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戦国異伝

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第百五十六話 加賀平定その十四

「危ういところじゃった」
「それもどうやら」
「杉谷善住坊がか」
「どうやら」
「そうか、少し延暦寺に聞くか」
「その者達を引き渡す様にですな」
「今の延暦寺の不穏な動きとも関係あるやもな」
 その二人がというのだ。
「それならばな」
「ここで、ですな」
「どちらにしろ延暦寺は抑えなくてはならぬ」
 これは政のことだ、延暦寺は都を治める為に必ずどうにかしなくてはならないことだ。それ故になのである。
「僧兵に荘園もなくしてな」
「他の寺と同じ様にですな」
「その為にもじゃ」
 延暦寺には行かねばならぬというのだ。
「ここで収める」
「さすれば」
「うむ、では延暦寺に向かう」
 これまで決めていた通りというのだ。
「そしてこの話もつけようぞ」
「わかりました」
「それではな、しかし」
「その二人ですか」
「あの黄金の髑髏のことも知っておるやもな」
 久政の部屋にあったそれのこともだ、信長は言った。
「あれのこともな」
「あれもですか」
「あの髑髏のことはまだ誰もわかっておらぬ」
 全く、というのだ。
「わしも誰も知らぬわ」
「あの様な妖しいものはそれがしも」
 長政も見たことがなかった、あの黄金の髑髏は。
「見たことがなかったな」
「はい、聞いたこともありませんでした」
「あれが何かわからぬが間違いなく妖しいものじゃ」
 このことは間違いないというのだ。
「そのこともな」
「あの僧達が知っていれば」
「問い詰めてはっきりさせる」
「ではその為にも」
「天下を乱さんとする妖僧ならば放ってはおけぬ」
 信長は津々木のこともありそうした者を警戒している、それで今も言うのだ。
「決してな」
「延暦寺に妖僧ですか」
「普通はないがな」
 天下の聖山だ、そこに妖僧なぞというのだ。
「しかしそれもな」
「腐った僧もいる故に」
「ない訳でもなかろう」
「高野山も問題のある聖がおりますし」
「あそこ何とかせねばな」
 もう一方の聖山のことも話される。
「しかしじゃ」
「今は」
「あの寺じゃ」
 延暦寺だというのだ。
「収めるとしよう、摂津の前にな」
「摂津に着かれますと」
 その時のことをだ、長政はここで問うた。
「どうされますか」
「話で済めばよいがな」
「そうならなければですか」
「比叡山の前に行きじゃ」
 そしてだというのだ。
「近くに布陣したうえでじゃ」
「比叡山と話をしますか」
「そうする、ではな」
「はい、それでは」
 こうして信長は比叡山との話をすることにした、軍を率いてだがそれでもだ。彼は比叡山とことを構えるつもりはなかった。
 それが為にだ、彼は諸将を前にしても言うのだ。
「よいか、誰も延暦寺には近寄るな」
「使者以外にはですか」
「誰もですか」
「寺の近くの町にもじゃ」
 そこにもだというのだ。
「決してじゃ」
「兵を入れませぬか」
「何があろうとも」
「若し入る者がいれば死罪じゃ」
 そうするというのだ。
「よいな、寺にも町にもじゃ」
「決してですか」
「そのことは」
「わしの命があるまで布陣している場所から動くでない」
 陣からもだ、出るなというのだ。
「よいな、待っておれ」
「では殿」
 明智がここで信長に問う。
「使者は誰にしますか」
「あちらから来るであろう」
 延暦寺の方からというのだ。
「それは既に爺に伝えてある」
「平手殿にですか」
「うむ、だからじゃ」
 向こうから来るというのだ、延暦寺の方から。
「その者達と話をする」
「左様ですか、それでは」
 明智も頷く、こうしてだった。
 信長は近江に戻ってからのことも決めた、そしてそのうえでまずは金ヶ崎に入り平手と合流してだった。近江に戻るのだった。


第百五十六話   完


                            2013・10・15 
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