ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します
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本編
第39話 嘘吐きは最低?つまり私は最低です
こんにちは。ギルバートです。カトレアの件は、泣かれたらコロッと行ってしまいました。自分の意志の弱さに、少し自己嫌悪しています。しかし、自分の中にある禁忌とも言える“ゼロの使い魔原作知識”を、一緒に背負ってくれるのは、この人しか居ないのです。その事はこの2年間で、嫌と言うほど思い知らされました。
ちなみに“泣かれる前にコロッと行ってた”と言う突っ込みは、受け付けませんので悪しからず。
次の日ヴァリエール公爵に呼び出されて「カトレアとの婚約を正式に許可する」と、お言葉を頂きました。そして結婚には、一つの条件が課せられました。それは、カトレアを完治させる事です。まあ、当然と言えば当然の条件です。
ちなみに見た目だけは取り繕ってありましたが、公爵の袖からは青痣が見え隠れし、足も引きずっていました。そんな公爵に、父上とモンモランシ伯だけは同情の視線を送っていました。(この2人も娘を持つ父親でしたね)
話が終わった後に、テンションが上がり過ぎたカトレアを落ち着かせるのに、多大な労力を消費する羽目になった事を、ここに付けくわえさせていただきます。
公爵と伯爵の滞在期間は、1週間の予定です。しかし、いきなり問題が発生しました。
今の別荘は、温泉以外何もない状態です。子供達にとっては、面白い環境とは残念ながら言えません。公爵は「何も無いがあるじゃないか」とか、意味不明な事を言ってましたが、それを子供達が理解できるはずもなく「何とかして!!」と、子供達の面倒見役のエレオノール様に厳命(泣き付かれたとも言う)されてしまいました。ところ構わず逃げ回る子供達に、相当参っていた様です。責任感からなのでしょうが、子供達は(若干1名除き)鬼ごっこ気分で逃げ回ります。完全に鬼役になっているのは、反射的に追いかけるエレオノール様の自業自得と思うのですが……。
いずれにせよ、放っておくと森に入って行きそうな勢いだったので、私も子供達の暇つぶしに協力する事にしました。そこで提供したのがフリスビーです。家の家族や守備隊員達は、女の子でも出来るキャッチボール感覚で楽しんでいます。これなら、ルイズやモンモランシーに勧めても問題無いでしょう。
皆を庭に連れ出して、2人1組になって投げ合う事にしました。最初は私が簡単な説明をし、アナスタシアと投げ合って見本を見せてから経験者と未経験者のペアに分かれます。私がエレオノール様、ディーネがモンモランシー、アナスタシアがルイズです。カトレアと大人達は、紅茶を飲みながら見学ですね。
私は僅かに手前に傾け、キャッチする時に減速するよう調節して投げました。そのおかげか、エレオノール様は難なくフリスビーをキャッチしてくれます。しかし、エレオノール様が投げると、私の手前で急激に曲ったり曲らなかったりするので、取り辛い事この上ないのです。取り易くする為に、曲らないよう水平に投げているはずなのに不思議で仕方がありません。何故なのでしょうか?
モンモランシーは下手ながら、もうディーネとラリーが出来る様になっています。ルイズは時々よけいな力が入って、大暴投する以外は概ね大丈夫な様です。フリスビーは好評の様ですが、この様子では1週間は持ちそうにありませんね。と言う訳で、一つ策を考えました。
次の日、皆が庭でお茶を飲んでる所に、ガルムを連れて行きました。その場には都合が良い事に、全員がそろっている様です。
「はい。全員注目です」
私はガルム舎から連れて来た子供を撫でながら、全員の注目を集めます。大人達の中には、ガルムを見て訝しげに表情を歪める者も居ました。
「この子はガルムの子供で、まだ数匹ガルム舎に居ます。この子たちと一緒に、帰宅日前日にゲームをする事にしました」
家の家族以外の全員が、不思議そうな顔をしました。予想通りの反応だったので、フリスビードックのルールを説明します。(詳しいルールは知らなかったので、細部はロイクと適当に決めた物です)説明だけではピンと来ていない人も居たので、目の前で一度実演して上げました。この競技が可能になったのも、ロイクが頑張って躾けてくれたからです。全員の理解が得られた所で、私は更に続けます。
「ガルムと喧嘩したり逃げられたら失格で、怪我をさせるのも厳禁です。そして優勝者には、この豪華賞品をプレゼントです」
私はポケットから、アルミニウムで作った小さなブローチを出しました。アルミを薔薇の花形に成形し、色抜きしていない青みがかったガラスで全面を分厚くコーティングしてあります。複雑な形なので、空気が一切入ら無い様にするのは大変でしたが、おかげ様でかなり良い出来に仕上がったと自負しています。《固定化》と《硬化》も掛けてあるので、破損や錆等の心配もありません。
子供達は全員目を輝かせていましたが、エレオノール様だけは訝しげにしていました。
「ギルバート。この青みがかっているのはガラスよね?」
「はい(あれ? ひょっとして、デザインが気に入らなかったのでしょうか?)」
「で、この金属の方だけど……ひょっとして」
まあ、一応巷では幻の金属と言われていますね。それが如何かしたのでしょうか? 私は訳が分からず、首をひねってしまいました。
「軽銀……なんて事は、無いわよね?」
「はい。軽銀です。それが如何かしましたか?」
私の返事を聞くと、エレオノール様が固まりました。いや、エレオノール様だけでは無く、カトレア含む当家の人間以外は、全員が固まっています。
「如何したのですか?」
私がそう聞くと、エレオノール様がワナワナと震え始めました。
「軽銀と言えば、何年も前に僅か5リーブルだけ市場に流れた幻の超希少金属じゃないの!! 《錬金》しても純度が全く足りないから、純度が高い物は未だにその値段は天井知らずなのよ!! なのにこれの純度は……」
「ほぼ100%で純軽銀と言えますね」
「そんな訳無いじゃない!!」
エレオノール様は私からブローチをひったくると、ディテクト・マジック《探知》を使い純度を確かめました。
「本当……ね。小さくて使ってる金属量も大した事無いけど……このブローチだけで数十、下手をすれば数百エキューにもなるわよ」
高いのは知っていましたが、まさかここまで喰いつかれるとは思いませんでした。しかしこれは不味いですね。この場にいる人間は大丈夫とは思いますが、欲で自分を見失った人間は醜い事この上ないですから、ガルム達を怒らせないか本気で心配です。それに子供達だけでなく、大人達も反応している現状は宜しくありません。特にコレット夫人(モンモランシ夫人)の目が怖いです。
「そうですね。これを賞品にするのは、価値が高過ぎて宜しく無さそうです。賞品はカトレアと相談して、妥当な物を考えておきます。(家では身近な金属過ぎて、軽銀の希少性を舐めていました。気軽に用意したブローチが、こんな扱いになるとは思いませんでした)」
私が賞品を取り下げると、エレオノール様が明らかにガッカリした表情が見せました。ルイズとモンモランシーもぶーぶー言っていますが、こちらは無視です。カトレアには昨日の内に、同じ物をプレゼントしてありますし……。エレオノール様には、これから王立魔法研究所関連で世話になるかもしれないので、今の内に点数稼ぎをしておいた方が良いでしょう。
「エレオノール様は、確か王立魔法研究所で土魔法の研究に携わる予定と聞きました。希少金属の軽銀に、ご興味があるのではないですか?」
「……ええ。興味があるわ」
エレオノール様は、何故か悔しそうにしながらも頷きました。
「では、サンプルでインゴットを一つ差し上げましょう。ついでに、カトレアと一緒に適正な賞品について意見を貰えると助かります」
「え? いいの? 希少金属だから、売ればかなりの額になるのよ」
私は大きく頷いてから、カトレアの方を見ます。
「カトレア(私はインゴットを作って来ます。すぐに戻るので、相談は私の部屋でしましょう)」
「はい。……さぁ、姉様。私達は先に行きましょう」
エレオノール様は、カトレアに引っ張られて行きました。私も人目のつかない所に行き、《錬金》でインゴットを作成すると部屋に戻ります。インゴットを渡し、話し合いを始めると……。
「なんか、貴方達……長年連れ添った夫婦みたいね」
なんかエレオノール様から、とんでもない感想が漏れました。まあ、カトレアの能力で“つうと言えば、かあ”以上のやり取りをしているので、ある意味当然ですが悪い気はしませんでした。ちなみにカトレアの機嫌が、怖いくらいに良くなっていました。
その所為か話し合いは迷走し、結局私が賞品を考える事になってしまいました。有力候補は、先のブローチを銀製に変えた物です。それではつまらないので、もっと良いものを考えなければなりませんね。
今回別荘には、公爵家と伯爵家の使用人だけで無くカトレアの医師団も同行していました。カトレアの病の原因と治療法を、しつこく追及して来たのは公爵では無く彼等です。ただ彼等も、追及だけしていた訳ではありません。
彼らにより、温泉がカトレアの病に効くと実証されたのです。これにより、カトレアが別荘で療養する事が正式に決定しました。
私は喜びましたが、それで追及が無くなる訳ではありません。私は「病の原因と治療法は誓いの所為で言えない」で通していましたが、あまりにもしつこかったので、カトレアに「病の原因だけでも公開しよう」と提案したのですが、何故か拒否されてしまったのです。
「何故ですか? カトレアと同じ症状の人が居た場合、その人を見捨てる事になりますよ」
私の言葉に、カトレアが辛そうに顔をゆがめました。その顔を見て、私は理由に思い至ったのです。結果として、物凄い自己嫌悪におちいりました。それと同時に、気付けて本当に良かったと思いました。こんな物を、カトレア1人に背負わせる訳には行きません。
「理由は分かりました。無理に口にする事はありません」
しかしカトレアは、僅かに首を横に振ると口を開きました。
「病の原…因を公開し…て完治す…れば、同…じ症例の…人が現れ…た時、治療…法を公開…しない訳…には…。そう…なれば……」
カトレアの涙交じりの告白は、そこで完全に途切れてしまいました。
治療法は、“摘出手術”・“ルイズの虚無魔法”・“精霊魔法”そして“性魔術”の4つです。このどれもが、ハルケギニアでは公開出来ない内容なのです。一方で異端認定を受ける方法ですし、もう一方はルイズの系統を公開する事になります。それは、私達にとって絶対に容認出来ない事です。
この決断は同時に、カトレアと同じ症状の人間が居た場合、その人を見捨てると言う決断でもあります。
しかし、話はそれだけに止まりませんでした。暫くして落ち着くと、カトレアは再び口を開いたのです。
「それにギルは……。お父様達に、マギは『2~3年戻らない』と説明したわ。でも、もう2年以上経ってしまったわ。今更『マギが帰らない』なんて説明は、誰も納得しないと思う。下手をすれば、それが両家の軋轢になるわ」
カトレアの意見は、反論のしようが無い程に正論でした。私が誤魔化し切る心算だった事実を、誤魔化せないと断じたのです。
「全てとは言わないけれど……。私の病の事だけでなく、ルイズの事もお父様と母様に伝えるべきだと思うわ」
私はその言葉に、ただ頷く事しか出来ませんでした。
ルイズ達の事をエレオノール様とディーネにお願いして、私とカトレアは公爵とカリーヌ様に時間を作ってもらいました。別荘の一室に移動し、私がサイレントの魔法をかけると、公爵とカリーヌ様の表情に緊張の色が混じりました。
「こんな所で、一体何の話があると言うのだ?」
公爵は警戒心を隠しもせず、私に質問をして来ました。
「これから話す事は、大変重要な事です。また、今のハルケギニアでは、到底信じられない荒唐無稽な話でもあります。今から話す事を口外するのは厳禁とし、信じるに値しないと判断された場合は、この部屋を出ると同時に忘れると誓っていただけますか?」
私の言葉に公爵とカリーヌ様は、答えを口にしようとしませんでした。
「約束していただけないようなら、お呼び立てして申し訳ありませんが……」
「内容は何だ?」
公爵の棘のある声が、私の言葉を中断させました。公爵もですが、カリーヌ様のプレッシャーが凄い事になっています。気の弱い人なら、気絶するのではないでしょうか?
「マギの事。カトレアの病の事。ルイズの魔法の事。……この三つです」
「分かった。誓おう」「誓うわ」
今度は間髪入れずに、2人とも即答しました。
「では、先ずマギの事からお話しします。長いお話になるので、御着席ください」
カトレアは私の隣に座り、対面方向に公爵とカリーヌ様が座ります。
「マギは自分の事を、話したがらない人でした。今からする話は、マギが酒に酔った時に漏らした話や、マギの手帳の内容からの憶測も含まれます。その所為で、不自然な点もありますがご了承ください」
そう言って私は、マギの事を話し始めました。嘘に塗り固められた話ですが、ほんの少しの真実を混ぜて話して行きます。
「マギは元々ロバ・アル・カリイエ(東の世界)出身で、大成を望み若くしてエルフとの取引を始めた商人です。そして、運良く成功する事が出来たマギは更なる成功を求め、ガリア王国、ネフテス国(エルフの国)、ロバ・アル・カリイエを結ぶ貿易路を造り上げようとしたのです。
……しかし、若くして成功したマギを、快く思わない人達が居ました。マギは彼等の罠にはまり、エルフの信用を無くしてしまいました。そして運が悪い事に、その時マギはガリアに居たのです。サハラの横断には、如何してもエルフの協力が必要です。エルフの信用を失ったマギは、故郷に帰る事が出来なくなってしまいました。
途方に暮れるマギを助けたのは、ガリアとサハラの間に住む年老いた学者でした。そこでマギは、商品の殆どを処分し、その学者の所に助手として転がり込んだのです。やがてその学者も亡くなり、マギはハルケギニアを旅する様になりました。
盗賊に襲われた事も、一度や二度では無かったそうです。それでもマギは、旅を止める様な事はありませんでした。幸いマギは優秀なメイジだったので、遅れをとる様な事は無かったからです。
やがてトリステインで、ある女性に出会います。その女性は、王立魔法研究所の主席研究員だったそうです。優秀な彼女に嫉妬する声も多く、なかなか良い研究環境が得られなかったそうです。彼女は歴史と地学を研究していて、その時の研究内容は、ハルケギニアの大地に眠る風石の調査と、効率の良い採鉱技術の確立でした。
しかし彼女は、研究の途中で“恐ろしい秘密”を知ってしまったのです」
私はそこでいったん切ると、冷めかけた紅茶でのどを潤します。
「“恐ろしい秘密”とはなんだ?」
私は「もう解決済みなので、安心してください」と、答えておきました。大隆起は、解決(風石を除去)してしまった以上、立証する方法は無いのです。しかし、カトレアが黙っていませんでした。
「大隆起よ。地下深くに溜まった風石の所為で、大地がアルビオンみたいに空に浮かび上がるの。そして、浮力が維持できない物は墜落するわ。これがハルケギニア全体で起こるの」
公爵とカリーヌ様が絶句しています。証明も出来ないのに、何で言ってしまうのでしょうか?
「証拠はあるのか? それに、解決済みとは……」
公爵が、ようやくと言った感じで声を絞り出しました。
「最近おこっている地震は、土の精霊が風石の鉱脈まで穴を開けているからです。その穴から風の精霊が鉱脈に侵入し、風石を分解しているのです。ロマリアは『聖戦の理由が無くなるのは困る』と大騒ぎして、地震の原因に巨額の懸賞金をかけたそうですが……」
「聖戦か……。しかしそれが本当なら、ロマリアがそれを黙っている理由は無いだろう。公表しておけば、ハルケギニアは一つにまとまる事が出来る」
公爵がすかさず反論して来ました。
「表向きは、パニックを避ける為としています。しかし本当の理由は、各国に対策をとる時間を与えず、問答無用で聖戦に協力させる為です。正気を失った狂信者の考えは、私には分かりません。それから証拠を求めるなら、女性研究員の調査報告書を探すしかありません」
公爵とカリーヌ様は私の言葉を吟味していますが、本当の事なので破綻する所はありません。困るのは、証拠がこの場に無い事ですが……。取りあえず続きです。そして大嘘を吐きます。
「その女性研究員は重圧から心が壊れかけましたが、息子の為に力を振り絞り持ち直しました。しかしその女性研究員は、エルフの薬を飲まされ心を壊されてしまいます。本来ならそこで終わる筈だったのですが、その薬に解毒薬があると分かると、息子の12歳の誕生日に事故を装い階段から落とされました。そして、その女性研……」
「その女性研究員の名前を言いなさい」
ここで突然カリーヌ様が口を挟んで来ました。
「いえ……私も知りません。マギはその人の名前を、絶対に口にしてくれませんでしたから」
「何か手掛かりは無いの?」
私は少し思いだす振りをして……。
「確か息子の名前が、ジャンだったか、ジャックだったか……そうだ。ジャン・ジャックです」
カリーヌ様は辛そうに目を閉じると「もう良いわ」と言って、再び黙ってしまいました。恐らくワルド子爵の母親とは、隣の領地と言う事もあって面識があったのでしょう。私は気持ちを切り替え、続きを話し始めました。
「その女性研究員が死に、敵を打つ為にマギは立ち上がりました。そして分かったのが、敵がロマリアである事と大隆起です。そして更なる手がかりを求めて、ロマリアの暗部を覗こうとして……」
そこで公爵の顔色が変わりました。
「まさか……」
「はい。恐らくマギは、もう生きていません」
私の言葉に、公爵とカリーヌ様は頭を抱えてしまいました。
「続いてカトレアの病についてです。しかし私とカトレアは、誓いの所為でこれを語る事が出来ません。よって、私からカトレアにもう一度説明しますので、それを偶然聞いてください」
言葉遊びの誤魔化しですが、あの誓いをたやすく破る事は私には出来ません。
「精神力……ここでは便宜上魔力と表現しますが、これは人の心が生み出し溜めこまれる物です。しかし、具体的に何処に溜めこまれるか、当たり前過ぎて誰も意識していません。ディティクト・マジック《探知》の魔法を使えば、魔力が体全体に薄らと広がっているのが分かります。それを踏まえて、カトレアに同様の魔法を使うと、病気の幹部と思われる部分に違和感があるのが分かります」
私はカトレアを真直ぐに見ながら説明していますが、意識は完全に2人への説明モードです。
公爵とカリーヌ様は、お互いに《探知》を使いその事を確認すると、カトレアに《探知》を使い事実を確認します。
「確かに球の様な物があるな」「ええ」
2人の確認するのを待って、私は説明を続けました。
「これがカトレアの病の原因です。カトレアが魔法を使ったり体力的に消耗すると、この球が膨らみ水の流れを悪くます。身体の重要器官に水が流れなくなると、如何なるかは想像に難くありません。逆に水の秘薬を飲んだりすると、球は小さくなります。歩く等の軽い運動をして、体力を付ければ球が膨らみ辛くなります」
「……治療法は?」
公爵とカリーヌ様が、理解する間を十分取ってからカトレアが問い掛けて来ました。
「治療法は三つです。一つ目は、この球を物理的に体外へ摘出する事です。カトレアの体を切り、周囲の体組織ごと切り取ってしまいます。リスクは、死や重度の後遺症が残る可能性が、非常に高い事です。成功しても、治療法が公になれば異端扱いです」
ここでカトレアは、首を横に振りました。公爵とカリーヌ様も、眉間に皺を寄せています。
「二つ目は、精霊による治療です。精霊をカトレアの体内に侵入させ、球を体外に運び出してもらいます。この治療法は、死や後遺症のリスクはありません。しかし、この治療法が公になれば、一つ目以上に不味い事になります。……後は、精霊を説き伏せられるかが問題ですね。私はこの治療法が、一番良いと考えています。(実は性魔術で解決して、この治療法と偽る心算です)」
カトレアは頷いて居ましたが、喜びを隠し切れずニコニコと笑顔がこぼれています。公爵とカリーヌ様は、一瞬だけ眉間に皺が寄りましたが、カトレアの顔を見て同時に溜息を吐きました。
「そして、三つ目です。これは……」
私はそこで言葉を止めてしまいました。(本当に言っても良いのか?)と言う迷いが、如何しても拭い去れないのです。
「ギル。……言って」
カトレアに促されて、私は頷きました。
「ディスペル・マジック《解除》と言う魔法による治療です。この魔法で球を分解除去すれば、カトレアは完治します。これもカトレアの身体上のリスクはありません。ただ問題なのは、この魔法が伝説の系統である“虚無”だと言う事です」
私の言葉に、カトレアが真剣な表情で頷きました。公爵とカリーヌ様は、“虚無”と言う言葉に反応しましたが、現実味が無いと判断したのか私達の誓いを慮ったのか、口を挟んで来ませんでした。
「ギルバート。カトレア。私とカリーヌは、今の話を偶然聞いてしまった。知ってしまったからには、私達には隠す必要は無い。これ以上病の原因と治療法について、聞きも聞かせもせんと誓おう」
そして、公爵はカリーヌ様に目で合図しました。カリーヌ様は頷くと……。
「私も、聞きも聞かせもしないと誓うわ」
誓ってくれました。
「精霊による治療を、絶対に成功させてくれ」
公爵とカリーヌ様は、虚無魔法による治療をスルーして、精霊による治療で解決すると認識した様です。その認識では正否以前に、最後の話に繋がりません。
「はい。全力を尽くします。しかし、事は精霊の矜持に反する事です。精霊が聞き入れてくれる可能性は、決して高いとは言えません」
公爵とカリーヌ様の顔が歪みました。
「精霊による治療が駄目なら……」
「許さんぞ!! カトレアを切り刻むなど絶対に許さん!!」
公爵がヒートアップして、怒鳴り声を上げました。カリーヌ様は一見冷静に見えますが、これは確実に、嵐の前の……ですね。
「安心してください。精霊による治療が不可能な場合は、三つ目の虚無魔法ディスペル・マジックによる治療法を実行する心算です」
「何を言うか!! 使い手が存在しない系統など!!」
怒りをあらわにする公爵に対して、私は静かに首を横に振りました。
「担い手は存在します」
私の言葉に、公爵が固まりました。
「虚無の初歩の初歩の初歩。エクスプロージョン《爆発》その威力は絶大で、込めた精神力によっては、地表に小型の太陽を創り出します。また、途中で詠唱を止めても発動可能で、小型の爆発程度ならワンスペルで発動可能です」
公爵とカリーヌ様は、私の説明に数秒遅れて目を見開きました。しかし、絶句したまま固まっていて、言葉をまともに出せる状況ではない様です。
「虚無の担い手は通常のメイジとは規格が違い過ぎ、自分の系統を真に理解しなければコモンスペルさえまともに使えません。この状態では、最も相性が良い虚無魔法が暴発します」
これについては、ある意味予想通りです。ガリアのジョゼフ第一皇子は、魔法を使っても全て不発に終わっているのです。発動するのが、プチ《加速》なのでそう見えるのでしょう。
「ですので……」
「待て!!」
復活した公爵に、説明を中断させられました。
「確証……いや。証明は出来るのか!?」
「出来ます」
私が即答すると、再び公爵は固まりました。
「証明方法は二つあります。しかし、現状では証明するのはお勧めしません」
「何故ですか?」
固まった公爵の代わりに、カリーヌ様が口を開きました。
「ルイズが虚無と判明すれば、如何なると思いますか?」
私が質問に質問で返すと、カリーヌ様の顔が引きつりました。
「先ず、ルイズは戦争の道具として、まともな人生を送れなくなるでしょう。そして下手をすれば、トリステイン王国は内戦状態になります。それは『虚無の系統は、王家の正当な後継者に現れる』と、大義名分を振りかざす者達が出て来るからです。そう言った者達に、わざわざ火種をくれてやる事はありません。政治的回避方法はいくらでもありますが、それには入念な準備が必要です」
私はここでいったん切って、公爵とカリーヌ様の表情を確かめました。2人とも真剣な表情で、私の顔を見ています。
「ここで問題になって来るのは、ルイズが決して暗愚では無いと言う事です。二つの確認方法は、そのどちらも自分の系統に辿り着く可能性があります。今ルイズは、自分の事を『欠陥メイジ』と思いこんでいます。自分は伝説の虚無である事を、今のルイズが隠し通せると思いますか? 少なくとも私は無理と判断します」
私の説明に、この場にいる全員が渋々と頷きました。
「確認方法の一つ目は、ルイズが水のルビーを付け始祖の祈祷書を開く事です。これにより古代語が浮かび上がり、白紙にしか見えない祈祷書を読む事が出来るでしょう」
「その方法は、ハッキリ言って無理だな。水のルビーと始祖の祈祷書は、王家に伝わるトリステイン王国の国宝だ。特別な事情でもない限り、借り出すのは不可能と言って良いだろう」
公爵の冷静な突っ込みに、私は頷きました。
「もう一つは使い魔の召喚です。ルイズが虚無なら、ガンダールヴ、ウィンダールヴ、ミョズニトニルン、記すことさえはばかれる使い魔のどれかが召喚されるはずです」
「しかし、記すこともはばかれる使い魔が召喚されたら、確認のしようが無いのではないか?」
公爵の言葉に、私は首を横に振りました。
「マギの調べで、最後の使い魔はリーヴスラシルと判明しています。それ以前に、ルーンを刻まなくとも分かるのです」
「そうか。しかし、分かるとはどういう事だ?」
「はい。始祖の使い魔は、全て人の形をしているはずですから」
公爵とカリーヌ様の顔が、驚きに包まれます。
「ガンダールヴ『神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる』の歌でも分かる様に、武器を使いこなします。
ヴィンダールヴ『神の右手はヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空』これはあらゆる騎獣を操ると言う事です。
ミョズニトニルン『神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す』助言すると言う事は、言葉をしゃべると言う事です。そしてマギの説には、あらゆるマジックアイテムを使いこなすとありました。
これらすべてに共通するのは人です。そして、マギがロマリアの最深部で見つけた資料には、初代ガンダールヴはサーシャと言う女性で、種族は……」
そこで私は、また迷う様に間をとりました。
「種族は何だと言うのだ?」
痺れを切らした公爵が、先を促します。
「……エルフです」
「馬鹿な!! 出まかせだ!!」「ありえないわ!!」
「では何故そんな資料が、ロマリアの最深部に大切に保管されていたのですか? 焼いて然るべきでしょう?」
私の言葉に、公爵とカリーヌ様は反論のしようがありません。
「ここまで来るとマギをほら吹きの狂人と断じるか、ロマリアの闇がそれだけ深いかのどちらかです。そして今の段階では、私はマギをほら吹きの狂人と断じる事が出来ないのです。マギが言ったルイズの爆発魔法は、まぎれもない事実でした。マギが言った大隆起は、精霊達が事実と認め対処しました。私の周りで確認した事は、全てマギが正しかったのです」
私の血を吐く様なもの言いに、公爵とカリーヌ様はそれ以上言葉を口にしませんでした。
「……ギル」
カトレアに声を掛けられ、演技に熱が入り過ぎていた事に気付きました。一度大きく深呼吸して、気分を落ち着かせます。そして、いよいよルイズのこれからについてです。原作を外れ過ぎない様に、2人の意識を誘導しなければなりません。
「ルイズは適当な年齢になってから、使い魔を召喚させるのが良いと思います。……私の個人的意見ですが、年齢は少なくとも15歳以上になってからが良いと思います。それを踏まえて推奨するのが、トリステイン魔法学院の使い魔召喚の儀式です。順当に行けば16歳になっていますし、学院長のオールドオスマンは信用出来る人物と報告があります。彼に協力してもらえれば、隠蔽工作と安全対策は問題無いでしょう。そして、私も時期をずらしてルイズと同時に入学し、全面的にフォローします。(しかしロマリアには、魔法が使えない王族関係者と言う事で、既にばれてる可能性大ですね)」
私はカトレアに視線を向け……。
「これで結婚が遅れます。すみません」
と、短く謝りました。これは事前に話してあった事なので、カトレアは首を僅かに横に振り怒っていない事を伝えてくれました。
「人が召喚されても、公爵家と当家が協力すれば、使い魔としての生活や帰還も問題無いと判断します。(自分の言葉に吐き気がする)」
ふと気付くと、カトレアが私の手を握っていました。私は(大丈夫です)と、目と心で返事をしました。
「ここまでする理由は、爆発魔法が原因不明のままなら、ルイズの使い魔召喚はこの時行われるはずだからです。そして私達の、虚無かもしれないと言う危惧から出た行動が、ルイズの劣等感を刺激し苦しめると思ったからです。私達はルイズを見捨てないと言う姿勢を、常に見せておかなければなりません。(自分の都合の良い未来の為にベラベラと……)」
私はそこまで言うと「以上です」と言って、立ち上がりました。
「ギルバート。ルイズの事は、私とカリーヌで話し合って決める。だが、貴様の意見は参考になった。礼を言っておく」
私は黙礼で返答すると、カトレアと一緒に部屋を辞しました。
「カトレア。私を最低の人間と思いますか?」
「ギルは吐いて良い嘘しか吐いて無いでしょう」
「……そうかな」
「そうよ」
カトレアの慰めが、心に来る今日この頃でした。
さて、いよいよフリスビードックの日がやって来ました。楽しい別荘生活も今日で最後です。
この大会に参加するのは、ルイズ、モンモランシー、ディーネ、アナスタシアの4人だけです。
エレオノール様は練習初日に、不参加を言って来ました。原因はガルムの口が開くと同時に、急激に曲る絶妙なフリスビーコントロールです。このコントロールのおかげで、一度もガルムがフリスビーをキャッチ出来ませんでした。……ある意味凄いです。エレオノール様は、逃げられ癖でもあるのでしょうか?
そのお陰と言ってはなんですが、参加賞が4人分で済んだので、なんとか当日に合わせる事が出来ました。……参加賞は、カトレアと2人で手作りです。先のブローチより、圧倒的に苦労しました。
優勝候補はアナスタシアです。他の人に比べると、圧倒的に練習時間が違います。ルイズとモンモランシーから、ずるいと言う意見が入ったので、ハンデとして私が一度だけ妨害すると宣言しました。
しかし、アナスタシアは「兄様の妨害ごとき平気だもん」と、のたまったのです。アナスタシアよ、それは兄に対する挑戦状と受け取りました♪ ディーネの非難の視線が気になりますが、無視です。無視。
トップバッターはルイズです。ガチガチに固まっていますが、大丈夫でしょうか?
開始の合図と共に、ルイズは思いっきりフリスビーを投げました。しかしフリスビーは、何故か上に飛んで行ったのです。紛う事無き大暴投です。投げたフリスビーを見失ったルイズは、ひたすら困惑していました。そしてフリスビーは、ブーメランのごとく戻って来ます。
コツン 「ぱうっ」
ルイズの額に命中しました。同時にルイズの口から、面白い悲鳴が漏れました♪
ルイズの額から跳ねかえったフリスビーを、ガルムがZone1で見事にキャッチし1ポイントが入りました。痛くは無かった様ですが、相当恥ずかしかったらしく、涙目に真っ赤な顔でフリスビーを投げ続けました。ちょっと可愛いと思ったのは、私だけの秘密です。この状態で、Zone3キャッチを連発していたのは凄いです。
次のモンモランシーは、コンスタントにZone2~3キャッチを出していました。ジャンピングキャッチも飛び出していたので、意外に高得点です。
その次のディーネは、これと言ったミスも無くZone3キャッチを連発しZone4キャッチも出していました。
さて、大トリを飾るのが優勝候補のアナスタシアです。
余裕の表情で投げた一投目を、ガルムが追いかけZone5でキャッチしようとした瞬間。横から何者かに、フリスビーを掻っ攫われました。
「ああぁぁぁーーーー!! 何でボルグが居るの!?」
私達の目の前で、悠然とアナスタシアの下に行こうとするボルグに、ガルムが『フリスビー返せ!!』と言わんばかりに跳び付きます。それを『フッ……あたらんよ』と、見事にかわすボルグですが、連続で跳び付くガルムの所為でアナスタシアに近づけません。
注 こんな事になったのも、以前アナスタシアがボルグの前で、フリスビードックを気軽にしたのが原因です。フリスビーを取って来たガルムを褒めるアナスタシアを見たボルグは、横からフリスビーを掻っ攫ったのです。悠然とフリスビーを持って来るボルグに、如何して良いか分からないアナスタシアは、取りあえず褒めてしまったのです。それ以降、ボルグとガルムはフリスビーを奪い合うライバルになってしまいました。
……結局そのままタイムアップです。アナスタシアはゼロポイントです♪
「兄様!! ボルグ使うなんて酷い!!」
私は不思議そうに首を傾げると……。
「アナスタシアは私の妨害ごとき平気なんでしょう」
と言ってやりました。めっちゃ大人げないです。
「さあ、結果発表に移りますよ」
涙目のアナスタシアが、ディーネに慰められています。ディーネが「迂闊にギルのドS地雷踏むからですよ」と言っていましたが、私は母上と違ってドSじゃないので知りません。
結果は……
1位 ディーネ
2位 モンモランシー
3位 ルイズ
ドべ アナスタシア
……です♪ ルイズの最後の一投が間に合っていれば、ルイズが2位でした。
さて、先ずは参加賞を配ってしまいましょう。参加賞は私とカトレアで作った、可愛くデフォルメされたガルム人形です。それぞれ、以前プレゼントした帽子と同色のリボンが、スカーフの様に首に巻き付き縫い止めてあります。アナスタシアのは頑丈に作ってありますし、ルイズのはリボンが白一色では寂しいのでピンクのチェック模様にしてあります。
人形を渡した後は、お子様達が喜んで表彰式どころではありませんでした。私はディーネに近づくと、優勝おめでとうと声をかけ、当初の賞品であるブローチを渡します。
「ギル!! これは……」
私は人差し指を、口元に当て「静かに」のジェスチャーをします。まあ、この場合は内緒と言う意味合いですが……。
こうして、最初の別荘お泊まり会は無事終了したのでした。
余談ですが、温泉は女性陣に好評(美肌効果はやはり絶大)で、公爵家と伯爵家は定期的に別荘に訪問する事になりました。
次の来訪時にルイズから聞きましたが、帰宅後にエレオノール様が物凄く荒れたそうです。
「私は帽子どころか、人形も貰えなかったわよ。何。ルイズ。自慢したいの? 私なんて、高価なものだけど無粋なインゴット一つよ!! ちび!! ちびルイズ!! ……(この後延々と説教)」
泣きながら説明しに来たルイズが、物凄く不憫でした。……反省です。
それから公爵とカリーヌ様から、ルイズの系統確認については、私の意見をそのまま採用すると手紙が来ました。……そして文末には、ルイズを頼むとありました。
ルイズの為に吐いた嘘でもあるはずなのに、何故こんなにも罪悪感があるのでしょうか?
後書き
改訂内容ですが、次話でカトレア視点の加筆で、次々話で多少表現を変えます。
私の実力では、これが限界です。文章力の無さに涙出そうです。
ご意見ご感想お待ちしております。
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