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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第五十七話

「「「「「・・・・・・」」」」」

 俺が槍を向ける先では、五匹・・・いや、五柱の狸が無言でこちらを見ている。

「何があったのよ、兄貴・・・」
「ん、ああ・・・なんか、別の世界に落とされた」

 その認識で間違ってないはずだ。
 で、向こうには狸妖怪の長の属性持ちがいるんだから・・・

「蚊帳吊り狸、それがアレンジされたものだと思う」
「ああ、あの・・・」

 アレンジの内容は、妖怪らしく何かしらのルールをつける、だろう。
 なんせ、俺の攻撃が一個残らず返ってきたし。

「さて・・・では、行きますか!」

 俺は走りながら種をばら撒く。
 全部手からなくなってから槍を作り、切りかかる。
 ほんの少しだけ動いてギリギリのところを避けてきたので、

「わが内にありしは天空の雷撃。社会を守る、秩序の一撃である!今ここに、我が身に宿れ!」

 ゼウスの雷を纏わせ、放電して近くにいたやつらに食らわせる。
 かかったのは二柱か・・・もう少しかかってて欲しかったけど。

「欲を言っても仕方ないか・・・我は緑の守護者。緑の監視者である。我が意に従い、その命に変化をもたらせ!」

 そしてそのまま二柱を拘束する。
 こんだけ簡単に縛れるとなると・・・なんだ、コイツらは従属神なのか。
 せっかく権能の大量ゲットのチャンスかと思ったのに・・・っと、

「のんびりしてたらダメだよな、っと!」

 俺はそのままグングニルで二柱を貫き、仕留める。
 これで後三柱。

「・・・」

 と、そんな事を考えていたらすぐ後ろに狸がいた。
 コイツはどいつだ・・・?

  ―――ポン―――

 何かの音がした。
 そして、その瞬間には先ほどと同じ巨大な布が現れ、

「我は我に仇なす力を許さない。我はその力が存在することを許さない。故に我はその力を破壊する。存在を許さぬが故に忌むべき力を破壊する!」

 俺はその布に向けて掌を向け、

「我は今ここに、異界落としの権能を、破壊する!」

 両の掌をぶつけて、その布を砕く。
 これで、あの面倒な権能は使えない。

「あ、イッツ・・・」

 ホッとしたら鈍器で殴られた。
 イッテエな・・・アレは、杖か?

「・・・はぁ、もういいや。氷柱」

 俺は氷柱のところまで跳んで、氷柱に声をかける。

「どうしたのよ・・・?」
「もう、色々面倒になったから、ちょっとウサ晴らしする。ここから動かないように」
「・・・って、まさか」

 氷柱も気づいたみたいだし、やるとしますか。

「雷よ、天の一撃たる神鳴りよ。今この地に破壊をもたらさん!」

 杖を掲げ、天を仰いで言霊を唱える。
 ゼウスの権能を完全解放する言霊を。

「この一撃は民への罰。裁き、消し去り、その罪の証を消滅させよ。この舞台に一時の消滅を!」

 言霊を唱え終わるのと同時に、もう見慣れてきた雷の雨が降り注ぐ。
 普通ならふもとが大変なことになりそうだけど・・・今回は、この神たちが創った異空間での戦いだ。
 被害については気にするまでもないだろう。

「・・・!?」

 そして、もう一柱が消滅。残りの二柱は消滅したヤツと同じくらいのダメージを受けたが、そこまでダメージがあるようには見えない。
 あの二柱が、まつろわぬ神か・・・いくぞ、二振り(二人)とも。

『オウ』
『かしこまりました』

 俺が心の中で呼びかけると、ブリューナクとゲイ・ボルグはそれに答え、俺の手に現れる。
 杖は背中につるして、肩当はつけたまんまで走る。
 雷が降ってる間に出来る限り攻撃できれば、かなり有利になる。

 コイツらはスクナビコナと違って鋼じゃないし、出来る限りくらいたくないだろうからな。行動も制限できるし。

「って、何でもありか狸・・・」

 目の前では、ありとあらゆる妖怪現象が起こっている。
 ほんとに色々あるな・・・

「雷光を纏いて穿て、ブリューナク!」

 とりあえず、全部まとめてブリューナクで貫く。

「・・・・・・」

 結果としてその先にいた狸の片割れが貫かれたが、それでも死んだ様子はない。
 放っておいてもいいが・・・いや、先にしとめるか。

「毒持ち、呪え。ゲイ・ボルグ!」

 もう一振りも投げ、ブリューナクと交差するようにして貫かせる。
 そのまま後ろからの鈍器による攻撃を、百パーセント勘で防ぎ、狸を蹴飛ばして距離をとる。

 途中で背中に重みが加わったのを感じながら、回収するのは不可能と断じて、両手にロンギヌスとグングニルを構える。

 そして、狸の杖と俺の槍とで打ち合う。

 向こうが頭を狙ってきたのを防ぎ、それと同時に胴を貫こうとした俺の槍を狸はひょうたんで防ぐ。
 ひょうたんが砕けて中から液体が出てきて・・・本能的にそれを危険だと判断し、医薬の酒をぶちまけて薄める。
 向こうはこちらがぶちまけたものの正体までは掴めていないようで避けるが、俺はそんなこと気にせずに酒の上を走り、その丸々と太った腹にXを描く。
 仕返しとばかりに左肩を砕かれたので、残った右腕で二振りともつかみ、突き刺してグリグリと抉る。

 俺を引き離そうとして横薙ぎに振るった杖で肋骨が一気に折れるが、まあそれくらいは些細な代償だと割り切る。
 どうせ沈まぬ太陽使ってるんだし、肺と心臓に刺さったっぽいけど、死ぬ程度だ。気にしない気にしない。

「・・・これで、終わりだ!」

 俺は向こうが一瞬気を抜いたその瞬間に、蚩尤の権能でちょっと変わった槍を作る。
 それを先ほどXを描いた傷跡の中心に突き刺し、石突きから突き出た細い棒を力づくで押し込み、先端を内側から開かせる。

 そうして狸を内側から引き裂いて、バラバラにする。
 背中に再び重みが加わるのを感じてから・・・俺は、沈まぬ太陽以外の発動している全ての権能を解除した。
 ああ・・・また、死んだな。
 
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