魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep26眠り姫の目覚め ~Xwelia~
†††Sideシャルロッテ†††
昨日の約束通り、イクスヴェリアを覚醒させるために、私たちは教会前に来ている。メンバーは、はやてに許可をもらって同行したスバルとティアナとエリオとキャロとレヴィ。本当なら任務中の六課メンバーが本局を空けることはそう簡単に許されない。
昨日のなのはだってそうだったけど、そこは私のことを考えてくれたはやてのおかげだ。それなら何故スバル達が同行できたのかというと、今日この後、私たちは“テスタメント”の本拠地と思われる“オムニシエンス”に向かうからだ。
・―・―・というわけで回想です☆・―・―・
夕飯の後、恒例の会議室に集まった六課メンバー。
部隊長はやて、分隊隊長のなのはとフェイト。分隊副隊長のシグナムとヴィータ。ロングアーチのシャマルとリインとアギト。各分隊員のスバルとティアナとエリオとキャロ、そしてフリード(は違うか)。そして遊撃隊の私とレヴィとザフィーラだ。
「フライハイト。そろそろこの“身体”を元に戻せ」
「まだダメ。いいじゃん、そのままで。可愛いよ、シグナム」
私はシグナムを“見下ろし”ながら、シグナムの提案を却下してやる。するとシグナムが人知れずガクリと項垂れた。ププ、可愛いのにねぇ。そして今度はヴィータが『悪かった。だから元に戻してくれ』って念話で謝ってきた。でも姿が見えない。一体どこに居るんだろうね~。
「わたしも謝るから、お願いシャルロッテ。元に戻して(泣)」
レヴィも私服じゃない、局内じゃ絶対に見ない服を着用中。顔を赤くしながら、超ミニなウェディングドレスのスカートの裾をギュウギュウ下に引っ張ってる。
「レヴィ!? 今度は胸が危険なことに!」
「っ! あわわわわわわわわ!」
完全肩出しだから、下に引っ張れば引っ張るほど上が下にずれ落ちる。そうなると、それなりに大きな胸(なんて生意気胸っ)が見えちゃうわけで、そしたら今度は上に引っ張るわけで、すると下が見えちゃうわけで・・・。
完全に残念なスパイラルに陥るわけです。さすがにこれ以上は男の子なエリオが大変なことになるので、レヴィの罰はこれにて終了。指パッチンで、服装を元のロングワンピースに戻す。
「しくしくしく・・・。シャルロッテに辱めを受けました・・・」
「シャルちゃん。これはやり過ぎ」
確かに。するとシグナムとヴィータも「こっちも元に戻せ」と抗議してくる。生憎2人は大して問題ないから放置のまんま。しばらくその姿で過ごすがいい。
「まぁなんや。シグナムもヴィータも、もうちょっとシャルちゃんに付き合ったってな」
はやてがシグナムを抱きかかえて膝の上に乗せる。それほどに今のシグナムは小さかった。
「こんなデフォルメしとる三頭身なシグナムは可愛えしなぁ♪」
何せねん〇ろいどみたいになった(というより私がした)デフォルメ・シグナムだからだ。はやてに頭を頬ずりされて、シグナムは少し戸惑ってるようだけど満更でもなさそう。アギトに「こんな可愛いシグナム見たことねぇ」と戦慄されていた。
で、ヴィータと言えば、ミクロッタのまんまで居ます。この会議室のどこかに居ます。“ウォー○ーを探せ”以上に難しいけど、念話を頼りにすれば見つかるかもしれません。
まぁそんなこんなで本題。“オムニシエンス”の調査に向かったクロノとユーノから、調査資料が現地から送信されてきた。魔術関係になるから、魔術を知るいつものメンバーだけでの閲覧となっている。で、最初に観た遺跡とやらで確信。“ギンヌンガガブ”で間違いなかった。
“ヨツンヘイム”王族の建てた神殿。生前見たことがあるから間違いない。そして“アドゥベルテンシアの回廊”と“レスプランデセルの円卓”。私がかつて“風迅王イヴィリシリア”と闘って負けた舞台もちゃんと残ってた。
(・・・空間が歪んでる。魔法じゃない、魔術による空間歪曲か・・・?)
空間の歪みが見える。だけど、おそらくクロノ達には見えていない。見えていたら、それも報告してくれるはずだし。まぁ結果的に大きな収穫なのは間違いない。“オムニシエンス”は、“テスタメント”と深い関わりを持っている。
「はやて。明日、私たちもオムニシエンスへ行こう。テスタメントと何かしらの関係、オーレリアのような拠点である可能性がある。ううん、もしかしたら本拠地かもしれない」
魔族を唯一召喚できる世界“ギンヌンガガブ”。そこを本拠地としていても何もおかしくなんてない。むしろ“レスプランデセルの円卓”を包み込むような空間の歪み。アレは魔術による結界の可能性大。疑うには十分過ぎる。みんなが絶句する中、はやてが「了解や」と、どこかに通信を繋げ始めた。
「シャルちゃん。もし、もしオムニシエンスがテスタメントの本拠地で、この事件が終わったら、シャルちゃんは・・・」
「お役御免で消えるでしょうねぇ。あはは、この世界に来たばっかなのに、明日でお別れ。何て言うか・・・短いけど濃い期間だったねぇ~」
正式な契約召喚じゃないし、もう1つの理由からしてそう長くは留まれない。それに長引けば長引くほどまた別れが辛くなるから、終わったらすぐに去ろう。もちろん笑顔で。
「そ、そっか・・・」
うおぉい!? 物凄い勢いでなのは達の覆う空気が重くなってる! あれ!? シグナムですらそんな悲しげな顔するの!?
「早過ぎるよ。そんなの・・・早過ぎる・・・」
「あーもう。そんな沈まない! 確かに寂しいけど、これからも私たちが過ごした時間を忘れなければ大丈夫!」
沈んだみんなに喝! と言っても、おそらく私はみんなのことを忘れるだろう。私がみんなを憶えていられるのは、“界律の守護神”として存在しているからだ。でも、この戦いを終えたら“界律の守護神”の座を降りることになっている。消える。生前の記憶も。守護神としての記憶も。全てがリセットされる。
(やだな・・・。ずっと望んでいたことなのに、いざとなったら・・・)
それが私の“輪廻転生リインカーネーション”。
私の存在が崩れかけてきている。このまま守護神を続ければ、存在は消滅して、転生できずに永遠の無に囚われる。その前に魂は“神意の玉座”から解き放されて、“界律”へと戻り、正常な輪廻転生を行う。
(どこの“界律”、どこの時代に転生するかは、もちろん判らない)
でも、また人としての人生を歩めるというのであれば、それは幸福なことかもしれない。けどやっぱり、なのは達との思い出が消えるのだけは悲しい・・・。これがもう1つの・・・私が留まれない理由だ。
「そ、そうだよね。私たちがどんなになってもシャルちゃんを忘れない。そうしたら、シャルちゃんはいつまででも私たちと一緒。そうだよね」
なのはの言葉に賛同するみんな。ありがとう。そしてごめんなさい。私は、みんなのことを今度こそ完全に忘れる。
「・・・クロノ君に明日オムニシエンスに向かうことを話した。でな、幹部たちは私らが担当、レジスタンスに関してはクラウディアの武装隊と五課に任すことにしたわ」
「え? よかったの?」
「明日で最終決戦言うんやったら、こっちも派手に動かなアカンくなる。それに、前みたいに幹部たちに怯える必要も無し。真正面から戦える術を手に入れたんやから。むしろこっちから会いたいくらいや。そやから情報が漏れても大して問題やあらへんやろ」
はやてがいつになくバトルモード突入。はやてにとって重要なのは、リインフォースのことだろうけど。確か“特務五課”はセレスの部隊だっけ。あーでも部隊長が代わるらしいし、セレスにもお別れの前に挨拶しておきたかったなぁ。
「そうゆうわけや。みんな、明日の決戦に備えて、今日はもう休んでな。以上、解散!」
・―・―・というわけで回想終わりです☆・―・―・
というわけで、今日これから最終決戦なのです♪
私たちの他にはヴィヴィオと友達の・・・
「はじめまして! コロナ・ティミルです!」
「リオ・ウェズリーです! はじめまして!」
「はじめまして。シャルロッテ・フライハイトです、よろしくね」
コロナとリオ。昨日、ヴィヴィオと一緒に居た子たちだ。うわぁ、可愛い。ルシルのような弟(今は違うけど)より、こういう妹が欲しいなぁ♪ そしてもう1人。昨日、写真見た写真に映ってた子。雰囲気からしてかなりデキる。
「はじめまして。アインハルト・ストラトスです。ヴィヴィオさんにはいつもお世話になってます」
「ストラトス!?」
私の驚愕に、事情を知らないコロナとリオとアインハルトはビクッとしてしまった。
「あの、何か・・・?」
少し引け腰でアインハルトが聞いてきたから、私は笑顔で謝罪する。
「あ、ごめんごめん。何でもないの」
ストラトス。かつての同僚に同じファミリーネームを持つ騎士がいたから、少しビックリしただけだ。
それから私たちは騎士カリムに挨拶をして、目的であるイクスヴェリアの元へと向かう。その間にもヴィヴィオの友達と話す。ヴィヴィオとの出会いとか、これまでの思い出話とか。そんなこんなで着いたイクスヴェリアの部屋。
「じゃあちょっと準備があるから、部屋の外で少し待ってて」
そう言ってみんなには部屋の外で待っててもらう。さすがに準備を見られたら違和感を与えてしまう。本当に魔法?っていう違和感を。今後、ヴィヴィオ達への質問攻めを回避するためにも、準備は見せないでおこうと思った私なりの配慮のつもり。ドアを静かに閉めて、ゆっくりとイクスヴェリアの元へと歩み寄る。
「待っててね。今、あなたの未来を取り戻すから」
イクスヴェリアの頭を撫でる。そして「我が言の葉は幻想紡ぐ鍵」と詠唱。
使用術式は“苦境を通じ神聖なものへ”。ルシルの持つ治療系の複製術式の中でも上位。女神の祝福には及ばないけど、イクスヴェリアの身体を治すくらいなら大丈夫なはずだ。
「逆境は、大いなる知恵を持つ者を脅かさない」
詠唱、第一節。ベッドを中心として幾何学模様の魔法陣が描かれる。
「神はこれらの困難にも終わりを与えるだろう」
詠唱、第二節。イクスヴェリアの眠るベッドを包み込むように淡い桃色の光が生まれる。
「運命は望む者を導き、欲しない者をひきずる」
詠唱、第三節。光がイクスヴェリアだけを包み込むように伸びて、イクスヴェリアを覆う。
「困難を克服して栄光を獲得する」
詠唱、第四節。イクスヴェリアの体内に入り込むようにして、桃色の光は消えた。
「幸先のよい光が昇る」
詠唱、終節。イクスヴェリアの身体が淡く光り出して、すぐに消えた。これで準備完了だ。あとは術式宣告。それで、この術式は完成する。
「入ってきて」
扉を開けて、廊下で待っていたスバル達を部屋に招き入れる。みんなは静かに部屋に入って、ベッドに眠るイクスヴェリアを見詰める。
「苦境を通じ神聖なものへ」
そして私は最後に術式を宣告。部屋に一瞬だけ風が生まれた。暴風と言ってもいいくらいのもの。小さく悲鳴を上げるヴィヴィオとそのお友達。
「シャルさん・・・?」
風が止むと、スバルが心配そうに私を見てきて、私は頷いてイクスヴェリアを見てみなさい、と視線で告げる。スバルもコクリと頷いて、静かにイクスヴェリアの眠るベッドに近付いていく。
「イクス?・・・イクス?」
ベッドの側で膝をついて、スバルは何度もイクスヴェリアの愛称で彼女を呼び掛ける。
「・・・ん・・・スバル・・・?」
イクスヴェリアが目を覚ました。彼女の第一声は「スバル」。彼女にとって大切な友人の名前。歓声が沸く。スバルは泣いて、イクスヴェリアを抱き起こしてギュッと抱き締めたり、それを窘めるティアナも若干涙目になったり、ヴィヴィオ達も友達同士で抱き合って喜んだり。
(良かった。最後の日に、こんなに多くの笑顔を見れて)
私は静かに部屋を後にする。あの部屋の中じゃ私はちょっと浮くから。何せ私はイクスヴェリアとは友人でもなければ知人ですらない。
「シャルロッテ!」
息を切らしながら私の名前を呼んだのはセインだった。その後ろにはシスターシャッハにオットーとディード。
「もしかして・・・イクスは・・・!」
「うん、今起きて、スバル達にもみくちゃにされてる」
そう言うと、セインは身体を震わせて、思いっきり頭を下げた。
「ありがとう、シャルロッテ。本当に・・・ありが・・・とう・・・」
声が震えてる。嗚咽混じりの感謝。私はセインの肩に手を乗せて頭を上げさせる。
「私の方こそありがとう。ほら、セインも行ってきたら」
そう言うとセインはシスターシャッハに視線を送る。その視線の意味を察したシスターシャッハは「行ってきなさい」と優しく告げた。セインは「ありがとうシスター!」とお礼を言って、部屋のドアを開けて入って行った。
「お疲れ様です、騎士シャルロッテ。少し休んでいってください」
シスターシャッハに誘われて、私は何故か騎士カリムの部屋に案内された。昨日と同じように騎士カリムの部屋に入ると、もちろん騎士カリムの姿があった。しかもお茶の用意まで万全な状態で。始めから私を誘う気だったみたい。軽く挨拶を交わして、イクスヴェリアに関しての感謝をここでももらった。
「イクスヴェリアはもう大丈夫だと思います。術式も成功しましたし、これからはみんなと同じ時間を過ごしていけますよ」
淹れてもらった紅茶を飲みながら、イクスヴェリアに施した術式の成功を報告。騎士カリムは「そうですか。それは何よりです」と本当に綺麗な微笑みを浮かべた。それから他愛もない世間話をしていると、扉がノックされてシスターシャッハが扉を開けると、そこにはセインが居た。
「シャルロッテ。イクスが会いたいって言ってるから、会ってあげてほしいんだけど・・・」
騎士カリムに視線を向けると、彼女は「どうぞ、行ってきてください騎士シャルロッテ」と微笑んだ。私は「一度失礼します」と断りを入れてから、またイクスヴェリアの部屋に向かう。着いた時にはスバル以外が廊下にたむろしていた。
『シャルさん。たぶん魔術の話になるかもしれないので、あたし達は少し席を外しておきます』
ティアナの配慮に『ありがと、助かるよ』って感謝しつつ、私だけでイクスヴェリアの部屋に入る。視界に入るのは、ベッドの上で上半身を起こして座るイクスヴェリア。そしてベッドの傍らの椅子に腰かけるスバル。
「イクス。この人がさっき話した、イクスを治したシャルさん。『あの、シャルさん。イクスにシャルさんが魔術師であること教えてしまいました・・・。その、どう治療したのかとか聞かれたもので、すいません・・・』」
『あはは、う~ん、まぁそれは気になるでしょうね。何せ眠る前に治療不可で、いつ起きるか判らないって聞かされたんでしょ? それなのに、治療されて目覚めることが出来た。どういう経緯でそうなったのか知る権利はあるよ、イクスヴェリアには。だから気にしないで、スバル』
現代の医療技術じゃ治せない。それなのに目覚めることが出来た。ならどうやって治療したか、なんて気にならない方がおかしい。まぁヴィヴィオの友達には強引にでも納得してもらわないといけないけどね。
「はじめまして、イクスヴェリアと申します。スバル達と同じ時間を過ごす未来を授けてくれたこと、感謝してもしきれません」
可愛らしい声と年相応じゃない丁寧過ぎる態度。う~~ん、こうもっと子供らしい仕草を見てみたい。
「うん、はじめまして。シャルロッテ・フライハイトです。うんうん。寝顔からして可愛かったから、こうして話すとさらに可愛いなぁ♪」
「え? あ、あの・・・ありがとうございます・・・?」
そうそう。そういうテレた感じ(何故か疑問符な感謝)がとってもキュート。
「いえいえ。あっとそうだ。イクスヴェリア、どこかおかしいところ無い? 術式は成功したから問題ないはずなんだけど、気付いたことがあったら言って」
スバルが譲ってくれた椅子に座りつつ、イクスヴェリアの様子を見る。
「はい。変なところ、と言うのでしょうか。そういうのはありません。すごく身体が楽なんです。今すぐにでも出掛けられるような、そんな感じです」
両腕を軽く振って、元気ですアピール。とても可愛いですよ、イクスヴェリア。あーもっと早く出会えていればなぁ。
「そっか。でも、少し診せてもらうね。少し身体に触れるけど、いいかな?」
一応こっちでも状態確認しておかないと。
「はい、どうぞ。シャルロッテ様」
あー、この子もシャルロッテ様・・・・か。実年齢がどうであれ、こんな子供にまで“様”付けされるのはちょっと・・・。だから「私のことはシャルでいいよ」と微笑みながらそう返す。
「それでしたら、わたしのこともイクスとお呼び下さい」
「うん、イクス。っていうか私にまでそんな堅くならなくえもいいんだよ? 私としてももっとフレンドリーな感じの方が好きだしね」
「えっと、シャルがそれで良いというのでしたら・・・」
イクスを横にして、彼女の胸に手をそっと添えて「我が言の葉は幻想紡ぐ鍵」と詠唱。イクスの現状把握開始。バイタル正常。リンカーコア正常。マリアージュの核生成能力の損失。
「(損失!? やばい、どうしよう)え~っと、イクス。マリアージュの核の生成能力が犠牲になっちゃった・・・んだけど、よかった?」
イクスの唯一の戦力と言えるマリアージュ。その核の生成能力を失うということは、彼女の戦う力が無くなるということだ。まぁ指揮・命令能力が無いということだし、あっても困るようなものとも言えたりするけど・・・。だけど、私の治療で、勝手に消してしまったのは事実。
「・・・いいえ、困るどころか助かります。今のわたしには、あの子たちへの命令権も指揮権も無いのです。管理できない力なら、無くなった方がいいんです」
どこか安堵したような、それでいて少し寂しそうにイクスが言った。イクスがそう言うなら良かったんだろう。
「(あーよかった。返してください、なんて言われたらどうしようも出来なかった)問題はそれくらいかな。あとは健康そのもの」
イクスの胸から手を離すとイクスが手を伸ばしてきて、私の手をキュッと掴んだ。
「どうしたの?」
「ありがとうございます、シャル」
「どういたしまして♪」
少し迷ったけど、イクスの頭をそっと撫でる。するとイクスはくすぐったそうにして、それから小さく笑い声を出した。
「良い子、というものですね。以前スバルに教えてもらいました。とても、すごく気持ちいいです」
「スバルには負けるかもだけどね」
イクスと2人してスバルを見ると、スバルは「あはは」と嬉しそうに、そして照れくさそうに頬を掻いた。私がイクスに出来るのはここまで。あとはスバル達に任せよう。
「それじゃあイクス。私はそろそろ行くね」
最後に優しく頭を撫でる。
「はい。シャル、本当にありがとうございました。この御恩はいつまでも忘れません。これから少しずつでもお返ししていきます」
「そんなこと気にしないでいいよ、イクス。イクスがイクスらしく生きて、みんなと一緒に楽しい時間を過ごしていく。それが私への恩返しだと思ってほしいな。それなら私も嬉しいから」
それが、私のこの子への願い。楽しい時間を生きる。イクスがそんな時間を過ごしてくれることこそが私への報酬。イクスは「はい」って綺麗な笑みを見せてくれた。先に部屋を出て、私を待っていたのかセインが廊下に立っていた。聞くとヴィヴィオ達は教会の応接室で私とスバルを待っているとのことだ。
「本当にありがとう、シャルロッテ」
応接室へと続く廊下で、セインがまたお礼を言ってきた。
「さっきもお礼をもらったから、そう何度もいいよセイン。それに、最後の最後で私はあんな可愛い笑顔を見せてもらった。それだけで満足満足」
「最後の最後って・・・?」
「うん。今日で最後。これから私たちはテスタメントの拠点に向かう。そこで決着がつけば、私はそこでお別れ。だから最後の最後ってわけ」
守護神としての最後の戦い、その最後の中での最後の人助け。その報酬は最高の笑顔。これほどの最高の終わりはない。
「え!? 待ってよ! シャルロッテが来たのって一昨日だよね!? それなのにもうお別れなんて早過ぎるよ!!」
隣を歩いていたセインがいきなり私の前に躍り出て、半ば叫ぶようにそう言ってきた。
「仕方ないよ。それが界律の守護神なんだから」
ポンポンとセインの頭を軽く叩く。そしてさっきのイクスのように撫でる。
「ありがとうね、セイン」
袖で目を擦るセインを置いて私は先を歩く。少しすると、セインは私の隣にまで駆け寄ってきて、「ありがと。あたしも忘れないから」そんな嬉しいことを言ってくれた。隣を歩くセインの頭をもう一度優しく撫でる。
応接室に着くと、ヴィヴィオ達ちびっこからのお礼の嵐。いやぁ、可愛いちびっこに囲まれて感謝されるなんて、もう最高だね☆
『久しぶりぃ、シャルロッテさん♪』
「・・・・誰?」
テーブルの中央に展開されているモニターに映る1人の少女が手を振ってる。知ってる知ってる。うん、知ってる顔だけど、知らない表情だ。だからそう言うと、ティアナ達は苦笑して、「まぁそういう反応も・・・解かる」とレヴィも苦笑。
『ルーテシアだよ、シャルロッテさん。まさか憶えてない?』
「憶えてる。憶えているからこそ、このリアクションだとご理解を」
ニッコニコな笑みを浮かべてるルーテシア。聞いてたよ。ルーテシアの性格がガラリと変わった(元に戻った)ってことは。でも実際に見てみると、レヴィの時と同じようにやはりドカンとくる衝撃。5年前のルーテシアのあの静かな(暗い、とは言えない)雰囲気からしてホント変わり過ぎ。
「それにしてもホント変わったね、ルーテシア」
『前はよく言われました~♪』
頭の後ろを掻きながらテレ笑いなルーテシア。
『そうそう。シャルロッテさん、こっちに来る予定とかある? 来てくれたらサイコーのおもてなしで歓迎しますよ♪』
「あ! その時は手合わせお願いします、シャルさん!」
目をキラキラさせてるルーテシアとヴィヴィオ。私が今日でお別れであるということを教えようとするけど・・・。
「「あの、シャルロッテさんは・・・」」
「お強かったりするのですか?」
そんなヴィヴィオの様子を見た友達のコロナとリオ、そして少し遠慮気味なアインハルトが、私の強さとかに興味があるのか、そんな疑問を私たちに投げかけてきた。3人の疑問に苦笑するティアナ達。その苦笑の意味は何かなぁ?
「シャルさんは強いよ。なのはママやフェイトママより強いし」
「「「えっ!?」」」
ヴィヴィオの返答に、それはもうビックリするヴィヴィ友トリオ(ヴィヴィオの友達3人の略)。そんな怪物を見るような目をしないでね、ホント傷つくから。それに、なのはとフェイトも結構なモンスターだよ、私から見れば。
「エリオ君も昨日シャルさんと模擬戦して・・・ね?」
「あはは。改めてシャルさんの凄さを思い知ったよ」
昨日の模擬戦を思い出したのかエリオがどことなく沈んでる。十分奮戦したからそんな沈むことないと思うんだけど、というか胸を張れエリオ。
「あ、あの、それなら私も手合わせをお願いします!」
アインハルトがノリ気だ。じゃなくて闘る気だ。うわぁ、この子もすごい目がキラキラしてる。あれ? この子・・・バトッ娘?
「え~っと、ごめんね。もしかしたら今日で帰るかもしれないんだ」
ヴィヴィオとルーテシアは、私の言っていることが解ったのか唖然。でも解らないヴィヴィ友トリオは首を傾げて???状態。
「私の過ごす世界ってなかなかこっちに戻って来れない管理外世界だから、一度ミッドを去ると会えないんだよ」
ちょっと苦しい嘘。管理外世界と管理世界の繋がりはまず無い。あったとしても少ない。だからこそなんとか通じる嘘。するとアインハルトは「そうなんですか、少し残念です」と言葉とは裏腹に心底残念がる。
「相手してあげたいのは山々だけど、今からすぐに管理局の仕事だし。ホントごめんね」
「あ、いえ、そんな。こちらこそ無理を言ってすいません」
「いやいや、ご期待にそえないでごめんね」
「そんなそんな、お気になさらないでください」
何故かごめんなさい合戦が勃発。こうなるとなかなか止まらなくなるんだよね、経験からして。それを止めるようにヴィヴィオがかなり悲しげな顔で口を開く。
「シャルさん、もう帰っちゃうんですか・・・? わたし、もう少しシャルさんとお話しして遊んで・・・わたしの成長見てほしかったです・・・」
『そっか。シャルロッテさん、もう帰っちゃうんだ。すごく残念だけど、仕方ないんだよね』
「ま、私は帰るけど、ルシルは残る予定だから、おもてなしはルシルにやっちゃって。ていうかルシル“で”散々遊んじゃっていいからさ♪」
ルシルは絶対残す、今度こそ。そして散々みんなを悲しませた罰を償わせる。フフ、遊ばれる、という形でね。
「あれ? ルシルさんって、ヴィヴィオのお父さんのことだよね?」
「あ、うん。本当のじゃなくて、言い方は悪いけど形としてのパパ。だけど、それでもわたしの大切な、すごく大好きなルシルパパなんだ」
ルシル。今のヴィヴィオの言葉、あなたに聞かせてやりたい。
「お待たせしましたぁ」
「もういいの?」
「はい。帰ってきたらゆっくりと話せますから」
スバルが戻ってきたことで、本局に帰る支度をする。そろそろ本局に帰らないといけない時間になったから。
「そっか。そんじゃそろそろ行こうか」
騎士カリムたち教会組とヴィヴィオたちに見送られながら教会を出る。
「シャルさん」
「ん?」
ヴィヴィオに呼び止められて振り返ると同時に、ヴィヴィオが抱き着いてきた。5年前と同じ。お別れの前の最後の抱擁。
「元気でね、ヴィヴィオ」
「シャルさんも。お元気で・・・いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
こうして私たちは、ヴィヴィオ達に見送られながら教会本部を後にした。
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
シャルちゃん達が教会に行っている間に、“テスタメント”に関する情報を纏める私とフェイトちゃんとはやてちゃん。
『でも、これって結構まずいことだよね』
念話で2人に話しかける。
『そやな。ひょっとしたら管理局最大の危機かもしれん』
『オムニシエンスがテスタメントの拠点。そうなると、オムニシエンスの管理を行っているミュンスター・コンツェルンは・・・管理局の敵・・・』
最悪の展開が脳裏に浮かんで気が気じゃない。“ミュンスター・コンツェルン”は、時空管理局の運営に必要な資金の大半を賄う出資者だ。その“ミュンスター・コンツェルン”が“テスタメント”と通じていて、本格的に敵対するとなると・・・。
『圧倒的に管理局は不利。下手すると経済攻撃を受けるかもしれへん。そうなると当然・・・』
『外からじゃなくて中から瓦解する、だね。艦船製造もデバイス製造も、ミュンスターの系列会社がやっていることだし。もし持久戦に持ち込まれたら、テスタメントとミュンスターの勝利は不動になるよ』
“ミュンスター・コンツェルン”の資金・技術が全て“テスタメント”に流れると、管理局の敗北は必至だ。ただでさえ管理局の運営には莫大なお金がかかっているのに。
『正直、この事件の結末がどうなるか判らん。魔術師と幹部たちをどうにかすれば終わるんか、それともそれが始まりになるんか』
『でも、向こうが敵対しようと考えているなら止めないと』
“テスタメント”と“ミュンスター・コンツェルン”の繋がりがどこまでなのかが判らないと、管理局が文字通り“終わる”かもしれない。でも解決を先伸ばせば、幹部たちの私たちがまだ知らない本当の目的が成就するかもしれない。
『まずは目の前の問題を押さえてこう。幹部たちを止める、それが最優先。ミュンスター全体がテスタメントの味方とも限らへんしな。そやからそっからの問題は後々上層部と相談しながらや』
まずは“テスタメント”幹部の問題を片付ける。それが私たちの“特務六課”の任務。
「はやて。シャルロッテ達が戻ってきた」
「そうか。・・・みんな、これで最後や。特務六課、出動!!」
オフィスに、はやてちゃんの号令に応える隊員たちの「了解!!」という一声が響いた。
後書き
イクスヴェリア覚醒。アインハルト登場。
もう少し彼女達の出番を増やしたかったですが、構成上これで限界です。
さて、次回からまたバトル続きとなります。反撃開始です
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