| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

美しき異形達

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二話 目覚める炎その十四

「凄い匂いがして汚くなりやすいから」
「そうなるよな、やっぱり」
「部活でもね」
「うちの拳法部とかモトクロス部は綺麗だったぜ」
「お掃除がしっかりしてるからよ、けれどね」
「いい加減な部はか」
「凄くなるから」
「匂いもなあ」
「よくさ、覗きってあるじゃない」
 裕香はここでは眉を顰めさせた、それは覗き行為に対する嫌悪と軽蔑だけではない。
「あんなことしてもね」
「匂いでか」
「普通は幻滅するから」
「そんなにきついんだな、女の子の匂いって」
「男の子よりもね、多分」
「ううん、じゃあ女子寮はか」
「女の子の体臭に汚物の臭いにシャンプーや石鹸の香り、香水って」
 後の方はどれもそれだけならいい、だがだった。
「そういうのが全部混ざり合って」
「うわ、怖いな」
「慣れてない人なら入っただけでね」
 まさにだ、その匂いでだというのだ。
「卒倒しかねないわよ」
「女子寮は魔窟かよ」
「少しでも油断したらそうなるから」
「つくづく怖い場所だな」
「そこ、わかっててね」 
 釘を刺す顔で言う裕香だった、薊に対して。
「だからお掃除はね」
「絶対に忘れたらいけないんだな」
「女子寮にいるとね」
 そうした話をしつつ帰路についていた、そしてその二人の前にだった。
 不意に人影が出て来た、その人影は。
 一見しただけで尋常なものではなかった、シルエットこそ人に近いが。
 頭が違っていた、妙に突き出たものが二つある。そして。
 暗がりに慣れてきた二人の目にだ、さらに異様なものが見えた。
 肌は緑だ、しかも。
 人間の肌ではない、その質は。
「虫?」
「だよな、完全に」
 肌だけではない、顔もだ。
 目は異様に大きい複眼が頭の左右にある、そして口は禍々しく左右になっている。そしてそこから不気味に蠢くものが見えている。
 手も人間の手ではない、それは。
「鎌・・・・・・ね」
「カマキリだよな」
 薊は裕香の言葉に眉を顰めさせて言った。
「あれは」
「何であんなのが?」
「なあ、あいつな」
 薊は眉を顰めさせたまま自分の横にいる裕香に言う。
「どう思う?」
「人間じゃないって?」
「どう見てもそうだよな」
「ええ、本当に」
「それにな」
 量での鎌を構えている、それも見てだった。
 薊は七節棍を出した、そうして裕香の前に来て言った。
「裕香ちゃん戦えないよな」
「戦うって?」
「格闘技とか知らないよな」
「私ソフトボール部だから」
「だよな、それじゃあな」
 それならと言ってだ、両手に持っている七節棍を構えていた。そうしてこう言うのだった。
「危なくなったら逃げろよ」
「逃げろって」
「ああ、逃げろよ」
 裕香にだ、自分の身を湯煎させろというのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧