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紫と赤

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第七章


第七章

「それでは。有り難く」
「そういうこと。御礼はいらないからね」
「はい」
「こういうことはお互い様」
 かなり強引にそういうことにしてしまうチャーリーだった。
「だからね。そうさせてもらうから」
「有り難うございました」
 店員は店員として彼に挨拶をした。こうして彼はその帝王紫を手に入れて自分の部屋に戻ったのだった。木のリビングそのままのアトリエに入ってまずはキャンバスに向かった。そうしてその帝王紫を見つつ色を作っていくのだった。
 しかしであった。どうもその色にならないのである。赤に適度に紫を入れてみてもどうにもその色にならないのだ。幾らやってみてもその帝王紫にはならない。これは彼にしても思わぬ事態だった。
「おかしいな」
 帝王紫のアイシャドーと己のキャンバスに描かれたそれぞれの紫を見比べつつ眉を顰めさせるチャーリーだった。もうキャンバスはその半分以上が紫に染まりしかも時間もかなり経って真夜中になっていた。しかし彼はその間休むことなく食事も摂っていない。忘れてしまっているのだ。
「この色にはどうしてもならないな。何故なんだ?」
 こう言ってそのアイシャドーを見て首を傾げる。
「何をしても紫だよな」
 そこから考えてみる。
「紫を赤に入れて。そうして」
 もう一度やってみる。ところがだった。
 やはりその帝王紫にはならないのだ。別の紫がかった赤になってしまう。極端な場合には殆ど紫になってしまっている。それか僅かに紫がかった赤に。とにかく帝王紫、ここでは彼が目指す赤にはならないのだった。彼はその帝王紫を見ているうちにこれこそが自分の探していた色だと感覚でわかってきたのである。
「やっぱり違うな」
 またやってみたがそれでも駄目だった。
「どうしてもな。どうやったら出るんだ?」
 キャンバスの自分が作り出した紫とそのアイシャドーの帝王紫をまた見比べた。
「どうしても。この紫が」
 ここでふと彼は。紫と呟いたのだった。
「紫が・・・・・・んっ!?」
 その紫に気付いたのである。
「紫か」
 そして呟いた。
「紫といえば」
 絵の具を見る。赤と青を。
 すぐにその赤と青を出して混ぜてみる。そこから紫を作る。
 だがそこからは作らない。まずそれで完全にこれだという紫を作りそれからだった。そうしてそれを赤と混ぜて。彼は遂にそれを作り上げたのであった。
 このことをコリンに話していた。場所はまたあのハンバーガーショップである。そこで少しやつれた顔で彼に話をしているのであった。
「というわけなんだよ」
「そうしてできたんだね」
「うん、そうなんだよ」
 こうコリンに話す。やつれてはいるが満足している顔であった。
「やっとね」
「そうか。それにしても苦労したみたいだね」
「楽しかったよ」
 苦労を苦労とは思っていなかった。だからこう言えるのだった。
「その間ね。見つけることができたし」
「それが君の捜していた赤だったというわけか」
「紫に一応なってるけれどね」
 この辺りに関してはその首を少し捻ってみせるチャーリーだった。
「色の区分としてはね」
「この色だよね」
「うん、この色」
 白いテーブルの上に置かれた白い布に塗ったその色を指し示しての言葉だ。確かにその色は紫がかった赤と言っていいものである。
「この色なんだよ」
「確かにね」
 コリンはその色を見たうえで頷いた。
「これは赤だよ」
「君もそう思うかい?」
「今の僕達の色彩感覚で言えば赤だ」
 一応前置きをしての言葉である。
「僕達の感覚ではね」
「そうだよね。今の感覚で言えばね」
「けれど昔は違っていたってことだね」
「そういうことだね。皇帝が使っていた紫らしいね」
「だから帝王紫というわけなんだ」
「うん。ローマ皇帝とかが衣に使っていてね。本に書いてあったよ」
「ああ、あれか」
 そう言われて彼もまた学校での授業で先生に言われたことを思い出したのであった。チャーリーのそれと同じくその記憶はいささか弱いものではあったが。
 
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