美しき異形達
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第三話 怪人と炎その十二
「けれどね」
「それでもですか」
「うん、中学の剣道で突きはしてはいけないんだ」
「それはどうしてなんですか?」
「中学生はまだ子供だよ」
とにかくだ、このことを強調する智和だった。
「子供はまだ身体が出来ていない、そんな相手に突きをすれば大変なことになりかねない。まして体格は大人である人がそんなことをしてはね」
「大怪我をすることもあるんですね」
「とても危ないよ」
智和は持ち前の理知から話していく。
「死ぬことすらあるよ」
「だからやってはいけないんですね」
「まして中学生は突きを習わない」
使用してはならない技を習う筈もない。
「習っていない技を仕掛けるなんておかしいと思わないかい」
「そういえば」
「まして試合にも使わないんだよ」
中学生の試合ではだ。
「そんなことをしてはいけないよ」
「とてもですね」
「そう、相手によって使ってはいけない技があるんだ」
「そのことを弁えないと駄目ですよね」
「絶対にね。後ね」
「後?」
「床で背負投は」
今度はこのことについて言う智和だった。
「僕は柔道も知らない、けれどね」
「床ではですね」
「柔道は何故畳の上でするか」
このことが重要だというのだ。
「それは柔道の技が危険だからなんだ」
「相手を投げるものだからですね」
「そう、畳の上だとダメージが軽減される。けれどそれでも」
「それでもですか」
「柔道の技は危険なんだ」
投げる技を使うからだ、それでだというのだ。
「絶対に床の上で出してはいけないよ」
「絶対にですか、このことも」
「そうだよ。しかも投げられた生徒さんが何をしたのかは知らないけれど」
智和はそこは聞かなかった、床で背負投を使うこと自体が論外の行為だからだ。最早体罰の範囲を遥かに超えているというのだ。
「投げられた生徒さんは柔道の経験は」
「剣道部だったそうで」
「じゃあないね、それだと」
柔道を知らない子供だ、それならというのだ。
「受け身も知らないね」
「それも問題ですか」
「受け身は柔道の基本中の基本だよ」
それこそだ、柔道でまず習うことである。技の最初のものだ。
「投げられた時に受け身を取れないと危ないからね」
「じゃあこのことも」
「受け身を知らない子に柔道の技は絶対にかけてはいけないよ」
例えだ、如何なる場合でもというのだ。
「下手すれば死ぬからね」
「ましてや床ではですか」
「僕には信じられない」
真顔で言う智和だった。
「その先生は本当に武道をしているのかな」
「そこまで、ですか」
「うん、人間としておかしいよ」
教師以前にというのだ。
「最早ね」
「暴力を振るい過ぎですか」
「武道でもスポーツでもない、暴力だよ」
最早それに過ぎない、智和は眉を曇らせて言い切った。とはいってもその曇らせ方にも理知が見られ顔を崩しているものではない。
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