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自然食

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第三章


第三章

「それではだ。入院はだ」
「しません」
「しなくていいんだね」
「はい、必要ありません」
 断固とした声で断りだった。入院しないのだった。
 だがそれから一ヵ月後のことだった。彼女は突如自宅で倒れてしまった。
 一人暮らしだったのでそれから発見されたのは一週間後だった。連絡がないので心配になった会社の者がアパートに来てみたのだ。
 するとであった。
 彼女は自宅のトイレで倒れそのまま人事不省になっていた。すぐに救急車を呼んだが手遅れだった。その死因は。
「栄養失調だったとか」
「栄養失調か」
「はい、そうです」
 それで死んだというのである。
「それによってです」
「ではあれか」
 それを聞いてだ。部長はすぐにわかった。
「自然食だったな」
「はい、そうですね」
「あの人そればかり食べていましたから」
「もう意固地になって」
「それが原因だな」
 部長は腕を組んでだ。難しい顔で述べたのであった。
「自然食のせいだ」
「え、自然食で死んだのですか」
「あの、身体にいいのではないのですか」
「それがどうして」
「それで死ぬなんて」
「農薬を使わないとだ」
 部長が言うのはこのことからだった。
「虫が付くからな」
「虫ということはです」
「つまりは」
「あれですか」
「そうだ、あれだ」
 まさしくそれだと話す部長だった。それはというと。
「寄生虫だ。それにやられたな」
「ああ、だからそれで栄養を取られてですか」
「それで衰弱して倒れて」
「そのまま」
「そういうことだ。それで死んだんだ」
 部長はこう皆に話す。
「寄生虫のせいだ」
「じゃあ自然食もですか」
「安全で健康とは限らないんですね」
「つまりは」
「せめて食べる前にじっくりと洗うことだ」
 部長はこのことも話した。
「そうしなければな」
「そうなんですか」
「何か思い知らされる話ですね」
「栗田さんは可哀想だけれど」
「それは」
「仕方ない、あれだけ人の話を聞かないとな」
 部長は腕を組んでいる。そして難しい顔になっている。
 そしてそのうえでだ。皆にこうも話すのだった。
「ああなってしまう」
「農薬も危ないですけれど」
「自然食に過信もいけない」
「そういうことなんですね」
「つまりは」
「そういうことだな。完全な食べ物なぞない」 
 語る部長の顔が難しい顔になっている。
「過信して信じきって当然の処置を忘れれば」
「命に関わる」
「そういうことなんですね」
「そうだな。しかし」
 ここでだった。部長は難しい顔になって述べるのだった。
「彼女はあれか?野菜に火を通していた筈だが」
「何でも川魚が好きだったので」
「それも刺身を」
「おまけに天然ものでそれを食べるのが好きだったとか」
「ああ、それだ」
 ここでだった。部長ははっとした顔で述べるのだった。
「それが一番悪い」
「川魚ですか」
「それが」
「そうだ、それを釣ってそのまま生か」
「はい、どうやら」
「そうみたいです」
「危ないにも程がある」
 部長の顔はいよいよ深刻なものになっていた。
「川魚の虫はかなり悪質だからな」
「それであんな顔色になって」
「全身土気色になっていたんですか」
「川魚の虫のせいで」
「そうだったんですね」
「そういうことだな。食べ物には本当に気をつけないとな」
 また言う部長だった。
「さもないと。本当に命に関わるからな」
「全くですね」
「自然が全ていいんじゃないですね」
 皆このことを実感したのだった。かくして栗田は自然にこだわり過ぎてそのせいで死んでしまった。ものごとは完全に安全ということはないのだった。それが食べ物においてもである。そういうことなのだった。


自然食   完


              2010・11・27
 
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