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自分の口

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第一章


第一章

                          自分の口
 鳩山由人は今日もテレビに出ていた。立派なスーツ姿で言う。丸眼鏡をかけた白い細面の顔をしており髪の毛は適度にあげて分けている。
「少しは庶民のことをですね」
 こう言うのが口癖だった。
「考えてもらわないと」
「全くですよね」
「その通りですよ」
 誰もが鳩山のその言葉に頷く。彼はニュースキャスターだ。いつも夜の十字から出て来てだ。その時間にこの世を正す番組を切り盛りしていた。
 その彼はだ。いつも言うのだった。
「この失言も」
「漢字の間違いも」
「贅沢なんですよ」
 自分ではこう言う。しかしであった。
 自分はだ。いつもネットで指摘されていた。
「こいつまた言葉間違えたな」
「漢字が違うぞ、漢字が」
「はあ!?その時そんなのなかったぞ」
「贅沢って。御前年に五億もらってるだろうが」
 こう指摘されるのだった。
「だから何で庶民なんだよ」
「こいつは少なくとも庶民じゃないだろ」
「全然違うだろ」
 このことが指摘される。だがそれはテレビや新聞ではそれが全く指摘されないのでだ。鳩山はそんな批判なぞ何処吹く風だった。
 彼はまさに得意の絶頂にあった。銀座のクラブでだ。ホステス達をはべらせて最高級のスコッチをがぶがぶと飲みながら言うのである。
「俺が世界を動かしてるんだよ」
「あら、凄いわね」
「そこまでできるのね」
「ああ、そうだよ」
 顔を真っ赤にさせて笑顔で言うのだった。
「政治家だろうが官僚だろうが俺が文句をつければな」
「それで終わりなのね」
「何もかも」
「ああ、そうだ」
 まさにその通りだというのである。
「それで終わりだ。俺が一番なんだ」
「一番って?」
「先生、何がですか?」
「俺が一番強いんだよ」
 こう言うのである。
「マスコミ、テレビには誰も逆らえないんだよ」
「あらあら、強気ですね」
「それはまた」
「政治家も官僚も俺が言えばな」
 さらに言う鳩山だった。
「それで終わりだ。俺には誰も勝てないんだよ」
「あら、先生」
 ここで横にいるホステルが声をあげた。鳩山は彼の胸をまさぐりだしたのだ。しかも服の中に手を入れてだ。直接しだしたのだった。
「それはおいたですよ」
「いいだろ?今晩な」
 鳩山は下卑た顔でそのホステスに言う。
「どうだ?」
「けれど先生ご家族が」
「ああ、そんなのどうでもいいんだよ」
 彼はテレビで政治家や官僚の女性問題を追及してもいる。
 
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