達は此処で足止めする!」
「わ、分かりました!」

 了解し、即座に新八は走った。その新八の後を追おうとするメイド達の前に銀時が立ちはだかる。

「悪いなぁ、俺まだ払った料金分のサービス受けてねぇんだよ。きっちり料金分サービスしてくれや」

 木刀を肩に担ぎ、にやりと笑みを携えて銀時が立ちはだかった。
 その横では同じ様に神楽が傘を片手にメイド達を蹴散らしている。そのすぐ近くにて定春に跨ったなのはが両手の光を駆使して戦闘をしている。
 良くは分からないがこれを使えばメイド達の結界すら容易く破壊する事が可能なのはわかる。遠くに居る奴は光を延ばして叩き切り、近くに居る奴には光を直接叩き込み黒こげにする。そんな戦いをしていた。

「ってかなのは! お前マジでやばくね? 流石は俺が育て上げただけの事はあるな」
「何言ってるネ銀ちゃん。このままじゃ銀ちゃん主役降板される危険性大アルよ」
「え? マジ!? それかなりやばいじゃん!」

 銀時が主役降板の危機感を覚える位に今のなのはは輝いていた。正に主役、主人公、花形スターとも言える活躍ぶりを見せていたのだ。
 白馬(定春の事ね)に跨り群がる敵を千切っては投げ千切っては投げ。と言う正に無双プレイさながらの戦いを見せていたのだ。
 が、その無双プレイは突如として終わりを迎えてしまった。

「あ、あれ?」

 突如としてなのはの両手から光が消えてしまったのだ。同時にさっきまで体から湧き上がっていた高揚感も冷め切ってしまった。再びあの力を出そうと力むが一向に変化がない。何時も通りの状態に戻ってしまったようだ。

「お父さん、急にさっきの光が出なくなっちゃったよぉ!」
「え、マジ!? やったね、これで俺が主役に舞い戻れるってもんだぜ」

 相変わらず肝の小さい発言であった。そう言っている間にも回りには続々と殺人メイド達が押し寄せて来る。しかもこいつら全員例の魔法が使える厄介な奴等だった。
 流石に魔導師程の能力はないまでも結界を張られるのは少々厄介だった。何せ初撃で倒せないのだから。

「銀ちゃん、このままじゃ福袋ネ!」
「それを言うなら袋叩きな! 後袋小路もあってるみたいだぞ」

 等と言ってはみるが状況はやっぱりやばかった。下手にメイド達を突っ切ろうものなら例の拘束を受けてしまうだろう。かと言ってこのまま無駄に戦い続けていても体力の消耗にしかならない。結構やばい状況であった。

「銀ちゃん、どうするネ!」
「決まってるだろ! こう言う時の脱出方法は只一つしかねぇだろうが!」

 銀時がそう言うと猛然と突進した。目の前に立つ殺人メイド達を次々に打ち倒していく。銀時が立案した作戦は一点突破だった。
 下手に時間を掛ければ相手に拘束されてしまう。ならばそれよりも前に此処を抜け出せば良い。そう考えていたのだ。
 
「おらおら、退け退けぇ! 俺ぁ攻めの女は好きじゃねぇんだよ!」
「退くアルゥ! そして酢昆布1年分持って来いやぁ!」

 無茶苦茶な事を言いつつも銀時と神楽の二人で敵を薙ぎ倒しつつ前進する。そのスピードは半端じゃなく速く、中々拘束が出来ずに居た。
 やがて、メイド達の包囲網の先が見えて来た。もうすぐ、もうすぐこの包囲網から抜け出せる。そう思いスパートを掛けて走った。
 包囲網を抜け切った銀時達を待ち受けていたのは、設置型のバインドトラップだった。

「げぇっ!」

 その存在に気付いたのだが時既に遅し。一度走り出したら止まれない青春の様にトラップ内に入ってしまった銀時達全員が揃って雁字搦めに拘束されてしまい地面に倒れ伏してしまった。

「貴方達が一点突破を試みる事は既に理解しておりました。それ故にこうして包囲網の範囲外にトラップを仕掛けさせて頂きました」

 相変わらず覇気も何も感じさせない無感情な言葉が銀時の耳に入ってくる。

「畜生、これ解くアル! 罠を仕掛けるなんて卑怯アルよ! お前等影牢でもやってるつもりアルか?」
「おいぃぃぃ! っつかお前等重いんだけどぉ! マジで退いてくんない? 特に定春!」

 今の所銀時を一番したにして、その上に神楽、定春、なのはの順に倒れている積み重ね形式の状態で更にバインドが施されて身動きの出来ない状態に仕上がっていた。

「申し訳有りませんが、貴方方を計画の障害と判断し、処分させて頂きます」
「おいぃぃぃ! 何だよこの展開ってさぁ! 明らかに俺達ピンチじゃん! どうすんだよこの状況!」

 一難去ってまた一難であった。しかも状況は更に悪い。銀時と神楽が揃って身動きがとれず、なのはも先ほどの力が一切使えなくなっていた。後は回りを取り囲んでいるメイド達に良い様に嬲られた後でゴミの様に処分される未来しか見えない。正にお先真っ暗な状態であった。
 目の前で掃除用+殺人用のモップを振り上げているメイド達が居る。そしてスカートの中からそっと覗かせる大人の柄のパンティ。
 その刹那だった。目の前に居たメイド達が横一文字で腰から上の部分がスッパリと切り取られていく光景が映し出された。

「何だ何だ?」
「おぉっ、きっとお助けフラグアル! 良くジャンプ物でもある展開ヨォ!」
「なる程、主人公のピンチに颯爽と駆けつけてくれる新しい仲間キャラってか」

 最早お決まりの展開に太鼓判を鳴らす銀時と神楽。ふと、自分達を拘束していたバインドが引き千切られる感覚を感じた。どうにか身動きが取れるようになったので定春がその場から退く。それに乗じて銀時と神楽も身を起こす。
 そして、バインドを解いてくれた人物を見て、銀時達は思わず声を挙げそうになった。

「よっ、久しぶりだねぇ」
「え? 何で、何でお前が此処に居んの?」

 銀時が素っ頓狂な声を挙げる。それもその筈。目の前に居たのはかつて海鳴市で激闘を繰り広げたアルフだったのだ。
 相変わらず頭には犬耳を生やし、腰には尻尾が靡いている。

「何だよぉ、折角助けてやったのに素っ頓狂な声あげてさぁ」
「あ、あぁ……って、お前が居るって事はまさか!」

 銀時の脳裏に一抹の不安が過ぎる。すぐさま視線を定春の方に向けると案の定だった。
 定春の上に跨っていたなのはに何者かが抱きついていたのだ。何処と無く見覚えのある風貌だった。金色の髪に黒いリボンとマント。そして同じ色の鎌を模した杖。
 間違いなかった。

「って、やっぱりお前の来てたのかよ!」

 そう、銀時の不安の種は即ちフェイトの事だった。彼女は魔導師としては高水準を行く結構優秀な魔導師だ。かの大魔導師プレシア・テスタロッサを母に持ち、魔法の知識や技術を一通り習得しているので今の状況ではとても頼もしい増援と言えるだろう。
 が、銀時にとっては一番会いたくない人間であった。何故かと言うと、それは今目の前で起こっている惨状のせいだったりする。

「なのは、無事で良かった! 本当に間に合って良かったよ」
「久しぶりだね、フェイトちゃん。って言うか、何で抱きついてるの?」

 感動の再開を喜ぶフェイトを他所に、なのはは何故自分に抱きついているのか理解に苦しんでいる状況だった。そう、フェイトはどうしようもない位になのはが好きなのだ。
 それが男ならば銀時も考えるかも知れないが、残念な事にフェイトは女だ。つまり二人がくっついても全く生産性のない関係になるだけでなく、大事な一人娘を無駄にしてしまう事になってしまうのだ。
 
「おいコラ! 出てきて早々百合を爆発させてんだじゃねぇよ脳天お花畑!」
「何? 折角助けてあげたのに礼の一つも言えないの? だから貴方は万年天然パーマなのよ」

 さっきの嬉しそうな顔とは一変して、互いに嫌悪の形相で睨み合う両者。
 そう、銀時とフェイトはとても仲が悪いのだ。出会いも最悪だったしそれからもなのは絡みで何度も争い会った事がある。
 銀時の性格もあるがそれと同時になのは絡みと言う事もあってか二人の仲が悪くなるのはそれほど時間は掛からなかった。

「大体てめぇ何で此処に居んだよ! 確かお前裁判前だっただろ? 抜け出してきたのか? 脱走してきたのか? プレイズンブレイクしてきたのか?」
「失礼な事言わないでよ! ちゃんとクロノには許可貰ったわよ! 裁判の目処が立たないからこうして自由時間を貰って江戸に来たのよ! そうでなかったら誰があんたの顔を見に来る訳?」
「相変わらず目上の人に対する言葉遣いが出来てないなぁクソガキ! 一度しばき倒して社会の常識ってのを叩き込んでやろうかぁ?」
「上等じゃない。常識の欠片もないあんたがそれを出来るって言うんならやってみなさいよ!」

 互いに喧々囂々罵りあいが続く。本当にこの二人は仲が悪いのだ。

「やれやれ、相変わらずだねぇフェイトも」
「お父さんなんであんなにフェイトちゃんのこと嫌うんだろう?」
「まぁ、色々あんだよ。色々とね」

 そう言いつつ、遠い目をするアルフ。最早彼女の力ではどうしようもない事態にまでなってしまっているようだ。
 その間も銀時とフェイトの罵りあいはエスカレートして行き、最終的には互いに得物を取り出す始末になっていた。

「もう勘弁ならねぇ! 何なら此処でも一辺勝負と行くかぁ?」
「望む所よ! この度こそあんたの息の根を止めて見せるわ!」
「お~い、いい加減にしないと今度こそやばい事になると思うよぉ」

 流石に此処でリアルファイトされても困るので、アルフが声を掛ける。確かに、今此処でリアルファイトするのは得策じゃない。
 一旦は殺人メイド達を退けたのだろうが、またすぐに別働隊が動く筈だ。
 今は一刻も早く源外の所に向わなければならない。一人別行動をしている新八の安否も気になるからだ。

「ちっ、しゃぁねぇ。此処はあの犬耳娘に免じて引っ込んでやらぁ」
「そうね、でも覚えてなさい。必ず貴方とは雌雄を決してみせるから」
「上等じゃねぇか! 首を洗って待ってやがれ!」

 言い終わるなりに互いに視線を逸らし鼻を鳴らしあう両者。本当にこの二人は仲が悪いようだ。
 嫌、マジで。




     つづく 
 

 
後書き
【次回予告】

フェイト
「久しぶりの再会を果たした私となのは。二人は互いに夕日の見える海岸で互いの気持ちを伝え合う」

銀時
「おい、何だその急展開? 第一夕日の見える海岸ってまたベタな内容だなぁオイ」

フェイト
「二人の気持ち、それは正しく愛! 二人の愛が今宵、実を結ぶ!」

銀時
「結ばねぇよ! っつぅか結ばせねぇし!」

フェイト
「次回、【愛、その果てに・・・】あぁ、この愛をなのはに……」

銀時
「お前は一辺ガチで殴り倒さないと駄目みたいだな」

フェイト
「何? さっきから横でグチャグチャ五月蝿いわよ! 人が折角次回予告してるのに」

銀時
「あんな嘘予告があるか! 大体てめぇの妄想なんざ誰も見たがら―――」

【此処から先の映像は読者方の気分を害する恐れがあるのでカットさせて頂きます】 
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