魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep39それが僕たちの歩む道~Belief and Pride~
前書き
メルセデス・グラナード最終戦イメージBGM
テイルズオブグレイセス『狂乱舞踏』
http://youtu.be/RXsYYZIvDqs
†††Sideエリオ†††
僕とキャロは、“オムニシエンス”の障壁を発生させるシステムのある拠点に赴いた。ここは自然豊かな第42管理世界ノルデンナヴィク。そのマクミラン平原にて、ここノルデンナヴィクの地上本部に籍を置く、航空部隊や地上部隊と一緒に待機している。拠点のある場所は、今僕たちが居るところから大体2km先の平原のど真ん中。
「隠れるところが何もないな・・・」
たぶん奇襲にならない。あまりにも平地過ぎるから隠れる場所が何も無い。そして今、他の拠点のある3つの世界に向かった、なのはさん達の合図を待っている。同時に全ての拠点に襲撃を仕掛けることで、幹部たちを否応なく分散させるのが狙いだってシャルさんは言ってた。
(でも・・・本当に僕のところにグラナードは来るんだろうか?)
本局で会った時に言われた。僕にはもうグラナードと闘う資格はない、と。相手が誰であれ、理由がどうであれ、認めてくれたことは素直に嬉しかった。だけど、ディアマンテの所為でそれは白紙に戻った。それに、幻滅した、とも言われた。止めようとしていた復讐を止めることも出来なかった。結局、僕はグラナードを救うことは出来なかったんだ。
「エリオ君・・・あんまり思いつめちゃダメだよ? こういう残念な結果になっちゃったけど、それでもまだ全部が終わっちゃったわけじゃないよ」
「キャロ・・・うん、ありがとう」
隣に座るキャロが僕の左手を取って握ってきてくれた。それですごく安心できる。キャロとの付き合いももう6年くらいになるのかな。“機動六課”設立の時に初めて会って、それから一緒に居ることが多くなった僕のパートナー。いつの間にか僕の中でフェイトさんやルシルさん以上に大きくなっていった大切な存在。そう思うと少し顔が熱くなった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
そのままキャロを見ていると、キャロは僕の視線に気付いて謝って、何だか顔を赤くして僕の手を取っていた両手を離そうとした。だけど今度は僕がキャロの手を取る。
「っ! え、えっと・・・エリオ君・・・?」
「あ・・・っと、何か落ち着くから、よかったらもう少しこのままで・・・」
「あぅ・・・う、うん」
そのまま手を繋いだまま無言で待つ。すると1人の武装隊の人が歩み寄ってきて、「八神司令より、1430時に行動開始、との連絡が入りました」そう報告してくれた。
「「了解しました」」
敬礼して答えると、武装隊の人もまた敬礼して、移動指揮車に戻っていった。14時30分。あと6分で、ここはきっと戦場になる。6分なんて、いつものように笑い合っていればすぐにでも過ぎる時間。だけどこれから戦いになると思うと、すごく長く感じられる。僕の左手を握るキャロの右手の力が強まる。
「・・・大丈夫だよ、キャロ。僕たちはきっと、この悲しい戦いを乗り越えられる。だって僕たちはあの特務六課の一員なんだから」
“特務六課”の一員。それだけで強くなれる気がする。あんなにすごい魔導師たちと一緒に、1年と短かったけど訓練に励んだ“機動六課”時代。その時の教えを胸に戦えば、どんな苦境も乗り越えて行ける。
「うん、そうだね!」
キャロが笑ってくれた。よかった。キャロはたぶん、これから起こる戦いに緊張していたんだ。もし僕の言葉でその緊張が解けたんなら嬉しい。
「時間だ。各員、出撃っ! てめぇら、絶対に帰ってこいよ!」
ノルデンナヴィクの両隊を指揮するランボルギーニ二佐の号令が下されて、両隊は「オオオオ!!」一斉に拠点のある場所を目指して移動を始めた。元より奇襲するつもりがなかったみたいだ。
そんな中、僕とキャロは、幹部戦に備えて待機していた。僕たちも一緒に戦いたいけど、少しでも魔力もカートリッジも温存しておきたかった。元は八神部隊長たちの考えだけど、僕もそう考えていた。
「おーい、そこの2人! こっち来て待ってろっ!」
指揮車に残って全体指揮をするランボルギーニ二佐が、コーヒーカップを片手に僕たちを呼ぶ。僕とキャロは断る理由も無く、指揮車の中に入る。入った瞬間、コーヒーの香りが車内に充満し過ぎていてビックリした。
「まぁ座れ座れ。大事な客人に持て成しもしないんじゃ、ランボルギーニの名が廃るってな」
豪快に笑う二佐は、60歳くらいの快活なおじさん(少し失礼かも)で、上下関係隔たりなく接する人だ。空いている椅子に座ると、ホットコーヒーの入ったカップを手渡された。それに「ありがとうございます?」と少し疑問形のお礼を言う。
「あー気にすんな。あんな寒空でじっと座ってるのも辛いだろ? ここで前線の様子を見ながら待っている方が賢明だぜ。とは言っても、防護服には防寒機能もあるが。まぁ気分だな」
二佐はそう笑って、前線の様子を映し出すモニターの方に視線を移した。僕とキャロも不謹慎な気がしてならないけど「いただきます」と、コーヒーを飲みながらモニターを見る。映るのは、地上部隊と銃を武装した“テスタメント”の構成員の戦い。航空部隊は、翼に蟹のシンボルが描かれた黒い戦闘機、アギラス15機編成部隊と交戦を開始した。
「お前たちはお前たちの仕事が来るまでここでじっと待ってろ。なぁに、んな心配そうなツラしてなくても、すぐにテスタメントの拠点くらい落とせるさ」
勝つことを信じて疑わない二佐。するとキャロが「どうしてそんなに自信があるんですか?」って尋ねた。
「簡単さ。今出てる奴らはみんな俺の大事な仲間だからな。仲間を信じるのに理屈も何もいらねぇよ。要るのはただ信頼だけさ。はは、ちょいとクサかったか?」
そう言って、自分のカップにコーヒーのお代わりを注いで苦笑。というより照れ笑い。無償の信頼で繋がっているノルデンナヴィクの、二佐の部隊。なんか良いな、って思っていると、「もう一杯どうだい?」と勧めてくれたので「いただきます」って答える。実はさっきまで緊張で喉がカラカラだった。だからこんなに美味しいコーヒーだと進む。
「えっと、そういうのすごく素敵ですね」
キャロがカップから口を離して、二佐に微笑みながらそう言った。
「特務六課もそうなんじゃないか? 俺から見ても良い部隊だよ。若い連中が管理局の未来を担っていくってのは良いもんだ。だからよ、テスタメントの言い分もまぁ解からなくもねぇんだ。さっきまで流れていたテスタメントの目的ってやつな。管理局の未来を担う若者のために、私腹を肥やす今の上層部を一掃する・・・」
僕たちと二佐の間に1つのモニターが浮かび上がる。モニターに映るのは、若い頃の二佐と数人の武装隊員。それぞれの人の顔を見ていく中、1人の男性を見て、驚愕する。キャロもそうみたいで、カップを取り落としそうになっていた。二佐の隣に立って笑っているのは間違いない、あの人だ。
「俺の隣に居る一見真面目そうな奴、メルセデス・シュトゥットガルトって言ってな。俺が今まで世話見てきてやった仲間の中でもと特に悪ガキでな。腕は良いんだが、まぁよく仲間内でバカやってよ。俺に面倒を掛けまくった悪ガキだ」
懐かしむような声でそう言う二佐だったけど、少しの沈黙のあと、沈んだ声色で話を続けた。
「だが、突然事故死なんかしやがってよ。仲間にはよく言ってるんだ。俺より先に死ぬんじゃねぇぞってな。だというのにメルセデスは先に逝っちまった。確証はねぇんだがメルセデスもきっと・・・いや、何でもねぇや、忘れてくれ」
メルセデス・シュトゥットガルト。グラナードの正体だ。二佐とグラナードは昔からの知り合いだった。そして二佐は気付いているんだ。グラナード、シュトゥットガルトは事故死じゃなくて殺されたんだって。でもそれを証明できない。泣き寝入り・・・。
『エリオ君。グラナードの正体のこと、教えた方がいいのかな・・・?』
キャロが念話でそう聞いてきた。僕もそうしたいけど、でも現状幹部の正体に関しては“六課”以外に他言無用。変に混乱させるような事態を起こさないようにするためにだ。でも、二佐になら話しても良いかもしれない。もしかしたらグラナードが現れた時、話し合いが出来るかもしれないからだ。
『怒られるの覚悟で話してみようと思う』
キャロにそう返すと、キャロは頷いて賛成してくれた。モニターを消して、寂しそうにコーヒーを飲む二佐に声をかけようとしたとき、待ち望んでいた報告が入った。
『こちらシグマ・4! 白コート、幹部1名を確認しました!』
「っとと、来やがったか! 頼むぜ、お人さん!!」
拠点の陥落を終えていない状況で姿を現した幹部。単独ということはグラナードかもしれない。モニターに映る幹部の体型からして男。シャルさんの予想通りなら、ルシルさんもディアマンテも現れないはず。それならやっぱりグラナード、ということに・・・。
「・・・行こう、キャロ!」
二佐にグラナードのことを話しておきたかったけど、今はまずグラナードのところに行こう。
「う、うん! フリードッ!」
――竜魂召喚――
真の姿“白銀の竜”になったフリードに乗って、グラナードの居る戦場に向かう。
≪槍騎士と竜召喚士・・・。間違いない、特務六課だ≫
≪蟹座部隊・リーダーより各機。裏切りの六課魔導師を最優先で撃墜せよ≫
こっちに“アギラス”2機が来た。僕は“ストラーダ”を構えて、キャロも“ケリュケイオン”をサードモードにして迎撃に備える。まずはこっちが先制。フリードのブラストレイが“アギラス”2機に向かう。
それをロール機動で回避して、僕たちの脇を通り過ぎていく。すぐさま反転してきて、面前にヨツンヘイムの魔法陣を展開、砲撃が来る。キャロがフリードに「気を付けて」っと身体を撫でると、フリードは一鳴き。そして“アギラス”の魔法陣が一際強く輝いた。
(・・・来る!)
だけど僕たちが行動するよりも、“アギラス”が砲撃を撃つよりも、航空隊がこっち向かって来るよりも、それよりも、何よりも早く・・・。
「そいつはオレんだ。邪魔すんじゃねぇよ」
――穿たれし風雅なる双爪――
翠色の砲撃が僕たちの背後から迫る2機の“アギラス”を、文字通り消滅させた。砲撃が来た方、声がしっかりと聞こえた方を見る。
「グラナードよりカンセル全機。六課の魔導師はオレが墜とす。だから手を出すんじゃねぇよ。お前らは偽善者を片付けろ」
拠点より少し離れたところに、フォヴニスの頭に佇むグラナードが居た。そして頭上に居る僕たちをフードの中からしっかりと見つめている。それから後ろに振り向いて拠点とは別の方を見ると、フォヴニスを反転させてそっちに歩き出した。
「エリオ君。もしかして・・・」
「うん。グラナードは僕を誘っている。あの先に来るように・・・」
フリードに向かってもらうように頼んで、拠点を遠く離れてその小さな丘に降り立つ。グラナードは完全に拠点を防衛しようとしていない。グラナードがここに来た理由は拠点の防衛じゃなくて、もしかして・・・。
「グラナード・・・僕と、闘うために・・・?」
自惚れとも取れる発言。グラナードはフォヴニスの頭から跳んで、トンッと地面に着地した。
「仕方なく、だ。本局でお宅らと別れて、それから何度か施設を襲撃した。その中で戦った局員どもは全然ダメだ。何にも楽しくねぇ。全く燃えねぇ。そこでふと、お宅の顔が浮かんだのさ、エリオ・モンディアル。それで解かっちまった。オレと闘うに値するのは、どこを探しても・・・お前しかいないとなぁ! 騎士エリオよぉーーーッ!!」
――黒鎧の毒精武装――
翠色の光が視界いっぱいに広がる。視界がクリアになったとき、僕たちの目の前にはフォヴニスと融合した甲冑姿のグラナードが居た。シャルさんとの泣きそうな特訓で慣れたとはいえ、グラナードからは変わらず威圧感を感じていた。だけど今のグラナードからは何も、威圧感なんてモノが感じられない。
(これが・・・本気のグラナードなんだ・・・!)
激しい威圧感は無く、あるのは静かな闘気。手が、身体が震える。けどそれは恐怖からでも寒さからでもなくて、そうだ、嬉しいんだ。闘うに値する男として認められているのが、僕は嬉しいんだ。
「キャロ。キャロとフリードは拠点攻略に行って」
“ストラーダ”の穂先をグラナードに向けつつ、後ろに控えているキャロにそう告げる。当然キャロは「わたしも一緒に戦う!」って言ってくれる。
「ごめん。本当に勝手だけど、僕は、僕ひとりの力でグラナードに勝ちたいんだ」
グラナードに警戒しながらキャロに振り返る。胸の前で手を組んで、すごく心配そうな顔を見せるキャロ。心配かけて、無茶を言ってごめん。だけど、男として、キャロを僕の力で守れるようになるためには・・・。
「グラナードは僕が越えないといけない最初の壁なんだ」
僕ひとりで闘い、そして勝つ。エルジアでのように大事な存在を守れないことにならないように。僕は僕だけの力で最大の試練、グラナードを乗り越えてゆく。
「ハハ、察してやってくれ、竜召喚士キャロ。男には、どうしても引けない一線ってものがあるんだよ。だが、せめてブーストだけは掛けて貰え。でないとマジで死ぬぞ」
「そ、そうだよ! だったらせめてブーストだけでも・・・!」
「いいんだ。キャロにここまで付き合わせておいてすごく勝手だけど、僕は・・・!」
沈黙が流れる。チャンスなのにグラナードは腕を組んで待っている。やっぱりグラナードはこういう場面では律義で、優しいんだ。そして僕とキャロはさっきから見つめ合ったまま。
「・・・解かった。エリオ君がそう言うなら、わたしは手伝わない。だから応援する。エリオ君、絶対にグラナードに勝って戻ってきてね」
キャロは俯いてあと、少しして顔を上げたときの表情は、僕が勝つと信じてくれている凛としたもので。フリードに跨って空へと飛んだキャロに「必ず」と答える。キャロを見送り終えると、グラナードが「若いって良いねぇ」と感慨深げにそう言った。
「ストラーダ、フォルム・ツヴァイ・・・!」
≪Explosion. Düsen Form≫
“ストラーダ”のブースター数を増加しての突撃力アップ。僕がグラナードに唯一勝っているスピードで圧倒してかく乱、ヒットアンドアウェイで勝つ。グラナードも組んでいた腕を解いて身構える。背中に生えるハサミの付いた2本の腕と尾。その3つが僕の方に向く。交わる視線。
「特務六課、竜騎士エリオ・モンディアル。行きます!」
「テスタメント幹部、陽気なる勝者グラナード。行くぜぇ・・・!」
VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は悲しき復讐者メルセデス・グラナード
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS
――ソニックムーブ――
――翠閃に穿たれる罪人――
遠くで響いた爆発音を合図として、ソニックムーブと“ストラーダ”のブースターで一気に距離を詰める。対するグラナードは、ハサミと尾から無数の光線を放ってくる。光線の軌道が読める、感じ取れる。シャルさんのカートリッジ、神秘のおかげだ。避けて避けて避けまくる。ここまでは第一次オムニシエンス決戦と同じ。だけど攻撃を避けることが出来ても、こっちの攻撃が当たらなかったら意味は無い。
「はぁぁぁぁぁぁッ!!」
――メッサーアングリフ――
「甘ぇぇぇぇっ!!」
光線を避けきって、最接近できたところで電撃が付加された魔力刃での攻撃。だけど命中直前で、左のハサミが“ストラーダ”を挟みこんだ。そして今度は右のハサミが身動きの取れない僕の方に向く。
「どうした、騎士エリオ! お前の力はこんなものか!?」
――穿たれし風雅なる光爪――
僕に向くハサミだけに翠色の光が灯る。こんな至近距離で受けたら間違いなく負ける。それ以前に死ぬ。
「紫電一閃!!」
光が臨界点に達して砲撃が放たれるその直前に、電撃を纏わせた拳打でハサミの側面を打つ。僕に向いたハサミを別のところに向けさせた。それと同時に放たれた砲撃は地面を焼いて、大きな裂け目を作り出した。威力が桁違いに上がっている。このまま居たら今度は直撃させられてしまう。
――紫電一閃――
もう1度左手に電撃を纏わせて、“ストラーダ”を挟みこんでいる右のハサミを殴りつける。ハサミが少し開いたのを見て、すぐさまグラナードから離れる。そして少しの膠着。だけどそれは一瞬。すぐさま戦闘再開。
「ストラーダ!」
≪Vorstoβ≫
石突部分のリアブースターを使って突進。真正面からの刺突攻撃。グラナードは僕に向けて砲撃を撃とうとしたけど、途中で止めて回避行動をとった。“オムニシエンス”で僕が砲撃を斬り裂いたことを思い出したようだ。大きく跳んで僕から距離を取ったグラナード。だけどまだ僕の攻撃は終わってない。
「追撃ッ!」
使っていなかったレフトサイドブースターを点火させ、避けきった安心感で油断しているグラナードに追撃をかける。いきなりの僕の直角的な方向転換に驚いたグラナードは避けようとするけど、身体が追いついていない。だけど無理やり身体を捩じって、掠める程度にダメージを抑える。
「やっぱり楽しいぜ。お前との闘いは! なぁッ!? お前もそうだろっ?」
背後から聞こえた歓喜の叫び。すぐさまライトサイドブースターを使って反転。振り向いた先、すでに2つのハサミによる砲撃体勢に入っているグラナードが居た。
――穿たれし風雅なる双爪――
僕に集束するように放たれた2発の砲撃。それは僕を頂点にした二等辺三角形のような状態と言える。だから恐れずに砲撃の間のスペースに身を躍らせて、一気にグラナードの懐に入り込む。
「はぁぁぁぁぁッ!!」
――ラケーテン・ゼーデルヒープ――
ライトサイトブースターとリアブースターを同時点火。ヴィータ教導官のラケーテンハンマーのように高速回転しながら接近して、遠心力いっぱいの斬撃を叩きこんだ。
「ぐぉあッ!?」
砲撃を撃ち終える直前の硬直で、防御もろくに出来なかったグラナードは面白いほど吹き飛んだ。咄嗟に構えて直撃を防いだ腕の甲冑が砕かれて、破片をまき散らしている。だけどグラナードは何度かバウンドした後、すぐさま宙で体勢を立て直して着地。
「やるじゃねぇか・・・!」
ここで僕は確信した。グラナードとフォヴニスがバラバラだと僕の勝率はかなり低い。だけどフォヴニスと融合して人間大になっているグラナードになら十分勝てるってことが。
「だが、まだだッ!」
――そびえ立つは冥府の支柱――
グラナードは地面に尾を刺した。すると僕の立つ周囲の地面からビキビキって音がし始める。そして次の瞬間、至るところから翠色の砲撃がまるで柱のように突き出してきた。
≪Sonic Move≫
とりあえずその場から離れる。目に見える攻撃なら避けやすいけど、足元から突き出してくる攻撃はなかなか察知できない。ただこの攻撃の救いは、突き出してくる直前、地面が光るってことだ。それに気を付けてさえいれば、直撃だけは免れる。
「はぁはぁはぁ・・・!」
「そら行くぜッ!」
地面からの砲撃が止んで、仕切り直しとなった僕とグラナードの闘い。するとグラナードは突然飛ぶように地面スレスレで僕に向かってきた。まさかのグラナードからの接近戦。
「この・・・っ!!」
レフトサイドブースターだけを点火、ブースターの勢いで加速された斬撃を振るう。それを左のハサミで受け止めて上に逸らすグラナード。当然僕の懐がガラ空きになる。そんな僕の顔に迫るグラナードの右手。
「ぐっ!」
ガシッと僕の顔を掴んで、投げ飛ばした。左肩から落ちてバウンドしたあと着地、体勢を整える。顔を上げた時、すでにグラナードは僕の目の前にまで来ていた。閉じた左のハサミを僕の腹部に押し当て、僕の身体を持ちあげる。
「もっとだ! もっと上があるはずだ! そいつを見せてみろ! そう、極限を超えてみせろ!」
――天地穿つ戦慄せし翠星――
バカッとハサミが開く。視界に映るのは、ハサミの中に煌く翠色の魔力スフィア。すぐさまソニックムーブで逃れようとしたその瞬間に攻撃は放たれた。
――トライシールド――
“ストラーダ”の機転。僕に魔力スフィアが直撃する直前、シールドが展開される。それで直撃は免れたけど、スフィアは僕をシールドごと空に打ち上げた。冗談にならない高度にまで打ち上げられる前にソニックムーブでなんとか離脱。
空中で体勢を整えて、グラナードから少し離れた場所に着地する。でも明らかに攻撃のチャンスだったにも関わらず、グラナードは僕が地面に降り立つまで何も仕掛けてこなかった。それが返って怪しい。何かがあるんじゃないかって疑いたくなる。
「咲け」
“ストラーダ”を向けていると、グラナードがそう囁いたのが聞こえた。すると空が翠色の光に染まる。そして、無数の光線が空高くから降り注いできた。グラナードが打ち上げたあのスフィア。アレが空で炸裂して、光線の雨となって降り注いできたんだとすぐに理解した。
「な・・・っ!?」
さっきまでの光線の雨とはまた威力が違った。細い光線なのに、その威力はまさに砲撃。次々と地面を穿っていく。舞い散る破片で頬が切れて血が流れる。だけどそんなことを気にしていられない現状。なかなか止まない砲撃クラスの光線の雨。この戦域そのものからの離脱を考えての全力かつ連続のソニックムーブ。
「おっと逃がさねぇぞぉ・・・おぉらっ!」
少し振り向くと、グラナードのハサミが伸びて来ているのが目に入った。右前方に跳ぶように方向転換。ズドンッと僕の左隣りの地面に2つのハサミが突き刺さった。
「外したか!」
何とか光線の雨の範囲外に出て、グラナードに身体を向ける。未だに降り注ぐ雨の中、ひっそりと佇むグラナードは、トントンっとステップを踏み始めていた。
「あーやっぱ、オレには接近戦の方が合ってるよなッ!」
そう言った後、また物凄い速さで接近してきた。二佐に見せてもらったあの画像データ。それに映っていたグラナードが持っていたのは長槍型のデバイスだった。メルセデス・シュトゥットガルト。名前からしてベルカ出身の子孫であってもおかしくない。僕と同じ槍騎士。だから接近戦に強くて当たり前だ。
「ストラーダ!」
≪Form Drei. Unwetter Form≫
「ぅおおおおおッ!」
“ストラーダ”を、僕の電気変換資質を最大限にまで高める形態に変形させる。
――サンダーレイジ――
接近してきたグラナードに振り向きざまの、“ストラーダ”のヘッド部分に接触した対象とその周囲に電撃を打ち込む小規模範囲攻撃を叩きつける。その攻撃をグラナードは2つのハサミで挟むという方法で止めた。
「っぐぅぅぅ・・・うおおおおああああああッ!?」
シャルさんの神秘満載の魔力によって効果を高められているこの一撃の威力は高い。さすがのグラナードも完全防御が出来ずに感電した。たぶん完全防御できると思っていたところでの感電に、グラナードは驚きからか一切の動きを止めた。僕に巡ってきた最大にしておそらく最後のチャンス。
「おおおおおおおおおおおおッ!!」
――シュタールメッサー――
独楽のように回転して、電撃を纏わせた“ストラーダ”の連撃を叩きこむ。未だに身体の自由が利かないグラナードは、防御も回避もしないで受け続ける。10回以上斬り付けた時、グラナードの腕とハサミの腕が動いた。痺れが取れてきたみたいだ。だからこそ、最後の一撃に全力を込める。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
全力の振り下ろし。咄嗟にハサミを交差させて防御したグラナード。だけど、左のハサミは僕の一撃、というよりシャルさんの神秘に耐えられずに粉砕された。グラナードのフルフェイスの兜から「バカな・・・っ!?」って困惑と驚愕の声が響いてきた。
(このまま・・・!)
まだ行けると確信。距離を取らずにさらに連撃を叩きこむ。振るってきた尾を“ストラーダ”の柄で受け止めて、しゃがむようにして捌く。かなり手が痺れたけど、このチャンスだけは絶対に逃さない。立ち上がりの勢いで刺突を繰り出す。グラナードは背を反らすことで避けて、バックステップで僕から距離を取ろうとする。
「逃がさない! ストラーダ!!」
≪Explosion. Zerschlangen Spieβ≫
カートリッジを2発ロード。さらに魔力を、威力を、神秘を増加する。リンカーコアが荒れ狂う痛みに耐えて、ソニックムーブで距離を詰める。そして“ストラーダ”の刺突。でも穂先はギリギリ届かなかった。グラナードが不発だと安堵しているのが判る。だけど、この魔法は直接攻撃じゃない。そう、この魔法は僕にとって唯一の・・・遠距離攻撃魔法。
「ツェアシュラーゲン・シュピースッ!」
「ぐぉあああああああぁぁぁぁッッ!?」
“ストラーダ”の穂先から激しい電撃の槍が放たれて、グラナードを貫いた。グラナードは甲冑の破片をまき散らしながら何度もバウンドして、最後は両手を地面につき跳ねて着地した。そしてガクッと膝を折って座り込んで、俯いたまま動かなくなった。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・やった、のか・・・?」
ツェアシュラーゲン・シュピース。オリジナルはシャルさんの魔術・雷牙閃衝刃。この3日間、捜査の合間に僕がシャルさんとの模擬戦の中で会得した遠距離魔法。グラナードとの決着のためだけに身に付けた魔法だ。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・ふぅ・・・!」
息を整えて、“ストラーダ”を構えたままグラナードを見詰める。グラナードは動かない。でも倒したとも思えない。何か、嵐の前触れのような嫌な感じがする。十数秒くらい待って、警戒しながら近付こうとした。
「・・くくく、はははは、あーはっはっはっはっはっはっ! 最高だ! こいつは面白い! 前情報に無い魔法じゃねぇか! オレのフォヴニスがここまでボロボロにされちまうとはとんでもねぇッ! だがまだ足りねぇな! もっと! もっとだ! もっと激しいバトルをしようぜッ!」
急に立ち上がって高笑いを始めたグラナード。静かだった闘気が、一気に激しいものになった。だけど甲冑はボロボロのまま。復元する様子がない。あのままで僕と闘うつもり、なのか・・・?
「んあ? あーあ、拠点はもう落ちていたのか。まぁいいか。今さら関係ねぇや。あ? 何が関係ない? オレは何を言ってるんだ? あー、いや、いいのか。あーそうだ、もう関係ねぇ。そう、お前と闘えるなら、もう何も関係ねぇッ!」
――穿たれし風雅なる光爪――
残った右のハサミから放たれる翠色の砲撃。ソニックムーブで避けて、グラナードの様子を窺う。グラナードは兜を脱ぎ棄てて素顔を晒した。目は血走っていて明らかに興奮状態。レベルは最悪。
(さっきの、拠点が落ちた、というのはもしかして・・・)
だけどそれ以上に気になるのは、その言葉が本当なのかどうか。何かあればきっとキャロから連絡が入るはず。たぶん今は何か立て込んでいるんだ。その連絡を気持ちよく受け取るためにはまず、グラナードを倒すことに専念しないと・・・!
「何daよ、なに考えてNだよ? オreを見ろyO。そんなnじゃつまraねぇ闘いにnAっちまうdaろうが。だからOrEを見ろよ、騎士Eリオォォォォォーーーーッ!!」
今のグラナードは何か危険だ。本能が警告してくる。両手を地面について獣のような体勢を取ったグラナードは尾を、僕じゃなくて拠点の方角に向けた。
――フォヴニスの光――
まさか、そう思った時にはもう遅く、グラナードの尾からソニックブームを発生させるほどの高速砲撃が放たれた。振り向く。砲撃は一直線に拠点に向かっていって・・・炸裂した。大地に縦一線の傷を付けた後、遅れて爆炎が上がる。
「な・・・っ!? キャロぉぉーーーーーーッ!」
あそこにはキャロが居た。二佐も居た。同じ管理局の仲間が居た。安否を確認するためにすぐさま通信を繋げる。だけどノイズが紛れるだけで何も返って来ない。なら念話は? ・・・キャロの声が返って来ない・・・?
「・・・グラナァァァーーーードォォォーーーーッ!!」
グラナードに跳びかかって押し倒す。ほとんど無意識に“ストラーダ”じゃなくて素手でグラナードの顔を殴っていた。何回も何回も何回も何回も何回も何回も、殴って殴って殴って殴って・・・。
「soうだ・・いi顔だ、騎士エRiオ・・・! もっとda! 激sIい感情を見せろ! 怒れ! 憎め! 怨め! 良心っていuタガwo外se!!」
グラナードは笑顔だ。殴られても痛みがないとでも言うように笑い続ける。そんな僕とグラナードに影が差す。それだけじゃなくて声もする。翼を羽ばたかす音もする。あまりの怒りで我を忘れていたから気付くのに遅れた。
「エリオ君!」
この声は、この音は、ずっと前から聞き慣れた、僕にとってあって当たり前のモノ。
「キャロ! フリード!」
「エリオ君!!」
見上げるとそこにはキャロとフリードが居た。大きく羽ばたきながら地面に降り立ったフリードから降りてくるキャロ。キャロの無事を確認した途端、僕がどれだけキャロを想っていたのかハッキリと解かった。あそこまで我を忘れるほどにまで怒れる僕は、キャロのことが・・・。
「良かった・・・無事で、本当に良かった・・・キャロ」
「あ、う、うん。その、拠点を制圧したことでわたし達の仕事は終わったから、念のために離れていたんだ。えっと、ほら、もしかして次元跳躍砲が来るかもしれないし、だから・・・」
しどろもどろで説明するキャロ。落ち着いたから気付いたけど、フリードから降りてきたのはキャロだけじゃなかった。もう1人、二佐もそこには居た。視線は僕じゃなくて、仰向けで倒れているグラナードにのみ注がれている。
『拠点制圧をしているときにランボルギーニ二佐にだけ話したの。グラナードの正体がメルセデス・シュトゥットガルトで、その目的が復讐と、エリオ君と闘うことだって』
二佐とグラナードを見ていると、キャロからそんな念話が来た。まさかの再会がこんな形だなんて、2人の今の心境がどうなのか判らない。声を掛けることも出来ない雰囲気にキャロと2人で黙って見ていると、二佐が突然グラナードの身体をゲシッと蹴る。
「「ええええ!?」」
するとグラナードは「痛ッ!?」と言って身体を起こした。何か一触即発な空気が漂い始めた気がする。
「よぉ、メルセデス。後輩にえらいやられようじゃねぇか」
「・・・うっせぇよ、鬼隊長さん。油断しただけさ、まだ負けちゃいねぇ」
二佐と話すグラナードからは、さっきまでの危険な感じが一切無くなった。生前親しかった人との再会だからだろうか。その表情は少し嬉しそうで、だけどそれ以上に寂そうで悲しそうで。
「そんな妙なモンの力で勝って、お前は嬉しいのか?」
二佐がフォヴニスの甲冑を見てそう言った。グラナードはそれに対して何も言わない。その顔は言われなくても解かってるって顔だ。すると二佐は懐から細長い結晶を取り出して、それをグラナードに差し出す。
「これは・・・! オレのデバイス・・・黄昏の戦槍!」
あの結晶はグラナードが生前使っていた長槍型デバイスの待機モードらしい。“デンメルング”。確か夜明けや夕暮れって意味だったっけ?
「槍騎士の先輩として、槍騎士の後輩に腕を見せてやれよ、メルセデス。お前にはそんなつまらねぇ力より、騎士としての力の方が合う。違うか?」
グラナードはしばらく逡巡して、デバイス・“デンメルング”を手に取った。二佐が僕の方に振り向いて、「もう1度、このバカと闘ってやってくれ。今度は騎士の決闘としてよ」と言って頭を下げた。僕の答えはもう決まっている。
「僕の方からもお願いします。グラナード。いえ、騎士メルセデス・シュトゥットガルト」
スピーアフォルムに戻した“ストラーダ”を構える。するとグラナードはゆっくり立ち上がって大きく深呼吸。
「・・・あばよ、フォヴニス」
そう呟いてフォヴニスとの融合を解いた。光となって消えていくフォヴニスを見送った騎士メルセデスは、“デンメルング”をギュッと握りしめて、僕を見た。その表情は晴れやかと言っても良いくらいのスッキリした顔だった。
「メルセデス・シュトゥットガルト。行くぜ・・・!」
“デンメルング”を起動して、武装隊の防護服を着用、2m近い全部が白の長槍を構えた。僕もその名乗りに応えるように「エリオ・モンディアル。行きます!」と返す。静まり返る丘。戦闘開始の合図はフリードの「きゅくるー」っていう鳴き声だった。
†††Sideエリオ⇒キャロ†††
エリオ君と、生前の騎士としての姿に戻ったグラナード、ううん騎士メルセデスの決闘が始まった。それはお互いが一歩も引かない激しい闘いで、だけど2人ともすごく楽しそう。
「こんのぉぉぉぉーーーーッ!!」
「どこ見てんだッ!? 脇が甘いぞ!」
魔法を何ひとつ使わない、純粋な槍術だけの決闘。そのまるで踊っているような闘いは、騎士メルセデスがエリオ君を鍛えているような感じで進む。
「あんなに楽しそうに闘いやがって。バカ息子が・・・!」
わたしの隣でエリオ君たちの闘いを見守るランボルギーニ二佐は小さく笑って、制服の袖で目を拭った。わたしは見ないフリをする。今はそれが良いのかなって思うから。
わたしも2人の闘いを静かに見守り続ける。そして、どれくらい時間が経っただろう。ついに決着の時が訪れた。ガキィィン!っていう激しい金属音、ドサリと人が倒れる音、最後にガシャンとデバイスが地面に落ちた音がした。
「エリオ君!」
尻もちをついているのはエリオ君。勝ったのは騎士メルセデス、そして負けたのがエリオ君だった。エリオ君のデバイス、“ストラーダ”は柄の途中で折れていて、静かに地面に転がっている。わたしは急いでエリオ君の元に駆け寄る。
「はぁはぁはぁはぁ・・・・ごめん、キャロ・・はぁはぁ、僕、負けた、はぁはぁ・・・」
大の字になって丘に倒れこむエリオ君が、駆け寄ったわたしを見て謝ってきた。わたしはどう応えていいのか判らなかった。
「うん。負けちゃったけど、すごくカッコ良かったよ」
だけどわたしは自然に、そう大して実も無い言葉を口にしていた。もう少し気の利いた言葉でも言えば良かったのに、なんて激しく後悔。でもエリオ君は「そっか」って微笑んでくれた。カサって草を踏む音がした。振り向くと騎士メルセデスが側まで来ていた。
「どこ見てんだ? 引き分けだよ、騎士エリオ」
そう言って“ストラーダ”と同じように真っ二つに折れている白い槍、“デンメルング”を見せてきた。穂から石突まで余すところなくひび割れて、半ばあたりで折れているその槍を。それから“デンメルング”を待機モードにして、ランボルギーニ二佐に放り投げた。
「鬼隊長さん。そいつさ、よかったらこれからの世代の局員のために役立ててやってくれ。それで、役目を終えたら初期化して、オレの墓にでも供えてくれればいいさ」
「そいつが、お前の遺言か?」
「そうだな・・・。ああ、それが、オレがこの世界に最期に遺す遺言だ」
ランボルギーニ二佐とそう話して、騎士メルセデスは最後にわたしとエリオ君に振り向く。
「さて、と。そんじゃそろそろ逝くわ。なかなか楽しかったぜ、騎士エリオ。オレが最期の時間を過ごすには勿体ねぇくらいに充実した闘いだった、感謝してる」
「騎士メルセデス! あの! えっと、僕たち! 六課はカローラ一佐を裏切ってなんかいない!」
身体を起こしたエリオ君がそう言うと、騎士メルセデスは「だろうな」って返してきた。それってつまり知っていた、ってことになるのかな・・・?
「薄々は気が付いていたさ。冷静になりゃあ、おかしな点ばかりだ。だが、ボスはそうはいかねぇ。完全に絶望して、管理局を目の敵にしてるはずだ。それに付いてくサフィーロとトパーシオも当然だ。カルド隊ももうそろそろ限界だろうな。マルフィール隊はどうだかな」
嘆息して、踵を返してわたし達に背を向けた。
「なぁ騎士エリオ、竜召喚士キャロ。お前たちはこれからどんな道を歩きたい?」
そして騎士メルセデスは足を止めて最後にそう聞いてきた。わたしとエリオ君は顔を見合わせて頷く。
「自分の決めた信念に誇りを持って突き進む・・・」
「それが僕たちの歩む道、これから歩みたい道だと思います」
そう答えると、騎士メルセデスは少しだけこっちに振り返る。その表情はとても満足そうな笑みで・・・。
「・・・そうか。忘れんなよ、その心を」
そう一言。騎士メルセデスの身体が白く光って、粒子となって天に昇っていった。
「・・・キャロ、ヴォルフラムに連絡をお願い。僕は少し・・・疲れ・・・・眠りたい・・・」
「エリオ君!?」
騎士メルセデスの終焉を見送ったことで気が緩んだようで、エリオ君はわたしにもたれかかるようにして眠りについた。エリオ君をそっと動かして横にして、わたしの膝枕に頭を預ける。それから“ヴォルフラム”へと通信を繋げる。
「こちらノルデンナヴィク拠点制圧チームのキャロです。拠点制圧完了しました。それと、グラナードは・・・還りました」
騎士メルセデスの最期はどう言っていいのか分からなかったから、還った、という事にした。
『・・・そうか。お疲れ様や、キャロ。それにエリオも。迎えを出すからしばらく待機しとってな』
八神部隊長に「了解しました」と返して通信を切る。
「・・・俺がボウズを運ぶよ」
ランボルギーニ二佐のその提案を丁重にお断りする。
「もう少しだけ、このままで・・・」
わたしの膝枕で眠るエリオ君の頭をそっと撫でる。小さい頃にフェイトさんやルシルさんにしてもらった事。そしていつか大きくなって、大事な人が出来たらしてみたかった事。
「あ、雪・・・」
見上げると、空からは雪が降っていた。
後書き
幹部グラナードの終焉となりました今回。
なんかエリオとキャロのノロケ話しみたいで締まらない(汗)でもまぁ、お年頃ですし大目に見てやって下さいな。
それに、エリキャロはフェイトとルシルを見て過ごしてましたし(苦笑)次回で幹部最終戦の前半戦が終わります。
さて、すでに決定しているサブタイトル通りに進めば、この5thエピソードも残り9話。
もしかしたら文字数とか気にしてしまうので増えるかもしれません。ということで、もうしばらくお付き合いください。
あ、ちなみに次回からまた一話ずつの投稿となります。
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