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エイプリルフール番外編 【IS編その2】
学園祭が終われば次のイベントはキャノンボール・ファストだ。本来一学年の参加は無かったのだが、立て続けの襲撃で錬度を高めようという学園の意図があるらしい。
キャノンボール・ファストとは妨害ありのISを使ったレースである。
専用機もちはそのスペックが訓練機と差が有るので、専用機もちは専用機もち同士、他は訓練機同士の試合になるらしい。
まぁどうでも良いことか。訓練機でのエントリーで選手の選抜を行うらしいが…やる気のあるヤツに任せよう。あんまりISに乗るとソルが拗ねるんだよ。機嫌を取るのも一苦労なんだよ?
結局、このキャノンボール・ファストにも乱入者が現れ、中止に追い込まれる。…まったく、一体何なんだろうね?
キャノンボール・ファストが終わると、今度は専用機もち同士によるタッグトーナメント。本当にイベント事が多い学園だ。
それこそ俺には関係の無い話なので、観戦する以上の事は出来ないと思っていたのだけれど…
最近、我がクラスの織斑一夏が、四組の更識簪にペアの申し込みをしているらしいと言う噂を聞いた。いや、噂と言うかなのは達同級が言うのだから間違いないだろう。
最後は一夏の強引さに負けてタッグを組んでしまったようだが、簪は大丈夫だろうか?
偶の休日。ソラ達と学園の外へと遊びに行くと、誰かに付けられている気配がする。巻くのも面倒なのでわずかに人気の無い所へと移動すると、俺達は取り囲まれた。
起動状態のISが二体。待機状態であろうが確実に持って居そうな女性が一人、ヒールをカツカツとならしながら前に出てくる。
武器を突きつけてからの交渉なんてろくな事が無い。先手を打たせてもらおう。
万華鏡写輪眼・八意で相手の記憶を読み取れば、亡国企業と呼ばれる暗部組織らしい。彼女自身は良く分からないが、取り合えず俺達の誘拐を命じられたようだ。
彼女達は組織の実行部隊であるようで、ISに大層な自信が有るみたいだが…魔術関係の知識は無い所から最近の組織っぽいね。創立もここ50年ほどらしいし。
「大人しく付いてきてくれれば、この場で痛い目にあわなくてすむわよ?」
面倒くさそうにそう宣言するヒールの女性。
「狙われるような事をした覚えは余り無いんだけどね」
「アオさん?」
どうしますか?となのはが視線で問いかける。
「いや、面倒だからお引取り願うよ。誰だか知らないけれど、カンピオーネを舐めすぎですよ」
「はぁ?何を言っているのかしら?」
《帰って組織を殲滅。徹底的に破壊した後、再起不能になるまで痛めつけ、IS兵器を全て破壊。その後自分のISコアを破壊してください》
「帰るわよ、オータム、エム」
「わ、わかった」
「了解…」
思兼の幻術から逃れられるのはカンピオーネ、まつろわぬ神くらいのものだ。運が良ければ高位の魔術師も抵抗できるかもしれないが…ISの補助があるとは言えただの人間が抗えるものでは無い。
何もおかしいと感じずに、彼女らは自らの組織を殲滅するだろう。
こうして、どこかで一つの組織が消え去った。ISコアも破壊され、再度武力を持つのは当分先の事になるだろう。
「襲ってきたんだから、仕方ないよね」
「そうだね…でも、気分の良いものじゃないけど」
「ですね」
と、なのは、フェイト、シリカ。彼女達の反応は結構ドライな物だった。
「まぁ、俺もこんな事はしたい訳じゃないけど、今回の事は仕方が無いかな。これくらいしないと相手も懲りないでしょう」
「そうね。最後の最後で嫌な思いをしたわね。帰りに何処かで夕食を食べて行きましょうか」
「あ、良いですね、ソラちゃん。良いですよね?アオさん」
と、シリカ。
「そうだね。何処かで食べて帰ろうか」
と言うと、皆で商店街へと再び繰り出したのだった。
専用機もちタッグトーナメント当日。
生徒の観戦は義務付けられているので俺達はアリーナへと座る。
最近のパターンだと、こう言う行事事には騒動が付きまとうのだが…今回はどうだろうか。
ドーンと響き渡る爆音。
…どうやら期待を裏切らないらしい。
いつぞやの無人IS、ゴーレムと仮称されたそれが、さらにカスタマイズされてアリーナに乱入してきた。
その数12機。…多すぎだろう。
悲鳴を上げて逃げ惑う生徒達。先生方は避難の誘導に当たっている。
生徒達を護る為、ゴーレムを破壊するべく専用機もちが駆けるが、ゴーレムの強さが以前より上がっているために、見るからに劣勢だった。
まず、数が多い。ペア同士でタッグを組んで、二対一で相手をするならまだしも、一対一では見るからに劣勢を強いられている。
途中、抜け出た七機ほどが、此方へと駆けてくる。やはり狙いは俺達か?
防御フィールドで遮られているとは言え、それも絶対ではない訳で。
「みんなっ!」
「うんっ」
俺はソラ達にそう言うと、俺達はバラバラにアリーナの観客席をわりと本気で駆け、ゴーレムの反応を伺う。
俺達が動く度にその体を俺達へと向けている。…間違いないか。
封時結界を起動させ、世界の色が鈍くなる。銀色の魔力光が広がり、世界が切り取られた。
その中に取り込んだのは魔導師と敵IS。これでゴーレムは瞬間転移…いや、現代科学で理解を求めようとするならば、ステスルによって消えたように見えたはずだ。
俺達は監視カメラの死角に入っていたし、何も問題は無いはずであった。…しかし。何を間違えたのか、結界内に一夏達専用機もちを取り込んでしまっていたのだ。
どういう事だ?俺は確実にゴーレムだけを取り込んだはずなのだが。これはいったい…しかし、困った事になった。くそ、ミスった。やはり何事も完璧とは行かないものか…
「ここは…観客達は何処に…?」
「わかんない、わかんないけど…」
「な、なんなのよいったいっ!?ただでさえ、意味が分からない事態なのにっ!」
等と叫び声を上げる一夏達。
しかし、現状は目の前のゴーレムをどうにかしなければならない。思考を切り替えなければ倒されてしまうだろう。
『スタンバイレディ・セットアップ』
バリアジャケットを展開。普段はかぶらない兜をかぶればそう簡単にバレる事も有るまい。
取り合えず、後悔は目の前のゴーレムを倒してからかな。
封時結界に一瞬戸惑う様なそぶりを見せたゴーレムは、しかしそのまま攻撃を再開する。
俺に二体、ソラ達に一体ずつブースターで加速して飛び掛るゴーレム。さらについでとばかりに肩のショルダーキャノンを連射してくる。
『ディフェンサー』
左手を突き出し、防御魔法を行使。相手の射撃を弾きながら後退、さらに飛行魔法を使って浮上すると射撃魔法を行使。
『アクセルシューター』
「シュート」
背後に現れたスフィアの数は24個。それの軌道を操って上下左右からゴーレムに攻撃するが…スラスターを噴射して人間には不可能な動きで避けられた。
だが、人間が乗っていないのないのなら…
「あらら…困ったね」
しかし、困ったのは避けられたのがシューターだけじゃない所だ。設置型バインドもどういう訳かスルーしてくる。センサー類の感度がまさか隠蔽されているバインドを見抜くレベルだとは、参ったね…
ゴーレムの一体は援護射撃、もう一体はスラスターを吹かし接近してくる。俺は接近するゴーレムに向けて射撃魔法を放つ。
『フォトンランサー・ミニファランクス』
左右に四つファランクスを形勢。
「ファイヤっ」
一斉射されるフォトンランサー。しかし、その速度でゴーレムはフォトンランサーの直撃を回避していく。
危機的状況の判断ミスや戦闘でのストレスで普通の人間なら被弾も有りそうなのだが…そこは流石に無人機と言う事なのだろう。有効打足りえない。
「…たすけて…だれか…お姉ちゃんを助けてっ!」
そんな絶叫が木霊する。
何だ?と視線をめぐらせれば、血だらけの楯無と、それを支える簪。さらに、目の前にはゴーレムが迫っていた。
ちぃ…
流石に知り合いに目の前で死なれるのは気分が悪い。
クロックマスターを使い過程を省略、ISのコブシが振り下ろされるより速く結果を省いて簪の前へと移動した。
『ロードカートリッジ・プロテクションパワード』
ガキンとコブシを遮る障壁。
「え?」
簪がいつの間にという顔をしているが、取り合えず今は楯無の方が優先だろう。
腹部へのダメージで出血が酷い。
ガキンガキンとコブシを振る事の無意味を悟ったのか、ゴーレムは砲撃に切り替えている。俺が振り切った二体も此方への攻撃を開始しているので、バリアが揺らいでいて少し心もとないが、カートリッジをロードして強化、今の所大丈夫そうだ。
「あ、あの…」
「楯無を見せて」
「あ、はい…でも…」
何も出来ないと簪は思っているのだろう。ふむ、この出血量は確かに少しやばいか?
俺はそっと右手を楯無に触れるとクロックマスターを使用。楯無の時間を巻き戻す。
たちどころに傷口は逆再生をはじめ、ISスーツに付いた血液も体の内へと戻るり、顔色も良くなって来た。
こんなもんで大丈夫かと手を引っ込めようとした時、ガシリと俺の手を楯無が掴んだ。
「ついでに私のISも直してくれると嬉しいんだけど?」
「そこまでは面倒見切れないよ」
無茶言わないで欲しい。
「お姉ちゃん、ISの瞬時修復なんて無理言っちゃダメだよ」
と、簪。
「そう、それじゃああなたがあの敵ISを倒してくれるのかしら?」
「そ、そう言えば…あなたのそれはISなんですか?」
楯無と簪の質問。
簪の方は無視する。答えられないからだ。
「仕方ないね。…ここで起こった事は内緒だよ?」
と言い置くと俺はドニから奪った権能、シルバーアム・ザ・リッパーを起動。右手が銀色に染まり、全てを断ち切る権能を俺に与えてくれている。
あとは…
「ふっ…」
プロテクションに人一人分くらいのを開けると、俺は一瞬でゴーレムの目の前まで移動した。
「はっ速いっ!?」
驚く簪。楯無は驚愕はしているのだが、事情を知っている分まだ冷静だ。
俺はそのままソルを振り下ろす。袈裟切りに振り下ろされたソルはISの防御を軽々と越え切り裂き、さらにその権能で相手を八つ裂きにする。
「まずは一体…」
やられたISは気にも留めず、二体のゴーレムが俺に向かってくる。
俺は再びクロックマスターを使用。二体目、三体目とも移動からの一撃で再起不能へと追いやった。
◇
「え?うそ…ISが…一撃で…?」
「流石魔王さま方ね」
「お姉ちゃん、何か知っているの?」
「彼らはカンピオーネ。この地上で神殺しをなしえた方々。更識家がお仕えすべき方々よ…まぁ彼らは望んで無いんだけどね」
「え?」
「そっか、簪ちゃんは魔術関係は教えられてなかったもんね。と言っても私も全然本気にはしてなかったんだけど…あれだけの事を見せられちゃね。彼らの前ではISなんて玩具も同然なんでしょうね…」
畏怖を抱く楯無と、状況を未だに理解していない簪。だが、それはしょうがないだろう。
「簪、楯無さん、二人とも無事かっ!?」
二人の背後にボロボロの一夏が現れる。
「織斑くん」
「一夏くん」
「無事だったんだね」
と楯無が尋ねた。
「ええ、まぁ何とか…それより、彼らは…」
「魔王さま方よ」
「はぁ…からかってます?」
「至極真面目」
なっまさか本当にっ?とセシリア達は呟いていたが、一夏は気付かず。
「えと…それじゃぁアレはISなんですか?」
なにやら一夏は誤魔化されたと感じたようで質問を変えたようだ。
「アレがISに見える?むしろ私はISが彼らの後追いをしていると、今になって思うわ」
「ISが後追いっ!?」
「ええっ!?」
楯無の言葉に驚く一夏と簪。
「ISの補助など無くても空を自由に飛びまわり、ようやく第三世代機のBT兵器で可能になった…それもかなりの集中力を要する偏向射撃を易々と扱い、第四世代である紅椿のように専用装備も無くとも様々な攻撃が可能。敵ISを一撃で仕留めたあの銀の腕には一夏君の白式の単一使用能力零落白夜も霞みそうね。それにあの瞬間移動はもはやISでは再現出来ないわよ」
「そんな…」
「バケモノ…」
「そうね…化物。そう、だから彼らは魔王さまなのよ」
◇
フヨフヨとゴーレムを倒し終えた俺達は楯無さんの前へと降り立つ。周りを見れば、どうやら他のゴーレムは代表候補生の奴らが倒したらしい。なかなかに優秀だ。
「助けていただいて、ありがとうございました。魔王さま」
と、一歩進み出た楯無が膝を着き、臣下の礼を取った。いや、、生徒会長が自ら膝を折ったのだから相手をするなと言うこれは一夏たちへのポージングだろう。
事実、後ろに控える一夏は雪片二型を構えているし、他のIS…セシリアや鈴音、ラウラ、シャルロットも射撃武器を遠くから構えている。
「それで、私達はどうすれば良いのかしら?」
と楯無が問いかける。
「ISを解除してこちらに」
集まれと俺は言った。
しかし、やはり動こうとしない。まぁ、俺も実際得体の知れない相手からの言葉だったら聞き入れないだろうけれど。
「なっ!?」
戸惑う一夏。
「一夏くんも簪ちゃんも言うとおりにして。他のみんなも、出てきてISを解除しなさい」
「分かりました…」
「う、うん…」
一夏と簪は楯無の言う事ならと割と直ぐにISを解除した。
「待ってくれ、相手の武装解除がされていないからISの解除は同意できない」
とラウラの通信がオープンで入ったようだ。
「じゃああなたは彼らに勝てるつもりでいるの?二対一でようやくゴーレムに勝てたくらいの私達が?ただの一刀でゴーレムを打ち倒した彼らに?」
「ぐ…」
「いい?私達は今見逃されているの。ライオンの前に出たバンビちゃんくらいの存在なのよ。そこには明確な力の差が存在するの。私達は刺激しないように最善の注意を払わなければならない。分かった?」
「…了解した」
しぶしぶとラウラが動き始め、それにつられるようにアリーナ内に居た全ての専用機持ちが現れてISを解除する。
「さて、これで良いかしら?それで、魔王さま方は私達をどうするつもりですか?」
「簡単です。ちょっと…忘れてもらうだけですから」
そう言った瞬間、万華鏡写輪眼・思兼が発動。強力な幻術が行使され、彼らの中では俺達は居なかった事になる。
どさりと皆が方膝を着くようにバランスを崩した。
「な、何をしたの?」
楯無さんは此方の事情を知っているためにあえて幻術には掛けなかった。
「ちょっとした幻術をね。これでこの中で何が起こった事、その中に俺達は含まれない」
「なっ!?」
「まぁ、魔術師ならこのくらい容易だよ。更識家の古い人達も出来るんじゃないかな?」
「くっ…」
「余り俺達は知られない方が良い。知っているのなら別だけどね」
と言うと俺はソラ達へと向き直った。
「後は俺達が壊したヤツをどうするかだけか…」
「現場検証されると面倒」
「仕方ない、ISコアを抜いてから、外装だけは俺が巻き戻そう。そうすれば部品が散らばる事もないし、再起動もしないでしょう。いや、この際だから全てなかった事にした方が良いかも?」
「それが良いかもね」
と、ソラ達と相談の上、それぞれのカケラを集めると、一気に復元。
ついでに無かったことにするために皆のISも巻き戻しておいた。
「相変わらず、デタラメな能力ね。まぁ修理しなくて良いのは助かったけれど」
「権能なんてそんな物です」
と、楯無に答える。とは言え、これは権能よりも以前からある能力だが。
「それじゃ、私達は知らぬ、存ぜぬで居れば良いわけね」
「向こうもIS学園が襲撃されたなんて事は表ざたにはしたくないでしょうし、何か有れば更識家の力でも使って黙らせてください」
「それは結構難しいのだけれど…」
「いざとなれば俺達も何とかしますよ」
俺は復元されたゴーレムとコアを勇者の道具袋に突っ込むと、ソラ達に解散を促す。
「それじゃ、俺達も監視カメラのない所へ移動してから生徒達に紛れ込まないとね」
「うん」
「まぁ、大丈夫でしょ」
「ですね」
「はい」
封時結界を解除すると、俺達は何食わぬ顔でクラスメイトと合流し、これ以上のゴーレムの投入は無かったらしく、事件は闇の中に葬られる事になった。
…
…
…
夜の街を徘徊する何者かが居る。
見た目にはスーツを着込み、飲み屋から帰るサラリーマンのようだ。だが、裏路地に入り、胃の中をリバースしているようにかがみながら、実際は地面に何かを刻み付けていた。
「よし、こっちはこれで終わりだ。さて、次だ。…もうすぐ、もうすぐだ…ふふっあははは」
不気味な笑いが路地裏に響く。
「この魔術を忘れてしまった世界に天罰を。男性を虐げる世界に破壊あれっ!」
あははと暗い笑いを堪えながら男は路地裏を出る。後には鈍く光る何かが刻まれているだけだった。
…
…
…
さて、今日も今日とてIS学園は平常運転。朝から兵器の講義で始まり、ISに関する授業がひしめいている。
ドーンとまた一夏が箒達の嫉妬で吹き飛んで公共施設が壊されているが、まぁソレも日常。無視だ無視。
「あーちゃんって、基本的におりむー達の喧騒に関わらないよね。どうしてー?」
と教室でのほほんさんが問いかけてきた。
「それは人間として彼らが嫌いだから」
「えー?皆良い人たちだよ?」
「好きな子に意地悪をして意識してもらいたいと言う好意の裏返しが許されるのは小学校低学年までだよ。この歳でそれをする彼女達を好意的に思うとでも?」
「うーん…」
「自分を選んで欲しいと言う精一杯の努力が暴力なら、それは一昔前のDVをする亭主となんら変わらない」
今じゃ女性優位だから家庭内暴力で女性が負ける事が減ってきているけれどね。
「普通の生徒だったら、まだ可愛いで済ませたかもしれないけれど、彼女達は代表候補生で専用機もちだ」
「そうだねー。それが?」
「照れ隠しにISを使うのはどうなんだ?」
「あー…」
のほほんさんも難しい顔をした。
「中からいかがわしい声が聞こえたからとISで扉を壊して進入したり、ただの嫉妬で教室でマシンガンをぶっ放して教室を破壊したりね。だから俺は彼らが好きじゃないんだ。好きじゃないから関わりたくない。我慢の出来ない子供に兵器を与えてしまった国もバカだよ」
あれだけISにおける規則があるのに、割とIS学園内では自由っぽいからね。困った物だ。
「ついでに言えば俺が男だったとしても、好意と暴力を履き違えている女性と付き合おうとは思わないけどね。それは一夏も一緒だろう。いや、彼に特殊な性癖が有れば別だが…そんな人と付き合いたいかな?」
「な…なるほど…」
「大体、好きなら告白すれば良い。いつまで受身でいるつもりなんだろうね?相手が自分を好きでいてくれるはずと言う幻想に縋るのはそろそろやめたほうが良いんじゃないかな?それで自分が選ばれなかったらどうする気なんだろうね。ISで暴力に訴えるのか、はたまた」
「う…それを言われると…」
「…まぁ選ばれなかった恐怖を考えれば二の足を踏むのも分かるけど、とんびに油揚げを取られないと良いよね。と言うわけで実害は無いうちは無視だよ無視。こっちに被害が来たときは…その時考える」
まぁ今の所奇跡的に被害は無いのだけれど。
あれ?そう言えば喧騒が収まっているな。視線を移せば何やら難しい顔で冷や汗を流しているセシリア、箒、シャルロット、ラウラの四人。
「ああ、もしかしてISのハイパーセンサーで声を拾ってたかな。つまりは丸聞こえだったと。ふむ…謝るべきかな?」
と、のほほんさんに聞いてみる。
「いや、ここは気づかなかったフリをしよーよ。それが彼女達の為だよ、きっと」
そうかね?
…
…
…
◇
男は器材搬入に紛れて国立の学園の中へと入り込む。
器材の組み立てと見せかけて組み立てたのは簡易祭壇。
そこに何かの古めかしい本と、何かのカケラを置くと、魔法陣を描き、最後の一小節が刻まれる。
「ふっ…あはははははっ!これで、これで世界は一変する。いや、元に戻ると言う所だろうなっ」
瞬間、男が施した魔法陣が各所に潜ませたそれと繋がり、大量に魔法陣で繋いだ範囲内の人間から生気を吸い始めた。
「それに此処はおあつらえ向きだ。ブリュンヒルデの称号を持つ者に、現代の戦乙女の園。その主の降臨には相応しいだろう」
彼のこの狂気の行動。その原因はISが台頭するにつれ男の人権が極端に薄れてきた事に起因する。
今の世界は女尊男卑がまかり通り、男には生きづらい。男なんて今やただの生産奴隷と言っても過言ではないのかもしれない。一応彼も魔術を嗜む裏の人間であったのだが、それでも彼程度がISに対抗できるかと言われればNOだ。
鬱屈が堪る日々の中、見つけたのはもう20年以上前の神降臨の資料。彼には天啓であった。
この術式は地域住民の生命力を集め、巨大な魔力へと変換し、それによって神を呼ぶ物らしい。以前使われた時は六柱もの神が呼ばれる惨事になったようだ。
こんな世の中にしたのはISの台頭だ。しかし、本当にISは世界最強であろうか?それならば俺達魔術師が畏敬の念を抱くカンピオーネはどうだろうか?だがカンピオーネの方々はこの世の変革など気にも留めていない様子だった。
だったらと次に考えられるのは「まつろわぬ神」であろう。まつろわぬ神を呼び、その圧倒的な力で暴れまわってもらい、ISを叩き伏せてもらえれば、この世界も再び男性優遇の世界に戻るのではなどと思ったのだ。
それが今回のまつろわぬ神の招来であるが…神を呼んだ所でこの世の中がそう簡単に変わるものだろうか?
そこまで考える思考が彼に残っていたのなら、こんな暴挙には出なかったであろう。
「さあ、この世界に混沌をっ!」
眩い閃光、そして暗雲が立ち込めると一条のイナヅマのように地表へと降り注ぐ。
「おおおおおおっ!あっああああああっ!?」
強烈な神の神威に低レベルの魔術師がこれほど接近して正気を保てるわけが無かった。
男は無残にも朽ち果てる。
だが、彼のなした事。それはたしかに混沌を生むに等しい行為だった。
◇
とある水曜日。いつもの様に教室でISの講義を聞いていると、突如ぐんと生命力が吸い出されるような感覚におちいった。とは言え、俺にしてみれば何か触れたかな?程度の事だったが、教室内の生徒の変化はそれどころでは無い。
「あっ…」
「くぅ…」
とか細い悲鳴を上げて次々と突っ伏していく。屈強に見える織斑先生やラウラですら苦悶の表情を上げている。
いや、どうやら寧ろ上記の二人の衰弱が一番酷い。
『これはいったい何なの?』
と、なのはから念話が入ると同時に皆に相互に念話をリンクさせる。
『取り合えず、円を広げてみた方が良いかも。何かにオーラを持っていかれているみたいだ。抵抗力のない人たちにはかなりしんどいだろうね』
『う、うん』
『分かった』
俺も自教室分だけ取り合えず円を展開。それで取り合えずオーラの流出は止まったが…織斑先生とラウラの容態が深刻だった。
「くっ…千冬姉ぇ…ラウラ…」
一夏が重い体を引き摺りながらも重症の二人を抱え込む。
「二人はどうしたんだ?なぜ行き成りこんな事にっ!?」
箒が若干ヒステリックに叫んだ。
「僕もなんだか急激に体がダルくなった感じだし、それが関係しているんじゃないかな?」
とシャルロット。
「生命力が抜かれたとでも言いますの?そんなオカルトチックな…っは!」
「え、?そんなまさか…?」
セシリアの言葉でシャルロットも何かに気だついたようだ。
「何なんだよっ!二人だけで理解されても困る」
そう一夏が叫んだ。
「いえ、…荒唐無稽な話なのですが…」
ああ、二人は欧州の生まれか。ならばまだ伝承などで知っているのかもしれない。だが、とセシリアがしゃべり出そうとした所を俺が強引に割り込む。
「話している内に死ぬよ。二人とも」
俺は一度ぎゅっと胸元のソルを握ると、次の瞬間には神酒を二本取り出していた。
「なっ!?」
驚く一夏達をスルーして、先ずはラウラに近寄りラウラの鼻をつまむと、自然と口が開く。そしてそこにじゃぼじゃぼとポーションを流し込むと、織斑先生にも同様にポーションを流し込む。
「な、何をしたっ!」
一夏が食って掛かる。心配なのだろう。
「気付け薬だよ。これで死んだらそれまでだね」
「なにっ!?」
だいたい俺は他人を助けるほど優しい人間じゃないんだ。ただ、目の前でしなれるのは流石に寝覚めが悪いだけだ。
だから、これは気まぐれ。死んだらまぁ、しょうがないんじゃない?
なんて考えていると、一瞬光が爆ぜた。
『しまった…この感じ』
とすぐさまソラ達へ念話を繋げる。
『まつろわぬ…神…』
とフェイトの呟きが念話で聞こえた。
『神の気配は二体分…だが…』
「まずいね、こいつは戦神だよ…」
と、ついぼやいてしまう。
「千冬姉とラウラをこんなにしたヤツがもしかして外に居るのかっ?」
「まて、一夏っ!」
箒が止めるよりも速く、一夏は走り出し、学園の窓を突き破る勢いで外に出るとIS白式を展開、飛んで行く。
「一夏さんっ!?」
「まて、一夏っ!」
セシリアと箒が後に続く。シャルロットは織斑先生とラウラの手前、看病するかどうするかで迷っていた。
「…私も行こう」
「ラウラ…大丈夫だの?」
「平気だ」
「そっか、それじゃ…」
「ああ」
ポーションで回復したのか、完全回復はしていないが、そこそこ容態も落ち着いたようで、立ち上がると二人とも一夏を追って駆けて行った。
これは…結構アレなのでは?
『やばい、なんか鈴音が飛び出して行ったんだけど…』
とソラからの念話。
同時にISを駆り教室へと駆けて来る楯無さん。
「アオくんっ!」
「はいはい、今度はなんですか?」
「外のアレってまさかっ!」
と楯無さんが叫ぶ。
「まぁそのまさか、です」
「そんな…それじゃ今一夏くん達はっ!」
やばいかもしれないね。いや、まだ分からないか。ISがまつろわぬ神を上回ったのなら、もしかしたら…
「私も援護に向かうわ…お願い、あなた達も力を貸してっ!」
「対岸の火事なら放って置くんですけどね。自分の家が燃やされるのは勘弁ですね」
「そう…それじゃ、私は先に行くわねっ!」
そう言うと楯無さんも教室の窓から外へ。
仕方ない、俺も行きますかね。ソラ達に念話を入れて廊下へと出る。
「みんな」
「うん」
「はい」
「しょうがないよね」
「そうですね」
『スタンバイレディ・セットアップ』
バリアジャケットを展開すると同時に封時結界を行使。辺りが鈍い色に反転する。取り合えず、まつろわぬ神は取り込めたはずだが…またしてもIS装備者を巻き込んでしまっていた。
「だ、誰かっ!?」
バンと教室の扉を開ける簪の姿が見える。
「あ、あなた達は…」
「そこで大人しくしているんだ。それが自分のためだよ」
そう言うと時間もないので俺達はすぐに外へと飛び出した。
◇
閃光と共に地上に現れた二柱のまつろわぬ神。
片方は金の鎧を着込み、隻眼ではあるが、長い槍を持ち、八本の足を持つ軍馬に跨っている。
「これはこれは。ブリュンよ、まさかミズガルズに呼ばれようとはな」
「そうですね、お父様」
そう答えた女性も軍馬に跨り、羽の生えた兜をかぶり、甲冑を着込んでいて、その手には突撃槍を構えていた。
そこに現れる白い機械鎧を着込んだ青年。
「おい、そこのあんた達、あんた達が千冬姉やラウラをあんな目にあわせたのかっ!」
と、雪片二型を手に険しい表情で問いかける一夏。
「これは下等な人間が、このアースガルドの長である我に直訴するとはな。身の程をしらぬ小僧だな」
「なに言ってやがんだ?」
突然の侮辱に闘争心をくすぐられる一夏。
「一夏っ!」
「一夏さんっ!」
「一夏ぁ!」
箒、セシリア、鈴音が一夏の周りにやって来た。
「一夏っ!」
「まってよ、ラウラ」
遅れてラウラとシャルロットも到着する。
「逃げますわよ、一夏さんっ!」
油断無くブルーティアーズを構えつつ、冷や汗を流したセシリアが一夏を止めに入った。
「何でだよっ!こいつらが千冬姉達を…」
「この方達が誰だか分からないからそう言う事が言えるのですわっ!」
「そうだよ一夏、ここは逃げた方が良い…」
「シャルまで…いったいどういう事なんだ!?」
「金色の鎧に隻眼、八本の足を持つ軍馬に跨り、手には投槍を持つ。これだけの特徴があって分かりませんかっ!」
とセシリアが叫ぶ。
「わからんっ!」
一夏の答えにズルっ…と一同ずっこけそうになる。まぁISのPICでそんな事にはならなかったが…
「ヴォータン…」
ラウラが呟くように答えた後絶句する。
「はぁ?誰だよ、そいつはっ!」
「一夏にはこう言った方が分かりやすいかな…アース神族の主神…オーディン…」
「なっ…?」
今度は一夏が絶句する番だった。
「一夏、彼らは神さまだよ…日本はさ、そう言った事に対してあまり信心深く無いからさ、信じられないかもしれないけれど…この世界には神様が居るんだよ」
と言う鈴音も何処か蒼白だ。
「この世の戦士も様変わりしたものよ。腕試しをした後に強ければ殺して我がヴァルハラに招待してやろう」
「ヴァルハラって何だよ」
「あら、知らないのですか?我がお父様の死せる戦死の楽園、ヴァルハラを。お父様のお眼鏡に叶えば私があなたの魂を導きますのよ?」
と妖艶に笑うブリュンと言われた女性。
「ワルキューレ…その中でも軍馬に跨る伝承は少ない…まさかブリュンヒルデ?」
「あら、ご存知でしたのね」
と言い当てたシャルロットを褒めるブリュンヒルデ。
「それじゃあ、紹介も済んだ所で…」
「うむ。死んでもらおうか」
とブリュンヒルデとオーディンが何事でも無いような軽い感じで戦闘開始を宣言。
「なっ!…がっ…!?」
行き成りオーディンの槍が横合いに降りぬかれる。
その衝撃で一夏が吹き飛ばされていく。
「一夏っ!」
「一夏さんっ!」
「私もいるのよ?」
ブリュンヒルデが槍を振るう。
「何をぼさっとしているっ!」
反応できなかった箒とセシリアの間に割って入ったのはラウラ。ラウラのISシュバルツェア・レーゲンが持つ慣性停止結界(AIC)によってどうにかその槍は止められたが、PICを強化された神力でじわりじわりと打ち破るブリュンヒルデ。
「ラウラっ!」
横合いからシャルロットがマシンガンを一斉射。
しかし、ゴウッとブリュンヒルデを護るように現れた炎の壁によって弾かれ、燃やし尽くされてしまった。
「くっ…」
ここに来てようやく箒、セシリアも事態を飲み込んだようで、攻勢に出る。
「ラウラさんっ!」
セシリアが叫ぶと、手に持ったスターライトmkⅢを構え、連射。箒も紅椿の持つ空裂を振って斬撃を飛ばした。
それには堪らずにブリュンヒルデは後退。隣ではオーディンの槍の攻撃を双天牙月で何とかいなしている鈴音がいた。
「くっ…このっ!」
至近に迫られると言う所で衝撃砲である龍咆でオーディンを弾き飛ばした。
「ははっ…中々やりおる」
その戦闘の最中だった。世界から色が奪われたのは。しかし、それを気にしている余裕は一夏達には無かった。
「はぁあああああっ!」
一夏はスラスターを噴射、瞬時加速を発動させると一気にオーディンとの距離を詰め、雪片二型から零落白夜を発動し、オーディンを切りつける。
一夏の白式の単一使用能力である零落白夜は、相手のISが持つシールドエネルギーを貫き、相手にダメージを与える一撃必殺の剣だ。
一夏は取ったっ!と気色食む。…が、しかし。
ガキンと言う鈍い音を響かせて相手の槍で受け止められてしまった。それでも普通ならその威力でごり押せるのだが…
「一夏っ!離れろっ!相手はISでは無いのだぞっ!」
「くそっ…」
ラウラが砲戦パッケージであるパンツァー・カノニーアを撃ち出してオーディンを攻撃する。着弾の前に一夏は後退。
「ふん…」
オーディンはその手に持った槍を振るい、ラウラの砲撃を弾き飛ばした。
「ただの槍で弾き飛ばすとか、バケモノかっ!」
「神様ですわよっ!一夏さんっ」
そう言いつつもセシリアはブルーティアーズを飛ばして四方から二柱を攻撃、手に持ったスターライトmkⅢを持って接近戦をしている箒と鈴音を援護している。
「だいたい、馬に乗っているのに空を飛んで、さらにその機動力はおかしいでしょうっ!」
「そう言われてもな。我が愛馬は我が一部ゆえな」
「馬は飛ばないでしょうっ!地面を駆けてなさいよっ!」
とキレながらも鈴音は双天牙月を振るう腕は休ませない。
「はっ!」
気合と共にブリュンヒルデに双剣を振るう箒も、リーチの差から中々相手に踏み込めていなかった。
「ふむ…ならこれならどうでしょう?」
今まで槍でいなしていたブリュンヒルデが、砲撃を弾く時にしか出さなかった炎の壁を行き成り前面へと押し出してきた。
「なっ!?くっ…」
これは流石にマズイ…そう感じた時、後ろから援護が入る。
「箒ちゃんっ!」
「楯無先輩?」
水を操るミステリアス・レイディ。その能力で箒に球状に水の膜を作り、炎を遮断したのだった。
「遅れてごめんなさい…でも、あなた達が敵う相手じゃないわ。私が時間を稼ぐから、ここは引いて…」
「引けるわけ無いじゃないですかっ!先輩一人で相手をするつもりですかっ!」
と一夏。
「あら、新手ですね」
楯無を認識したブリュンヒルデはその槍を楯無に向けた。
「はっ」
「くぅ…」
ガキンと重い一撃を自分の槍で受け止める楯無だが、その受け止めた槍から炎が噴出する。
「なんのっ!」
水を操り自身の槍に纏わせて楯無は対抗すし、炎の槍と水の槍、互いの武器が打ち鳴らされる。
「はぁっ!」
助けられてばかりはいられないと、背後から二刀で切りつける箒。
ブリュンヒルデは一度力強く楯無を弾き飛ばすが、この間合いなら箒の攻撃のほうが先だろう。
だが背後からの攻撃は、しかしグンと一瞬体を縮めた後の軍馬…グラーニの蹴りによって中断された…だけではなく、その強烈な脚力からの攻撃でシールドエネルギーを削られながら吹き飛んでいった。
「箒ーっ!?」
「箒ちゃんっ!?」
絶叫する一夏と楯無。
「よくも箒をっ!」
一夏が雪片二型を構えて突撃する。
「待ちなさい、一夏くんっ」
突撃する一夏にやはり襲い掛かる炎。
「まったく、世話の焼ける…」
「楯無先輩…ありがとうございます」
水の膜がブリュンヒルデの攻撃から一夏を護る。それを好機と一夏は駆ける。
「うおおおおおおおっ!」
雪片二型を振り下ろす一夏。その一撃をブリュンヒルデは何事も無いかのように手に持った槍で受け止める。
キィン…
「おおおおおっ!」
さらにブースターを燃焼させて一夏は押し切ろうと必死だ。
しかし、ブリュンヒルデは手首を捻るように鍔迫り合いから一夏の雪片二型を弾き飛ばしてしまった。ここら辺はただ刀を振ったことがある人間と、神話に出てくる戦乙女の技量差だろう。神話に出てくる神なる存在はみな武芸武技の達人である事が多いのだ。ブリュンヒルデもその例に漏れない。
「…先ほどの女子の方がまだ良い太刀筋をしていたよ。これはヴァルハラに招く必要も無いかしら?」
そう言ったブリュンヒルデの視界からすでに一夏の存在が路傍の石へと置き換わる。つまらなそうにただその槍を振るった。
「一夏さんっ!?」
横目に一夏のピンチを悟ったセシリアは、オーディンからブリュンヒルデに意識を変えてスターライトmkⅢを構え、撃ちだす。ついでにブルーティアーズによる射撃も忘れない。
「あらら」
突如襲い掛かる砲撃に、ブリュンヒルデはグラーニを駆ると回避行動に移ったため、一夏はその凶槍から一命を取り留めていた。
「ばか、セシリアっ!今お前の援護が無くなるとっ」
と切羽詰ったのはラウラだ。
セシリア、ラウラ、シャルロットと鈴音でどうにかオーディンを押し止めていたのだ。特に長距離での援護はセシリアの役目だった。
ギィンと鈍い音を立てて押しやられる鈴音。
「きゃあっ」
「はあああああっ!」
両手にマシンガンを手にシャルロットはオーディンを牽制するが、俊足のスレイプニールを捕まえられない。
「現代の戦いも中々に面白い戦いであったな。ならば褒美を渡そう。我が槍にてお主らをヴァルハラへと招いてやろう」
魔術なんて物を使えない彼女達でも分かる、あのオーディンの持つ槍が強烈な存在感が増していると言う事に。
「大神宣言」
宣言と共に槍投されたオーディンの槍。誰もが知るその槍は、一度投げられれば必ず敵を穿つと言う。
「くっ…」
シャルロットは悔しそうに全力でスラスターを逆噴射。すぐさまその射線上から離れるが…グングニールはまるで磁石にでも引っ張られているかのようにシャルロットへとその刃先を向け飛んでくる。
シャルロットはならばとありったけの火力で撃ち落そうとするが…そこはやはり神の武器。そう簡単に壊れる物ではない。そして逃げる事叶わず、その凶槍はシャルロットを貫いた。
「が、がは…」
「シャルロットっ!」
嗚咽を洩らすシャルロットに叫び声を上げるラウラ。
PICが機能しなくなった事でシャルロットは地面へと向かって落下する。
だが、ISの絶対防御すら軽がると打ち破り、シャルロットを貫いたグングニールはしかし留まる所を知らないのか、そのまま刃先をラウラに向けた。
「クソっ!」
グングニールに追われながらもラウラは必死にシャルロットへと迫る。どうにかシャルロットをキャッチ出来たが、すでにグングニールは目の前まで迫っていた。
分かっていた結果だ。だがラウラにはどうしてもシャルロットを見捨てられなかったのだ。
急いでAICを起動、突き出した右手の先に慣性停止結界が現れ、それに触れたグングニールは一瞬止まったかのように見えた。
しかし、それも一瞬。神の武器の効果を妨げるには弱かった。AICを抜かれたラウラもグングニールに打ち倒された。
「ぐぅ…」
苦悶の声を洩らすラウラ。まだ意識は失ってはいないが、ISは機能していない。
飛ぶ翼を無くした鳥は落ちるが定め。それでもとシャルロットを抱きしめて自分が下になる位はしてみせるとラウラは空中で体を捩った。
クルクルと、グングニールは主の下へと戻る。
「こんのーっ!」
鈴音がオーディンに取り付くより速く、グングニールはオーディンの手に戻る。
「セシリアはラウア達をっ!」
龍咆を連射して牽制、しかし再度オーディンはグングニールを投擲した。
「きゃあっ!?」
鈴音を撃墜したグングニールがセシリアへと迫る。
「鈴さんっ!?…くっ」
グングニールが鈴音を貫き、まだラウラとシャルを助けられていないのに自分にもグングニールが迫る。回避行動を取れば、もしかしたら逃れられるかもしれない。しかし、その場合シャルロット、ラウラ、鈴音は地上に激突する事になる。
一夏の方を見てみても、ブリュンヒルデに遮られ、3人を助けには行けそうに無い。
もう自分が撃墜覚悟で3人を拾い上げるしかなかった。それでもし自分もやられたとしても、目の前で仲間を見殺しにするよりはずっと良い。
決死の覚悟でセシリアは飛ぶ。
その極限状態でセシリアは、高速飛行しながらブルーティアーズを操ってグングニールを牽制するという神業を見せたが、残酷にもグングニールの速度は寧ろ増す勢いでセシリアへと迫る。
「い、一夏さんっ!?」
◇
今際の際に好きな男性の名前を呼ぶのもまぁ、十代の女性の特権だろうか?
俺はソルにありったけのオーラを込め、シイルバーアーム・ザ・リッパーを発現させると、クロックマスターで過程を省略してセシリアの前へと躍り出ると力任せにソルを振りぬいた。
ギィンと鈍い音がしてグングニールは弾き飛ばされ、再度襲ってくるような事にはならず、オーディンの手に収まった。
「悪かったね、一夏じゃ無くて」
「あ、貴方は…」
「さて、誰でも良いんじゃないかな?」
「っは!それよりシャルロットさん達は!?」
「それも大丈夫、彼女達が助けたよ」
と見ればなのは、フェイト、シリカが落下する3人を抱きかかえている。ソラはブリュンヒルデの前に出て、楯無さんの援護へと向かっていた。
「ほう、神殺しか。これはまた因果なものよ」
「何が貴方を呼ぶ触媒になったのか、…もしかしたら俺やソラがここに居た事も関係あるのかねぇ」
と俺は対峙する神を見る。
「まさか、オーディンとはね…これはまたビックネームの神様だ」
油断無く桜守姫は発動している。おうすき…つまりオースキとはオーディンの異名だ。時に鷲などに姿を変えるなどの能力や、ルーンの秘術を扱う魔術師でもある。そう考えると、結構似てるのではないかと思えてきた。
「俺としてはあなた達を相手にする理由も無いので、出来れば幽世あたりで隠居してもらえると助かるんだけどね」
「かっかっか。この世に出でて未だほんの一時の我に隠居せよと言うか」
「もしくはアテナ姉さんみたいに人畜無害な存在でいてくれると助かるよ」
「何?この世に迷い出でてまつろわぬ性を封印している神がおるのか?」
「いや、アテナ姉さんの場合、興味が一点に集中しているし、人間社会も面白いと破壊するより馴染んでいるだけだよ。だから趣味の範囲を超えなければこの世を謳歌するのは別に良いんじゃないかな?出来れば殺戮や破壊なんかをせずにこの時代の法律に沿った行動なんかをしてくれれば良いんだよ。とは言っても…」
「主神たる我が人間どもが敷いたルールに従うを良しとすると思うか?」
いやぁ、それは…
「…思わないねぇ」
つまりは遠くなくオーディンは大規模な騒動を引き起こすと。
「とは言え、俺に関係の無い所なら別に何をしても良いんだけどね?フランスとかイギリスとか欧州あたりに行ってくれない?」
「な、何をおっしゃいますのっ!?こんな天災をわたくしの祖国へ押しやらないでくださいましっ!」
セシリアがつっこんだ。
「とは言え、あっちにもカンピオーネは居るのだし、そっちに任せれば良いかなと…」
「ダメですっ!誰が居るのか知りませんが、絶対にお断りですわっ!被害が出る前に此処で叩くべきですわ」
えー?
「ISが敵わない敵に、見知らぬ存在が出てきただけでイヤに勝気だね、君」
「噂で聞いた事は有りますのよ。カンピオーネ。神を倒した神殺し。その行く先々は騒動に溢れ、天災を撒き散らす…あら、これではどちらが悪者か分かりませんわね」
「他のカンピオーネと一緒にされるのは流石に理不尽…と言いたい所だけれど、何故か騒動に巻き込まれるんだよね」
「そう言う星の生まれなのでしょうね。でなければ神を殺そうなんて思いませんもの」
「いや、あんた達も神を殺そうとしていたけどね。あんた達も大概だ」
「うぐ…」
セシリアが言葉を詰まらせる。
「俺としては隠居して欲しいんだけど…」
と一縷の望みを持って再び言葉にする。
「こんな機会はそう有るもんじゃない。心いくまでミズガルズを堪能するのも悪くは無いのう」
「邪魔するヤツは?」
当然俺達の事だが…
「粉砕して突き進むのみ」
ああ…結局こうなるのね…
「セシリア、君は下がって彼女達の保護を受けると良い」
「なっ!バカにして、援護くらい出来ますわっ!」
「と言っても、君との連携はした事が無いからね。はっきり言ってしまえば邪魔なんだ。ああならないうちに下がって?」
ああと言うのは隣でソラがブリュンヒルデに突っかかる一夏を思いっきり蹴りだしていたのだ。
「い、一夏さんっ!?」
「ほらほら、行ってやんな。こっちはまぁ…何とかなるでしょ」
「死なないでくださいましね」
そう言うとセシリアはブースターを燃焼させて一夏の所へと向かう。
「それじゃ、こちらも始めようぞ」
「仕方ないのかな…」
さて、俺はもういつもの手段。設置型バインドで拘束からの必殺の準備に入る。相手には見えていないかもしれないが、周りにはすでに抜け目の無いほど罠が設置されていた。
触れればすぐさま拘束するだろう。しかし、結果はそうはならなかった。スレイプニールがピクリと動いたかと思うと、行き成り俺の背後に現れたのだ。
「そらっ」
「くっ…」
ギィンとソルの刀身でグングニールを受ける。
神速…万華鏡写輪眼でようやく追うことの出来るくらいの速度でスレイプニールは空を翔けたのだ。それでいて慣性は無視しての反転、停止までやってのける。
設置型バインドすら反応を許さない速度。流石に神との戦闘は一筋縄では行かない。
「ほう、流石神殺し。これを受けるか」
『リングバインド』
光るフープが現れ締め付けるより速くスレイプニールは駆け、今度も俺の背後へと移動した。
「くっ…」
俺は直ぐさクロックマスターで過程を省略し急ぎ距離を取った。相手からは瞬間移動したように見えるだろう。
「お主のそれは神速とは違うようじゃが…これはこれで面白き戦いが出来そうじゃな」
神速で近づきグングニールを振るう、何とか間一髪で受けると今度は俺がクロックマスターで背後に回ってソルを振り下ろす。しかし、スレイプニールが神速を発動して避けるの繰り返し。
「中々やりおる。貴様のそれは因果を操っておるな」
ちっ…気付かれたか。
「稀有な能力のよう。そして厄介じゃ。このままでは決着は着くまい。であれば、我も全霊を持って当たるとしよう」
オーディンがグングニールを構える。
その手に持ったグングニールに多くに神力が込められていくのが見て取れた。
ヤバイっ!?
俺は素早く印を組むとイザナギを使用。自分へと幻術を掛ける。これで現実の不利な事を幻術に置き換えられる。
「大神宣言っ」
その手から放たれたグングニールはそれこそ神速などとは程遠い効果を表した。
投げた瞬間に俺に当たると言う因果を導き出し、結果が先にあるために過程が省略される。投げ放った一瞬でグングニールは俺に迫り、貫いていた。
「がはっ…」
盛大に俺は口から吐血する。グングニールは俺の胸部を貫き、半分ほどで止まっていた。なぜなら、俺が両手でその槍を受け止めていたからだ。
「不死系の能力を行使したみたいだが無駄な事。結果が決まっておるのだからな」
なるほど、それで俺のイザナギが効かなかったのか。貫いたと言う結果は絶対であり、その結果は覆せない。幻術へと置換できなかった結果、俺はグングニールの攻撃で刺し貫かれたのだろう。
「ぐっ…く…」
俺の体を貫通しようとするグングニールを、逆に力を注ぎ込んで強引に引きぬきに掛かる。
「その槍で我に攻撃する事はできんぞ。その槍は持ち主の元へと必ず帰ってくる」
グングニールと言えば、投げれば必ず敵を討ち貫き、持ち主の意思一つでその手に戻ると言う。
だが…
「ああああっ!」
引き抜いた傷口から大量に出血。気を抜くと気絶しそうになるが、直ぐに左手を胸部に当ててクロックマスターを使用すると、傷口が塞がった。
「はぁ…はぁ…」
なのは達から俺を心配する念話が届くが、大丈夫と返答して俺はオーディンを見据える。
なおもオーディンの元へと戻ろうとするグングニールを大量のオーラを使い黙らせると俺は右手に持ったグングニールを構えた。
「む…?何故戻ってこない?」
本人にネタバラしをするほど俺は優しくは無いが、俺はまつろわぬスサノオから奪った権能が有るからね。手に持った物の所有権を書き換えるなんて事も出来るんだよ。あのスサノオが俺の十拳剣を奪ったみたいにね。
とは言え、まさかイザナギが破られるとは思わず、穿たれた場所が頭だったりしたら即死していたんだけどね。そこは俺のクロックマスターの因果操作が干渉した結果だ。何とかギリギリで最悪の事態だけは免れた。
そしてチャンスは俺にめぐってきた。
俺は右手のグングニールにありったけのオーラを込める。
「な、まさかお主グングニールを使うつもりか!?」
オーディンは腰に差していた予備の剣を抜き放つと、スレイプニールの手綱を握り、瞬時に駆けた。
オーディンの放つルーン魔術が宙を舞う。それを俺は必死に避けた。
ここが俺にとっても正念場だった。
神速を駆使して駆けるスレイプニール。同様に俺もクロックマスターを使ってその場から距離を置く。
俺のオーラを吸ったグングニールはその禍々しさを増す。どうやら準備も完了したようだ。
「グング…ニール」
真名と同時に俺はグングニールを投げ放つと、その槍は一瞬で相手を貫いた。
「なっ!スレイプニールっ!?」
グングニールはオーディンでは無く、その足であるスレイプニールを刺し貫くと、くるくると俺の手元へと返ってくる。なるほど、この武器は脅威だな。
だが、自分の元にある分には便利でもあるが…なにぶんオーラの消費が激しい。もう一発は厳しいか。
だが、問題は無い。あの脅威の機動力は奪ったのだ。
スレイプニールは既に飛行能力をなくし、オーディンは重力に引かれて落下していく。
「ぐっ…スレイプニル…」
残念だけど、感傷に浸る時間はあげないよ。
すぐさま俺はクロックマスターを使うとオーディンに肉薄するとソルを振るうが、驚異的な反応速度でオーディンは俺を切り伏せに掛かった。
ぶつかるソルの刀身とオーディンの剣。俺はシルバーアーム・ザ・リッパーで切り伏せに掛かるが、逆にオーディンの剣から放たれた斬撃によって俺は真っ二つに切り裂かれた。
「なっ!?」
ぶつかったと思ったのは斬撃かっ!
「神を舐めるなっ!」
さらに二撃、三撃と振られた剣によって切り裂かれ、俺の体は細切れになる。だが…
舐めているつもりは毛頭ない。だからまだ俺はイザナギを解除していなかった。
俺の体が八つ裂きにされると同時にその現実を幻術に置きかえる。
「なっ!?」
五体無事に現れた俺にオーディンは驚愕したようだ。
足場を失い落下中のオーディンでは体勢を立て直す事が難しい。俺はさらにクロックマスターで背後に回ると無慈悲の一太刀。オーディンの体を両断する。
「バカな…」
オーディンに不死の伝説は無い。むしろラグナロクにて死が描かれているほどだ。
不死系の能力を持っていなかったオーディンは光と共に消え、俺へと吸収されていった。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
何度戦っても、神様相手は気が抜けない…バケモノばかりだ。今回の戦いも二回ほど死んじゃうかもしれないほどだったし…やっぱり出来れば戦いたくないね。こんなバケモノ相手はね…
ソラの方を見れば、アルテミスの矢のフルバーストでブリュンヒルデを跡形も無く吹き飛ばした後だった。
◇
「助けには行かないんですの?」
と、セシリアがなのは達に問い掛けた。
現在、なのは達のシールドの内側にアオとソラ以外が集まっている。
「あのレベルの戦いに割り込むのは中々…ね」
と、フェイト。
「それに一人で倒さなければ権能も奪えませんしね」
そうシリカも言う。
「権能って何だ?」
「…知らなくていい事です」
と一夏の質問をしまったという顔をしたシリカが誤魔化す。
「なぁ、本当に助けに行かなくて良いのか?」
「私達ならまだしも、あなた達じゃ足手まといも良いところ。あの人達の邪魔をしないで」
「なっ!?」
フェイトににべも無く断られショックの声を上げる一夏。
「確かにISの攻撃をまつろわぬ神はレジスト出来ない。だけど、銃弾程度で死ぬ相手じゃないし、相手の呪力をISじゃレジスト出来ない。まぁ衝撃などはシールドエネルギーによって緩和されるけかもしれないけどね。精神系の攻撃に対応できるとは思わない」
「それに相手は武芸百般。一流を凌ぐほどの武技の冴えを持っている。高々十年修行した程度では超えられない壁が存在するね」
フェイトに続いてなのはもそう言ってたしなめた。
「なんだとっ!」
なぜか声を荒げたのは箒だ。
「ある意味あれは人々の理想の現れだからね。相手は人じゃないんだから、悔しがる必要も無いと思うよ?」
なのはが身も蓋も無い言葉で返す。
「それに、理由はどうあれ、あなた達に人型の存在を殺す事が出来るのですか?」
とシリカ。
幾らISが兵器に転用されているとは言え、まだ15の少年少女だ。その歳で人殺しの覚悟があるのは楯無とラウラくらいのものだろう。そのラウラも最近は丸くなってきているが…
「だけど…」
「一夏くん、ここは彼らに任せましょう」
「先輩…」
ぐずる一夏を止めたのは楯無だ。
「私は以前彼らと戦った事が有るけど、全く歯が立たなかったわ」
「なっ!?」
「先輩ほどの人がですが!?」
一夏と箒が驚愕の声を上げる。学園最強の楯無なら互角の戦いが出来ると思っていたのだろう。
「だから魔王さま方に喧嘩は売っちゃダメよ?塵一つ残さずに消されてしまうわ」
と冗談めかして言う楯無だが、冗談になっていない。
「攻撃が見えない…」
ISのハイパーセンサーを越える動きに驚きの声を上げたのは誰だったか。
しばらく戦況を見ていると、アオがオーディンの槍を受けて串刺しになっていた。
「あ、あれは大丈夫なのかっ!」
大声を上げる一夏とは違い、なのは達は無言…と言う事は無く、念話で絶叫を送っていた。
「大丈夫だって言ってるわ…」
「誰がだよっ!」
「彼が」
それで会話は終わったらしい。なのは達は一夏が何を言っても取り合わない。実際見る見るアオの傷は治っていった。
「なるほど、グングニールを奪うためにわざと攻撃を食らったんだ」
「いえ、必中の効果から逃れられなかったんじゃないですか?」
「どちらにしても、死んでなければ大丈夫だね」
フェイト、シリカ、なのはが言う。
三人ともアオの傷が治った所でようやく安堵の吐息を洩らす。
敵の武器を奪ってからの戦いは早かった。どうにもあのグングニールが強力すぎる。
「神速とか、そ言う次元の能力じゃ無いね…あれは因果を操ってるんじゃないかな」
「ええっ!?それってあの…ゲイボルグ…みたいな?」
何か恥ずかしい過去を耐えるようにシリカが言った。
「まぁ、分からないけどね」
となのは。
「もう終わるね」
「何でだよっ!」
「戦いには流れがあるのは皆知っているでしょう。ピンチに奥の手は有るかもしれないけど、ピンチで覚醒とかそんなご都合主義はほとんど無いよ」
たまにそんな都合の良い存在も居るけれどとなのは一夏を見て言った。
ブリュンヒルデとオーディンを討伐し、アオとソラはなのは達の側へと降りてきて、戦いは終わった。
◇
まぁ、後は事後処理だな。
いつものように記憶を書き換えて、丁度良い事に近隣住民の意識は朦朧としているだろうから隠蔽も…逆に難しいか?いや、ガス漏れによる中毒とかにすれば何とかなるかな?
なんて事を考えていた時、いきなりバリンと音を立てて結界が破壊された。
「な、なにぃっ!?」
「け、結界がっ!?」
「アオさん解除しました?」
おい、シリカ、突然の事で驚いたのは分かるが俺の名前を出すなよっ!
「解除はしていない、破壊されたんだっ!」
「いったい誰が?」
フェイトが周囲を警戒しながら言う。
「なっ!?まつろわぬ神っ!?」
結界が解除された事は驚いたが、それ以上に校庭に居る巨人のような丈のまつろわぬ神の招来に驚いてしまう。
「そう言えば、さっきの神ってどうやって現れたんだっけ?」
「知らないけど…?」
と、俺の疑問にソラが答える。
「もしかしてあそこに有る祭壇の所為じゃないですか?」
そうシリカが指差した先には何かの簡易的な祭壇。その中心に今も生命力が集められ続けていた。
「げっ!?」
もしかしてアレを壊さないとまつろわぬ神を呼び続けるのだろうか?
「ど、どうしたのよっ!?」
楯無が血相を変えて問いただす。
「まつろわぬ神を招来する装置の破壊を忘れてました」
「はぁ!?」
ごめんなさい。いや、言い訳をするなら、まつろわぬ神を呼ぶ術式があるなんて知らなかったんですよ。
「取り合えず、誰か祭壇の破壊をお願いっ!」
「はいっ!」
と返事をしてシリカが駆けて行く。取り合えず、任せても良いだろう。
それよりも問題は、目の前の巨人だ。
その巨人は大きな楯を持ち、静かに俺達を見下ろしていた。
「アース神族の気配がしたのだが?」
と巨人が問いかけてきた。
「オーディンはもう居ない。だからあたな様も神話の世界に返って欲しいのですけどね。もしくは幽世での隠居とかでも良いですよ」
かすかな希望を持って問いか掛けてみる。
「居ないはずは無かろう。いや、居ないと言う事はお主が屠ったと言う事か?神殺しよ」
「いやいや、そんなまさか…」
適当にはぐらかしてみた。しかし、さっきから再び封時結界を張ろうとしているのだが、魔力結合がうまく行かない。
「ねえ、アオさん…これって」
「まさかAMFか?」
なのはの言葉に俺はまさかと思いつつ答える。
「ISは動かせるか?」
「…ダメね、全く動かない。幸い量子化は出来るみたいだけど…」
それは良かった。鉄くずを纏っていたのでは走って逃げる事すら出来ないからね。
「貴方たちは?」
「参りましたね…先ほどから魔法がキャンセルされています」
「なっ…」
俺の告白に驚く楯無。
しかしこのAMF、何処から発生させているのだろうか。おそらく何処かに起動している装置があるはずだが、ざっと見た感じでは見当たらなかった。相当に効果が遠距離まで及ぶ代物のようだ。
「アース神族がすでにやられていようとは。詰まらん事だ。興味がうせた故、帰ってやっても良いが…」
おお、それは願ったり叶ったり。
「さすれば神殺しよ、我を倒してみせよ」
「何でそうなるっ!!」
言われた瞬間に叫んでいました。
「ただで帰るのも詰まらん。アース神族は居ないみたいだが、そいつらを倒したヤツは居るのだろう?」
なんでまつろわぬ神は面倒くさい奴らばかりなんだっ!
「では、死合うとしよう」
と言うと巨人は地面を踏み鳴らす。
踏み鳴らした地面は地震を発生させた後、一気に地面が凍てついた。
俺達の回りだけは、何とか持ち前の呪力耐性で弾いたが、あたり一面氷付けだ。そして、その地面から幾つもの氷柱が現れる。背丈は巨人の半分ほどだろうか。
その氷柱がパキンと音を立てて削れると、中から氷で出来た巨人が現れた。
「げっ…マズイね。楯無さん、みんなを連れて逃げてください」
「おい、あんた達はどうするんだよっ!」
と一夏。
「空も飛べない、ビームも撃てなくても、俺達は神殺し…カンピオーネですからね。神を倒すのは専売特許ですよ…とは言ってもやっぱり面倒だから逃げても良いかなとは思いますけどね」
それに必ず勝てると言う保障なんて無いのだから。
「いやいやいや、逃げないでください、お願いします…」
「ダメですか…」
「ダメですっ!」
必死にお願いされた。ISすら無効化された空間で、あの巨人を相手に人間が立ち回れるはずが無い。楯無にしてみても藁を掴むような心境だろうか。
とは言え、俺はもうしばらく休息が欲しい所だが…しかたない。俺は兵糧丸を取り出して噛み砕き、カートリッジをオーラカートリッジへと入れ替えるとフルロード。
『ロード・オーラカートリッジ』
ドーピングは完了。取り合えず戦えるまでには復活したかな。
「フェイトちゃん」
となのはがフェイトにアイコンタクト。
「うん、そうだねなのは」
「わたしとフェイトちゃんが先行するよ。援護お願い」
「任せるよ」
氷の巨人はゆっくりと、しかし確実に此方へと襲ってくる。
「それじゃぁ…」
錬と呟いた二人のオーラが爆発する。
魔法を封じられて飛べない二人は、地面を蹴って駆けると氷の巨人へと攻撃を開始した。
迫る氷の巨人相手になのはは印を組むと忍術を行使する。
「土遁・土流槍っ!」
地面に着いた両手からチャクラが染み出し地面の形を変え、巨人の足元から巨大な槍が出現し、貫いた。
フェイトを見れば、バアルから得た権能ライオット・ボルテックスで自身の体を雷化して光の速さで氷の巨人に体当たり、次々に巨人を屠っていた。その様はまさしく暴れる雷だ。
「それじゃ、私も手伝わないとね」
と言ったソラは素早く印を組むと大きく息を吸い込んだ。
「火遁・爆炎乱舞っ!」
シナツヒコで風を操り口から吐き出した火球を飛ばしていく。元は氷の塊なのか、その攻撃は効果的だった。
「化物ね…」
「感心してないでさっさと逃げてくれませんかね?」
と楯無に言う。
「とは言っても囲まれちゃったしね」
「くそっ何なんだよっ!」
「い、一夏っ」
「一夏さん…」
一夏はラウラ達を抱きとめながら、さらに箒とセシリアに抱きつかれていた。まぁ、自分のアイデンティティでり、絶対的な力あるISが使用不可能な状態では恐怖で混乱もするか。
気絶しているラウラ達はまだ幸運だろう。絶望的な状況を知らずにいるのだから。
取り合えず、俺も印を組む。
「火遁・豪火球の術」
ゴウっと火柱が上がり、後ろから回り込んできた巨人達を吹き飛ばす。
「しかし、減らないね…」
「ああ…」
そう言ったソラの愚痴に相槌を打つ。
「何とかならん物かね…」
と俺は洩らした。
「新しく得た権能で出来るような気はするけど…」
「けど?」
「多分ここら辺一帯全破壊しちゃいそう…」
あー…
「それはヤバイね…」
校舎に被害を出さないように護っていると言うのに、それはダメでしょう…
しかし、本当に減らない。次から次へと生み出される氷の巨人に此方は防戦一方で、首魁のまつろわぬ神に到達できない。
いや、クロックマスターを使えば何とかなるのだが、必殺をきせるほど俺のオーラが回復していなかった。
祭壇を壊しに行ったシリカも、どうやら目標は完遂したらしい。その瞬間世界が一変する。校庭から景色は荒野へと移り変わり、学校などは消え去っていた。シリカの理不尽な世界だろう、一つの世界とも言うべき結界が展開され、俺達を飲み込んだのだ。シリカはモンスターMobを数多く具現化させて氷の巨人を撃退しているが、巨人の肉壁が厚く、中々進めていない。…シリカの方はモンスター大行進と言うか百鬼夜行同士の戦いと言うか…何かそんな感じだ。相手が既に本気モードで呪力耐性が高すぎて脳波をキャンセルさせるチョーカーが現れない為に苦戦しているようだ。
「なっ…今度は景色が一瞬で…」
「い、一夏…」
「これが…権能…」
混乱を益々強める一夏達。…彼らは運悪くシリカの理不尽な世界に捕まってしまったのだろう、逃げ遅れていた。
しかし、ようやくこれで全力戦闘が可能だ。
「うん、これなら…」
『フェイトーっ!悪いけど、なのはとシリカ、回収してきてっ!』
とソラの念話が飛ぶ。
「どうするんだ?」
「デカイのを一発お見舞いしてやろうかと思って」
デカイのね…アルテミスの矢は使いきっていたような気がするが、それ以上に威力があるのだろうか?
フェイトが掴んだ者も雷化させ、途中に立ちはだかる巨人を粉砕しながら光の速さで戻ってくる。
「戻ったよ」
「それじゃ、なのは悪いんだけど、全員と手を繋いでミストボディ使ってくれない?」
「良いけど、動けなくなるよ?」
「たぶん大丈夫よ」
「なら、良いんだけどね。みんな、わたしにつかまって下さい。間接的でも良いので絶対に離さないでくださいね」
と言ったなのはの体を俺達が率先して掴む。
「良く分からないけど、触れていれば良いのね?」
楯無がなのはに近づくとその手が触れた。
「先輩…」
「ここは彼らの言うとおりにしましょう」
楯無の言葉で一夏もなのはに触れ、間接的に機を失っているラウラ達も繋がった。
「いくよぉ…」
と呟くとなのははアーサー王から奪った権能、ミスト・ボディを発動させる。その瞬間俺達は外界のと繋がりを絶たれ、一種の無敵状態になる。
シリカの能力は本人の解除の意思が無い限り行使され続けるので問題は無い。
「それじゃぁ…錬っ」
ソラのオーラが猛る。
『穢れた世界に浄化の炎を撒き散らせ』
呪言が響き渡るとソラを中心にドーム状に衝撃を伴って炎が拡散して行った。
その炎は次々に氷の巨人を跡形も無く燃やし尽くしていく。
「あーーーーっ!あたしのMobまで燃やされてるっ!」
敵味方関係なく当たり一面を焦土に変える攻撃に、なのはのミスト・ボディの能力が無ければ俺達も巻き込まれている。
「あーっ!あたしの世界が壊れますっ!」
パリンと音を立てて世界が崩壊し、現実へと戻される。
氷の巨人はその殆どを破壊されたが、まつろわぬ神自身は手に持った盾と、氷の巨人に守られて無傷で立っている。
「ごめん、私はもうオーラ切れ…それに強制『絶』になっちゃった」
「えええっ!」
「なっ!」
驚く俺達。
どうやらこの炎はブリュンヒルデからソラが奪った権能で後に名前を「黄昏の焔・エンド・オブ・ザ・ワールド」と名付けられたそれは…その威力は高く、とても恐ろしい能力だ。ただし敵味方の識別が出来ない盛大な自爆技…自分自身は巻き込まれないが…な上に相当のオーラを消費するらしく、さらにオーラの完全回復まで強制『絶』のデメリットが存在するらしい。
威力は申し分ないが、相応のデメリットも覚悟しなければならない、本当の切り札と言うところだろうか。
「なんとか再度囲いました…流石に一日に二回この能力を使うのは…キツイですね」
そう言ったシリカは急いで再び理不尽な世界を行使。何とか結界は起動したが、Mobの再生までは難しかったようだ。…さっき百鬼夜行よろしく大量召喚してたしね。仕方ないか。
「わたしは魔法が使えないとあのクラスのデカブツはちょっとキツイかな…グラビティーフォールもレジストされちゃってるし」
となのは。
「と言うか、魔法使えますよね?ここはあたしの結界内ですし」
「あ…」
とテヘっと視線を反らすなのは。とは言え、俺も忘れていたけれど…そう言えばソラは普通に念話を繋げてたよね…
氷の巨人の再召喚は、今も燻るソラの炎によって妨げられていた。
配下の巨人が呼べないと悟ると、まつろわぬ神は地面を駆け、その手に氷の剣を表して俺達に振り下ろす。
「おおおおおっ!」
気合と共に振り下ろされる大剣。
「アオさん、頼みました」
そう言ってなのははそっと俺の手を払った。
「え?ちょ…まっ…」
なのはは代わりにソラの手を握るとそのままミスト・ボディを発動。現実の干渉を絶った。
「おーいっ!?」
オーラは確かに回復してきたが…ここは休ませてくれても良いなないっ!?
無情にも振り下ろされる氷の剣。それを俺は顕現させたカガミのような盾で受け止めた。
「何っ!?」
突如受け止めた巨人の持つ盾に驚くまつろわぬ神に、構わずおれは右手を顕すとその手に持った十拳剣でその手を斬り飛ばす。
「スサノオ…」
呟くと段々上半身だけのドクロが肉付き、最後は甲冑を着込んだ益荒男へと変化した。
より、取り合えず相手の攻撃力は無くしたっ!と思ったのだが、肘から先を氷で構成させ、再び氷の剣を顕した。
「ふんっ甘いわっ!」
ちぃ…
振られる氷の剣をヤタノカガミで受け止め、十拳剣を振るうが、相手の盾も特別性らしくシルバーアーム・ザ・リッパーを行使した十拳剣でも壊せない。
それと、常時凍結効果のある霧を纏っているらしく、近づけば氷に浸食されてしまうようだ。
俺は一度バックステップで後ろに下がると、急いで印を組み上げる。火遁の印だ。
「火遁・豪火滅却」
ゴウッと炎の壁がまつろわぬ神へと押し寄せる。
よし、目潰しは成功っ!
そのまま俺はスサノオをタケミカヅチへと変化させ、雷の爆音を豪火滅却の破壊音に紛れ込ませ、炎を防御するまつろわぬ神の真後ろへと移動させた。
現れた雷神タケミカヅチはフツノミタマをまつろわぬ神に突き刺し、そのまま全てのエネルギーを雷に変えて注ぎ込む。
「がぁあああああああっ!?」
まつろわぬ神の絶叫。畳み掛けるなら今だね。
『サンシャインオーバーライトブレイカー』
俺の頭上斜め前に集束する銀光。
「な、なんなんだあれは…」
後ろから箒の驚く声が聞こえるが、いったいどれに驚いているのか。
銀色の塊が、光り輝く太陽のように現れた。
「サンシャインオーバーライトォ…ブレイカーーーーー」
ソルの刀身を振り下ろすと、一瞬の収縮の後に極光が走り、まつろわぬ神へと直撃し、斜め上へと抜けていくと、後には何も残らなかった。
まぁ、タケミカヅチでダメージを稼いだ上にブレイカー級魔法だからね。倒れてくれなかったら困るってもんだよ。
ブシューとソルの刀身から余剰魔力の排出と冷却が行われると同時に何かが自分の中に入ってきた。ふむ…権能かな?能力は何か分からないけれど、とりあえずは終わったようだ。
フヨフヨとソラ達の所へと戻ると、どうやら都合の良い事にラウラ達も気がついたようだ。
「終わったの?」
と楯無が問いかけてきた。
「終わった、かな?流石にもう勘弁して欲しい所」
「そう…それで私達は…」
「いつものように忘れてもらいますよ。覚えていない方が良い」
と言った瞬間に思兼を使用。そのまま幻術を掛けてなにも見なかったと暗示を掛ける。
「な、なにを…」
と言った一夏も、一瞬後には幻術に囚われた。
「後は適当に頼みます」
と楯無に頼み込むと、俺達は何事も無かったように教室へと戻るのだった。
◇
暗いラボの中、奇妙なウサギのカチューシャを着けた女性がモニタをのぞきながらキーボードを叩いていた。
「へー、これが権能かぁ…ISエネルギー結合のジャミングが効果が有ってよかったよ。…なるほどなるほど…うーん…これをレジストするのは科学じゃ無理だねぇ…この束さんでも何がどうなっているのか分からないよ」
と、束はどこか嬉しそうに呟いた。
「この映像を世界各国に流して…うん、それで一度きりの大戦争だね。これは面白くなりそう」
その暗い部屋の中では一人の天才が自分の中で何かが自己完結していた。
いったい彼女は何を世界にもたらすつもりなのだろうか…
◇
まつろわぬ神の襲撃からしばらくはまた平穏な日々が過ぎていった。
今日は校外自習日。IS学年の一年生は東京近辺にある絶海の孤島へとやってきていた。島の内部はIS関連の施設が並び、此処で今日はパッケージ武器の試射なんかの実験をするらしい。
一夏達専用機もちは一週間ほど早く現地入りしているのだが、そこはやはり一般性とと専用機もちとの待遇の差だろう。
天井の開いたドーム状の施設へと通された俺達は、一箇所に集められ待機を命じられた。
周りではこれから何をするのかと言う話題で持ちきりだった。何だかんだでISによる訓練が皆好きなのだろう。
しかし、突如飛来するISの大群。それらはドームを囲むように整列すると、武器の砲身を生徒に向けた。
「わー、すごいね」
「あ、本当だ。各国の第三世代機揃い踏みだね」
此処に来て、しかし学生である彼女達にしてみればただのデモンストレーションか何かだと思ったのだろう。
実際俺もそうであるれば良いと思うばかりだが、イヤな予感がして止まない。
その中から一人、進み出て声を拡声して話しかけてきた。
「諸君らの中に超越者が居るだろう。出てこい」
む?超越者?
それって俺達の事だろうか?と言うか俺達の事だろうね。他に思い当たる節が無い。とは言え、出て来いと言われて出て行くわけ無いけど。
どうする?と問いかけてきたソラ達の念話に俺は様子見と答える。
「仕方ない、実力行使に移る」
すっと手を上げるその女性。
「ちょっと待ってくれ、それは流石にやりすぎじゃないかっ!?」
と一夏が駆けつけ詰め寄っていた。
良く見ればIS学園所属の専用機もちが全員居るではないか。楯無や簪は居ないが…どうしてだ?
抗議をする一夏に取り合わず、振り下ろされた手に呼応するように銃口を構えたISから放たれる弾丸。
「やめろーーーーっ!」
絶叫する一夏。
ちょ、まっ!?躊躇いも無いっ!?此方の防御をあてにする攻撃。…これは俺達の能力がバレているな!
「きゃーっ!?」
「何…なんでっ!?」
絶叫する女生徒の声が聞こえる。
相手の思惑に乗るのはしゃくだけど…クラスメイトが俺達の所為で大量虐殺とかは名状しがたい物があるな…まぁ、今までに何人も殺してきて今更とも思わなくも無いが…仕方ないかな。
『プロテクション・パワード』
俺が障壁を張ると、ソラ達もプロテクションを行使、補強するように五重のプロテクションが展開された。
「な、なに?障壁?」
「…でも、どうやって?」
絶叫と、安堵と混乱と。場は騒然としている。
多少の攻撃ならビクともしないが…そう思っていると今度は大型ミサイルが飛んでくる。
この島ごと吹き飛ばすつもりかっ!?
「ま、まてよっ!?」
一夏や箒達がミサイル破壊に動き出そうとするが、それを周りのISが間に入って邪魔をする。
その間に降りかかるミサイル。
「アオっ!」
「アオさんっ!?」
ついにソラ達も声を荒げる。
ヤバイ、俺達だけなら転移で逃げられるが、この人数を一度にとなると、下準備に時間がかかりタイムアップ。
「もうプロテクションももたないかもしれませんっ!」
シリカの焦ったような声。
くそ…どうしたら…見捨てるか?いや…だが…
そう躊躇っていると、体の内側から不思議な感覚が芽生える。
権能の目覚めだ。そうだ、これなら大丈夫な気がする。
「我らを送るは神なる船っ!我らをかの地に運びたまえっ!」
呪言を呟くと一気に権能が力をまして顕現する。
あられの様に降りかかるミサイル。最後にその場で見た物は眼を覆うほどの閃光と爆音だけだった。
一瞬で爆音がやみ、辺りを確認するとそこはIS学園の校庭のようだ。
なるほど、あのまつろわぬ神から簒奪した能力は転移系の能力だったのか。
それも当然と言えば当然か。あのまつろわぬ神の正体はフリュム。ラグナロクにてナグルファルの舵をとる巨人の神だ。
それならば権能がこういう能力として現れてもおかしくは無いだろう。
しかし、能力の検証は後になりそうだ。
「アオ…」
「アオさん…」
ソラ達がどうするんだと問い掛けた。
「行く…しか無いのだろうね。俺達がこの学校に居る事はバレているみたいだし。このまま雲隠れも難しいだろうね」
「…そうだね」
そうフェイトがどこか寂しげに同意した。
「はい」
「うん」
「そうね…」
シリカ、なのは、ソラもどこか寂しそうに頷く。
「それじゃあ…戻るよ」
と言うと皆了承の返事を返すソラ達。
デバイスを起動してバリアジャケットを展開。周りの混乱が収まらないうちに再び権能…後に『神の戦船・ナグルファル』と名付けたその能力で戦場へと戻る。
ISのハイパーセンサーを持ってしても突然現れたとしか感知できない俺達の出現に取り囲む彼女達に同様が走る。
「ほう、あんた達が古き時代の超越者か。だが、今の時代にはあんた達は要らないそうだ。それが各国の意思らしい。私達も別に好きであんた達と戦いたいわけじゃないんだが、これも命令でね」
と、一人が代表して話しかけてきた。
「俺達をどうするつもりですか?」
「殺せ、と上からは命令されている。IS以上に危険な存在は必要ないそうだ」
へぇ。
「殺しに来る相手に手加減は出来ません。それでも俺達とやりますか?」
「命令だからね。仕方ないさ」
「仕方ないで人を殺す…俺も経験が有りますが…余り良いものでは無いですよね…」
自分とは関係ないところで自分の命を扱われている。俺も昔他人の命を戦場に散らさせてしまう命令をしてしまった事もあるから大きく否定は出来ない。
「見逃してはくれないのでしょうね」
「逃亡しても、IS学園のプロフィールから面が割れる。逃げ場は無いな」
「…なら、仕方ないのかな」
「まて、待ってくれっ!」
会話に乱入してくる一夏。
「何?」
「IS学園の生徒達は何処へ行ったんだっ!?」
「自分達が殺しておいて何処へ行ったは酷いな」
「なっ!?」
「内容を聞かされていなかったとか言い訳しても、君も既に当事者だ。大局的見れば君達の陣営がした攻撃で彼女達は吹き飛んだ。つまりは君が殺したも同然だよね」
「ちがっ!?」
「うん。まぁ、どうしようもなかった。知らなかった。と言うのも分かる。俺達が居たからだと言う理由もまぁ、分からないでもない。けど、彼女達を殺したのは俺達じゃないよ?その事で俺達を恨んでくれるな」
「うっ…」
「一夏さんっ!」
「一夏っ!」
「しっかりして、一夏っ」
「一夏」
一夏の周りにセシリアたちが心配そうに集まる。
「降りかかる火の粉は払って当然。手加減してあげたい所だけど、空戦では不可能かな。絶対防御を破った上で地面に激突すればただの人間なんてもろいもの。それでも戦うのであれば仕方ない。死を覚悟してもらわないとだね」
逃げるのは自由だ。…ただし、敵前逃亡が許されるのならね。
一夏達も専用機さえ持っていなかったらこんな面倒に巻き込まれなかっただろうに。
本当は投降の訴えもしたいけれど、投降途中に後ろから撃たれそうな雰囲気だ。無駄だろう。
「これだけのISに囲まれていつまでそんな強がりが言えるか、見ものだなっ」
それが開戦の合図だったようだ。
まず砲戦装備のISが援護射撃をする中、近接武器のISが接近してくる。
「仕方ないね…」
「うん…」
「なんかイヤだね…なんで静かに暮らさせてくれないんだろう」
「それはそう言う星の元に生まれたと諦めるしかないのかもね」
騒動が付いてまわるのは今さらだ。
「それじゃあ…」
「はい」
『『プロテクション』』
なのはとシリカが防御魔法で俺達を包み込むと、雷への変換資質を持つ俺とソラ、フェイトは殲滅の準備を始める。
『『『フォトンランサー・ファランクスシフト』』』
周りを埋め尽くさんばかりに現れるスフィアの玉、玉、玉。
その一個一個が一秒間に四発のフォトンランサーを撃ちだす砲台だ。
「ファランクス…」
俺の合図で撃ちだされる大量のフォトンランサー。
さらに、この状況で使えるようになったまつろわぬオーディンから簒奪した権能。後に「必中」と名付けられた能力を付加させると、まるで磁石に吸い付くようにフォトンランサーがISに向かって進路を変え、追いかける。
消極的にだが、一夏達も戦闘に混ざり始めた。戦闘に加わるのなら容赦はしない。
一夏の武器は部分的にAMF効果のある零落白夜を纏った雪片二型だが、これだけの数の弾を前に果たして彼の未熟な技術で耐えられるかな?
「なっ何だ、この攻撃はっ!…がっ…」
「こっちこないでーっ!」
次々に撃ち落されていくIS達。空中で絶対防御を超えて被弾し、そのまま落下…なんてのも当然居る。一応それらを救出に向かう連中も居るが、減速すれば格好の的だ。そのまま海面で撃墜される。どうやら救命胴着みたいな装備はあるらしく、水面に浮いていて、一応命に別状は無いようだ。
前衛部隊が半壊した所で後ろか大口径のポジトロンライフルを装備したISが味方の被弾も関係ないとばかりに発射。着弾までは数秒と言うところか。
『ディバインバスター』
「シュートっ!」
なのはがすかさずディバインバスターで相殺…いや、撃ち勝ってそのまま相手を撃墜させた。
「デアボリック・エミッション」
放たれる空間殲滅魔法。
おおう、シリカさん、結構思い切った事をしますね…
「こっちも負けてられません。スターライトォ…」
ちょっ!?確かに良い具合に魔力が充満しているけどさっ!
いつの間にか集束に入ったなのはのスターライトブレイカー。
「ブレイカーーーーーーーーっ!」
拡散するよう撃ちだされたそれにより部隊はほぼ壊滅。
終わったかと思った時に放たれた弾道ミサイルが降り注ぐ。
「あれ、核ミサイルじゃないっ!?」
「まさかっ…!」
「ここにいるISパイロットはまだ死んでないんですよ!?」
と、なのは、フェイト、シリカ。
「射撃での破壊はリスクが大きいか…ならば…」
と俺は十字の印を組むと多重影分身を使って分身体を作り出すと、ミサイルに向かって飛んでいく。
飛来する全てのミサイルに速度をあわせ、右手を着くとクロックマスターを発動。その時間を止める。
空間に固定されたように推進剤により燃焼しているはずの炎すら止めた俺のクロックマスター。
そのまま俺はナグルファルを使い、撃ち出した施設の上空へとそれぞれ転移。そのままクロックマスターを解除する。
信管さえ作動しなければ核爆発は起こる事もあるまい。施設は破壊されるが、自業自得だろう。
俺は海上に浮遊するパイロットから通信機器を奪い取ると、短い声で脅しを掛ける。
「これ以降俺達を敵に回せば、今度は国を滅ぼしますよ?此方の要求は一つだけ。俺達に関わるなっ」
誰が聞いているかわからない通信に一方的に宣言すると、その場をさった。
取り合えず馨さんに言って裏からも手を回してもらおう。…どれだけ効果が有るか分からないが、これだけ絶対的に俺達が勝利したのだ。イザとなったら権力者を操るくらいの意気込みで頑張ってもらおう。
この戦いに参加した400を超えるISは、そのコアに修復不可能なダメージを負い廃棄が決定された。
ISコアを作れるのは篠ノ之博士だけならば、その修復も彼女しか出来ず、さらに行方不明の彼女を各国はまだ捕まえられていない。
この事件以降、また世界は一変する。大量のISが廃棄された事による混乱。無事だったISのコアの譲渡要求など熾烈を極め。ついにはIS同士の決闘が始まり、そしてその数を減らしていく過程で全てのISの廃棄が決定された。
これによりIS学園は廃校になり、俺達は転校を余儀なくされる。
女尊男卑に傾いていた社会はその反動からか男性が威張り散らす旧時代的に後退してしまったが、それも仕方の無い事なのかもしれない。
ここに一つの時代が確かに終わったのだ。
◇
暗い室内でモニタを見つめている女性が居る。世界を一変させた篠ノ之束だ。
「あーあ、…やっぱり勝てなかったか」
「お前は何がしたかったんだ。各国にあんな映像を送りつけ、煽るだけ煽って仕向けたくせに、その結果がこれか」
と、後ろから束に声を掛けたのは織斑千冬だ。
千冬は逃亡する束をどうやってか補足し、そして会いに来ていたのだった。
「ISは人間が操縦してこそのもの。だけど、その人間が操縦したISでさえカンピオーネには勝てない。…いや、彼女達にはと言うべきかな」
「同じ事だろう」
「実際は違うんだけど、まぁどうでも良いよそんな事。彼女達はあれだけやって直接的な死亡者はゼロ。まぁ下が海だったからね、誰も死なないって訳にも行かなかったみたいだけど。あれだけの攻撃が直撃しておいて後遺症のあるような怪我は無いみたい。一体全体どうやったらそんな攻撃があの規模で出来るんだろうね?」
「………」
束の言葉に千冬は押し黙る。ISでは到底出来ない事だからだ。
「戦闘に参加した殆どのISのコアがあの矢のような攻撃の直撃で半壊。機能停止しているみたい。ご丁寧に他の攻撃で一度撃墜した後にも正確にコアを貫いている。こんな事今の科学じゃ無理だし、束さんでも不可能だよ。あー…白式や紅椿のISコアまで破壊されてる。うーん、束さんの自信作だったのにショックだよ」
コアが壊された事がショックなのか、それともIS装甲が破壊されたのがショックなのか、束の態度からは分からない。
「分かった事はISじゃ彼女達に勝てないって事くらいかな?ものすごく手加減されているからね。あの氷の巨人を燃やし尽くした攻撃をすればおそらくあの数のISも一瞬だったろうにね」
なんでしなかったんだろうと寧ろ残念そうに言う束。
だが、そんな事をすれば大多数の人間が跡形も無く燃え尽きていたに違いない。
「どうするんだ。これでまた世界のバランスが崩れる。束にはまたISコアを作ってもらわねばならん」
「えー?ちーちゃんもお役人さんみたいな事を言うようになったね。束さんはそう言うのは嫌いだよ」
「嫌いとかはどうでも良い。このままでは世界が混乱すると言っているのだ」
「それこそ束さんにはどうでも良い事だよ。わたしが世界にISを発表したのはもしかしたらカンピオーネを倒せる存在が出てくるかもって思ったからだし。むしろカンピオーネ本人がISに乗っていたんじゃ本末転倒も良いところだよ。混乱するなら混乱すれば良いじゃん」
自分には関係ないと、どうでも良いという束。
「束さんの興味は寧ろ今は彼女達の事でいっぱいだよ。これはもう直接お礼参りに行くしかないね」
「お礼参りって、何をするつもりだ」
「彼女たちの武器を見せてもらいたいだけだよ。ついでによければ改造させて欲しいかな。束さんならもっとカスタマイズが出来るはずなんだよ」
「その自信は何処から来るのだ…そして敵を強くしてどうする」
と呆れてため息をつく千冬。
「だれも敵わない存在はもはや敵じゃなくて、もはや神だね。神にかなう人間は居ないってのがまぁ多くの宗教の信仰だよね。まぁ彼女達はその神を殺した存在難だけど。神を殺した存在が、神になっちゃってるなんてね」
何が面白いのかころころ笑う束。その後ゆっくりと席を立った。アオ達の所へと行くつもりだろう。
「ここを通すと思うか?」
「わたしとちーちゃんが戦えばどちらかが死ぬ事になるね。わたしもちーちゃんを失うのは悲しいからそこを退いてくれないかな?」
「出来ん」
「そっか…なら…」
剣呑な空気がよぎる。束は懐から怪しげなスイッチを取り出すと躊躇いも無く押した。
「ぽちっとな」
ガションと行き成り束を包み込むように左右から鋼鉄の何かがせり出して束を包み込むと、足元からブースターが燃焼。いつの間にか天井は開け放たれており、その隙間を縫うようにして鉄の塊が飛んでいく。そのフォルムはどうみてもにんじんの様であったが、千冬の邪魔は一歩及ばず、束は意気揚々とその場を去って行った。
「ちっ…どうすればよいのだ…」
後には悪態を付く千冬だけが残る。
この後、襲撃を受けたアオ達が、束のペースに乱されまくり、ソルたちを魔改造されるのだが、それはまた別の話だろう。
後書き
アオ達を強化しすぎですし、話がカンピオーネに寄りすぎてしまってISでやる必要はないよね、という感じでお蔵入りです。多くのアンチ要素があったのも理由ですね。
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