アザミの花

「そのことを言いに来たんだ」
「そうだったのね」
「お節介かも知れないけれどね」
　織戸は今度は申し訳なさそうな顔になって述べた。
「そういうことでね」
「ええ、じゃあ」　
　織戸は会釈をしてから二人の前から去った、そして。
　聡美と二人きりに戻ったところでだ、鮎莉はこう彼女に言った。
「ねえ」
「そうね、今の織戸君の言葉だけれど」
「嘘は言ってないわね」
「そんな顔でも目でもなかったわね」
　嘘をつくと目が泳ぐ、一瞬であってもだ。しかしそれはなかった。
「それじゃあね」
「今の私はなのね」
「鮎莉ちゃんじゃないって」
「ええ、言われてるわね」
「そうよね」
「それって」
　どうかとだ、こう言った鮎莉だった。
「無理して女の子らしくなるよりも」
「これまでの鮎莉ちゃんの方がいいのかしら」
「そうみたいね」
　また聡美に言った。
「どうやら」
「そうなるのかしら」
「だったらね」
「それだったらって？」
「今から牛丼でも食べに行く？」
「吉野家？」
「そう、あそこにね」
　大手牛丼チェーンの一つだ、迷走することもあるが頑張っていると言っていいだろう。
「行かない？」
「鮎莉ちゃんの大好きなあそこね」
「そう、特盛に卵を入れてね」
　そしてそれをかき混ぜてだ。
「食べない？」
「そうね、言われてみればその方がね」
「私らしいわよね」
「鮎莉ちゃんらしくね」
「確かに百合は好きだけれど」　
　それでもだとだ、鮎莉は何かを見た笑顔で聡美に言う。
「アザミも悪くないわよね」
「そうよね、アザミはアザミで綺麗よね」
「じゃあ私アザミでいくから」
　本来の彼女でだというのだ。
「それでいいわよね」
「それが鮎莉ちゃんらしくて一番いいのならね」
　それならとだ、聡美もわかったという笑顔で応えた。
「牛丼食べに行こう」
「私は特盛に卵だけれど」
「私も一緒よ」
　聡美もだ、牛丼特盛玉だというのだ。
「それでいくわ」
「そうよね、それじゃあね」
「ええ、じゃあね」
　こう話してそしてだった。
　二人で吉野家に行く、それでその牛丼を楽しむのだった。
　次の日から鮎莉は元に戻った、それでこう言うのだった。
「やっぱり牛丼はいいわ」
「鮎莉ちゃんの大好物だからよね」
「そう、それにね」　
　それに加えてだった。
「朝はお茶漬けだったのよ」
「梅茶漬けね」
「朝を軽くいきたい時は」
　その時はというのだ。
「やっぱりお茶漬けよね、漬物でね」
「うん、鮎莉ちゃんらしいわ」
「じゃあ今日のお昼はね」
　今度は昼食の話だった、おっさんの様な笑顔で話していく。
「お好み焼きにしようかしら」
「それね」
「そう、マヨネーズとおソースをたっぷりと付けてね」　
　普段の鮎莉に戻ってだ、そうすると言ってだった。
　鮎莉は普段の鮎莉に戻ったうえで過ごす、聡美もその鮎莉を認めて微笑んで彼女と共にいることにしたのだった。
　その証拠にだ、こう彼女に言った。
「じゃあ私もね」
「聡美ちゃんもなのね」
「鮎莉ちゃんみたいには食べないけれど」
　それでもだというのだ。
「お好み焼き食べるわ」
「それで夜は？」
「日本酒よね」
「そう、飲む？」
「ええ、付き合うわ」
　彼女の飲み方でそうするというのだ、二人はそう話して一緒にいるのだった、それぞれのありのままの姿で。


アザミの花　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１３・１１・２０