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少年と女神の物語

作者:biwanosin
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第五十四話

 旧校舎が崩壊した日の次の日の夜。家で両親以外の家族揃って食事をしていた。
 昨日に続いて今日は三バカに拉致られて、夏休み中のことについて聞かれた。
 とりあえず、ごまかそうとしている護堂の隣でさっさとインドに行ったこと、家族旅行の話だけをして、護堂を生贄にして脱出した。

 さすがに、俺が標的にされて梅先輩とのことを話すことになるわけにはいかなかったからな。ロープも、蚩尤の権能で作った小さな刃物でどうとでもなったし。

「あ、そうだ。あいつらの停学伸ばさないと・・・」
「停学?何があったんだ?」

 俺がつぶやいた言葉に、リズ姉が反応して来た。

「いや、さ。つい昨日停学処分が下ったウチのクラスの三バカが、今日学校に来てたんだよ」
「ああ、例の覗き騒動の主犯格か」

 あの事件は、旧校舎の崩壊もあって一気に学院中に広がった。

「そういえば、そんな事をした人たちもいるんだよね~、ウチの学校」
「最低の行為よ、覗きなんて」
「全くだよ。そんなやつらは、もっときつい処分でも良かったんじゃないか?」

 氷柱とナーシャの二人がかなり厳しい。
 この二人、結構性格似てるんだよな・・・

「まあ、実際に見るより前につぶれたからな。怪我のこともあって、処分は軽くなったみたいだ」
「みたいですね。エリカたちがプールサイドでそんな話をしているのを見ましたよ」
「馬鹿が多いよね、五、六組」
「まあ、馬鹿が多いのは否定しない」

 なんせ・・・

「武双おにーちゃんのクラス、おバカな人が多いの?」
「多いみたいだよ?ね、ビアンカちゃん?」
「うんうん!中等部でも結構有名だもん!」

 桜とビアンカが知ってるくらいだ。

「確かに、その人たちは中等部でも有名デス」
「危険人物として有名だよね。転校してきた日に、クラスの人たちから気をつけるように言われたし」
「ソウ兄は、結構羨ましがられそうだよね?」
「あー・・・まあ、そうだろうな。今日拉致られたのもそれが原因だし」
「拉致って・・・武双君を?」
「俺と、護堂を」

 その瞬間に、一人を除いて顔が驚きに染まった。

「すごいですね・・・知らないとはいえ、天下のカンピオーネを二人拉致するなんて・・・」
「まあ、手際は良かったな。・・・で、夏休み中何してたか聞かれたから、家族で海に行ったこととか話して、護堂を生贄にして脱出した」
「あー・・・それ、間違いなく三バカさんたち悔しがってたでしょ」
「ああ。まあ確かに、綺麗どころが揃ってるとは思うけど」

 その辺り、実は誇らしかったりする。

「ぶー・・・一人だけ仲間はずれ、いくない・・・」

 そして、一人そう言いながら頬を膨らませている林姉が、やっぱり姉に見えない。
 というか、このメンバーの長女として機能していると思えない。

「私一人だけ大学で、一人ぼっちなのに・・・留年すればよかった・・・」
「留年はダメだぞ、林姉。色々困るから。一クラス辺りの人数が大変なことになりかねなかったから」
「来年には私が行くから、姉さんはもう少し待ってて」

 そう言う崎姉が、やっぱり長女に見える。
 さて・・・これ以上林姉がいじけるのも面倒だし、話題を変えるか。

「話題を変えます」
「どうぞ」

 崎姉の許可も貰ったところで、話題を変える。

「今顕現してるらしい神について、何か意見はないか?正直、俺はお手上げだ」
「ああ、あの異常な量の霊視のやつか。私は知らんぞ」

 真っ先にリズ姉が言ってきた。
 この人も俺に似て、最低限しか神様について知らないからな。

「私も・・・ダメかな。色々考えてみたんだけど、平家と源家なんて対立してた家の時点でお手上げ」
「私は、全く違う国の神ですので・・・それに、日本の神話なら分かるんですけど・・・神話じゃなさそうですし」

 崎姉、アテもまたリタイア。
 残りは・・・

「私はダメ~。考えすぎて頭がパンクしちゃいそう」
「私も無理だよ。昨日今日の授業中フルに、図書室から借りた武将の資料も使って考えてみたけど、分かんなかった」
「何やってんだ、マリー・・・」

 林姉、マリーも無理、と。
 そこまでしてくれたのは嬉しいけど、少しは授業にも耳を傾けましょう。

「私も無理デスよ。調と一緒に考えましたけど、全然分からなかったデス」
「うん、結構頑張ったけど無理だった」
「私も霊視してみようと頑張ってみたんだけどね~。おりてきたのは、大名行列」
「さくらも分かんない。ビアンカちゃんと考えてみたんだけど・・・」
「アレは無理だよね~。忘れられた神とかだともうどうしようもないし!」

 切歌、調、立夏、桜、ビアンカも、と。
 この間氷柱もわからないって言ってたし、ナーシャもまだ日本の神についてはわかんないから・・・これは、もう実際に会うしかないのかな。

「それに、調べてて思ったんだけど・・・武将だけでもかなりの量が神様になってるし、靖国の英霊で考えたら・・・」
「やめて、俺聞きたくない・・・」

 氷柱が調べてくれたことが少し意外だったけど、かなりいやな情報を渡された。
 色々辛いぞ、それ・・・靖国の英霊とはさすがにいろんな意味で戦いたくないし、その中から誰かが出てきたとかなら、もう打つ手がない。特定とか絶対に無理。不可能。

「・・・あの、質問してもいいですか?」
「ん、ああ。いいぞ」

 俺が文字通り頭を抱えていると、狐鳥が手を上げて尋ねてきた。

「じゃあ・・・なんで、武将さんなんですか?」

 なんでって、そりゃ・・・

「大名行列、だからな。そりゃ武将とか、その辺になるだろ」
「え、でも・・・ほら。軍を率いる神様とかなら、その軍を大名行列にたとえられても・・・」

 あー、そう考えたのか。

「立夏、氷柱。お前らが見たのって・・・」
「私は、大名行列の映像と、大名行列、っていう名前。立夏姉様は?」
「私も、氷柱ちゃんと同じかなぁ」
「あ、じゃあそれはないですね・・・」

 狐鳥はそう言いながらも、まだ気になるようだ。

「じゃあ・・・神様にたとえられた武将さんとか、いないんですか?」
「そりゃ、探してみればいるだろうけど・・・どうして?」
「いえ、それならその神様のつながりも大丈夫そうですし・・・そこから繫がっていけば、最終的にはたどり着くかもですし・・・」
「なるほど・・・それは思いつかなかった」

 確かに、そんな繫がり方で行く神様なら、いけるかもしれない。
 何かいなかったか・・・

「上杉謙信、とか?」
「確か、毘沙門天にたとえられていたり、その化身とされたりしているな。故に軍神としての位も持っている」
「リズ姉がまともなこといった・・・」
「どういう意味だ、武双」

 怖いので聞き流して、俺は上杉謙信と毘沙門天について、権能で調べていく。

「確かに、上杉謙信は酒飲みだし、名前は輝虎だったりもする。越後の虎、とかも言われてるな」
「この人の埋蔵金伝説もあるよね。これで多額の金もクリア。平家物語も好きだっけ?」
「源氏物語も好きなはず。大名だから医者にも気を使ってただろうし。名声だって、しっかりと手に入れてる」
「信長の自害のおかげで色々と助かってもいる・・・ってのは少し無理矢理か」
「安産祈願をする神社の中に、毘沙門天をまつってるところもあるよね。交通安全もあるはず」
「・・・でも、この辺りが限界か」

 これ以上は上がってこない。
 いや、多分しっかりと調べればもう後いくつかは当てはまるんだろうけど・・・全部は無理じゃないかと思う。

「あ、やっぱり無理でしたか・・・スイマセン、子供が大して物も知らないのに口を挟んじゃって・・・」
「いや、気にしなくていいよ。むしろ、新しいやり方も見つかったし」

 単純に武将だけに固執しているべきではないな。
 そこから繫がる可能性のある神についても、しっかりと調べないと。

「むしろ、大して知らないのが幸いしたのかもな。だからこそ、私達が思いもしないところに視点がむく」
「リズ姉のいう通り。だから、何か気になることがあったら遠慮なく言ってくれよ」
「あ・・・じゃあ、もう一個いいかな?」
「おう、言ってくれ」
「その・・・顕現してる神様って、本当に一柱だけなのかな?」

 それもまた、俺たちが行かない視点だ。

「つまり、今回出てきてるのは複数?」
「じゃないかなぁ、って。それなら、当てはまらない要素があっても問題ないし・・・」

 ・・・本当に、知らないからこそ色んなところに視点がいくよなぁ。
 それこそ、目を逸らしたいところにも。

「・・・はぁ、ここまで来ると、それも考えないといけない・・・というかむしろ、狐鳥がいったことがあってる気がする」
「確かにそうね。じゃあ兄貴は、その方向で考えるの?」
「ああ、そうしてみる」

 複数ってことは全員に何かしらの関係があるはずだし・・・
 それに、武将以外にも視点を向けないと・・・

「範囲、さらに広がったな・・・・」
 
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