少年少女の戦極時代Ⅱ
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オリジナル/未来パラレル編
第34分節 呉島兄弟 (2)
「あたしが?」
「うん。当時の僕ら以上にやつれてたのに、わざわざ僕に会いに来て――」
“室井咲としてじゃない。リトルスターマインのリーダーとしてでもない。ヘキサのトモダチとして。ヘキサ、自分が止められない時は、きっと、あたしたちに託しただろうから。お兄さんたちを、とき放ってあげること”
人類を選別する重責から。
沢芽の街を焼き払う苦悩から。
限られた人しか救えない悲しみから。
それらの全てから貴虎と光実を「解放」してほしいと。
“光実くん。プロジェクトアークをつぶそう”
例えそれで人類が生き延びる術が断たれても、「妹」としての碧沙は「兄」を最優先にする。親友だから確信を持って言える、と。
「……僕らからプロジェクトアークを取り上げるんじゃない、重荷をどかして楽にするんだって。かなり乱暴なやり方だったのは、否定、できないけど」
光実はユグドラシル・コーポレーションの幹部になって得た権限で持ち出せる限りのデータを持ち出し、元リトルスターマインのナッツと協力し、プロジェクトアークの詳細を世界中のあらゆる動画サイトで放映し、暴露した。
光実は計画を壊すことで、貴虎は計画を壊されることで、確かにそれぞれ「世界を救う」という目的から解放された。
個の人間として、一戦士として悩むことを許される身になった。
「――そんな大変なこと、しでかしちゃったのね、あたしたち」
一時的に救済できる人数だけなら、大樹除去作戦のほうが断然多い。だがそれは苦肉の策であり、生き延びた人類の全てがヘルヘイムの果実を食べてしまえば即、帳消しになる程度のものだ。
「でも感謝してる。僕たちを碧沙の遺志に逢わせてくれて。だから今の僕があって、今の兄さんがあるんだ」
ね、と光実が貴虎に笑いかける。貴虎はほんのわずかだが口の端を上げて応えた。
「今回の決戦だって、咲ちゃんと紘汰さんが戒斗から得た情報のおかげで、兄さんの研究の裏が取れて実行できたんだ」
戒斗の名が出て、ぴく、と咲は震えた。膝の上で両手を握りしめると、スカートにしわが寄った。
「駆紋戒斗と戦いたくないか?」
貴虎からストレートに問われ、咲は首を横に振った。
「戒斗くんが敵でも戦えます。ただ――」
ただ、なぜだか、戒斗は咲たちの前にもう姿を現さない気がした。
「――いえ、忘れてください。作戦には呉島さんも参加するんですよね?」
「ああ。お前たちとは別の部隊だが」
おそらくはこの国、この世界中の誰よりも、呉島貴虎はアーマードライダー歴が長い。大樹サイズのクラックを開く指揮など、貴虎でなければこなせない。
だから一言「気をつけて」と言おうと思ったのだが、貴虎の顔つきを見て、それを言ってはならないと感じた。
「私はリーダーだからな。どんな作戦だろうが最後まで留まるのが私の義務だ」
「……分かります」
幼かったとはいえ、咲はリトルスターマインという集まりのリーダーだった。それだけでおこがましいが、貴虎の考え方は理解できた。
「大分時間が過ぎちゃったね。――咲ちゃん。そろそろ会社に戻ろう。あんまり長いこと咲ちゃんといると、僕が紘汰さんに怒られるや」
後書き
奪われたんじゃなく、取り外された。
壊されたんじゃなく、解き放たれた。
二人のためだけに行われたプロジェクトアーク潰し。救いが示されてるほうが残酷なこともあるよねって話。
妹は最後の最後まで兄たちを想っていて、その想いを正確に、何の手がかりもなく汲み取ったのは、友情パワーなのでした。
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