戦国異伝
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第百五十七話 延暦寺その五
「やるとなればやるわ」
「ですな、何時でも出陣できますし」
「延暦寺もそれを見ています」
「それがわかるからこそですか」
「あちらも」
「よい判断じゃ」
こう諸将に言うのだった、満足している笑みで。
「延暦寺は膿を出してな」
「そして、ですな」
「我等も攻めずに済みます」
「まさに万全じゃ」
そう言う他ない状況だというのだ。
「ではな」
「はい、それでは」
「今度は」
「延暦寺が約を違えぬかどうか目付は置く」
それはだというのだ。
「そのうえでじゃ」
「摂津ですな」
「あの国に」
「行くとしよう」
「では」
こうしてだった、信長は延暦寺の断を聞いてまずは安心した、だが。
僧侶達は信長にだ、こう言ったのだった。
「しかし無明殿と杉谷殿ですが」
「引き渡せぬか」
「いえ」
信長の問いには首を横に振って答える。
「それは決めております」
「引き渡すのじゃな」
「はい、ですが」
「その二人がじゃな」
「来ませぬ」
引渡しに応じないというのだ。
「彼等は」
「左様ですか」
「はい、そうです」
その通りだというのだ。
「それが全く」
「左様か」
「寺のやり方に従えぬ僧侶や僧兵達も集まり」
「そしてじゃな」
「寺の一部に篭もり戦おうとしております」
「そうであるか」
「ですからこのことは」
杉谷善住坊と無明についてはというのだ。
「我等とて」
「わかった、しかし僧兵と荘園のことはじゃな」
「我等は受け入れます」
寺全体としてはというのだ。
「そうさせて頂きます」
「そうか、わかった」
そのことを聞いて信長は納得した声で頷いた、そしてこう僧侶達に告げた。
「延暦寺は攻めぬ」
「有り難きお言葉」
「しかし二人はじゃ」
杉谷と無明はというのだ。
「我等とて放ってはおけぬ」
「ですか」
「二人は攻める」
そうするというのだ。
「そして断に従わぬ僧侶や僧兵達もな」
「ではまさか」
「あの者達も寺にいますが」
「それでもですか」
「兵を」
「そうする、大僧正殿にお伝えせよ」
その断を降した延暦寺の主にもだというのだ。
「寺の殆どには兵は入れぬ、しかしじゃ」
「そこはですか」
「攻められますか」
「去りたい者は去れとも伝えよ」
杉谷達がいる場所にいる者達にもというのだ。
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