それ行け広島カープ
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第六章
「魂が抜けた顔でね」
「じゃあ暫くはか」
「そこにいるのね」
「暫くそこにいたいって言うから」
それでだ、千佳も彼をそこに遺したというのだ。
「私だけで帰って来たのよ」
「じゃあそのうち帰ってくるな」
「駅前の公園なら」
家のすぐ近所だ、両親も息子がそこにいると聞いてとりあえずはよしとした。
「まあな、野球を応援してるとな」
「色々あるものだから」
「そうしたこともある」
「残念な結果もね」
「そうなのね、カープはずっとBクラスだからわからないわ」
残念なこととは明るい中で起こるものだ、残念なことしかなくては残念とはどういったことかわからなくなるのだ。
だからだ、千佳はこう言うのだった。
「残念とかって」
「カープはずっと低迷してるからな」
「そうなるのね
「だって私が生まれる前からずっとBクラスだったのよ」
それなら、というのだ。
「残念とか超えてるから」
「とっくにか」
「カープはなのね」
「そうよ、まあとにかくお兄ちゃんもそのうち帰ってくるから」
「それがわかったのならいい」
「おめでとうね」
「うん、後は巨人に勝って」
その冷蔵庫から取り出した牛乳をコップに入れて飲みつつだ、千佳は鋭い目になって言った。
「パリーグの相手にも勝ったら」
「日本一だぞ」
「そこまでいったらね」
「楽天出るかも知れないけれど」
それでもだと言うのだった。
「マー君でも誰でも打ってやるわよ」
「その意気だからな」
「期待して応援するのよ」
「光が見えてきたわ」
実際にだ、千佳は今その目にそれを見ていた。
「日本一目指すべきね」
「カープもそろそろ日本一にならないとな」
「巨人の日本一よりずっといいからね」
「ああ、だからな」
「お母さん達も今はカープ応援するわ」
両親の暖かい言葉も受けた千佳だった、そのうえでその巨人との決戦に向かう。しかしその決戦の結果は。
今度は千佳がだった、家のテレビで観戦していたがそれが終わってからだ。ソファーに座って燃え尽きたボクサーになっていた。しかもその顔は減量し過ぎで試合の後死んだライバルそのままになってしまっている。
その千佳にだ、隣で気楽に観ていた兄が声をかけた。
「おい、生きてるか?」
「かろうじて」
生気のない声で答えるのがやっとだった。
「生きてるわ」
「そうか、まあな」
「あっさり終わったわね」
その燃え尽きた顔で言うのだった。
「三連敗ね」
「そうだな」
「夢が終わったわ」
千佳はこうも言った。
「今完全にね」
「阪神はこうしたこと常だけれどな」
本当に常だ、こうしたことを受け入れられる精神力があってこそはじめて阪神を愛することが出来るのだ。
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