機動6課副部隊長の憂鬱な日々
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外伝
外伝1:フェイト編
エピローグ
「へーっ、そんなことがあったんかいな。 なんか劇的やな」
ピンクのニットとフレアスカートに身を包んだはやてが感心したような声をあげる。
ここは、クラナガン郊外の住宅街にあるシュミット邸のリビング。
機動6課の解散から半年ほど経った頃のことである。
その場にいるのは、
ゲオルグとなのはのシュミット夫妻と娘のヴィヴィオ
シンクレアとフェイトのクロス夫妻
はやてとスバルたち元機動6課フォワード4人衆
である。
今も忙しい部署に居るものも多いこのメンバーにあって、
この日は珍しく休みの日程があったために、お茶会でもしようと
シュミット邸に集まっていた。
その席で、ヴィヴィオが発した
"フェイトママとパパっていつからおともだちなの?"
という言葉をきっかけに、フェイトが昔話を始めたのである。
時折休みながら2時間以上にわたった話を続けた結果、
きっかけになったヴィヴィオはゲオルグの膝の上で眠ってしまい、
高いところにあった太陽はだいぶ傾いて、オレンジ色の光がリビングに
差し込むようになっていた。
「そうですよね。 それにゲオルグさんがなんか今と別人ですし」
はやての言葉を受けて、ティアナがそう言うとゲオルグを除く
その場に居る全員が大きく頷いた。
「ホントにね。 ホントになんでこんなになっちゃったの?」
全員を代表するようにフェイトが言うと、ゲオルグは不服そうに頬を膨らませる。
「ほっとけよ。 いいだろ別に。 むしろ若いころの発言を蒸し返されて
俺はスゲエ恥ずかしいぞ」
「ですねぇ。 ゲオルグさんがそんなに恥ずかしい少年だったとは・・・」
ゲオルグの言葉に応じてシンクレアがニヤニヤ笑いながらそう言うと、
ゲオルグはシンクレアの方を睨みつける。
「うるせえ! ったく、だからこの話はしたくないんだよ。
フェイトもイチイチ細かく話さなくていいのに」
「いいじゃない。 私とゲオルグの大切な想い出なんだし」
そう言ってニコッと笑うフェイトに、ゲオルグは深いため息をついた。
「はいはい」
あきらめ口調でゲオルグがそう言うと部屋の中に居るほとんど全員が
声をあげて笑った。
そんな中、ひとりだけ笑い声をあげていなかった女性がフェイトに目を向ける。
「ねえ、フェイトちゃん」
「どうしたの、なのは?」
妊娠してお腹がずいぶんと目立つようになったなのはに声を掛けられ、
フェイトは首を傾げながら問い返す。
「フェイトちゃんはさ、ゲオルグくんのことが好きだったの?」
なのはのその言葉を聞いたゲオルグは口に含んでいた紅茶を噴き出しそうになった。
「おいおい、もう今更関係ないだろ」
「そうかもしれないけど・・・・・でも、気になるんだもん。
どうなの、フェイトちゃん?」
「私もそれは気になるわ。 フェイトちゃんの話を聞いてると
そういう関係なんを想像してまうもん。
実際のところどうなん、2人とも?」
なのはに続いてはやてに問われ、フェイトとゲオルグは思わず
お互いの顔を見合わせた。
そして2人とも苦笑しなしながらそれぞれの考えを述べる。
「えっとね、私はゲオルグのことが好きだったんだと思うな。
ゲオルグと話してる時はすごくドキドキしたしね」
昔を懐かしむように遠い目をしてフェイトがそう言うと、
ゲオルグは驚きで目を丸くしていた。
「そうだったのか・・・。 だったら、俺とフェイトが付き合ってても
おかしくなかったんだな・・・・・」
「ちょっ、それどういうこと!?」
呟くように言うゲオルグに対して、なのはが詰め寄る。
その勢いにゲオルグは気圧されつつ応える。
「落ち着けって。 あくまで当時のことだけど、俺も同じだったんじゃ
ないかと思うんだよ。 フェイトのことを目で追ったりしてたからな」
ゲオルグがそう言うと、シンクレアが怪訝な表情を見せた。
「なんでフェイトもゲオルグさんも"と思う"なんですか?
2人とも自分のことでしょ?」
「今思えばってことなんだよ。
当時は俺も子供で恋愛とかそういうのに疎かったからな。
フェイトもそうだろ?」
ゲオルグが尋ねるとフェイトは黙って頷く。
「フェ、フェイトちゃんは今でもゲオルグくんのこと、好きなの?」
「うん、すきだよ」
恐る恐るといった感じで尋ねるなのはの問いに、
フェイトは微笑を浮かべて答えた。
その直後、なのははフェイトの襟を掴んで前後に揺さぶり始める。
「ちょっと! まさか、フェイトちゃんはゲオルグくんをわたしから取り上げる
つもりなの!? そもそもフェイトちゃんにはシンクレアくんっていう
立派な旦那さんがいるんだからそんなのだめなんだよ!
それにわたしのお腹にはゲオルグくんとの子供もいるんだよ!
だからだめなの、だめったらだめなの!」
なのはにゆすぶられてフェイトの首はガクガクと揺れる。
「な、なのは!? 待って、ちょっと待って!」
フェイトはなのはに揺さぶられながらなのはを止めようと声をあげる。
だが、我を忘れているなのはにその言葉は届かない。
「おい、なのは!」
ゲオルグがなのはに向かって声をかけながら、なのはの手に自分の手を重ねると
なのはの手が止まった。
「ゲオルグくん?」
「今の俺にはなのはだけだからそんなに取り乱すなって」
「・・・ほんと?」
「本当だよ。 俺が女の子として好きなのは、なのはだけだよ。
だから、安心しろよ」
ゲオルグの言葉で一瞬安心した表情を見せるなのはだが、
すぐに不安げな表情に戻る。
「でも、フェイトちゃんがいまでもゲオルグくんのことがすきだって・・・」
「それは友達としてってことだろ。 なあ、フェイト?」
「そうだよ、なのは。 だいいち私にはシンクレアがいるし・・・」
フェイトはそう言って頬を染めながら俯く。
その様子を見ていたなのはがようやく安心したように笑った。
「よかったぁ。 フェイトちゃんとゲオルグくんをとりあうなんてことになったら
わたしに勝ち目なんかないもん・・・」
「はぁ? 何言ってんだよ。 フェイトよりなのはの方がいい女に決まってるだろ」
「ふぇ? ほんと!? ほんとにそう思う?」
ゲオルグの言葉になのはは満面の笑みを浮かべながら詰め寄る。
「当り前だろ。そもそも、子供が2人もいるのになのは以外の誰を選べるんだよ」
「そっかぁ・・・そうだよねぇ・・・ふふふふふ・・・・・」
ゲオルグが今更といった感じで呆れながら言うと、
なのははニヤニヤと笑いながら両手を自分の頬にあてた。
そんな夫妻のやり取りをジト目で見ている者が居た。
「まったく、これみよがしにいちゃいちゃしよって・・・見てられへんなぁ。
なあ、そう思わへん?」
「そうですね」
呆れのこもった口調ではやてがそう言うと、ティアナが小さく頷いた。
だが、ティアナの表情は苦笑するはやてとは違って、苦々しさが前面に出ていた。
そんなティアナの心情が手に取るように判ったスバルは、小さくため息をついた。
しばらくして、お茶会はお開きにしようという流れになったのだが、
そのころには日が暮れ始める時間になっていた。
そのため、どうせならみんなで晩御飯でも・・・となのはが言いだしたことにより、
急きょバーベキュー大会が開催されることになった。
かくして、なのは・はやては準備作業のためにキッチンへ入っていた。
一方、バーベキューセットを庭に出す仕事を割り当てられたゲオルグは
ガレージからバーベキューセットを引っ張り出すと、庭の片隅に座り込んで
タバコに火を点けた。
「ゲオルグ」
背後から声を掛けられると、暗くなった空に向かって一度煙を吐き出してから
立ち上がって声をかけたものの方を振り返る。
「なんだよ、フェイト」
「懐かしい話を思い出したら、ちょっと昔話をしたくなって」
フェイトは微笑を浮かべてそう言うと、ゲオルグの側に腰を下ろした。
「ゲオルグも座れば?」
傍らに立つゲオルグの顔を見上げながらフェイトが言うと、
ゲオルグはフェイトにちょっと待つように言って、ガレージの方に向かう。
そして、数脚の折りたたみ椅子を持ってフェイトのところに戻ってきた。
「座るんならこれに座れよ」
「ん、ありがと」
フェイトはゲオルグが置いた椅子に腰を下ろすと、ゲオルグの方に目線を向けて
ニコッと笑う。
「やっぱり、ゲオルグって優しいね」
「アホか。こんなのは優しい優しくない以前の問題だよ」
「そうなのかな? でも、私はゲオルグの優しさだと思うよ」
「・・・なら、勝手にそう思ってろよ」
そう言ってゲオルグは少し離れたところにもう一つ椅子を置くと、
ドカッと腰をおろして不機嫌そうな表情を浮かべながらタバコをふかす。
「ふふっ・・・照れちゃって」
「照れてねえよ! それより、昔話ってなんだよ?」
照れ隠しにわざとぶっきらぼうにふるまうゲオルグに対して、
フェイトは苦笑を浮かべながら話しかける。
「ゲオルグはさ、あのころ本当に私のことが好きだったの?」
「・・・それを聞いてどうするんだ?」
「ただの興味・・・かな」
「ふーん」
ゲオルグは肩をすくめるフェイトの顔を窺うと、
大きく空に向かって煙を吐く。
「さっきも言ったけど、今となってはよくわからないな。
ひょっとするとそうだったかもしれないけど、
あの頃の俺はそういうことを理解するには幼なすぎたからな。
お前もそうだろ? さっきもそう言ってたし」
ゲオルグの問いに対してフェイトは首を横に振った。
「さっきはなのはの手前もあってああ言ったんだけどね、
私はゲオルグのこと好きだったよ、あの頃」
「なっ・・・」
フェイトの言葉を聞いたゲオルグは驚き、あんぐりと口を開いた。
咥えていたタバコが庭の芝生の上に落ちる。
「お前・・・何を言ってるのか判ってるのか?」
落としたタバコの火を慌てて消すと、ゲオルグは鋭い目で
フェイトを見ながら問いかける。
「判ってるつもりだけど。むしろ、ゲオルグは何を慌ててるの?
私が言ってるのは過去の話だよ。
今はそんなことないし、私が今好きなのはシンクレアだもん」
微笑を浮かべて平然と言うフェイトの顔を唖然とした顔で見ていたゲオルグは
フェイトの言葉を聞き終えると、肩をすくめて笑う。
「よく恥ずかしげもなくそんなこと言うよ」
「うーん、それはゲオルグには言われたくないかな」
眉尻を下げて困ったように笑いながらフェイトが言うと
ゲオルグはもう一度肩をすくめた。
「はいはい。 ところで、愛しの旦那さまとは一緒に居なくていいので?」
「んー、シンクレアはティアナに捕まってるよ」
フェイトが指差す方には真剣な表情で話すシンクレアとティアナの姿があった。
「シンクレアとティアナか・・・・・浮気じゃないのか?」
「そんな訳ないでしょ! たぶん仕事の話をしてるんだと思うよ」
ゲオルグのからかうような口調に対して、フェイトは両手を腰にあて
頬を膨らませて怒声をあげる。
ゲオルグはフェイトを落ち着かせるように掌を前後に振った。
「悪かったよ。 それで、仕事の話って?」
「さあ? 私も詳しいことは知らないから」
「はあ? ティアナはお前の補佐官だろ? なんで知らないんだよ」
「だって、情報収集は3人でそれぞれ分担してるから・・・」
きょとんとして答えるフェイトに対してなおも問いかけようと
ゲオルグは口を開きかけるが、リビングに面したウッドデッキの上に立つ
なのはに呼ばれてゲオルグは言葉を飲み込んだ。
「奥さんがよんでますよ、ご主人」
からかっているつもりなのか、歌うような口調で話すフェイト。
「ええ、申し訳ないがこれで失礼を」
フェイトの口調に合わせるように軽く笑いながらそう言うと、
ゲオルグはフェイトに向かって片手をあげてから、なのはの待つ方へと歩く。
ウッドデッキの上で手を振るなのはのそばまで来ると、
ゲオルグはなのはに向かって声をかけた。
「何か御用ですか、奥方?」
芝居がかったゲオルグの口調になのはは声をあげて笑う。
「ふふっ、なにそれ。 ま、いいや。
あのね、そろそろお肉とかの準備ができるから火をつけておいてほしいの」
「了解。 食いもんを運ぶ時は呼んでくれ」
「うん、わかった。 よろしくね。 それよりさ・・・」
そこでなのはの表情が険呑なものに変化する。
「ずっとフェイトちゃんと話してたみたいだけど、なにを話してたの?」
直前までよりも少し低い声で尋ねられ、ゲオルグはフェイトとの会話を思い出して
少し表情をこわばらせた。
「・・・お互いの近況とか昔話とか、ただの雑談だよ」
答えを聞いたなのははジト目でゲオルグを見る。
「あやしいなぁ、ほんとはフェイトちゃんと・・・きゃっ!」
ゲオルグとフェイトの関係を怪しむ言葉を発するなのはをゲオルグは抱き寄せる。
突然抱き寄せられて驚いたなのはは小さく悲鳴をあげた。
「そんなわけないだろ。 俺が好きなのはなのはだけだよ」
ゲオルグがなのはの耳に唇を寄せて囁くように言うと、
なのはは潤んだ目でゲオルグの顔を見上げる。
「しんじていいの?」
「当たり前だろ」
にっこりと笑ったゲオルグがなのはの額に口づけを落とす。
するとなのはは不満げに頬を膨らませる。
「おでこじゃいやなの」
甘えた口調でそう言うとなのははそっと目を閉じた。
「しょうがないやつだな」
ゲオルグは苦笑しながらそう言うと、なのはの唇に自分の唇を押しあてた。
1分ほどのキスのあと、名残惜しげに離れるとなのははにっこり微笑んだ。
「じゃあ、しんじてあげる」
「ん、ありがとな」
ゲオルグがなのはの頭に何度かポンポンと軽く触れると、
なのははキッチンの方へ、ゲオルグはバーベキューコンロの方へと歩いて行った。
そんな2人の様子を影から見ていた者が2人居た。
「エ、エリオくん・・・」
「うん・・・」
少年と少女は真っ赤な顔をしてその場からそっと離れていった。
バーベキューが始まると、シュミット邸の庭には肉の焼ける
香ばしい匂いが漂っていた。
その中で、10人の男女が思い思いに飲み食いを楽しんでいた。
ゲオルグは身重のなのはに代わって、キッチンから庭に食べ物と飲み物を
せっせと運んでいたが、それがひと段落するとヴィヴィオやなのはと
コンロのそばでバーベキューを食べていた。
「ほら、なのは」
「ん、ありがと」
ゲオルグはコンロの上にある肉や野菜を取り皿に取り分けると、
椅子に座っているなのはに手渡す。
「ねえ、パパ。 ヴィヴィオもお肉食べたい」
「うん? 判った、お皿を貸してくれな」
ヴィヴィオの差し出した皿を受け取ると、ゲオルグは再びコンロのそばまで行き
よく焼けている肉を探しながら、肉と野菜をヴィヴィオのさらに乗せていく。
「しっかりパパさんやっとるやん。 感心感心」
急に声を掛けられた驚きとともに声のした方向へゲオルグが目線を向けると
空になった皿を持ったはやてが微笑を浮かべて立っていた。
「まあな。 こんなときくらいは家族サービスしないとさ」
「鬼の副部隊長もすっかり丸くなってもうたなぁ・・・」
はやては遠い目をして言う。
「そうか? ま、ちなみに"鬼の副部隊長"なんて呼ばれたことないけどな」
「あれ、知らかったん? 陰では結構言われてたんよ。"鬼"って」
「うそだろ・・・。誰が言ってたんだよ、そんなこと」
はやての言葉にゲオルグは驚愕を隠せず、わずかに肩を落としていた。
「そやね・・・、主に言ってたんは、スバルとかルキノとかかなぁ」
「あ、なんだ。 スバルとルキノならいいや」
ホッとした表情でゲオルグが言うと、背後に青い髪の女性が立った。
「ちょっと、それどういう意味ですか!?」
非難めいた口調で詰め寄るスバルに対し、ゲオルグは平然と言葉を返す。
「スバルには厳しくしてた自覚があるからな。
だから、スバルにそんな風に言われてたとしても別に堪えないよ」
「うぅ・・・ひどいですよぉ、ゲオルグさん」
「まあ、しゃあないってスバル。 それに裏を返せばそんだけスバルに
期待してたってことやろうし。な、ゲオルグくん?」
「いやいや、単に仕事が雑だから叱ってただけ」
肩をすくめてゲオルグが言うと、スバルとはやてはガクッと肩を落とした。
「ゲオルグくん・・・・・私のフォローが台無しやんか・・・」
「そりゃないですよぉ・・・・・」
スバルは肩を落としたままその場を離れた。
少し離れたところにいたティアナのそばまで行くと、
同情の表情を浮かべたティアナに呼び止められ肩をポンと叩かれていた。
その様子を眺めていたゲオルグは、自分のズボンを引っ張られる感覚を覚え、
目を向けると不満げに頬を膨らませるヴィヴィオがゲオルグの顔を見上げていた。
「パパ・・・ヴィヴィオのお肉は?」
「ごめんごめん。 ほら、どうぞ」
ゲオルグがそう言って皿を手渡すと、ヴィヴィオはうれしそうに笑って
なのはの隣に座って皿の上のものを食べ始めた。
「なあ、ゲオルグくん」
ゲオルグは隣に立つはやてに声を掛けられ目を向ける。
ゲオルグが見たはやての顔は直前までとは違って真剣そのものだった。
「なんだ?」
「ちょっと話があるんやけど、ええかな?」
「話か・・・。いいんだけど、ちょっとだけ待っててくれ」
「ええけど、なんで?」
「なのはに一言言っとくのと、酒でも取ってこようかと思って。
はやても何か飲むか?」
「ええの? ほんならビールで」
「了解。 じゃあちょっと待ってろよ」
ゲオルグははやてに向かってひょいと手をあげると、
身をひるがえしてなのはが座る椅子の方へ歩いて行く。
「なあ、なのは」
「どうしたの?」
「ちょっとはやてと話してくるけど、いいよな?」
「はやてちゃんと? うん、いいよ。 わたしの方は大丈夫だから」
「ありがと。 気をつけてな」
なのはとの短い会話を終えると、ゲオルグはウッドデッキを登り
リビングを抜けてキッチンに入ると冷蔵庫からビールの瓶を2本取り出した。
そしてはやての待つ庭に引き返しかけるが、食器棚の中のグラスを見て足を止める。
(俺はいいけど、はやてにラッパ飲みさせるのはまずいか・・・)
ゲオルグはグラスをひとつ手に取ると、庭に向かって再び歩き出す。
庭に下りると、真っ直ぐにはやてのところへと向かう。
はやてはバーベキューコンロから少し離れたところにある椅子に腰をおろしていた。
ゲオルグははやての隣にある椅子にドカっと座ると、はやてにグラスを手渡し
ビールを注いだ。
「ありがとう」
微笑を浮かべたはやてが感謝の言葉を述べると、ゲオルグは黙ったまま頷き
もう1本のビールを開けてラッパ飲みで呷る。
そしてポケットからタバコを取り出すと1本を咥えて火を点ける。
「それで、話ってなんだよ?」
ゲオルグが煙を吐きながら尋ねると、はやては神妙な顔で頷く。
「えっとな、ちょっと気になってんけどエメロード事件の顛末って
結局どうなったんかな?」
「顛末って?」
はやての言うことの意味をつかみかね、ゲオルグは目を瞬かせる。
「背後関係とかさ・・・」
「そういうことか・・・」
ゲオルグは納得したように頷くと、ビールをひと口呷りタバコを一度ふかしてから
ゆっくりと口を開く。
「誰にも言ってないんだけど、士官学校に移ってから結構時間に余裕があってな、
実は定期的にゲイズ元中将と面会してるんだ」
「へ!?」
はやては驚きで目を見開き思考停止状態で固まっていたが、
ゲオルグは構わずに先を続ける。
「で、普段は情勢とかの雑談をしてるんだけどな、
その延長のつもりでエメロード事件の話をしたことがあったんだよ。
そしたらゲイズ元中将からとんでもない話を聞いちゃってさ、
あんときはさすがに絶句したよ」
「ゲイズ中将はなんて・・・・・?」
はやてがようやく茫然自失の状態から何とか回復し、それだけ尋ねると
ゲオルグは小さく頷いて話を続ける。
「エメロードを陰から操ってたのはゲイズ元中将本人だったそうだ。
当時、スカリエッティと手を組み始めた直後らしくてな、
その前からエメロードと組んでたらしいんだけど、スカリエッティと組むほうが
利益が大きいと判断したのと、エメロードの暴走が手に負えなくなって
エメロードを切ったんだとさ」
「はぁ・・・そうやったんや・・・」
感嘆の声をあげたはやては目を閉じるとしばし考え込み、
やがて再び目を開くとゲオルグの目をじっと見た。
「まあ、それはそれとしてエメロードが造った・・・っちゅうんも
胸糞悪いけど、女の子はどないなったん?」
「さあ? それは俺も気になったからずいぶん調べたんだけどな、
記録は全然残ってなかったし、ゲイズ元中将もご存じないそうだ」
「そっか・・・。 どっかで元気にしてくれてたらええけど・・・」
「そうだな」
ゲオルグははやての言葉に短く答えると、すっかり暗くなった空に浮かんだ
星々に目を向けた。
「くしゅん!」
同じころ、とある管理世界を歩いている女性がくしゃみをした。
その女性の額には小さな宝石のようなものが埋め込まれていた。
「うーん、風邪でもひいちゃったかな・・・」
女性は羽織っていたカーディガンのボタンをしっかりしめる。
「お母さんも待ってるし、早く帰ろっと!」
女性は歌うような口調でそういうと、弾むような足取りで先を急いだ。
後書き
これで外伝のフェイト編は終了です。
エピローグは書いてて非常に楽しかったのですが、
終わってみれば蛇足だったかな・・・と思う面もありますが、
せっかく書いたので悩みましたが公開することにしました。
感想・意見など頂ければ幸いです。
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