少年と女神の物語
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第四十九話
「ふぅ・・・終わった、よな」
俺がそうつぶやくのと同時に、背中に重圧がかかる。
もうこれで十回目、さすがになれてきた権能が増えた感覚だ。
「ええ、終わりでしょうね。にしても、かなりの被害ですよ、これ」
近づいてきた梅先輩に言われて周りを見てみると、確かにかなりの被害だった。
「・・・なんか、スイマセン」
「気にしないでください。王に依頼すると決めた時点で、こちらとしてはこの数倍の被害は覚悟していたのですから。・・・まあ、ここで暴れた結果、他のまつろわぬ神が出てくるのではないかと、内心ひやひやしていましたけど」
「・・・スイマセン・・・」
今になって冷静に考えてみれば、ここ、出雲大社は全国の神が集まる場。
日本の神様であれば、どんな神が顕現してきてもおかしくない空間だ。
「まあ、刺激はされているけどまだ出てきていない、という可能性も否定はできませんが」
「その時は、俺が責任を持って全部殺しますよ」
「はい、戦闘の被害の方がまだましなので、よろしくお願いします。・・・太陽が消えるのは、さすがに困りますけど」
「・・・・・・」
俺はたまらず、目を逸らした。
さすがにアレは、神を殺すためとはいえやりすぎだったって自覚はあるんだ・・・
まあ、今あのときに戻されても全く同じことをしたと思うけど。
「ところで、その傷はいいんですか?」
「ああ、これですか。・・・とりあえずは、大丈夫かと」
俺はつい嘘をついた。実際には、かなり痛い。
刺された痛さではないのだが・・・勘だけど、針から毒でも流し込まれたんだと思う。
体内に直接、という形はとってるし。可能なんじゃないかとは思う。
まあ、今考えとかないといけないのはそれじゃなくて・・・
「・・・えっと、そのですね」
「ああ、返事なら今ではなくてもいいですよ」
俺がどうしようか悩んでいたことを梅先輩はあっさりと当てて見せた。
「それは助かりますけど・・・いいんですか?」
「はい。元々、こんなに早いタイミングで告白するつもりはなかったんですよ。それなのに・・・」
「スイマセン」
頬を紅く染めて顔を背けないでください。普段の梅先輩と違いすぎて、戸惑います。
「ですが、してしまったものは諦めます。なかったことにはできないんですから。なので、これからは私を選んでもらえるよう頑張る、という方向で行こうと思っています。覚悟していてください」
「・・・はい」
俺はそう答えることしかできなかった。
そして、そんな俺に梅先輩はキスをしてくる。
「な・・・」
「そんな返ししか出来ないことへの罰と、頑張りの一環です。とりあえず、今日はこんなところにしておきます。そうでないと、どこまでやろうとするのか分かりませんから」
むしろ、明日以降が心配になる。
「って、傷治ってる・・・」
「ついでに治癒の術もかけさせていただきました」
そんなこともしてくれたのか・・・頭が上がらないな。
そう考えながら、俺は沈まぬ太陽を解除し、生命力が戻ってくるのを感じる。
「では、私はここに残ります。今回のことを簡単に報告しておきたいですし」
「全部、ではないのですか?」
「はい。・・・シヴァから簒奪した権能については、このまま隠そうと思いますので、武双君自身がどうするのかを考えてください」
そう来たか・・・でも、この権能もかなり切り札になると思うんだよな・・・
「いえ梅先輩から話してしまってください。報酬と交換、でも構いません」
「いいんですか?」
「はい。俺としてはもう、プロメテウスが隠せていれれば十分ですから」
「・・・では、委員会から搾り取るのに使わせていただきますね」
「それと・・・本当に俺、いないほうがいいですか?その辺の重機よりは力仕事できると思いますけど」
これは、本当にそう思っている。
色々と兼用すれば、かなりのことが出来るはずだ。
「いない方がいいですね。ほとんどの人が畏まってしまって、作業になりません」
「ああ・・・」
その言い方に、ものすごく納得してしまった。
あんまり、関わり持とうとしてないからなぁ・・・変なイメージが植えつけられてそうだ。
俺はそう思ったので跳躍の術で家に向かい・・・途中でかかってきた電話に、一旦足を止める。
「はい、もしもし」
『あ、武双くん?やっほー、お母さんですよー』
俺はすぐに電話を切った。
そして、またすぐに電話がかかってきた。
「・・・はい」
『まったく、何ですぐにきっちゃうの?お母さん、そんな子に育てた覚えはありませんよ』
また切って、またかかってきた。
「そろそろ真面目に話す気になったか?」
『ぶー、武双くんが反抗期・・・いいじゃない。誰にかけても中々通じなくて、ようやく通じたんだから、少しくらい羽目を外しても』
「とりあえず、あれだけの旅行をして疲れてることを考えような」
『私と隆哉さん、あの後すぐに行動してるわよ?』
この両親の体力が、普通におかしい。
「で?用件は?」
『何で武双くんだけは起きてるの?』
「電話を切るぞ。電源ごと」
『悪いな、武双。そしてやめてくれ』
急に電話の相手が父さんに変わった。
大方、母さんに呆れて変わったんだろう。
『まあでも、何で起きていたのかは冗談抜きに気になるな。また何か危ないことを・・・』
「一寸法師ことスクナビコナと殺り合ってた」
『・・・まあ、生きてるからよしとするか』
そう言ってもらえると、助かる。
「で、そろそろ本題に入ってくれないか?」
『そうだな。後十数分後に、空港にウチのがつくから、迎えに行ってくれ』
「あー・・・OK。分かった」
こんな短時間で、新しい家族を見つけてきたのかあの両親は。
どんなやつが来るのかな・・・
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