皇太子殿下はご機嫌ななめ
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第56話 「くたばれ、皇太子!! (ラップ心の叫び)」
前書き
書こう書こうと思いつつも、書いてない。エルフィン・ヨーゼフ君と皇太子様が一緒にいる場面。
かわいがってるとは思うけど、意外と入れるシーンが作れなくて、ちょっと残念。
第56話 「中に誰もいませんよ」
アレックス・キャゼルヌだ。
フェザーンを通じて、あの皇太子からサイオキシン麻薬に関する協議を行いたいとの申し出があった。プラス地球教に対しても同様に協議を行いたいらしい。
それ自体はこちらとしても異存はない。
サイオキシン麻薬は同盟にとっても、重大な懸念事項だからだ。
そして協議の全権大使として、門閥貴族の雄。ブラウンシュヴァイク公爵が派遣されるという。これは皇太子が本気で協議するつもりがあるという、明確なメッセージだともっぱらの噂だ。
ただあの皇太子が麻薬の協議だけを目的としているとは思えないのだが……。
まあ考えすぎても仕方がないかもしれない。
■統合作戦本部 ジャン・ロベール・ラップ■
ここ最近、ロボス派のアンドリュー・フォーク大佐とよく話し合っている。
俺はまあ、シトレ校長派になるのだろうが、いつのまに派閥に入っていたのかと、疑問に思うこと多々だ。話してみるとフォーク大佐も決して悪い人物ではない。いささか独善的な部分があるが、それは人間誰しも同じだろう。多かれ少なかれ独善的な部分はあるものだ。
フォーク大佐はヤンやアッテンボローとも話しているが、ヤンはどうやらフォーク大佐に対して、壁のようなものを感じているらしい。まあ、あいつは引っ込み思案な部分があるからな。あまり強く自分を主張するタイプじゃないし。
それにしてもアッテンボローときたら、フォーク大佐に向かっていつものテンポで食って掛かっては、理路整然と言い返され、悔しそうにしている。なにをしてるんだか……。
「ラップ先輩、あいつ妙にむかつきませんか?」
アッテンボローが憤懣やるせないといった表情を浮かべ、言い放った。
向こうだって同じように思っているだろうよ。そう思いつつ肩をすくめてみせる。
まったくアッテンボロー、お前さんが突っかかりさえしなければ、向こうは気にしないだろうに。
「それにキャゼルヌ先輩があの野郎を庇うし」
「はは~ん、お前さん、焼きもちを焼いてるんだろう」
俺がそう言うとアッテンボローの奴は、そんな事ありませんと大仰に騒いでみせた。
「とはいえフォーク大佐は後方担当としては優秀だからな。キャゼルヌ先輩としても教え甲斐があるんだろう。俺やヤンやお前さんと違ってな」
「まあ、そりゃ分かりますがね」
「ところで、ヤンはどうしてるんだ?」
「ここのところ、あの皇太子殿下に夢中ですよ。皇太子に関する本を読み漁っています」
あと立憲君主制に関する本も読んでいますと言ってくる。
なるほどな~。ここのところ皇太子に関する本が数多く同盟で出版されている。かくいう俺も何冊か読んでみたが、おおよそ否定したくても否定しきれない相手という印象が強い。
特に専制主義国家である銀河帝国を立憲君主制に移行しようとしている。その部分は民主共和制に至る前段階として、静観を保つべきではないかという主張がなされていた。
何事も一足飛びには行えないのだから、その主張には一理あると思う。ただ皇太子を口汚く罵っているものは、一足飛びに民主共和制に移行しない事を罵るという現実離れしたものだ。
「ヤン先輩は皇太子が、本当に立憲君主制に移行する気があると考えているみたいです」
「なるほど」
「ただそれは、まだまだ先の話だろうとも言っていますがね」
「うん、そうなのか?」
「ええ、帝国改革がある程度形になるまでは、強権を手放すわけにはいかないだろうと」
その辺りは簡単に言える話ではないな。
現状は皇太子が強権を振るっているからこそ、うまくいっているのだし。
「しかしあの皇太子が強権を手放すタイミングを間違えると、なりたくないルドルフのようになってしまうかもしれないとも言ってますね」
権力を手放すタイミングか……。
あの皇太子の判断力と決断力がうまく機能してくれていれば良いんだが。
今はまだ若いから、判断力や決断力も衰えていないが、年寄りになってからでは難しいかもしれないな。頭の痛い問題だ。
「立憲君主制に移行しようとしているのは、帝国を背負いきれる人物が、中々いないからじゃないでしょうか?」
「うん? どういう事だ?」
ふいにアッテンボローがそんな事を言い出す。
帝国を背負いきれる人物か……。
「あの皇太子なら帝国を背負いきれますよ。ですが皇太子以外に現実問題、帝国を背負える人物はいないでしょう?」
「確かにな……」
「だったらいなきゃいないで、なんとかできる体制をとる。あの皇太子ならそう考えているでしょう。そういうタイプだと思いますね」
「ああーそういや、アッテンボローも皇太子と会ったことがあったな」
「ありゃかなりシビアな男ですよ。戦争だってやらずにすめば、それに越した事はない。ただ同盟側がぐだぐだしてるんなら、さっさと統一してまとめてしまいたい。今のままじゃ同盟に引きずられて帝国まで、にっちもさっちも行かなくなる。それが見えるだけに案外、同盟の態度にイライラしてるかもしれませんね」
「民主主義に対する反発みたいなものは?」
「あーそりゃないです」
アッテンボローが顔の前で大げさに手を振った。
その態度に呆気に取られてしまう。だがアッテンボローは実際はもっと厄介かもしれませんよと、言いたげだ。
「そうなのか?」
「専制主義も民主主義も等しく一長一短ある。そう考えていますね。運用する人間次第。かなり割り切った考えをしているようです」
「本当に専制主義国家の皇太子で、宮廷育ちなのか? 俺達より民主主義に対する見識が凄すぎるぞ。専制主義の中で育ったとは思えん」
「洒落になってないでしょう? そんな相手なんですよ、あの皇太子は」
通りでヤンの奴が、思いっきり警戒しているはずだ。
民主主義国家に生まれて、専制主義の皇太子に成り上がったと言われた方が、まだ理解できる。フォーク大佐がホーランド少将に向かって、文句をぶちまけたと聞いたが、その理由がようやく理解できた。どうしろというんだ。
まともにやりあって勝てる気がしないぞ。
サンフォード議長が胃薬を常備しているはずだ。俺も胃が痛くなってきた。
腹いたい。どうしよう。
「先輩、大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」
「だ、大丈夫だ。ところでお前さん、良く平然としてられるな」
「俺だってようやく持ち直したんですっ!! それを言うならヤン先輩の方が凄いですよ。ハイネセンに帰ってくるなり、皇太子に関する本を読み始めたんですから」
「そうか……くたばれ、皇太子!!」
「いきなりどうしたんですかっ!!」
アッテンボローは呆気に取られているが、こうでも言わなければ、やってられない気分だ。
■ノイエ・サンスーシ フリードリヒ四世■
新しい人材を掘り起こすべく、面接をしているが、中々これはという人物がいない。
そして今日も今日とて、ルードヴィヒからダンボールで書類が回ってくる。
うぬぬ、奴め、余を過労死させるつもりかっ!!
なんというひどい息子だろう。年老いた父親をこき使うとは……。
大神オーディンが許しても、余は許せぬ。
「のう。そう思うであろう」
執務室に居並ぶ女官達に言ってはみたものの、誰一人として返答しようともせぬ。
がっでむじゃ。
さらにリヒテンラーデなどは、あからさまに白い目をしておる。
それが皇帝に対する態度かっ。
不敬にも程があろう。
酒も飲ませて貰えぬし……。
「今までが飲みすぎだったのですぞ。少しはお控え下され」
「余は酒が好きじゃ。それがどうした文句があるか」
そう喚いていると、扉がいきなり開いて、余の不肖の息子が顔を見せた。
しかも入ってくるなり、
「がたがた喚くな」
そう言ってくる。書類の詰まったダンボールに足を掛け、ふんぞり返る姿はまるで、悪鬼の如き様子であった。
余の息子は鬼じゃ、悪魔じゃ。血も涙もないわー。
「働きたくない。働きたくないのじゃー」
「働かざるもの、喰うべからず」
「働くぐらいなら、喰わぬ!!」
どうじゃ言い返してやったわ。
ルードヴィヒのあの呆れたような顔。余は何か大事なものを失ったような気がするが、そのような瑣末な事は関知せず。それが皇帝というものじゃ。
「ラインハルト、ジーク。聞いたか、今のセリフを」
ルードヴィヒが大声を出すと、ラインハルトとジークがひょっこり顔を出してきた。
二人とも呆気に取られておるようじゃ。
「これが銀河帝国皇帝の言葉だ。なんともはや情けない。いいか良く聞け、これから先、エルフィンなり、マクシミリアンなりがこのような不甲斐ない言葉をほざいた時は、遠慮はいらん。思いっきり蹴っ飛ばしてやれ。俺が許す」
うぬぬ。ラインハルトが深く頷いておるわ。
あいもかわらずかわいらしい格好をしてるというのに、ルードヴィヒの悪影響をまともに受けておるのか……不憫な子じゃ。
それに引き替えジーク、ジークはどうじゃ。そなたは余の味方をしてくれるな。そうであろう?
「働いてください」
ばっさり切り捨ててきたわ。ひどい、余はそなたらを息子のように思っていたのじゃぞ。
それなのになんという無慈悲な言葉じゃ。
「味方はおりませぬな」
リヒテンラーデがそう言うと、女官達も深く頷きよった。
どいつもこいつも余に対する敬意というものはないのかー。
「ないっ!!」
ルードヴィヒが断ずる。
そなたには聞いておらぬ。うぬぬ、どうしてくれようか。
「薔薇園、燃やされたいか? うん?」
「そなたは……そこまで鬼になれるというのか……悪魔に魂を売り渡したというのかー」
「けっ、なにをぬかすか。せからしか、嫌ならはたらけー」
「いーやーじゃー」
駄々を捏ねていたら、ルードヴィヒが露骨に軽蔑を露にした視線で射抜いてきた。
そしてさりげなく指を鳴らし、あごをしゃくって言い放った。
「皇帝陛下はご乱心なされた。医務室へお連れして、拷問なり洗脳なりして、性根を叩きなおして差し上げろ」
「ひいぃ~、まさか余の熟れた身体を貪ろうと……」
「気持ち悪い事をぬかすな!」
実の息子に足蹴にされる皇帝というのは、余ぐらいなものじゃろうな……。
大帝ルドルフならば、どうなされたであろうか?
「たぶん大帝ならば、そもそもこのような言い争いなどなされなかったでしょうな」
「働くぐらいなら、喰わぬなんて言わなかっただろう」
リヒテンラーデとルードヴィヒがしみじみと話していた。
どうせどうせ、余はふんっ。
「ところで今日は何用で来たのだ」
「ラインハルトがハイネセンに向かうからな、ジークがラインハルトの代理を務めることになった。その顔つなぎだ」
なるほどのう。ラインハルトは外に向かい、ジークは内に向かう。
案外、適材適所というべきか。
ラインハルトはブラウンシュヴァイクの下で外交を学び、ジークはリッテンハイムの下で内政を学ぶ。ふむ。ルードヴィヒめ、今からこの二人に英才教育を施すつもりじゃな。
まったくよく先を考えるものじゃ。
次の芽を、その次の芽を、わしも育てる事にするかのう。
そうと決まれば、面接は年若い者を選ぶとするか、今から楽しみじゃ。
■宰相府 アンネローゼ・フォン・ミューゼル■
「余が思うにっ!!
異常者が生息する社会に、未来は無いっっ!!
例えば、華奢で柔でデリケート。その上、清楚で可憐で繊細な、ナイスバディな女性を寵姫に迎えておきながら、一向に手を出す気配も無く。他の女性に手を出そうとする最低な男がいる。
このようなケダモノを駆逐する事こそ、人類の統治者たる余の使命であるっ!!」
ルドルフ(アンネローゼ)・フォン・ゴールデンバウム(ミューゼル)。
「……アンネローゼ。いきなり何を自己主張してんのよ」
「ちょっとやばくない?」
「やばいやばい」
まったくマルガレータさんとエリザベートさんは、あいかわらず失礼な人たちだと思います。
わたしがそんな事を言うわけ無いじゃないですか……。
「言ってたじゃん」
「幻聴です」
わたしの心の声を聞かないで下さい。
「それにケダモノって、皇太子殿下の事?」
「こわいねー」
「こわいこわい」
だーかーらー人の魂の叫びを聞くなというのにっ!!
まったくなんて人たちでしょう。失礼極まりない。わたしならこう言います。
「中に誰もいませんよ」
後書き
四月はお花見で酒が飲めるぞー。
とか言いながら、お酒に弱いわたし達はやっぱり花より団子かもしれない。
それはさておき、最近職場に新しく入ってきた男性がいるんですけど、この人がまー仕事ができない。というより何も考えていない風に見える。
どうして毎日、同じ失敗をするんだろう……。
まったく同じところで、同じ間違いをする。
どうして? なぜ? 入ってから一月も経つというのに、そんなのおかしいよ。
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