久遠の神話
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第九十六話 剣道家その三
「それで誰かが死ぬというのは」
「望ましいことではないですね」
「憎しみはどうしてもあります」
ギリシア神話ではこの感情もよく扱われる、この神話は人の美醜をありのまま描いている世界だからだ。憎しみもまた描かれているのだ。
聡美はその中にいる、それなら憎しみを知らない筈がなく否定も出来ない。それで上城にもこの感情を話に出したのだ。何時の間にか智子と豊香も来ていた。
「その場合は」
「殺し合うことはですね」
「神でも止められません」
例えだ、彼女達でもだというのだ。
「それは。ですが」
「憎しみがないのならですね」
「死なないで下さい」
その負の感情がないのなら、というのだ。
「お二人共」
「命を賭けてもですね」
「はい、必ず」
こう約束してもらってだ、そしてだった。
聡美は上城への言葉を終えた、すると。
今度はだ、樹里が上城に言った。
「じゃあね」
「うん、闘って来るよ」
「健闘を祈るわね」
「正々堂々とだね」
「剣道の試合と同じ様にね」
「そうだね、闘って来るよ」
上城は樹里にも約束した、そしてだった。
聡美は上城にだ、今度はこう言ったのだった。
「後は闘いのですね」
「そうですね、場所と時間ですね」
「それを決めましょう」
その話をだ、上城にしたのである。
「それは私達で決めましょうか」
「銀月さん達で、ですか」
「そうしましょうか」
「そうですね、そのことは」
上城は決意はした、だがそれで今は手が一杯だった。それ以上のことは考える余裕がなかった。それでだった。
聡美にだ、頼む声でこう言った。
「お願いします」
「では私達で考えておきますので」
「大体どれ位先になるでしょうか」
「三日、いえ五日でしょうか」
それだけ先にというのだ。
「その時にと」
「五日後ですか」
「はい」
大体それ位の時間ではというのだ。
「そう考えています」
「わかりました、それでは」
「そしてその間になるでしょうか」
聡美は話題を変えてきた、ここで入れた話題は何かというと。
「スフィンクスから言われていますね」
「ラドンとの闘いですね」
「そうです、あの百首の竜との」
このことだった、今度言ってきた話題は。
「闘いがありますね」
「そう思います。五日の間に」
「そうですね、では」
「そのラドンとの闘いで」
その闘いでだというのだ。
「勝って力を得ます」
「そうして下さい、是非」
「勝つ為にですね」
「そうです」
まさにだ、その為にだというのだ。
「お願いします」
「僕が力をつけた方がいいですよね」
「勿論です、貴方が生き残る可能性が高まるだけでなく」
勝つ、それによってだ。しかし聡美が今上城に対して語るのは上城のことだけではなかったのである。中田のこともだった。
「炎の剣士もです」
「助かるんですね」
「貴方は炎の剣士の命を奪うつもりはなかったですね」
「はい、全く」
それはだとだ、上城も答える。
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