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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep7澄み渡りし海上に白蒼の羽根は舞う~Segen Ritter~

『我々テスタメントに賛同し共に戦おうとする者たち。来たれ。我々は待っている。集え。我々は待っている。そして管理局の局員諸君。我々を止めたければ止めに来るといい。我々も君たちを別の意味で歓迎しよう。待合の場所が判れば、の話だが』

ここ時空管理局本局・海上捜査部に所属する次元航行船の1隻、“ヴォルフラム”。その捜査司令執務室には2人の姿があった。この艦の主である捜査司令のはやてと、彼女の補佐であるリインフォースⅡだ。

「随分と挑発的やな」

「はいです。間違いなく管理局に恨みを持っていますね」

永遠なる不滅者ディアマンテの言葉に、そう確信するはやてとリイン。“テスタメント”は管理局に対して何かしらの恨みを持つ集団だと。

「こうまで言われたら意地でも見つけんとな。リイン、各レジスタンス捜査部隊と協力して、テスタメントをなんとしても見つけるよ」

「了解です!」

リインは、ミッドチルダの各方面に配置されている“レジスタンス”捜索部隊や陸士部隊から情報を集め始めた。はやて自身も、これまでの“レジスタンス”に対する調査資料へと目を通し始める。

「セレスも今頃はいつものように怒鳴っとるんかな・・・?」

はやては軽く微笑み、そうボソッと呟いた。そして今まさにはやての友人セレスは、本局のオフィスで監査に怒鳴り散らしていた。

・―・―・―・―・―・

厚い雲を押しのけるように青空を航行する“フリングホルニ”の甲板には幾つもの人影がある。全員が白いコートを纏った幹部たちだ。

「つまんねぇなぁ。オレだってミッドに行きたかったぜ」

陽気なる勝者グラナードが木製の手すりにもたれ掛かりながら口にしたのは、自らに与えられた任務への不満。

「名のある魔導師や騎士は絶対ミッド派遣だろ? オレだって緊張感のある任務に就きたいんだって」

「だったらカルド隊のようにマスター・ハーデに任務場所の変更をお願いすれば?」

幹部のほとんどがスルーしている中、聡明なる勇者アグアマリナがグラナードに声を掛けた。それを聞いたグラナードは大きく溜息を吐いた。

「その肝心のボスが表舞台(にちじょう)に帰っちまってる以上は連絡できねぇだろうよ。なあ、サフィーロ、ノーチェブエナ。オレと変わってくんね?」

グラナードは、ミッドチルダ南部に於いての“レジスタンス”回収任務を任された誠実なる賢者サフィーロ――ルシリオンとノーチェブエナへと頼み込む。対する2人はチラッとグラナードを見て、「却下」きっぱりと即答。碌に考えることもせずにあっさりと切り捨てた。

「変われよぉ! 変わってくれよぉ! オレのトコロと変われ!」

手すりからガバッと身体を起こし、近かったノーチェブエナへと詰め寄っていくグラナード。ノーチェブエナはそれに若干引きながら少しずつ後ずさっていく。そこに助け船を出すのはノーチェブエナと同じ、ミッドチルダ南部担当のルシリオン。彼女を庇うかのように前に出、グラナードへと告げる。

「待て。今回の任務はあくまでレジスタンスの回収だ。局員と戦いに行くわけではない。そこを間違えるなよ、グラナード」

「へいへい、解かってるよ。お前の怒りを買って消されるのは勘弁だしな。あ~あ。いいさ、いいさ。もういいさ。もう変われなんて言わねぇよ」

グラナードは背を丸くして2人から離れていく。彼は“テスタメント”幹部に対しての任務評価権限を持つルシリオンの有する粛清攻撃を恐れ、大人しく引き下がったのだ。愚痴を零しながら自分に任せられた世界での“レジスタンス”回収へ向かうために転移しようとした。しかし何かを思い出したかのように立ち止まる。

「そうそう。カルド隊の動向には気を付けておいて損はねぇよ。あいつら、絶対暴走するだろうからさ。ヴォルケンリッターが出てきたら、な」

振り返ってから最後にそう忠告した。そしてその姿を消す。自らの任務地へと向かったのだ。

「すまなかった、ルシリオン」

「ああ。・・・だがノーチェブエナ。私はサフィーロだ。ルシリオンではない。どうして君はいつも私の名前を間違える? 昨日は間違えずに呼んでくれたが。人の名前を間違えるそれはかなり失礼なことだぞ」

ルシリオンは、ノーチェブエナの感謝と謝罪が含まれた言葉には答えたが、ルシリオンという言葉には異を唱えた。

「あ、ああ、すまない。そうだったなサフィーロ」

「これからは気を付けてくれ」

ルシリオンもまた任務のために“フリングホルニ”を後にしようとする。甲板を少し歩き、付いて来ないノーチェブエナへと振り向く。

「どうした? 行くぞ」

「ああ。(本当に全てを忘れてしまっているのだな、ルシリオン)」

ノーチェブエナはそれに短く応え、ルシリオンの元へと駆け寄った。そうして2人はミッドチルダへと向かった。その2人を見送った他の幹部たちもまた、任務先へと向かおうとする。
そんな中、トントンと軽い足音を立てて艦内から甲板へと出てきたのは、外見では最年少ととれるトパーシオだ。

「いってらっしゃい。早く帰ってきてね」

すでにミッドチルダへと向かったカルド隊、艦内の自室で無限書庫から奪った3冊の本を読み耽るディアマンテ、日常へと戻っているハーデを除く幹部たちをぐるりと見てから、小さく可愛らしい声で送りだす言葉を告げた。

「~~~~っ!」

アマティスタは声にならない声を上げてトパーシオへと突撃、そしてギュッと抱きしめた。

「く、苦しいよ、アマティスタ」

「すぐに帰ってくるから。それまで待っててちょうだいね、トパーシオ」

「うん」

トパーシオから身体を離したアマティスタは、もう1度優しく「いってきます」と言って抱きしめ、名残惜しそうに再びその身体を離してその姿を消した。

「あ、僕も。トパーシオ、いってきます」

アグアマリナもトパーシオに手を振りながらその姿を消す。

「では我々マルフィール隊も行こうか」

「「了解です」」

マルフィールも部下に2人に呼びかける。マルフィール・デレチョとマルフィール・イスキエルドは敬礼しつつそう短く答えた。

「ではトパーシオ、行ってくる」

「「いってきます」」

「いってらっしゃい」

マルフィール隊の3人も任務地へと向かった。“フリングホルニ”の甲板に独り残されたトパーシオが、自室に戻ろうとしたとき、「俺も出る。それまでの留守は任せたぞ、トパーシオ」と幹部が甲板に出てきた。

「ディアマンテ? どうしたの、今日はずっと待機じゃなかった?」

縁に刺繍が施された白コートを纏うディアマンテにそう確認するトパーシオ。ディアマンテは横を通り過ぎる際に彼女の頭を右手でポンポンと軽く叩いた。彼の左手には1冊の本。無限書庫から奪われた3冊の内の1冊だ。

「ああ、本拠地へ少し、な。(コレ)のおかげでついにアレが完成する。造っておきながら2年間も眠らせておいたアレを、ようやく実用段階へと移行できる」

フードに隠れたトパーシオの目が細められる。

「本当にアレは必要なの? あんな危険なモノを蘇らせて・・・」

「・・・ああ、必要だ。安心しろ。アレの威力調整幅が広いのは知っているだろ?」

ディアマンテも“フリングホルニ”からその姿を消した。“フリングホルニ”の甲板に本当に独りとなったトパーシオは、両手を胸の位置で組んで跪き、澄み渡る大空を仰ぎ見ていた。

・―・―・―・―・―・

「はやてちゃん。108部隊から情報です。ミッドにおけるレジスタンスの構成メンバーのほとんどが北部の廃棄都市区画に向かっている、とのことです」

はやての補佐であるリインが報告した。

「北部、か。・・・まさかミッドにおるレジスタンスの全員が、か?」

「いいえ。どうやらここ南部にもレジスタンスが集結しているみたいなんです」

リインははやての疑問に答え、現状で判明していることをはやての執務デスク上のモニターに転送する。はやては「おおきにな」と礼を言い、それから転送されてきたデータを神妙な面持ちで眺める。

「北部にはシグナムとヴィータ、それにフェイトちゃんとセレスも派遣されるんやね。あの4人が揃っとればほとんどのことには対応できるし、まず心配はいらへんやろ。にしても、こんなにも早くシグナム達が動けるっていうのも少し引っかかるな・・・。リイン、これに関して少し調べてくれるか?」

「了解ですっ」

リインは新たに任された仕事に早速取りかかる。はやてはさらに資料に目を通し続けていると、執務室に通信が入ったことを知らせるコールが鳴った。

『八神司令。陸士386部隊から連絡です。レジスタンスは元コーラル廃棄港へ集結しているとのことです』

「ん、判った。逮捕にはこちらも協力すると伝えてくれるか?」

『了解しました』

ブリッジの通信士にそう指示を出すはやて。通信が切れ、はやてはブリッジへと赴くために椅子から立ち上がる。

「あれ・・・?」

「はやてちゃん!?」

立ちくらみを起こしたかのようにはやてはフラッとデスクに左手を付いた。逆の右手は胸を押さえ、痛むのかギュッと制服を握りしめている。リインは急いではやての元へと駆け寄り、その身体を支えようと手を伸ばす。それを「大丈夫や」と制止して微苦笑を浮かべ、リインの頭を撫でる。

「どうしたですか、はやてちゃん・・・?」

「ん? う~ん・・・。なんやろ? なんか胸騒ぎというか・・・」

はやては言い知れない不安感を抱いた。今、この瞬間にでも何か良くないことが起きるような、そんな嫌な予感というものを。デスクから手を離し、再びブリッジへ向かうために執務室を出ようとした

「何の警報や!?」

“ヴォルフラム”艦内に警報が鳴り響く。はやてはすぐさまブリッジへと通信を繋いだ。

『八神司令! 白コート、テスタメントです! 一直線に元コーラル廃棄港へと飛行しています!』

はやてとリインの目が見開かれる。“テスタメント”の言う通りであれば、白コートを纏う幹部は全員AAA+以上の魔導師。生半可な局員では勝てないことは間違いなかった。

「数は!?」

はやては追随してくるモニターに向かって状況を聞きながら速足で執務室を後にする。リインも急いで速足のはやてに追いつくように走る。

『数は2! 推定ランクは共にシングルS!』

「2人ともSランク!?」

リインの顔が青褪める。現状において“ヴォルフラム”に乗っている局員や陸士部隊では戦力不足だったからだ。はやても苦い表情を浮かべ僅かに逡巡した後、胸元から黄金の剣十字を取り出した。リインは「はやてちゃん!?」と驚愕する。それは間違いなくはやてのデバイス・“シュヴェルトクロイツ”だ。

「私とリインが出る! ええか? リイン」

「・・はい! もちろんです!」

2人はクルリと反転して、出撃するために上部ハッチへと向かう。その間にも通信士から情報が入ってくる。

『八神司令、映像出します』

「・・・っ! 厄介な相手が来たな」

「蒼色の剣翼!・・・ルシルさん、ですね!」

はやては歯がみしながらモニターに映る白コートの1人を見る。背から12枚の蒼い剣翼アンピエルを生やす、親友だったルシリオンの姿を。そして彼の隣を飛行するもう1人の白コートへと視線を移す。体格からして女性。ルシリオンのパートナーであるノーチェブエナだ。

「こっちにも本局から援軍が欲しい感じやね」

はやてが無いものねだりだと解っていながらもそう愚痴る。陸では386部隊が“レジスタンス”を逮捕するために動き出し、海上警備部は“テスタメント”の逮捕へと動く。上部ハッチへと着き、はやてとリインは騎士甲冑を纏う。そして2人は“ヴォルフラム”の甲板へと立つ。

『八神司令。テスタメントはそのまま進路を維持、元コーラル廃棄港へ直進中。進路上に位置するヴォルフラムまで距離7000です』

「了解や。行くよ、リイン」

「はいですっ! ユニゾンイン!!」

ミッドチルダ南部海上に夜天の主が降臨した。

・―・―・―・―・―・

“レジスタンス”との待合場所へと飛行するルシリオンとノーチェブエナ。

「まずいな。思っていた以上に早く待合場所が知られたようだ」

「管理局もあそこまで挑発されたのだ。躍起になってもおかしくはない」

「なるほど。今回ばかりはこちらのミスだな」

“レジスタンス”が一網打尽にされるかもしれないこの状況で、2人は落ち着き払って言葉を交わす。もしもの場合は戦闘行動を以って“レジスタンス”を管理局から解放しようというのだ。その場合、2人は100%の確率で管理局に勝てると確信している。

「ん? あれは・・・!」

「管理局の次元航行船だ。サイズからして、確かLS級と呼ばれる艦だ」

2人の視界に入る艦船“ヴォルフラム”。艦首をこちらに向けている以上は、すでにこちらを発見していると2人は判断。

『こちら時空管理局本局・海上警備部所属艦ヴォルフラム。海上飛行中のテスタメント所属の魔導師に告ぎます。武装を解除して投降してください。繰り返します。こちら――』

「ヴォルフラム、か。・・・艦上に人が居る。この声はその者からだろう。外見からして魔導騎士・八神はやてで間違いない。が、情報とは髪や瞳の色が違う。おそらく融合騎リインフォースⅡと融合している状態だろう」

ルシリオンは自慢の眼を以って遠く離れたリインとユニゾンを果たしているはやてを視界に入れる。はやてとリインの名を聞いてからノーチェブエナは口を閉じ、何も話さなくなった。

「どうした?」

「いや、何でもない」

「今はレジスタンスとの合流だ。可能な限り戦わずにやり過ごす。ノーチェブエナ。速度を上げ、追撃されないように振り切るぞ」

「そうか。・・・いや、了解した」

――スレイプニール――

ノーチェブエナがそう応えた瞬間、彼女の背中から純白の翼が二対と生えた。バサッと大きく羽ばたいて、彼女の飛行速度を急上昇させた。一気に距離を開けられたルシリオンも負けじと速度を上げる。ミッドチルダ南部の海上に、美しい蒼と白の羽根が舞った。

『はやてちゃん。ルシルさん達の止まる気配はありません』

「しゃあない。落とすよ。リイン。フレースヴェルグ、スタンバイ」

はやては“夜天の書”を開き、“シュベルトクロイツ”を頭上高く掲げる。使用魔法は古代ベルカ式――超長距離射程の砲撃魔法フレースヴェルグ。威力は抑えない。何故ならルシリオンを相手に下手な手加減をすれば、自分たちの敗北に繋がると知っているからだ。

「り、了解ですっ」

()よ、白銀の風、天より注ぐ矢羽となれ・・・!」

はやての詠唱の後、彼女の前面に展開される巨大な白いベルカ魔法陣。

「リイン!」

『照準バッチリです。いつでもいけますよ、はやてちゃん!』

「んっ。ほな行くで! ルシル君、手加減はせえへんよ。フレース・・・・ヴェルグ!!!」

3方の円陣と魔法陣中央に白の極光が生まれる。はやての術式名宣告と共に放たれる4発の白の極光が、こちらへと迫って来るルシリオンとノーチェブエナへと襲いかかる。

『炸裂まで、9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・今です!』

はやてとリインフォースⅡの視界に白い爆発が4つ入る。

「どないや、リイン・・・?」

『直前で防がれましたがダメージは与えられたと思うです。ですが、撃墜には至ってないと思うです』

「そうか。なら降伏してくれるまで撃つよ」

はやての前面に展開されているベルカ魔法陣に再度白の極光が集束した。

『あの、はやてちゃん・・・本当にいいんですか・・・?』

リインは、友であったルシリオンへの攻撃に躊躇いを覚えていた。それははやても同じだった。攻撃対象は彼女にとっては親友で命の恩人の1人でもあるルシリオン。だがはやての心には、彼に攻撃する躊躇いよりも大きな感情があった。

「記憶がない理由は判らんけど、フェイトちゃんを悲しませて泣かせた。男としてあるまじき行為や。これはな、私のちょっとした八つ当たりや」

――フレースヴェルグ・第2波――

再度超長距離砲撃が放たれる。

「これが、情報にあったフレースヴェルグ・・・」

はやての放った砲撃を回避しきる前に受けたルシリオンが呻く。直前で張った全力のシールドのおかげで撃墜は免れたが、それでも軽微とは言えないダメージを負っていた。

「大丈夫か? サフィーロ」

ノーチェブエはルシリオンに庇われたことで大してダメージはなく、白コートの裾が破れるくらいで済んでいた。

「我が手に携えしは確かなる幻想」

――キュアプラムス――

ルシリオンは回復魔法を自身に掛け、負ったダメージを少しずつ回復していく。

「ああ、任務続行に支障はない。しかし、炸裂範囲が予想以上に広いな。しかも砲弾が1発ならまだしも4発ときた。まず視認してからの回避は不可能だ。・・・仕方がない。戦闘は避けたかったが、八神はやてを墜とす」

ノーチェブエナに支えられているルシリオンは戦闘を決定した。ノーチェブエナの肩がピクッと動く。ルシリオンが何か言おうとしたその時、砲撃の第2波の煌きが視界に入る。

「「・・・っ!」」

2人は急いで高度を上げて回避行動を取った。白の極光が2人の眼下に到達。刹那、極光が収縮し一気に炸裂した。迫る白の衝撃波に2人のコートがバサバサッと勢いよくはためく。衝撃波によって体勢を崩しながらも、ルシリオンはある砲撃を準備し始めた。

「これでどうだ・・・!」

砲撃フレースヴェルグをギリギリで回避し終えた直後、ルシリオンは待機させておいた術式を発動。彼の頭上に展開される魔法陣。それはミッドチルダ式でもベルカ式でもなかった。
雪の結晶のような模様が中心に描かれている正四角形。その4方の角に細長いひし形の模様が伸びている。それを囲うのは2重の六角形のライン。それは現代では存在しえない魔法陣だった。そしてルシリオンはその魔法陣を右拳で殴りつけた。

――次元跳躍散弾砲撃(ペカド・カスティガル)――

蒼の砲撃が魔法陣から頭上高くへと放たれる。それは昨日、ミッドチルダとカルナログを襲った散弾砲だった。ルシリオンは散弾砲を放ってすぐ、ノーチェブエナと共に“ヴォルフラム”へと飛行を再開する。

・―・―・―・―・―・

艦上にて空高く飛んでいく蒼の閃光を目にしたはやてとリイン。その蒼の閃光が報告のあった散弾砲と判断したはやては、フレースヴェルグの射線を上へと向ける。しばらくの静寂がミッドチルダ南部海上を包み込む。

『・・・来ました!』

「リイン! フレースヴェルグを全弾あの砲撃に向けて射出!」

――フレースヴェルグ・第3波――

放たれた四条の白の極光が頭上高くから落ちてくる蒼の散弾砲へと向かっていく。リインは着弾までの時間をカウントダウンする。

『・・・3・・・2・・・1・・・着弾!!』

はやての放ったフレースヴェルグとルシリオンの放った散弾砲と衝突。ドォン!!と世界を震わせるような轟音。海上を染め上げる莫大な光量の閃光。はやてはそのあまりの閃光と轟音に視線を落とし、片耳を塞いだ。

『司令! テスタメントが高速でこちらに向かってきます! 接敵まであと・・・・見失った!? 違っ――速っ・・・!』

「・・・互いに接近戦が苦手である以上、僅かばかり私の方に分があるだろう?」

「なっ・・・!?」

ブリッジからの報告と同時にルシリオンがその姿を現す。彼が放った散弾砲は攻撃のためではなく、はやてへ接近するのを感づかれない為の囮だった。轟音と閃光を以って、はやてと“ヴォルフラム”の索敵能力の妨害として利用していたのだ。

「はあああああっ!!」

――知らしめよ汝の忠誠(コード・アブディエル)――

ルシリオンの右手にあるのは蒼の魔力の大剣。それを横一閃。はやてをベルカ魔法陣ごと薙ぎ払うかのように振るった。ルシリオンの持つはやての情報には、はやては広域型で接近戦は不得手とされていた。だから彼は接近戦を選んだ。自らも苦手とする接近戦を。

『ブリューナク、発射です!』

リインがそう口にした瞬間、放たれたのは射撃魔法。ルシリオンのフードに隠れた目が見開かれる。こんな魔法があるとは知らないと。

「ぐおっ!?」

至近距離で放たれた連続掃射の魔力弾、その数は9発。それらが全て防御も何もないルシリオンへと襲いかかった。直撃を受けたルシリオンが弾かれるかのように後方へと退く。コートの前を留めていたファスナーが壊れ、彼の纏っていた白コートが開く。黒を基調とした防護服が露わになった。それは、はやてとリインには憶えのある防護服だった。魔術師におけるバリアジャケット――戦闘甲冑と同じデザインの防護服だ。

「ルシル君。大人しく捕まってもらうよ!」

はやては掲げた“シュベルトクロイツ”を勢いよく振り下ろす。

「『クラウ・ソラス!』」

放たれる砲撃。ルシリオンを横っ跳びで回避すると同時に左手をはやてへと翳し、魔力弾を放ちつつ「我が手に携えしは確かなる幻想」ある呪文を口にした。はやてはそれが何なのか知っていた。

――スレイプニール――

はやての背にある三対の黒翼がバサッと羽ばたいた。すぐさま空へと上がり、何かをしようとしたルシリオンから距離を取る。はやては上空からこの空域を確認した。目下にはルシリオンが未だに“ヴォルフラム”甲板に立っている。
そしてもう1人の白コート、ノーチェブエナの姿をその視界に入れた。はやての目が見開かれる。ノーチェブエナの背にある三対の白翼を見たからだ。それは昨日、彼女が昼寝していた際に夢に見た大事な家族と同じモノだ。

「リイン・・・フォース・・・?」

『はい? どうかしたですか、はやてちゃん?』

「え? ううん、なんでも・・・(そんなわけない。リインフォースがおるわけが・・・)」

はやては頭からその考えを振り払い、現状において為すべきことを思考する。今はテスタメントの1人であるルシリオンを何としても捕縛する、と。

「アカシックトーメント!」

はやての足元から迫る閃光の柱。はやてはギリギリで閃光の柱を回避したが、衝撃波だけはもろに受けてしまった。両腕で顔を覆い庇う。帽子が吹き飛び、はやては体勢を崩してしまう。そこに迫るルシリオンは再度「我が手に携えしは確かなる幻想」と唱えた。

「バルムンク!」

『行くですっ!』

はやては必至に体勢を直し、魔力弾をルシリオンへと放った。全方位からの直射弾だ。彼は「なにっ!?」驚愕の声を上げ、咄嗟にシールドを張った。しかしいくつかの魔力弾がシールドを通り抜けて直撃、彼を覆い隠すほどの爆煙が発生した。そのあまりの呆気なさにはやてとリインは心の内で首を傾げる。

(・・・ルシル君ってこんなに弱かったか?)

はやてはそれもまた何かの布石かとも疑う。そして頭に過ぎるのは先程から戦闘に参加しないもう1人の白コート。彼女が何らかの重要な役割を持っているのかもしれないと警戒しておく。

「っ、さすがは総合とはいえSSランクの魔導騎士・八神はやて」

ルシリオンがボロボロになった白コートを剥ぎとった。完全に露わとなった黒き魔術師・ルシリオンとしてのその姿。うなじ付近で縛られた銀の長髪が尻尾のように風に靡いている。リインは震えた声で『ルシルさん・・・』と口にした。

「これ以上は時間を掛けてはいられない。ゆえに・・・【ノーチェブエナ、力を貸してくれ】ここからは2人で戦わせてもらおう」

2人で、という言葉にはやては遠く離れたノーチェブエナへと視線を移した。だが、先程までそこに居た彼女の姿が見当たらない。

「いくぞ、ノーチェブエナ」

「『っ!?』」

はやてが再度ルシリオンへと視線を戻す。彼の隣、そこにはいつの間にか移動していたノーチェブエナの姿があった。彼女の背にある三対の白翼。白コートの上から分かる女性としての体格。はやては思った。もしかして、やっぱりそうなんじゃないか、と。

「・・・すぐに終わらせる・・・」

ルシリオンとノーチェブエナが手を繋いだ。

「「ユニゾン・・・イン!」」

「『なっ!?』」

強烈な蒼の閃光が辺りを照らす。視界を潰され、行動不能となっているはやての内に居るリインは驚愕する。ノーチェブエナと呼ばれた“テスタメント”幹部は自分と同じ融合騎だったと。
はやては別の意味で驚愕していた。これはもう間違いないと。ユニゾンインと口にした際の声。それは忘れられない家族のものだった。
蒼の閃光が治まる。はやてとリインの目の前に居るのは1人の男とも女ともとれる外見の存在。だが体格からしてそれは男だと断定できる。その姿は先程までのルシリオンとは違っていた。

「あれ?・・・あの防護服のデザイン・・・、まるで・・」

髪色の銀は蒼に近い蒼銀となり、瞳の色は虹彩異色ではなく深紅に統一されていた。結われていた長髪は解かれ、毛先に向かうほどふわりと左右に広がっている。
背にあった六対の蒼の剣翼は三対の翼となり、右側が白い翼で左側が蒼い翼だった。防護服にも変化があった。色が黒から白へと変更されてはいるがインナースーツとズボンはそのまま。しかしロングコートは消えていた。代わりにあるのは半袖の白のジャケットと白のオーバースカート。色は違えどもそれは間違いなく、

「リイン・・フォース・・・、リインフォース!」

はやてが喪った八神家の最後の1人、初代のリインフォースのジャケット。ボトムは黒のズボンとオーバースカートだ。リインもまた、かつて夢の中で見たリインフォースが纏っていた騎士甲冑と全く同じだと思いだしていた。

誠実なる賢者(わたし)とノーチェブエナのユニゾンによる強襲形態・“祝福の騎士ゼーゲン・リッター”。八神はやて、リインフォースⅡ。・・・これで終わりだ」

――ナイトメア――

翳されたルシリオンの右手から、ノーチェブエナの魔力光・深紫色の砲撃が放たれる。はやてはショックの所為で対応するのが遅れてしまった。

『はやてちゃ――っ、パンツァーシルト!』

リインが動きを止めたままのはやてに代わりシールドを張る。着弾。爆発が起き、シールドが破壊される。今度ははやてが爆煙に覆われる。小さい悲鳴を上げ、はやては海面へと落下していく。その間に脳裏に過ぎり続ける、なんで?という疑問。

『はやてちゃん! まだそうと決まってわけじゃ――』

『あれはリインフォースやッ! やのに・・・なんで!?』

混乱のあまりにはやてはリインの言葉に怒鳴り返す。その間にも“祝福の騎士ゼーゲン・リッター”となったルシリオンの攻撃は続く。

「刃以って、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!!」

「なんで・・・なん・・・?」

『はやてちゃん! っく、パンツァーガイスト!』

血の色をした短剣が18発が、はやてに向かって一斉に射出される。高速で迫る短剣を、今度は魔力を纏って防御する障壁を展開することで対処するリイン。再度はやてを襲う爆発と爆煙。彼女の落下速度がさらに上がった。

『はやてちゃんっ、しっかりしてくださいっ。このままじゃ撃墜されちゃいます!』

リインは必死に思考する。どうすればはやてを立ち向かわせられるか。しかしリインも混乱の限界を迎えていた。自分たちを襲っている状況が冷静になることを阻んでいるのだ。相手は、逢いたかった初代の祝福の風リインフォース・アインス。それが今敵として、親しかったルシリオンと共に自分とはやてを攻撃する。

――ハウリングスフィア――

ゼーゲン・リッター・ルシリオンの両隣に大きめのスフィアが2基設置された。

「吼えるは闇穿つ極光、ナイトメアハウル!」

翳された右手から再び蒼の砲撃が放たれる。それと同時に彼の両隣のスフィア2基も砲撃となる。再びはやてへと襲いかかる深紫色の砲撃が3発。

『はやてちゃん!』

――パンツァーシルト――

リインはありったけの魔力を防御に回した。その直後に着弾。何度目かの爆発。その範囲は今までと比べるまでもなく大きい。はやては黒煙を引きながら“ヴォルフラム”へと墜落、甲板へと叩きつけられた。

「っぐ・・・げほっげほっ!・・・リイン・・・フォー・・・ス・・・」

背中に奔る激痛にはやては激しく咽ながら薄っすらと目を開けた。視界に入るのは、空高くから自分を見下ろしているゼーゲン・リッター・ルシリオン。背の翼が羽ばたく度に蒼と白の羽根が空を舞う。彼の内に居るノーチェブエナは、“ヴォルフラム”艦上で仰向けに倒れているはやてから目を逸らした。

「八神はやて、予想以上に危険人物だ。今後の為にここで確実に墜としておくか」

ルシリオンははやての魔導騎士としての実力を危険視した。そのためにここで完全に撃墜しておくべきだと判断を下す。背の三対の翼を羽ばたかせ、“ヴォルフラム”へと急降下する。徐々に倒れ伏したままのはやてへと迫るゼーゲン・リッター・ルシリオン。
右手に宿すのは蒼の魔力。使用魔法はシュヴァルツェ・ヴィルクング。付与されている効果は、はやてを確実に倒すために、騎士甲冑をも突破する障壁破壊となった。

「悪く思うな、八神はやて。そしてリインフォースⅡ」

はやてまであと約5mとなったそのとき・・・

――ユニゾンアウト――

ノーチェブエナが許可なくユニゾンを解いた。彼女のその突然の行動によって飛行魔法がキャンセルされ、ルシリオンが落下する。彼は驚愕しながらも空中で体勢を立て直し、甲板へと着艦した。
それに遅れて着艦するのはノーチェブエナ。しかしその姿は白コートではなく、純白の騎士甲冑姿となっている。ノーチェブエナの晒された素顔は、間違いなく今は亡き八神家の1人、リインフォース・アインスだった。昨日夢で見たままの彼女の姿に、はやてはポロポロと涙を流し始める。

「リイン・・・フォース・・・!」

彼女ははやてを庇うかのようにルシリオンの前に立ち塞がった。はやては痛む身体に鞭打ち、“シュベルトクロイツ”を支えにして立ち上がる。だがそれまでだ。目の前に居るノーチェブエナ――リインフォースまで歩き出せない。

「それは何のつもりだ、ノーチェブエナ。返答によっては君への粛清攻撃も辞さない」

「サフィーロ、我々の任務内容は何だ? お前はここに来る前にグラナードに言っていたはずだ。管理局員と戦うために行くのではない、と」

リインフォースの返答にルシリオンの眉がピクッと動く。そして何も無い空間から新しい白いコートを取り出し、袖に腕を通す。ファスナーを上までしっかりと閉め、フードを被り、はやてとリインフォースに背を向ける。

「そうだったな。・・・・時間を使い過ぎた。レジスタンスと合流するぞ」

――我を運べ汝の蒼翼(コード・アンピエル)――

彼は背に蒼の剣翼アンピエルを生み出し、“ヴォルフラム”から離れる。リインフォースもそれに続くために、背の二対の白翼を羽ばたかせた。

「げほっげほっ・・・リインフォース!!」

倒れ込むようにリインフォースの右腕を掴み取るはやて。ガシャンと“シュベルトクロイツ”が音を立てて転がる。リインフォースは振り返り、涙を流すはやてをしっかりと見つめる。そして自分の腕を掴むはやての震えた手に自らの手を優しく添えた。

「リインフォース・・・」

「・・・申し訳ありません」

「え?」

自分の腕を掴むはやての手を、謝りながら引き剥がすリインフォース。支えを無くしたはやては後ろへとフラつき、ペタリと座り込んだ。

「っつ、リインフォース!! なんでなん!? なんで・・・何でこんな!!」

背を向けて空へと飛び立ったリインフォースへ手を伸ばし泣き叫ぶはやて。しかし彼女は振り返らない。だが、その表情はすごく辛そうなものだった。

・―・―・―・―・―・

元コーラル廃棄港へと向け、再度飛行を開始したルシリオンとリインフォース。リインフォースも “テスタメント”幹部の証である白コートを再び纏っていた。そして大した時間もかけずに“レジスタンス”との合流地点である元コーラル廃棄港に到着。2人の目に映るのは、陸士386部隊に連行されようとしていた“レジスタンス”だった。

「これは私たちの――いや私のミスか・・・」

「・・・ああ」

ルシリオンの言葉に生返事のリインフォース。彼はそれを大して気にも留めずに、陸士386部隊から“レジスタンス”を解放するために動き出す。ポケットに手を入れ、中から小さな物体を取り出した。帆船の模型だ。リインフォースはそれを確認し、右手に大き目の深紫色のスフィアを生み出した。そのスフィアへと向けて、彼女は力一杯の拳打を叩きこんだ。

――アイゼンゲホイル――

その瞬間、世界が震えた。とんでもない光量の閃光と爆音が周囲一帯を襲った。地上にいる“レジスタンス”や陸士386部隊が耳を押さえて次々と蹲っていく。放たれたのは、範囲内の対象の視覚と聴覚を一時的に奪い、レーダージャミングの効果を有する空間魔法だ。

「目醒めの刻。スキーズブラズニル!」

帆船の模型を空高く放り投げ、その帆船の名前であろう言葉を高らかに告げた。蒼の閃光が空を染め上げる。治まったその時、空に浮かぶ巨大な帆船がその姿を現した。全長が2kmはあろうかという巨大帆船。

「ノーチェブエナ、レジスタンス諸君をスキーズブラズニルへ強制転移」

「了解した」

未だに眼下で続くアイゼンゲホイルの効果。リインフォースは蹲っているままの“レジスタンス”を次々と甲板へと転移させていく。ルシリオンもまたそれに倣い、転移魔法を以って“レジスタンス”を回収していく。“レジスタンス”回収終了まで約30秒。転移目標のレジスタンスと陸士386部隊が動きを止めていたからこそのこの時間。

「航空部隊が集まってくるまでに帰還するぞ」

リインフォースへとそう指示したルシリオンへと念話が入る。

【サフィーロ、聞こえていますか? ハーデです】

相手は“テスタメント”の指導者・ハーデだった。

「【どうかしましたか、マスター?】・・・ノーチェブエナ、先にスキーズブラズニルと共に帰還してくれ」

「ああ、了解した」

リインフォースは“スキーズブラズニル”のブリッジへと入る。すると下から昇ってくる光が生まれ、その光に“スキーズブラズニル”が包まれ始めた。光に引っ張られるかのように“スキーズブラズニル”も光の粒子となって空高く昇っていき、そして消えた。

【・・・・ミッドチルダ北部の廃棄都市区画においてレジスタンス回収を頼んだカルド隊が暴走しているのです。おそらく任務は失敗。ですから彼らを連れ帰っていただきたいのです】

それを聞いたルシリオンは【了解】と応え、すぐさま北部の廃棄都市区画へと移動を開始した。
 
 

 
後書き
初代祝福の風リインフォースが登場ですッ! バレバレでしたよね、やっぱり。
まあ分かるように色々と書きましたからね。
彼女をこのエピソードで出すために、2ndエピソードにおいて魔術で生き残るようにはせずに旅立ってもらったわけです。
続行しなかった場合はそのままお蔵入りでしたが、晴れて再登場です。
融合騎としての能力はそのまま。ルシルとユニゾンさせたいがための無茶です。
今回使用した魔法はPSPから拝借。はやてのブリューナク連打、アレは卑怯でしょ。
 
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